星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

102 / 131
42

 ーー翌日・星河家ーー

 

 あの後、無事にトレーダーガチャで爆死したボクは、重い足を引き摺って家に帰ることとなった。無念。ボクもリセット能力が欲しいです……某神に対策されそうだけど。ハイパームテキ&セーブ怖い。

 

 その翌日。荷造りも完了したので、日課のストレッチ等で体を解しておく。一応、ナンスカまでの道のりはドンブラー村よりも遠出になると見ているので、体調を整えておくに越したことはない。

 

「……さぁて、準備はいいか?」

 

「うん、大丈夫。『世界のグルメ百選』も持ったし……マイ箸に水筒、タオルもあるよ」

 

 背中に背負ったリュックを見せ、準備が終わったことを表現する。よほどの大荷物でなければ、電波変換時に背部のパーツへと収納しておくことが出来るのだ。

 

「オマエ……観光にでも行くのか?」

 

 ジトっとした目に変わったロックをボクは直視出来ず、部屋の隅へと視線を逸らす。恐らく今、ボクの目は泳ぎまくっていることだろう。

 

「違うって!ナンスカって結構暑いらしいし、ニホンとは勝手も違うみたいなんだよ。翻訳機があると言っても、ある程度は自前の物を使った方がいいってことさ」

 

 ドンブラー村で苦労したコトを例に挙げ、なんとか誤魔化す方向で話を進めていく。ロックがボクを見る目が、より一層うさんくさくなったような気がするけれど、そんなこと気にしない。

 というか、委員長がマテリアルウェーブのテントを持って来ていたはずなので、多少の荷物(リュックに入りきる程度)は問題ないと思われる。

 

「ふぅん……その世界のグルメ何とかってのを一体何に使うのか、小一時間問い質したいところだが……まぁいい。兎に角、ナンスカへ向かおうぜ。アメロッパの時みたいに、パラボラアンテナを使えば行けるハズだ」

 

「了解!それじゃあ……出発だ!」

 

 おっと、あかねさんに今日は委員長の家で外泊してくることを伝えておかないと。既に向こうには話がついているので、委員長宅に電話されても問題はない。

 

 

 

 ーースカイウェーブーー

 

 ドンブラー湖へ向かった時のように、委員長の住んでいる高級マンションに取り付けられたパラボラアンテナから自らの体を電波転送したボク達は、再び遥か上空に広がる電波達の聖域へと、足を踏み入れていた。

 自分で言っておいてなんだけど、電波体にしか使用出来ないスカイウェーブが、何だか神聖なモノに感じてしまうのは、ちょっといき過ぎた考えなのだろうか。

 

「……っと、そうだ。ボク達ってスカイウェーブ内にある、ナンスカ行きのワープホールの場所を知らないじゃないか」

 

 ドンブラー湖へ行った時にも感じたのだけど、随分とスケールの大きいウェーブロードなんだよね、スカイウェーブって。無いとは思うけれど、一応迷子には気をつけないといけない。ミソラちゃんもいないのにバミューダラビリンス辺りにでも迷い込んでしまったら一貫の終わりだと、ボクは断言出来る。最悪、ウェーブアウトすれば大丈夫だとは思うのだけどね。

 

「それもそうだな…………おっ!アイツ、この前ドンブラー湖方面への道を教えてくれたデンパじゃねぇか?取り敢えず、あのデンパに聞いてみようぜ」

 

 ロックが、以前と変わらぬ場所で案内の業務に勤しんでいるデンパくん(スカイウェーブ仕様)を腕指して(?)言う。御丁寧にロックオンサイトまでバイザーに表示する徹底ぶりだ。いや、物騒なんだってば。

 

「だね。よし……ねぇ、キミ。ちょっといいかな?」

 

 早速案内役のデンパくんに話かけていく。既に一度話した仲なので、特に驚くことなく対応してくれた。一応、ボク達って有名人らしいからね。

 

「ハイ!コンニチは!ナニかゴヨウですか?」

 

「ちょっと聞きたいんだけど、『ナンスカ』ってどう行けばいいか、わかるかい?」

 

「あー、ナンスカでしたら、ドンブラームラのサラにムこうにありますネー。ドクトクのブンカで、ハジめてイくデンパはミンナ、オドロくんですよネー……」

 

「そうなんだ…………うん、ありがとう!」

 

 実はこのデンパくん、結構なお年なんじゃないだろうか。今の様子からして、明らかに一度はナンスカに訪れたことがある風だったし。まぁ、そんなこと考えても仕方がないか。今は、ナンスカへの道を急ぐべきだ。

