星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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第五話『コンドル・アポストル』
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 ーーオリヒメ陣営のアジトーー

 

 ドンブラー村で起こした事の顛末を、しどろもどろと言った様子のハイドから報告されたオリヒメは、苛立ちを見せるでもなく、寧ろ面白がっているようだった。

 当然、御簾によって姿は隠されているので、その表情を拝むことは叶わないのだが。

 

『ふむ……此度も、してやられたか。どうやら、手こずっておるようだな……のう?ハイドよ。フフフ……』

 

「も、申し訳ありません!!」

 

 オリヒメは愉悦を滲ませた声をかけるが、人間の心理に関しては一家言あると言えるハイドと言えども察しきるコトが出来ない。恐らくだが、こうして焦るハイドを想像することで、退屈凌ぎとしているのだろう。

 

「オリヒメサマ……あのアオいオトコ、オーパーツがカカえるキョウダイなチカラをカンゼンにギョしきっております。このままホウチしておくのは、あまりにキケンかと……」

 

 青い男……ロックマンがベルセルクのチカラを纏い、獅子奮迅の如き活躍を見せた場に同席していたエンプティーは、未だに余裕の姿勢を崩さないオリヒメへと進言をする。オーパーツと自分が、比較的近しい存在であるが故の対応だろうか。

 

「フン……情けないヤツラだ」

 

 ハイドと並び、静観していたソロが吐き捨てるように言う。彼の心情としては、あのような男が強者の扱いを受けることが許せない。"血"が騒ぐ、というヤツだ。

 

「ヤツをカルくミるか、ソロ……ゴカイのないようにアえてハッキリとイっておくが、イマのアオいオトコは、たとえオマエでもウちカてるかどうかミチスウなのだぞ?」

 

 オーパーツのチカラを最大限に警戒しているエンプティーにとって、電波体としてのスペックが変化していないソロ……ブライでは、確実に打ち倒せるかどうか、信じきることが出来ないのだろう。尤も、オリヒメに従う姿勢のエンプティーに、人を信じる気持ちが果たして存在しているのかは不明だが……

 

「エンプティー……!よもや、このオレが下らんキズナなんぞに縛られたアイツのチカラ如きに劣るとでも言うのかッ!?」

 

「オトるとはイわないが……ワタシのミコみでは、ほぼゴカクとイったトコロだ。オーパーツにヤドったベルセルクのタマシイがもたらすキョウイテキなチカラは、オマエもヨくリカイしているはずだが」

 

「……クッ!!」

 

 極めて冷静に互角と言える根拠を説明され、ソロは舌打ちによって鬱憤を表す。ロックマン単体ではどうとでもなる……と思われているのが幸いか。

 

『ソロよ……そなたが確実にヤツを打倒する方法が、一つだけあるぞ。……妾が用意した「孤高の証」を、そなたの体に受け入れることだ』

 

 御簾の向こうから聞こえてくる甘言に多少の揺れる心を自覚しながら、ソロはオリヒメへと背を向ける。その表情は鬱陶しいものを見るような、嫌気の差したそれになっていた。

 

「……何度言わせる気だ。オレがオマエ達に助力を乞うことなどあり得ない。……絶対にだ!」

 

『惜しいことよ……万が一でもアレを扱える者がいるとしたら、それはオマエだろうと思っていたのだが……』

 

「……下らない」

 

 オリヒメの、本当に惜しそうな声をバッサリ斬って捨て、ソロはアジトから去ろうとする。これ以上交渉を続ける気は毛頭無いようだ。

 

「黙って聞いていれば……ソロ!オリヒメ様への口の利き方には、気をつけたまえ!!」

 

『フフフ……まぁ、よかろう。こちらも強制するつもりは毛頭無い……『孤高の証』は精神に依存するシロモノ故な。それに、妾はソロのチカラを信頼しておる。では……本題に入るとしようか』

 

 オリヒメの仕切り直し宣言に、ソロも帰路へ向けた足を止め、フン……と鼻を鳴らして言葉を待つ姿勢となる。

 

『……とある地域に、ムーを信仰している民族がいると聞く。ムーに関する情報の手掛かりがあるやもしれん。早急に現地へと赴き、調べてまいるのだ』

 

「それならば、このハイドめにお任せを!! 必ずや、オリヒメ様がお喜びになられるような戦果をあげて見せましょうぞ!」

 

