『ゴジラ対連合艦隊』   作:城元太

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「先程からお聞きしていて思ったのですが、出現した大恐竜には、特別な呼称などは付けられなかったのでしょうか」

 話が一段落した時、私は津川氏に一つの疑問を投げ掛けた。

「そういえば、ありませんでしたね。まず他に『大恐竜』は存在しないので、暗号化する必要もないと見做されたかもしれません。仮に『前世紀の巨大恐竜』と打電するのは長すぎますし、更には暗号電文が長文化すれば、それだけ米軍に解読され易くなります――もっとも、当時既に日本軍の暗号は解読されていたと聞きますが――とは言え、日本軍自体はそれを知りませんから、『大恐竜』出現の報を米軍に秘密にしておけば、必ず敵はガダルに向かって来ると考えたのです、奴に沈められてしまった日本軍の艦艇を追って」

「記録によると、米海軍艦隊は昭和十七年の十一月十七日にサボ島沖まで接近していますね」

「途中、熱帯低気圧に巻き込まれて、到着が数日遅れた筈です。日本軍の暗号をほぼ解読していた米軍ですが、まさか『恐龍』の暗号が、本物の大恐竜とまでは予測もつかず、解読した米軍諜報機関も誤りと考えて司令部に伝えなかったのではないでしょうか」

 

                   ※

 

 米艦隊がソロモン海に到着したのは十七日の十四時頃であった。戦艦二、巡洋艦六、駆逐艦十一隻から成る編成で、特に戦艦ワシントン、サウスダコタは四十センチ砲を各々九門備えた新鋭艦であり、これに対抗可能な戦艦は当時大和型以外に存在していなかった。両戦艦は本来ならば未だソロモン海に展開中であるはずの霧島や比叡を沈めるために出撃してきたのだが、目指す日本戦艦は姿形もない。

 そしてこれほどの米海軍大艦隊が海上を航行すれば、その動力が発する音響は海中を駆け巡り、浅い眠りについていた大恐竜を再び目覚めさせてしまったのである。

 最初の犠牲となったのは、駆逐艦フレッチャーであった。続いて同じく駆逐艦ジュノー、軽巡洋艦アトランタ、駆逐艦カッシンと次々と浸水し、全てが轟沈同然に沈没した。

 艦隊の中核を成す重巡サンフランシスコが、霧島と同様の海中からの一撃を受け艦体が小破した時、大恐竜は遂にその姿を米海軍の前に晒した。米兵達の驚きも、日本軍が初めて接触した時に劣らないものだったであろう。

 しかし、呆気に取られる間も無く、サウスダコタの主砲が火を噴いていた。ワシントンと合わせ、大恐竜に対し四十センチ砲十八門が一斉に砲門を開いたのである。

 砲弾は大恐竜に次々と命中したが、これをものともせずに米艦隊に接触、戦艦ワシントンの甲板に手をかけるとそのままのし上がり、艦橋を圧し折り、煙突を破壊した結果機関を大破させ航行不能に陥らせる。大恐竜の襲撃という予想外の攻撃に脆弱性を曝け出した戦艦に容赦なく、サウスダコタの前甲板も尾の一撃で中破される。攻撃により方位盤を破損したサウスダコタは砲撃不能に陥り、大恐竜に蹂躙されるがままに艦上構造物をめちゃくちゃに破壊され、沈没こそ免れたものの中破状態で戦線を離脱する。

 

「そこにいる筈の日本艦隊を追って『大恐竜』と米艦隊が接触すれば、米軍側にも大きな損害が出ると見込んだのです。結果は、米海軍の全面的な敗退で幕を閉じました。暗号を解読されていながら、我々の作戦は成功したわけです。

 待望の大和、武蔵が十一戦隊と合流したのは、その三日後のことでした」

 

 二隻の超弩級戦艦が、合流地点であるサンクリストバル島沖、インディスペンサブル海峡に入ってきたのは、まだ太陽が昇り切らない薄明のころだった。小舟の様にみえる駆逐艦数隻を従え、二キロ程の間隔を置き、武蔵、大和の順で到着した。大和には、山本五十六連合艦隊司令長官以下、艦隊司令部がトラック島よりそのまま移動して来ていた。

