星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーーナンスカ村ーー

 

 ナンスカ村の中央、祭壇の側ではベッドや布団に該当する敷物が、地面の上に敷かれている。その上には未だに意識が戻っていないゴンターガ……牛島ゴン太の姿があった。側では村長のナンスカ・オサ・アガメの姿もある。どうやら意識を取り戻すことを願ってムーに祈りを捧げているようだ。

 時間が時間故に、アガメを除いて他に祈りを捧げる村人の姿は確認出来ないが、近隣の家屋からは朝の空気の下、体を解していたりとチラホラ村民の姿が見え隠れしている。

 

「ぬぅ……日が昇ってからずっと、ひたすら祈祷を続けているというのにお目覚めにならないとは……」

 

 アガメは焦っていた。

 元々、あまり先進的とは言えないナンスカの医療品では大した治療が出来ないことも理解している。

 このような時に、アガメは深く後悔するのだ。どうしてナンスカはこうなんだ…………と。

 

「もし、このままお目覚めにならなかったら……ナンスカ族の夢が……」

 

 このゴンターガ様は、ナンスカ族の発展を見込める唯一の希望なのだ。伝統的な作法・風習・慣習と言った古臭いモノを排除し、ナンスカに更なる発展と豊かさを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上機嫌なキザマロと不機嫌な委員長、というある種不気味な光景を目の当たりにしながらナンスカ村の祭壇まで歩くこと十数分。無事に村の中央で寝かされているゴン太の巨体を視界に納めることが出来たようだ。その傍らには、一生懸命祈り続けているアガメさんの姿もある。

 

 祈り続けているアガメさんは一先ず置いておき、ボク達はゴン太の側に並び立つ。委員長の両手には、今朝再びボクが作製した特製牛丼が抱えられている。当然、食器のサイズは大盛りだ。

 

「じゃあ委員長……例の作戦を……」

 

「ゴン太くんを目覚めさせる為です! お願いします!!」

 

 期待に満ちた目を向けられた委員長は、今日も老若男女平等にジリジリと照り付ける太陽を仰ぐ。委員長の目元辺りで何かが煌めいたような気がするが、指摘するのは野暮ってものだろう。

 

「わ、わかったわ……」

 

「あんまり辛いなら、国際電話でアイちゃん辺りにお願いすればいいと思うけど……」

 

 どうせ見て判断するワケじゃないし、耳元にスターキャリアーを翳して誤魔化す……という方法もある。

 

「……それはダメよ。だってスバルくんもキザマロも、自分の役割はしっかり果たしてるじゃない。白金ルナとして、それからアナタ達の委員長として、ワタシは指をくわえて見ているワケにはいかないのよ……!」

 

 赤く充血した目を見開いて覚悟の程を語りつつ、両の手に抱えた牛丼を設置する。なるほど、委員長だけがこの作戦に関与しないというのは我慢ならなかったのか。

 委員長らしいっちゃあ、委員長らしい。素敵な心掛けだと思う。

 

「……?」

 

 突然牛丼を持ち出した委員長を、アガメさんは珍妙な者を見るような目付きで眺めている。

 止めて!委員長のライフが削れきっちゃう!

 

「コ、コホン……」

 

 小さな咳払いを一つ。同時に、唾を飲み込む音が聞こえる。確認してはいないけれど、真横から聞こえてきたので恐らくキザマロなんだろう。

 委員長を除き、この場に集う全ての視線が唯一点に向けられていた。辺りには、まるで嵐の前触れと見紛うばかりの緊張感が漂っている。これから起こるコトを考慮すると、酷くシュールな絵面だと思うが。

 

「……ゴン太~、起・き・て……ウフフ!」

 

