『ゴジラ対連合艦隊』   作:城元太

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3(最終話)

 スクリューシャフトを損傷した武蔵は、艦隊より大幅に遅れて航行をしていた。舵が破壊されなかったのは幸いだが、最大戦速でも十五ノットに届かず、連合艦隊本隊がトラック島に帰還しても未だ太平洋上で数隻の駆逐艦を従えたままであった。

 一方、トラック島の連合艦隊泊地が大恐竜の襲撃を受けたのは、日没後間もなくであった。水泡が海面に浮かび、艦艇が僅かに揺れた。続いて腹にこたえる鈍い金属音が湾内に響き渡る。大恐竜は航跡を現すことなく停泊地に忍び寄り、各艦艇のスクリューシャフトと舵をことごとく破壊したのである。

 防潜網は設置されていたが、潜水艦と異なり両腕を使って防潜網を排除されることと、水中での視覚聴覚に優れ、敷設した機雷原を避けて侵入するという想定はしていなかったのだ。大恐竜が武蔵襲撃の経験則を生かし、分厚いバルジではなく水面下の最も脆弱な箇所を狙う高い知能と学習能力まで、艦隊司令部は読み切れなかったのだ。

 トラック諸島に到着し、春島で小休止をしていた水兵達にとって絶望的な大打撃だった。謂わば艦の足を失った今、全水兵は陸に上がった魚同然となった。

 

「GF首脳部は、大恐竜の脅威を認識するのが遅すぎました。相手は長い寿命を経て知識を蓄積した生物です。たかが百年程度しか生きられない人間と比べれば、愚かな生物がどちらなのかは自ずと解るでしょう。

 蓄積された知識は喜怒哀楽の感情を生み、互いに激しく憎み合うようになった。どちらかが死ぬまで続く争いになることを、知的生物同士であれば気付くべきだった。

 感情に引き摺られることは破滅に繋がるというのに……」

 

 唯一作戦行動が可能だった、遅れて到着した戦艦武蔵にGF司令部が移動し、大恐竜攻撃の最終作戦が急遽発動された。

 近海を遊弋中の駆逐艦、潜水艦、水雷艇、及び海軍航空隊を集結させ、大恐竜のトラック環礁内への封じ込めを図る。

 その際偶然、入港途中の駆逐艦陽炎の観測員がトラック諸島竹島沿岸をゆっくりと移動する大恐竜の姿を目視する。尾の先端に裂傷が確認され、先のガダルカナル攻撃の際に受けた傷が治癒せず、著しく遊泳速度が低下していると推測された。

 環礁に閉じ込められた大恐竜の位置は、伊号169潜のソナーにより春島の南東であると確実に捕捉された。手負いの獲物を仕留めるべく、連合艦隊艦艇は狡猾に包囲陣を狭めていった。

 潜水艦隊が沖合より動力を切って接近、無振動のため大恐竜はその接近に気付かず、六本の魚雷の直撃を受ける。日本軍の秘密兵器といえる(九五式)無気泡酸素魚雷の効果は絶大に発揮され、大恐竜は傷ついた巨体を水面へと浮かび上がらせた。

 待ち構えていたのが、大戦艦武蔵の砲門であった。

 

「まるでなぶり殺しでした。いくら恐竜でも、もうそっとしてやりたい。私は心の中で叫んでいました。人類より遙か昔から生き続けた地球上の友人に、これ以上の攻撃を止めて欲しいと……」

 

 沖合から四十六センチ砲が轟音を上げて飛来する。水雷艇と駆逐艦からは次々と爆雷が散布され、深海への脱出経路を完璧に奪っていた。右へ逃げれば武蔵の砲塔も右へ。左へ逃げれば左へ。尾の傷のため、大恐竜の速度はひどく緩やかだった。

 やがて機動部隊から飛来した艦上攻撃機や艦上爆撃機、雷撃機が、更に大恐竜を浅海へ、浅海へと追い立てる。大恐竜は悲鳴をあげながら、トラック島(夏島)へ上陸した。もうその巨体を隠す海水はなかった。