 待ってましたとばかりに、ハイドが名乗りを上げて進み出る。ドンブラー湖での失態も重なって、ハイドはより一層手柄を立てることに躍起となっていた。

 

『いや、この件はソロに任せる。オーパーツのことはひとまず中断して、その地域へと向かうのだ』

 

「……いいだろう」

 

 オリヒメからの指令を受諾したソロは、早速現地へ向かおうとアジトの出口へと進む。『カミカクシ』による転移は、正確な座標の情報を必要とするので、ある程度下調べをしないといけないという、制約があった。

 意思一つで物質を転移させるのだから、当然と言えば当然の制約なのではあるのだが。

 ……とは言え、カミカクシを使用すること自体にデメリットは無く、某絶対時間のようなことにはならないのは、大きな魅力とも言える。

 

『……ソロよ。ムーに縁のある地域だ。そなたの"血"とやらが騒ぐであろう?』

 

「…………」

 

 ソロは、オリヒメの言葉に返答することなくアジトから去っていった。他人に"血"のコトを指摘されるのは、あまり面白くは無いらしい。

 

『フフフ……』

 

 

 

 ーー翌日・星河家ーー

 

 委員長に折檻されるという不幸はあったものの、何とか無事に密出国することに成功し、家に帰ってくることが出来たボク達。なんやかんやで1日もかからなかったような気がする。この調子なら、何か不手際があっても夏休み中になんとか出来そうだ。

 しかし束の間の休息とは、斯くも切ないものなのか……

 

「……ふぅ。色々あったけど、無事にキザマロが見つかって良かったよね……」

 

「津波やら何やらで、エライ目にあったけどな。……ブクボン(ヤツ)の犠牲は、当分忘れられそうにねぇ」

 

 同じ電波体として、ブクボンの散り様には何か感じ入ったものがあったらしい。ボクとしても、恨み言の一つは覚悟していたからか、どうにも調子が狂ってしまう。

 兎に角、早急に修理するのが先決だろう。

 

「ロック……大丈夫、今度天地さんに頼んでみるからさ。あの人ならきっと、何とかしてくれるよ」

 

 宇宙ステーションの残骸を、たった一晩で実用に耐えうるまで修理出来たんだ。きっとなんとかなるだろう。というか、なんとかしてもらわないとブラックボックスの回収が……

 

天地のヤロウ(ジョバンニ)が一晩で仕上げてくれました……ってか?」

 

「そう、それ!……って、何でロックがそのネタを知ってるんだよ……」

 

「例によって、オマエの寝言なんだぜ。汎用性が高いのが多いから、結構助かってるな」

 

 どうにもオーパーツの宿る、ベルセルクの意識達にも聞こえているらしいんだよね。

 VIPPERみたいになったらどうしよう……

『チョwww…………ツヨスギワロタwww……………』とか?そんな潜在意識、絶対嫌だなぁ……

 

「そんな実情、聞きたく無かったよ……」

 

「まぁそんなコトは置いといて、だ。残りのヤツらだが、探し出せる『アテ』はあるのか?」

 

 ゴン太はナンスカ、ミソラちゃんは……既にバミューダラビリンスの方だろうか。その辺りの内情は、まだよくわかっていないので、言動には気をつけないといけないな。

 

「……キザマロはたまたまサイトに載っていたから良かったけど……どうだろう、見当も着かないや」

 

「そのキザマロはアメロッパにいたんだから、やっぱ外国なんじゃねぇのか?」

 

 最近のロックって、なんだかやけに冴えているような気がする。2ヶ月前までは他人のトランサーのデータを躊躇なく破壊してたなんて、到底信じられないと思う。

 

「まぁ、その辺が妥当だよね……」

 

 

 ーープルルルル!!

 

「電話か…………っと、ブラウズ!」

 

 どうにも電波体時のクセが出てしまっている。エア・ディスプレイの直接呼び出しは、人間状態じゃ不可能だってのに。

 

『も、もしもし!スバルくんですか!?』

 

 スターキャリアーから出現したディスプレイには、息を乱し、興奮冷めやらぬと言った様子のキザマロが映し出されていた。火急の要件……あ、ゴン太に関する情報が見つかったのか。

 

「お、ウワサをすれば……だな」

 

「どうしたの、キザマロ?そんなに慌てて……」

 

『大ニュースです!!急いでボクの家まで来てください!!』

 

 ーーブツッ!