 

「オシ!行こうぜ!」

 

 教えてくれたデンパくんに、手を振って別れを告げる。向こうもスカイウェーブ仕様の羽を気持ち強めにパタパタと振り、送り出してくれるようだ。

 

 

 ーー20分後・ドンブラー村のスカイウェーブーー

 

「ええっと、ドンブラー村の……更に先、だったよね」

 

 直ぐ側には、先日使用したばかりのドンブラー村へと繋がるウェーブホールが設置されている。ドッシー騒動が収まったせいか、デンパ通りは良くなっているようだ。混雑してないってのは、使う時に気楽でいい。

 

「あっ、ナンスカへムかうデンパさんですか?サイキンやっと、このサキにツヅくミチのコウジがオワったんですヨー!」

 

 ワープホール側にいる案内役のデンパくんに、ナンスカへの道を聞こうとしていたのだけど、その前に別のデンパくんから声をかけられてしまった。どうやらつい最近までナンスカ行きのスカイウェーブは封鎖されていたらしい。コウジ……工事か。ウェーブロードを工事……?

 

「へぇ……そうなんだ。じゃあ、これがその?」

 

 デンパくんの側にある、セキュリティのかけられた道に指を差して質問する。デンパくんは力強く首肯し、セキュリティを解除する準備を始めるようだ。

 

「トビラ~…………ヌォーーープーーーーン!」

 

 気合いのこもったデンパくんによって、ナンスカ行きのスカイウェーブは目出度く開通された。以前はデンパ通りが多くて、小道のセキュリティに気がつかなかったけれど、どうやら元々ナンスカへ向かうデンパくんは少なかったようだ。周囲のデンパくん達が誰も注目していないので、よくわかる。

 

「おお~!」

 

「ここからズンズンススんでイけば、あったかホカホカナンスカでーす!ドクジのフウシュウをモったニンゲンタチがクらすミナミのクニ!ナンスカ!イッツナンスカ!レッツナンスカッ!!」

 

 イヤにテンションの高いデンパくんだ。作業ばっかりで鬱憤でも溜まっていたのかもしれないな。単純作業の連続は、人の思考を鈍らせる。ボクも気をつけないと。

 

「ほぅ……中々面白そうだ」

 

「お、結構興味出てきたカンジ?」

 

 封鎖されていたウェーブロードの直ぐ先、ナンスカのスカイウェーブ行きと思われるワープホールの前に、ボク達はいた。先程の元セキュリティエリアから、徒歩二分くらいの距離だろうか。

 

「まぁ、ドクジのフウシュウってヤツに興味は湧かねぇがよ、気候が違うってことは、それだけ色んなウィルス(ヤツ)がいるってことなんだぜ。……腕が鳴るってワケだ!」

 

 実際、電波体だとボクの腕で唸ってるだけの射撃装置兼ロックオンシステムだもんね、ロックって。

 それにしても、新しいウィルスか……正直、無敵付与のダンサーっぽいウィルスがウザかった記憶しかないような。……あとモアイ。

 

「ま、やる気があるのは結構だよ。……それじゃ、行こうか!」

 

「おう!」

 

 一応深呼吸して、ボク達はナンスカのスカイウェーブに繋がっているワープホールへと入っていった。

 ドンブラー村のスカイウェーブが一気に遠ざかっていく。超高速で移動しているものの引っ張られるような感覚はなく、割と快適な空の旅としゃれこむコトが出来るのも、スカイウェーブを利用する利用の一つかもしれないな。

 

 

 ーーナンスカのスカイウェーブーー

 

「ナンスカ!!ようこそ、ナンスカのスカイウェーブへ!!」

 

 到着したボク達に、ナンスカのスカイウェーブで案内役をしていると思われるデンパくんが歓迎の声をかけてくれる。どうやら無事にナンスカのスカイウェーブへたどり着くことが出来たらしい。

 

「……っと!ここが、ナンスカのスカイウェーブ……」

 

 何て感慨深いように呟いてはみたものの、下界は雲に覆われており、周囲の景色自体はこれまでに利用してきたスカイウェーブと大した違いはない。精々、案内役のデンパくん達が活発に見えるくらいだろうか。なんだか南国の人って、テンション高い人が多いような気がする。ニホン人が低いだけかもしれないけどね。

 

 

 

「結構入り組んでるな……」

 

「ナンスカは電波の整備が遅れてるらしいし、しょうがないんじゃない?」

 