 

「私は霧島に乗っていたということで、そのまま武蔵へ配属させてもらうことが出来ました。

 巨大でした。霧島など比較にならないほど。

 しかし、この巨艦を以てしても、奴を倒せるという確信は持てませんでした。米軍の四十センチ砲も受け付けぬのに、四十六センチであれ効果はあるのかと。

 奴はただの猛獣ではないのです。ただ大砲を幾つ持ってこようと、結果は五十歩百歩なのではないかと」

 

 艦隊はインディスペンサブル海峡を北西に航行、ガダルとフロリダ島に挟まれたシーラーク水道をエスペランス岬を目標に進んだ。

 この海域の何処かに大恐竜が潜んでいるという猜疑心が、艦隊内部で幾度となく〝恐龍発見〟の誤報となり乱れ飛んだ。

 サボ島の島影が払暁の水平線に薄く浮かび上がる頃、〝恐龍発見〟の十数度目の警報が響いた。

 海面で激しい水沫をあげながら、巨大な何かが動いていた。

 

「辺り一面生臭い匂いが立ち込めていました。探照灯の光に気付いてこちらを向いた時、奴は口に鯨の尾鰭を咥えたまま睨み付けていたのです。食事に夢中で艦隊接近に気付かなかった、とは思えません。霧島などを撃沈し、米艦隊さえ容易に葬った経験が、巨大な鉄の塊など無力な敵と侮っているような不敵な姿に見えました。

 まるで血の色に染まる海に蠢く邪神の様に。不気味でした」

 

 仰角と方位を定め、四十六センチ砲が初弾を発射した。砲弾は大恐竜の頭上数十メートル地点を飛び越し、命中することはなかった。明確な殺意を感じた大恐竜は身体を艦隊に向ける。同時に仰角を修正した大和、武蔵の両艦より、第二射が行われた。一トンを超える巨弾は、ガダルを背にして立つ大恐竜の胸部目掛けて飛来し、見事に命中する。さしもの大恐竜も四十六センチ砲弾数発の直撃を同時に受けてはたまらず、水中に没した。手負いとなった大恐竜は凶暴性を増し、右舷から武蔵に掴み掛ろうとする。修練の成果か、或いは偶然か、その際大和の放った九一式徹甲弾が水中の大恐竜に命中、再び海面上に頭部を晒した。最接近していた武蔵の十五・五センチが火を噴き頭部を攻撃する。手応えはあった。

 水没した大恐竜は水中より武蔵のスクリューシャフトを尾で叩き付けた。これにより武蔵の第二、第三スクリューはねじ曲がり作動不能となるが、大恐竜の尾もスクリューに切り刻まれたらしく、悲鳴をあげて再度水没したまま、浮上してこなかった。

 

 止めを刺すことはできなかったものの、大恐竜の脅威はソロモン海より去ったと判断した艦隊司令部は、大恐竜攻撃戦をこれで終了とし、トラック島へと帰還したのである。

 

「奴に止めを刺せなかった最大の原因は、その砲弾にあるのです。使用した砲弾は、対装甲艦攻撃用の九一式徹甲弾、つまり鋼鉄の重装甲を施した物体にしか、充分な破壊力を発揮できない砲弾なのです。大恐竜の皮膚がいくら強力とはいえ、肉塊に命中しただけでは九一式砲弾の信管は作動しません。つまり、一トンの岩石を撃ち出すのと同じことなのです。奴には掠り傷程度のものしか、恐らくつかなかったはずです。

 だがその一方で、奴はかつてない巨弾の攻撃を受け、更に自分の尾を切り刻まれたことでより狂暴になってしまったのです。連合艦隊にとって、最も恐ろしいことが、これから起きてしまうのです」

 

 インタビュー用のオープンリール式録音テープが丁度切れてしまう。

 テープ交換の為、私は津川氏に一時証言の中断を願った。

 同居している息子夫婦の奥様が、軽い夜食を持って奥座敷に入ってくる。

 

 夜は深まっていた。

 




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 ゾイドを知らなくても楽しめます。もちろんゾイドで遊んだことがあれば、もっと楽しめると思っています。
 極力平易な文で書いてみたので、一度目を通してやってください。
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