 

 言いたいコトだけをさっさと言って、キザマロは通信を切断してしまった。どうやら、会話する一分一秒すら惜しいと見える。いや、続いて委員長に連絡しようとしたのかもしれないな。

 

「何だ?随分と興奮してやがったな……」

 

「大ニュース………もしかして、誰か見つかったのかもしれないよ!」

 

 訝しむロックをなだめすかし、急いでキザマロの家へと向かう。もしかしなくとも、ナンスカの件だろうし。確か……ミステリーワールドでカメラマンだった人と、仲良くなったんだっけ?

 

 

 ーー最小院家ーー

 

 久しぶりに訪れた最小院家は、キレイ好きらしいキザマロによって整理整頓された、機能的な美しさを醸し出していた。本棚には紙媒体の書籍が一杯に詰まっている。電子書籍が主流の電波社会に、中々の拘りっぷりだ。ボクもあんまり人のコトを言えないけれど。

 ただ、本棚の上段に背……手が届かないためか、踏み台が隅に置いてある。頑張れキザマロ……

 

「……遅いですよ!」

 

「ああ、ごめんよキザマロ」

 

「いえ、別にいいですけど……ゴホン!実は先程、テレビ局の人から連絡があって!」

 

「テレビ局の人?」

 

 因みにこの場には委員長もいるのだけど、ボクを待っている間にキザマロから話を聞いていたらしく、静観の構えを見せている。口を挟む気は無い、ということなのだと思う。

 

 それによく見ると、キザマロのキズナリョクが大幅にアップしているのに加えて、ブラザーとして新しく外人さんが登録されているのがわかる。テレビ局の人って、人脈としては結構なモノだよね。

 

「そ、そうです!この間のドッシー騒動で知り合いになった人なんですよ。……って、そんなことはどうでもいいんですけど……凄い情報を貰ったんですよ!『ナンスカ』という場所で……何と、空から人が降ってきたらしいんです」

 

「空から?それって……」

 

「そう!ボクも同じように空から落下しました。……溺れかけましたけど。つまり、件の空から降ってきた人は行方不明になっている誰かの可能性が高いと、ボクはそう判断しています!」

 

 改めて考えると、委員長が巻き込まれなくて本当に良かったよね。ミソラちゃんは電波体になれるし、ゴン太とキザマロは男だ。華奢な委員長に、高所からの落下はマズイだろう。いや、コダマ人ならなんとかしてしまうのかもしれないけど。

 

「よし、それじゃあそのナンスカに行ってみようよ!……で、どうやって行けばいいの?」

 

「……わかりません。『マロ辞典』にも載っていないのです」

 

 え、マジですか?

 

「『マロ辞典』にも載ってないってことは、大雑把な地理情報しか載ってないワールドマップに載っているとも思えないし……」

 

「そうなのよね……さっきからワタシも調べてはいるのだけど、これといった情報は見つからないわ」

 

 ナンスカって確か、かなりアナログな地域だったハズなんだよね。それでも地上絵とかがあるから、そこそこ有名になっていそうな気もするけれど……

 

「困りましたね……」

 

「外国かぁ………」

 

 ナスカの地上絵って、どの辺りにあったかな……この世界じゃ全然頼りにならないから、その辺の知識は薄れきっている。だって、普段ナスカの地上絵に関する知識なんて使わないでしょ?

 ……地縛神?超官しか覚えていないよ。

 

「(南国のヤロウとか、知ってそうじゃねぇか?)」

 

「(それだ!)じゃあ、南国さんの所(BIGWAVE)に行ってみようよ。あの人なら何か知っているかもしれないし」

 

 やっぱり今日のロックは冴えている。助かるんだけど、何か嫌なコトでも起こりそうな予感がするのは何故だろう。イメージって大事だよね。

 

 

 ーーBIGWAVEーー

 

 かくかくしかじかと、手早く要点を纏めて話す。ついでに新しく入荷したHPメモリの在庫を買い漁っていると、ご機嫌な南国さんは快く口を開いてくれた。

 

「……オ~ケイ!!『ナンスカ』的なモノが何処かって感じの話だね?『ナンスカ』はね、アメロッパのずっと南にある、とっても小さな国さ!若かりし頃、よく行ったからねぇ……ナンスカ!」