 迷路……はちょっと言い過ぎだけど、ドンブラー村のスカイウェーブに比べたら、複雑な地形ってのは間違いないと思う。

 因みに周りのデンパくんに話を聞いたところ、長年このスカイウェーブにいても、割としょっちゅう迷うことがあるらしい。迷い込んだ先は、バミューダラビリンスだった……なんてデンパ都市伝説とかもありそうだ。

 

「とは言え、視界を遮る物もねぇし……まぁ、何とかなるだろ。取り敢えず、現在位置の確認はマメにしておこうぜ。最悪、マッピングでもしながら進めばいい」

 

「ウェーブロードの地図を、市販で売ってくれればいいんだけどねぇ……」

 

 ビジライザーとウィザードが普及してない以上は仕方ないと割り切るしかないか。デンパ商人辺りが、非売品として隠し持っていそうな気はするけどね。

 

「無い物ねだりをしてもしょうがねぇよ。どうせ土地勘も無いんだし、地道に進んでいこうぜ」

 

 ああ……飛べた(あの)頃が懐かしい。

 

 

 ーー30分後ーー

 

 現在、ボク達の目の前には緑色のワープホールがある。因みに、スカイウェーブ間の移動ではオレンジ色、下界に降りるワープホールは緑色……グリーンになっていて、見た目で判別出来るように電波体へと配慮がなされている仕様だ。案内役のデンパくんは見当たらないが、先程近くを浮遊していたデンパくんに聞いたところ、ここが件のワープホールで合っているらしい。

 

「よし……行くよロック!」

 

「オレの方も、爪の辺りがウズいてきてるしな!とっとと行こうぜ!」

 

 爪じゃなくて、牙では……?

 とにもかくにも、ワープホールに入らないと始まらない。以前のように垂直落下の恐怖を感じることもないので、比較的リラックスして下界へと降りることが出来そうだ。

 

 

 ーーナンスカの電波ーー

 

「おぉ……ここが、ナンスカ!」

 

「感動してないで、そこのウェーブホールからさっさとウェーブアウトしろよ。あのオンナがキレると、結構めんどくさいんだよな。大体、ドンブラー村の時も……」

 

 ドンブラー村で委員長に折檻された時も、ロックはスターキャリアー内でうんざりしながら聞く羽目になったようで、ここぞとばかりに恨み節をぶつけてくる。

 さっきまで、今宵の爪は血に飢えている……みたいなコトを言っていたのが嘘のようだ。恐るべしは委員長の影響力か。さすルナ。

 

 

 ーーナンスカーー

 

 予想していた通り、南国の名に恥じぬ気候だったナンスカは、太陽が住人達の限界を試すかのように今日もジリジリと照りつけている。

 遠目だけど、特徴的な民族衣装を纏ったナンスカ在住の人達は目に着きやすい。衣装の生地は見るからに薄く、風通しが良さそうだと推測出来る。

 結論:出身地の人にとっても、凄く暑い。

 

「うーん、なるべく電波体でいた方が、(精神)衛生上良いような気がしてきた……」

 

 掌で影を顔に影を作り、思わず呟いてしまう。何せこの暑さだ。ボーッとしてるだけでも相当に体力を持っていかれてしまうだろう。こりゃあ熱中症にも注意しておかないと、ロクに動き回ることも出来ないぞ。電波体なら無問題なんだけどね。

 

「正に南国ってヤツだな。見る限り、何にもねぇ所だけどよ。ウィルス以外に目ぼしいモノも無さそうだぜ」

 

 どうやら周囲を見渡しているらしいロックは先進的とは言い難いナンスカの様相に、早くも嫌気が差し始めているらしい。

 因みに現在はナンスカの隅にある、日時計の側で休憩している。

 

『アラ、早かったじゃない』

 

 お、この声は委員長のモノだ。以外にも、向こうから見つけてくれたらしい。側にキザマロを従えて、こちらへと歩き寄ってくる。

 聡明な委員長のコトだから、電波を飛ばしていそうな場所を見張っていたのかもしれないが。

 

「軽く見た感じだと、イマイチパッとしない印象かしら。やっぱりワタシには、ロッポンドーヒルズのような都会が合ってるってコトね。なんだか日差しもギラギラしていて、お肌に悪そうだし……」

 

 旅行計画の時も言っていたけれど、やはり乙女(笑)として紫外線等は気になるらしい。委員長って割と男勝り(肉体的にも)だから、こういう一面は新鮮な気持ちになるような。面と向かって言ったら、無言の腹パン不可避なんだろうけど。