 委員長は、未だに寝込んだままのゴン太に背を向けると、左手を腰に添え、右手はツインドリルの内側(恐らく、結び目のすぐ下辺りだろうか)に宛てつつ、妖しげな笑みを浮かべた顔だけで振り向く……と言う、言ってしまえば唯のセクシーポーズ(笑)をとっている。心なしか委員長の声が震えているように聞こえるが、それは言わぬが華……というヤツなのだろう。泣けてくる。

 

「(オイ……ありゃあ、一体何のマネだ?)」

 

 幻覚か何かでも見せられていると思ったのか、頭を抱えているらしいロックが震える声で問いかけてくる。

 ……頬でも引っ張ってやるべきだろうか。

 

「(多分、委員長のトラウマ案件になると思うから、聞かないであげて…………)」

 

「(ケッ、何か弱みでも握れるかと思ったのによ。つまんねぇぜ……っと、そうだ。…………クククッ)」

 

 最後の意味深な笑いは一体何なのか、ハッキリさせたいところだけど、今は委員長を見守るコトの方が先決だ。ぶっちゃけ見ていられないのだけど、何と言うか……ボク達が目を逸らしてはいけないような気がする。

 

「ワタシねぇ、腕によりをかけてゴン太の為に牛丼をつくったのよ……? 早く起きないと、スバルくんとキザマロに食べられちゃ・う・ぞ?」

 

 委員長が普段とは似ても似つかないような甘ったるい声でゴン太に呼び掛けること数秒。ナンスカ村の中心に、小気味いい音が鳴り響いた。と言うか、ゴン太の腹が空腹を告げる為に奏でたメロディーだ。

 

「う、ううう……い、委員長の……手作り牛丼……!!」

 

 そして、先ほどまでウンともスンとも言わなかったゴン太の体が震え出し、うわごとのように牛丼牛丼と繰り返す。どれだけ牛丼に執着しているのだろうか。

 

「食わずに……死ねるかァァァァッ!!」

 

 仰向けの状態から、何処にあったのか疑いたくなるような腹筋運動によって跳ね上げた姿勢のまま勢いよくゴン太は立ち上がった。漸くゴン太、大地に立つ……と言うワケだ。長かった……いや、まだ終わっていないのだけどね。

 

「ゴン太が目を覚ました……!」

 

「委員長のお色気と、大好物の牛丼によるダブルアタック、成功です!」

 

「に、二度とやらないわよ!! こんなの!」

 

 興奮したキザマロに引きつつ、羞恥心によって頬を染めるという高等技術をこなしている委員長を見ていると、やはり恥を忍んでアイちゃん辺りに協力を要請すべきではないかと、しょうもない考えが浮かんでは消えていく。いや、確実性で言えばこれ以上の策があるわけでもないので、これで良かったのだろうけど。

 

「あはは……委員長はやっぱり、凛としてるのが一番それっぽいからねぇ……」

 

『……Recording stop』

 

 委員長を讃える方向へ舵を切ったボクのスターキャリアーから、不意にそんな音が聞こえてくる。レコーディング、ストップ…………記録停止?いや、保存されたのはエア・ディスプレイのデータじゃない……録音停止?

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 辺りを妙な沈黙が支配する。委員長に向けられていた視線の全てが、今度はボクのスターキャリアーに集中し、自然が色濃く残るナンスカ村において、非常に異質な空間が形成されているようにも感じる。

 まるで、偶然その場にいる全員の会話が途切れた時のような、早く誰か喋ってよ……という謎の圧力だ。

 

「なぁ、そのレバー……トースト?ってのは何なんだ?食い物か?」

 

 目覚めたばかりで、状況がイマイチ理解出来ていないゴン太が口を開く。料理系専用の翻訳機にでもなっているのだろうか、ゴン太の脳味噌は。

 

「恐らく、スターキャリアーの録音機能でしょうね。……多分、今のやり取りを記録していたんじゃないですか? ねぇ、スバルくん?」

 

 ねぇ?とキザマロに言われても、ボクには全くもって覚えがない。そもそも録音機能を起動させるのだってそこそこの手間がかかったハズだし、それこそスターキャリアー内部から操作でもしない限り…………

 

「…………あ、ロックの仕業か」

 

 電波体のロックなら、スターキャリアーの内部から直接操作することも可能だろう。……それ、ハッキングじゃない?