 

 へぇ……アメロッパの南にあったのか。サーファーとして乗れるビッグウェーブも無いのに何度も行くなんて、よっぽど気に入っていたらしい。

 確か……料理が美味しいんだっけ?ドンブラー村の屋台料理も好きだったけど、ナンスカの郷土料理にも興味はあるので、機会があったらいただいていこうと思う。

 

「ほらボクさぁ……名字が『南国』的なワケじゃない?それに因んで、世界中の南国という南国をトラベルして回ったワケ!!南国の太陽を一杯浴びて……いい感じの日焼けボディもつくれて……まさに『一石二鳥』だったよ」

 

 名字に因んで旅行とは、若い頃の南国さんって、随分な暇人だったのか。そこからカードショップに、どう結び付いたんだろうか。寧ろそっちに興味が湧いてきた。

 

「『ナンスカ』は自然が一杯の、超トロピカルなエリアなんだけど、そこで大自然が巻き起こすスリリングな感じのトラブルにもエンカウントしちゃってさぁ!!このトラブルって言うのがねぇ……」

 

 あ、話が脱線してきた。初めて南国さんの体験を聞くけれど、さっきからちょくちょく出てくるジョニーって一体誰なんだ……?

 

 

 ーー三十分後・コダマタウンーー

 

 一通り話して満足したのか、『また来てね~』なんて言葉と共に話を終わらせた南国さん。取り敢えず外の空気を吸うべきだとして、今はBIGWAVE外の公園に集まっている。

 

「………や、やっと終わった……」

 

「ですが、とてもスリリングなお話でした!まさか……まさかジョニーが、あのような壮絶な最後を……」

 

 興奮した様子のキザマロが、伝説になったジョニーのコトを感慨深く呟く。その瞳は赤く充血し、濡れているようだ。というか、さっきまで泣いていた。ボクも。

 

「や、止めてよキザマロ……また涙が……」

 

 まさかジョニーが最後に、ああなるなんて……クソッ、どうして銛網の位置を、事前に確認していなかったんだ!それさえ気をつけていれば、巻き込まれることも無かっただろうに……!

 

「(認めるのはちょっと癪だが……あいつは……男の中の男だな)」

 

 ロックでさえも認めざるを得ない男……それがジョニーだった。ボク達は忘れない。かつて南国さんの危機を救い、海に散ったジョニーの存在を……!

 

 

「………もういいかしら?」

 

 ボク達だけで盛り上がるジョニー談義に飽きてきたのか、痺れを切らしたような表情の委員長が確認をとる。ちょっとイラついているように見えるので、ここで逆らってはいけないのだろう。

 

「とにかく、これで『ナンスカ』の場所を把握することが出来たってこと! さぁ二人とも、直ぐにナンスカへ出発よ!………って、スバルくんはパスポートがまだだったわね。ドンブラー湖みたいに、追いかけてこれるでしょ?」

 

「うん。大丈夫だと思うよ」

 

 確か……ドンブラー湖のスカイウェーブの先にワープホールがあったはず。まぁ、何とかなるでしょう。

 

「じゃ、現地で会いましょう!キザマロ!ワタシ達は早速出発するから、まずは荷造りを済ませるわよ!」

 

「了解です!」

 

 そう言って委員長とキザマロは、一先ず旅行の荷造りをするために各々の自宅へと帰っていった。

 それにしても……当日に出国出来るなんて、随分な世の中になったもんだ。

 

 

「さて……ボク達も準備しよっか。アメロッパの時と、同じやり方で行けるよね?」

 

「ああ、そのはずだぜ」

 

「じゃ、今日はもう遅いし、荷造りだけにしようよ。早く着き過ぎてもなんだし……」

 

 いくら技術進歩で早く到着するようになったといっても、今すぐ出発したら間違いなく待ちぼうけを食らうことになる。こちらもコンドル・ジオグラフとの戦闘経験は積んでおきたいので、わざわざ急ぐ必要はない。

 

「だな。焦るとロクなコトにならねぇ。明日の朝にでも出発しようぜ」

 

「了解!」

 

 あ、そうだ。余りカードのストックも随分と貯まっているし、久しぶりにカードトレーダー回していこうかな……




いつもありがとうございます。
因みに、アポストルは英語で『使徒』の意味です。

GET DATA……無し

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