 

「電波変換していれば、紫外線をスルー出来なくもないけど……」

 

「ええっ!?……それはちょっとズルくない? ああ、ワタシも自由に電波変換出来れば……! 都合よく、アナタみたいにならないものかしらねぇ……」

 

 ううーん、ハンターVGの再構築プログラムに期待しろ、としか言えないかなぁ……。

 意識ありのオヒュカスなら、ケフェウスと友好を結んだボクに無下な扱いをすることはないと思うんだけどね。

 

「それだと蛇に退化しちゃうんだけど……いいの?」

 

「乙女には、決して譲れない一線というモノがあるのよ……!」

 

 ボク、男だからイマイチわかんないなぁ……

 美しさの為なら……ワタシは人間をを止めるぞッ!みたいな感じってこと?どこの石仮面だって話だ。

 

「委員長! 降り注ぐ紫外線からは、このキザマロがお守りします!」

 

 委員長の側で沈黙を保っていたキザマロが、腕に抱えたビッグサイズの日傘を展開し、邪悪なる日差しから委員長のお肌を守る戦士へと華麗なる転身を遂げる。

 この日傘も、委員長がニホンから持ち込んだモノなのだろうか。備えあれば憂いなしとはよく言ったものだと思うけれど、これはちょっと備え過ぎなんじゃない……?

 

 

『…………ナンスカ?』

 

 奇妙なイントネーションの言葉と共に、あっという間に辺りがナンスカの住人達で埋め尽くされる。会話に夢中だったとは言え、この隠密能力……実はシノビの末裔だった、とか言われても納得出来そうだ。

 

「い、いつの間に……」

 

 

「ナンスカ?ナンスカ!?」

 

 緑色系の民族衣装に身を包んだおじさんが、恐らく疑問的な意味を含む声色で話しかけて(?)くる。手元のスターキャリアーによる翻訳でも、ナンスカと出ているので普通にナンスカナンスカ言われているだけなのだろう。

 

「ナンスカ!?ナンスカ!!」

 

 今度は赤色系のポンチョ?を纏った美人さんが話しかけてくるが、やはり翻訳されて表示される画面には、ナンスカナンスカとしか映らない。

 黒すぎない程度に日焼けした肌からは、そこはかとない艶かしさを感じる……

 

「フンッ!」

 

「アイタッ!?」

 

 唐突に足を踏み抜かれたボクは、無様に悲鳴を上げるしか無かったのだ。しかも委員長、割と本気で踏んだでしょう!? 一体何をしたって言うんだよ……

 

「……な、なに?これはなんなの?」

 

 今更ビビっているような仕草を見せても、真っ赤になった足を抱えているボクには、酷く白けて見える。

 コラ、引っ付くな!

 

『ナンスカ!!』

 

 周囲に集まってきたナンスカ人(ペルー人?)が、踊るように体を動かし、ナンスカと合唱する。もうこれわけわかんねぇな。何? 新手のサブリミナルコントロール?

 

 

 ーー10分後ーー

 

「ふぅ……やっと解放してもらえたね」

 

 辺りは既に、ボク達を除いて人気はなくなっており、怒涛のナンスカコールによる謎の熱気はどこか遠いモノとなっていた。

 

「(ナンスカって言葉が、さっきから頭で響きやがる……)」

 

 寧ろゲシュタルト崩壊してしまったよ、ボクは!

 アレ、ナンスカってどんな意味なんだっけ?

 ナンスカ? ナンスカーーッ! ……一旦落ち着こう。

 

「何だったの、一体……」

 

「こういう村ですし……外からのお客さん(余所者)が珍しかったんじゃないですか?」

 

「まぁいいわ……取り敢えず手分けして、空から降ってきた人についての話を聞いて回りましょう」

 

 こういう時にテキパキと決められるのは、結構頼りになったりするものだ。さっきまで怖がる演技をしていた人と同一人物だなんて、とても思えないね。

 ……ん?日時計の側に、見慣れたフォルムを発見。アレは……

 

「(あっ、トレーダーガチャだ!)」

 

 しかもBIGWAVEのシケたトレーダー3ではなく、グレードアップしたバージョンのトレーダー5だ!まさかこんな所にあったなんて!元々トレーダーの場所なんて覚えていなかったから、これは大きな収穫だぞ!

 

「(オマエはいい加減に懲りろ!)」

 

 残りライフ(残弾)……25。

 か、神に不可能は……!




いつも感想・評価ありがとうございます。

GET DATA……
『ケセランパサラン2』

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。