 

「(ヘヘッ、礼は要らねぇぜ。しっかり役立てな)」

 

 ビジライザーをかけたボクの視界には、親指を立てて良い笑顔を決めているロックの姿が映り込んでいる。

 役立てるって、一体何に?

 

 

「忘れな……さいッ!」

 

 いつまにか、視界中央に右腕を大きく振りかぶった委員長の姿が見える。その瞳は潤んでおり、頬は上気しているかのようだ。

 あ、この流れ知ってる。これ、ボクが損をするパt

 

「へぶっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、委員長の手作り牛丼! メチャクチャ美味かったぜ!!」

 

「よかったわ。このワタシが腕によりをかけて調理した甲斐があったようね」

 

 な、何か……重大な隠蔽行為が行われた気がする……

 

「…………ハッ! あれ?ボク、どうして寝かされているんだろう……」

 

 気がついたら、さっきまでゴン太が寝かされていた寝具の上だったでござる。ワケがわからない。確か、視界一杯に悪魔の姿を捉えて、それから意識が……

 

「あら、おはようスバルくん。昨日はあまり眠れなかったようね。急に倒れるものだから、貧血を疑ってしまったわ。その様子じゃ、もう心配は要らなさそうだけど」

 

「そうなの?でも、何だか左頬が痛むような……」

 

 誰かに頬でも張られたような、そんなジンジンした痛みだ。痛みで赤くなっているような気もするし。

 

「それはですね……」

 

「キザマロ?」

 

「いっいえ! 倒れた時にぶつけたんですよ、きっと!! ええ、そうに違いありませんとも!!」

 

 キザマロが酷く焦ったような声色で説明してくれるが、どうにも府に落ちないな。

 いや、キザマロ(ブラザー)が言ったことなんだ、信じずして真のブラザーは語れまい。

 

「……まぁ、いいや。それよりゴン太、記憶は戻ったのかい?」

 

「お、おう!! 迷惑かけて悪かったな! 牛島ゴン太、完全復活だぜ!! うぉぉぉ!!」

 

 雄々しい叫び声をあげ、自らの復活を宣言するゴン太には、もはやゴンターガとしての名残など一欠片も見いだすことは出来なかった。牛丼も食べきっているし、どうやらボクが寝ている間に全て終わっていたらしい。

 直前の記憶が失われていることに疑問は残るけど……まぁ、結果オーライと言うことで。

 

「そっか、良かったよ……一時は一体、どうなることかと……。何せ、思いっきり支配者やってたからね」

 

 苦笑いを浮かべていたゴン太だったが、不意にボクの正面を向き、滅多にない真摯な表情を見せる。

 中々、男らしい顔つきなんじゃない?

 

「スバル……どうやらオレのために、必死で頑張ってくれたみたいだな。胸が熱くなるぜ……この恩は忘れねぇ! オマエはオレの、永遠のトモダチ(ブラザー)だ!」

 

「うん、これからもヨロシク!」

 

「おう!!」

 

 最早恒例行事の如く、お互いの右手の拳を合わせ、ニカッと笑い合う。裏表の無い友人ってのは、やっぱり良いものだ。

 

「(…………オイ、スバル。スターキャリアーのパーソナルページを見てみろよ)」

 

 ロックに言われるまま、パーソナルページを呼び出すと、キズナリョクが100上昇していることを確認出来る。キズナが深まった……ということでいいのだろう。

 

「……あっ、キズナリョクが上昇してる。何だか照れちゃうなぁ……」

 

 どうにも、自分の感情を見透かされているような気がして、照れくさくなってしまう。

ふと思ったのだけど、スターキャリアーはどうやってキズナリョクの測定をしているのだろうか。急速なマテリアルウェーブ等の発展然り、電波技術の謎は深まるばかりだ……

 