 砲弾が、徹甲弾から三式弾に変えられる。本来対空兵器として開発されたものだが、地上攻撃用の散弾として運用すれば、一発で地上一面を炎の海と化す代物である。

 ガダルカナルを灼熱地獄と化した洗礼が、再びトラック島で生贄を供え、繰り返された。

 空気を切り裂く轟音、燃える南洋の木々、煮え立つ海水、そして劫火の中に巨大な恐竜の影が、天を恨むかのように悶え苦しみ、悲痛な叫びを上げ続けている。

 全身火達磨と化し、やがて力なく地に倒れると島の斜面に沿ってずり落ち、海中へと転落した。

 転落した海面には重油のようなギタギタした油膜が浮かび上がり、攻撃終了の数日後まで異臭を放ち続けていたのである。

 艦隊は勝利した。しかし、兵士は手を取って喜び合う気にはなれなかった。

 皮膚は爛れ、ずるりと剥け落ちていく様子は凄惨であり、二本の足で立ち上がる姿は恰も人にも見え、人の声にも似た悲鳴だった。生々しい殺戮の一部始終を目撃し、皆呆然と息を呑んでいた。

 大恐竜の沈んだ海面に浮かんだ油膜が、その生物の体液であるのか、それとも無念の涙であるのかを分析した者はいない。

 

                    ※

 

「今になって考えてみると、私はどうしても奴が死んだようには思えないのです」

 少し呼吸を置いて、津川氏が告げた。

「確かに艦隊の攻撃は強烈でした。だが、徹甲弾すら受け付けない鋼鉄以上の強度を持つ皮膚が、たかが榴弾砲や散弾による火傷で焼け死ぬようなことがあるのだろうかと」

「その後、出現したという報告はありませんが」

「いや、現れないからと言って、奴の死骸は巨体にも関わらず浅い環礁内からもついに発見できなかったのです。つまり生き残っている可能性は高いのです」

「であればなおさら、日本軍に対し復讐するはずではないのですか?」

「復讐して、何になります」

 津川氏は語調を強める。

「奴は、戦いが戦いしか生まないことを悟ったのではないでしょうか、いや、そうに違いない。奴は――彼は、人間を超越し荒ぶる神にも似た自然現象そのものだった。だが人は道を誤り、戦争という破壊活動によって自然を穢し、見放されてしまった。

 道を踏み外し、修羅道に墜ちた人という生物を見限り、彼は去っていた。

 人類が滅びた後、その愚かさを嘲笑って生き残るのは、彼なのかもしれません」

 その問いに答えることの出来る者はいない。津川氏もまた知っていたはずだ。

「きっと今ごろ、戦争の終わった太平洋の何処か他の珊瑚礁か環礁で、静かで平穏な生活をしているのではないでしょうか。私はそうあることを望みます。彼は生きているのだと」

 私と氏との間に沈黙が訪れた。

 窓の外が白んできている。夜明けが近いことを、その時初めて知った。

 

 翌朝七時、私は軽い朝食を津川氏宅で御馳走になると、すぐさま上りの一番列車で帰宅の途に着いた。出来れば津川氏とはあと数回談話を重ねたかったが、今回の私の予定が許してはくれなかったのだ。

 夜分に訪れ、その上早朝にいそいそと帰途に着く無礼を詫びつつ、私はローカル線の線路の音を子守唄に暫しの眠りについた。

 微睡みの中、津川氏の言葉が脳裏を何度も駆け巡っていた。

 

 道を誤り、自然を穢し、修羅に墜ちた生物。

 誤 自 羅。

 怪しげなる獣とは、あの大恐竜に非ず、人類そのものの事なのか。 

 

 或る駅での急停車に、私の浅い眠りは破られた。

 向かいに座ったサラリーマン風の中年男性が朝刊を広げている。

 私は朝刊のある記事に吸い寄せられた。

 

“ビキニ環礁にて、米軍水爆実験開始”

 

 

                    『ゴジラ 対 連合艦隊』 (終)

 




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 突如飛来した小惑星群によって、ゾイドの星、惑星Ziは阿鼻叫喚の修羅場と化す。
 絶望的な状況で、人とゾイドが協力し、未曽有の大災害を乗り越える過程を描く。

 短編ですので、あまり時間はかかりません。
 ゾイドの設定を知らないとわからない部分もありますが、科学考証などをギュッと詰め込んで仕上げました。
 作者としても気に入っている作品なので、よろしければ一度目を通してやってください。

 そして、『ゴジラ 対 連合艦隊』 最後までお付き合い、ありがとうございました。
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