「………………記憶が戻っただと?」

 

 和気藹々とした空気の中に、焦ったようなアガメさんの声が響いた。決して大声量ではないハズなのに、籠められた思いの強さがヒシヒシと伝わってくるのを感じる。アガメさんも、ナンスカの為に必死なんだよな。委員長をprprしようとするのは許せないが。

 ロリコン(ファントム・ブラック)ダメ、絶対。

 

「……そんなコトは関係無い!! 貴方はナンスカの新しい支配者、ゴンターガ様だ!! そうでなくては……困るのだ!!」

 

「いや、あのさ……ウマイもんを一杯食わせてくれたことには感謝してるけど、オレはそんなお偉いさんじゃねぇんだ。皆と、ニホンに帰らないと……」

 

 申し訳なさそうにゴン太が拒絶の旨を告げるも、興奮したアガメさんの耳には入らない。興奮して赤くなった顔も相まって、まるで本物の天狗染みた雰囲気を醸し出している。

 

「ニホンへは帰しませぬ! たとえ、力ずくでも!! 誰か!! 誰か居らぬか!!」

 

 アガメさんの声に、朝の散歩に出ていたのであろうナンスカ族の人達が続々と集まってくる。これだけ見ていても、求心力の程を窺えるというものだ。よっぽど頼りにされているのだろう。

 

 

『ナンスカ!?ナンスカ!?』

 

 

「ゴンターガ様が御乱心だ!! ……捕まえろ!!」

 

 集まってきた人達は唐突なアガメさんの命令に異議を唱えることもなく、ボク等の方向目掛けて猛烈なダッシュで捕縛にかかってきた!

 半端じゃない走力……コダマ人とも張り合えそうだ。

 いや、一族の結束……というヤツなのかもしれない。どちらにしろ、脇目も振らずに襲い掛かってくる集団というのは、実に恐ろしい! 三十六計逃げるに如かず、だ!

 

「……逃げよう!!」

 

 全員の意思が完全にシンクロし、ボク達は一目散に逃げ出した。

 

 

 

 

 

 ーー数分後ーー

 

 オブジェ的な建造物に隠れたり、委員長のマテリアルウェーブで追っ手を足止めしたりと、中々にエキサイトな逃亡劇を繰り広げること数分。ボク達はスカイウェーブへの入り口にもなっている、日時計の置かれた岩場へとその身を隠していた。

 

「……何とか撒けたみたい。でも、これじゃ逃げられないよ」

 

「なんであそこまでオレにこだわってんだ!? 別に誰でもいいじゃねぇか、『支配者』なんてよ!!」

 

 逃げ続けて息も這う這うな元ゴンターガ様が、吐き捨てるように文句を言う。当然、回りに気づかれないよう小声で愚痴る程度だけどね。

 

「(とにかく、このままじゃどうしようもねぇ。指示を出してるのは、あの偉そうな村長だ。あの村長をどうにかしねぇと……)」

 

「そうだね……(トップ)を失えば、一時的な混乱は引き起こせるハズ。よし、ウェーブインしてアガメさんに近づこう。ビジブルゾーンでなければ、人目に付かず移動出来る……皆はここに隠れてて!」

 

 全員の首肯を確認して、岩場に発生しているウェーブホールに入る。左頬が少し痛むが、概ね良好なコンディションだ。筋肉痛の類いも感じられない。

 

「(……あんまり派手にやり過ぎんなよ? 騒ぎを大きくし過ぎると、もっと人を呼んじまいそうだからな)」

 

 確かに。今はまだ早朝もいい時間なので、比較的向こうが捜索に充てられる人員は少ないけれど、騒ぎを聞いて更に密度が上がったらちょっとマズイ……かもしれないな。

 

「電波変換。星河スバル、オン・エア」

 

 囁くように口上とも言えない口上を告げ、電波の体を纏う。ここからはボクのステージだ……!

 

 

 ーーナンスカの電波ーー

 

「ええい!! 何をしておるか!! ゴンターガ様は、必ず村の何処かに隠れているはず!! 草の根分けてでも探し出せ!!」

 

 ナンスカに隠れられる程の草の根は無いんじゃないかなぁ……なんてどうでもいいことを思考しつつ、村の中央にある祭壇の側で直接指示を飛ばしているアガメさんの背後から、そろりそろりと近づいていく。

 幸運なことに、アガメさんの側には誰もいない。全員で捜索活動を行っているようだ。

 

「…………ム? オ、オマエは……昨日現れた、青い男! そうか、オマエがゴンターガ様を隠したのだな!? 今すぐゴンターガ様を出せ!」

 

「彼は唯の小学生で、ボクの友達の牛島ゴン太ですよ。本人もそう言っていました。貴方だって、本当はわかっているんでしょう?」

 

「それは……いや、だとしてもだ! 私の、いや我々の為に、ゴンターガ様のチカラが必要なのだ!」

 

「どうして、そこまでして……」

 

 確か……ナンスカを近代国家にしたいんだっけ?

 現在は電波技術……特にマテリアルウェーブのような物質的な電波が存在しているから、施設の配備さえすれば比較的簡単にインフラや街並みを整えることは出来る。お金が大量にかかっちゃうけどね。

 

「我々ナンスカ族の『勢力拡大』の為だ。これよりナンスカ族は、一致団結して人を増やし、土地を広げ、発展していかねばならん!!」

 

 土地を広げって……それ、侵略行為じゃないよね?開墾するとか、そっち系の意味だよね?

 

「ヘッ、成る程な……要はあのゴン太を、村の連中を団結させる為の、支配者として利用しようって考えなワケだ。……どう思うよ、スバル?」

 

「ブラザーをこのナンスカに縛りつけようってのは、ちょっと看過できないね……!」

 

「たとえ偽物でも構わん!! ゴンターガ様には、『ムー大陸の使者』を演じていただく!」

 

「ゴン太が『ムー大陸の使者』を演じた結果、どうなったのか……貴方だって、ハッキリ見ていたでしょうに!」

 

 ブライクラスの外敵から身を守るなら、最低限サテラポリスの精鋭部隊くらいは揃えなきゃ話にもならないぞ!いや、多分それでも役不足なんだろうけど。

 

「ケッ、まるで体のいい操り人形だぜ。オイ、スバル……説得が通じる相手じゃねぇぞ。力ずくでやっちまうか?」

 

「致し方ないか……」

 

 左腕がロックの顔になっているので、親指で右手側の指の関節をポキポキと鳴らしていく。骨の内部に入った空気が云々で指が太くなるらしいから、出来るだけ控えるべきなんだけどね。威圧行為には使えるだろう。

 

「私は…………って、何だ? 私の目はおかしくなったのか? 今、オマエの左腕が勝手に喋りだしたような……?」

 

「見間違いなんかじゃねぇよ」

 

 下げていた左腕が、ロックの意思を反映して胸の辺りまで上昇する。戦闘中は余程のコトがない限り、ボクに操作権があるんだけどね。

 

「!!! ば、化け物……」

 

「…………(オイ、スバル。閃いたぞ)」

 

 ああ、これで脅かすんだっけか。

 

「(……平和的なの?)」

 

「(もちろんだ。兎に角、オレに任せておけ)オイ!そこの村長さんよォ! オレはオマエの言う通り、バケモノだ! 地獄からやって来た、最凶で最悪のバケモノだぜ!」

 

「な、何だと……!?」

 

 こういうのが効くのも、発展途上国っぽい気がする。まやかしや怪物の類いとか、正にその典型例だよね。

 多分、誰もが自衛用の戦力(ウィザード)を持てる時代になったなら、その辺の意識も変わるのだろうけど。

 

「その気になれば、地球を丸ごと飲み込めちまう。オレの言うことを聞かねぇと、オマエも飲み込んじまうぜ。食べちまうぞ! グルルル!!!」

 

 それ、アンドロメダの設定を流用してない……?

 ロックにとってのバケモノってそういうヤツなんだろうけど、何だかトラウマを掘り起こしてしまったみたいで気が引けてしまう。ごめんよロック。

 

「そ、そう言えば、ナンスカの言い伝えでこんなものが残っている。そこら中の食べ物を貪り、ナンスカの民を飢えさせたという伝説の化け物……『タベルンスカ』! まさか、それがオマエか!?」

 

 思い込みって怖い。

 

「…………そ、そうだ……それだ! オレはそれだ! 長い間呼ばれてなかったからな……忘れちまってたぜ。そう、オレの名は『タベルンスカ』だ!」

 

「バ、バカな……これは幻だ!」

 

 ロックの演じるタベルンスカ?を信じられないと言った面持ちで見ながら、後退りするアガメさん。

 これは、ボクも演出に協力した方が良さそうだ。使えそうなバトルカードとか、あったっけ?

 

「よし、もう一押しだ!」

 

 もう一押し……ああ、アレがあった。アレなら直接的なダメージも無いのだし、平和的に脅せるだろう。

 

「任せてよロック! ……貪るって言うのなら、取って置きがある!」

 

 バトルカード、『ブラックホール1』を起動(ロード)

 この『ブラックホール』は、その名の通り強烈な引力を発生させるバトルカードだ。ウィルスの真下にブラックホールを発生させるのが主な使い方なのだけど、今回はアガメさんをターゲットとして、弱めの出力で使用する。

 ロックの口中に発生させているので、アガメさんからしてみれば、まるで飲み込まれそうな錯覚に陥るワケだ。ぶっちゃけ錯覚でも何でもないのだけどね。

 

「う、うおぉぉぉぉぉっ!?」

 

 人間からしてみれば圧倒的な引力に捕まり、手近なモノに掴まることで何とか踏みとどまろうとしているも、数粒の滴が既にブラックホール内に吸い込まれているのを確認済みだ。

 ……少々、やり過ぎたかもしれない。

 

「食べちまうぞッ! ガルルルルッ!!!」

 

 恐慌状態のアガメさんを追い込むべく、更に脅しをかけていくロック。直後、すぐ側に供えられていた骨付きカルビが無情にも吸い込まれていったのを目撃し、顔が更に青くなっていく。……トラウマになったり、しないだろうか。

 

「や、止めろぉぉぉぉッ!!!」

 

 A.止めません。

 

 

 

 

 

 

「う、う~ん……」

 

 仰向けに倒れかけるアガメさんの体を支えて、ゆっくりとその体を地面に横たえる。これでケガをされても詰まらないからね。後々の戦力的には、ケガしてもらった方がいいのだろうけど……

 

「……気絶しちゃったね」

 

「流石に鬼畜が過ぎたような気もするぜ。……まぁ、同情する気は毛頭ねぇが」

 

「ホントに吸い込まれると思ったんだろうね」

 

「ホントに吸い込みかけてたからな」

 

「…………」

 

「…………」

 

 もうしないよ。多分。

 さて、遠目で村長さんが気を失っているコトを察したナンスカの人達が、茫然自失としているのが見える。

 スターキャリアーで情報の伝達は滞りなく行われるのだろうし、今が脱出のチャンスだろう。途中で失敗するんだけどね。

 

「よ、よし! 動揺してやがるぜ! チャンスだ!!」

 

「そ、そうだよ! 早いトコ岩場に戻って委員長と合流しなきゃ!」

 

 結論:バトルカードは人に使っちゃいけないね。




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DELETE DATA……『委員長の黒歴史』

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