『クエェェェェェッ!!!』
「……アァン?何だよ、今のデケェ
「さぁ……ただ、あの存在感からして、電波人間なのは濃厚みたい。……どうする?」
「もうかなり離れちまってるが……あの辺には確か、寂れた村とデケェ地上絵があるんだっけな。……クククク、面白くなってきたぜ!」
「今からウェーブロードを伝って行けば、そうだね……一時間弱ってところか。他に行く宛もないし、ボクは賛成だ。それに、もしかしたら……」
「ケッ、あの人工色野郎のコトになると途端にコレだ。……とっとと行くぜ。この辺りはまだ、電波の整備が行き届いてねぇからな。動き辛くてしょうがねぇ」
「……一人で先を急いでも、スターキャリアーのナビゲーション機能は
「……………………チッ!」
ーーコダマタウンのスカイウェーブーー
雄大な景色と、ほんのちょっとの
「……通信?」
コダマタウンードンブラー湖間を繋ぐワープホールから飛び出して直ぐに、スターキャリアーへの通話要請がきていることを確認する。
つまり、いよいよコンドルハントの始まりってコトだ。ムー大陸で対峙する個体はエランド入りで単調な思考回路とはいえ、基本の動きを見極めておくことは、結果的に攻略の効率化をもたらすだろう。
「出てみろよ。目立つ位置にウィルス共が居やがる気配もしねぇし、ちょっと話すくらいなら問題ねぇぜ」
「じゃ、ちょっと警戒よろしくね。……ブラウズ!」
電波体なので別にブラウズと叫ぶ必要は無いのだけど、一応、ロックに今から通話することを伝えた方が良いと思ったんだよね。親しき仲にも礼儀有り……ってヤツだ。
兎も角、何処と無く不快な羽音に酷似した展開エフェクトを発生させながら現れたエア・ディスプレイには、焦燥感に満たされた面持ちのゴン太が映し出されていた。
「あ、ゴン太。どうしたの?随分余裕の無さそうな顔してるけど……もしかして、出国ゲートで引っ掛かっちゃったとか?ったく、委員長め。あれだけ五陽田さんに話を通しておきなよって言ったのに……」
『ち、ち、ちげぇよ! じ、実は、クルマで飛行場に向かってたらいきなり、上から変な鳥みたいなヤツに襲われて……ナンスカの村に戻されちまったんだよぉぉぉぉ!!!』
涙目で鼻水が垂れるのも構わずに、状況説明をしてくれる被害者の鑑なゴン太の発言からして、やはりコンドルは連れ拐いに来たようだ。
「そんな!?」
『頼む、ロックマン! 助けてくれ! このままじゃ、オレ達みんなあの変な鳥に……』
そこまで言いかけて、ゴン太は不意に画面外へと視線を向ける。直後、恐ろしいモノに見つかってしまったような表情へと変化し、閉口してしまう。
『……そこのオマエ、何をしている。勝手な真似を許した覚えは……ないぞ』
『う、うわぁぁぁっ!!』
エア・ディスプレイに流れてきたのは、冷ややかな声。雰囲気がかなり違っているけれど、この声はアガメさん……コンドル・ジオグラフのモノに違いない。先程ゴン太が見てしまったのも、恐らくはコンドル・ジオグラフなのだろう。
「ゴン太!?どうしたんだよ、ゴン太!誰かそこに……」
ボクの言葉を待つことなく、エア・ディスプレイの画面はノイズに満たされた後、スターキャリアー内部へと収納されてしまった。どうやら、コンドル・ジオグラフに通信を強制的に切断されたらしい。スターキャリアーを破壊されていなければいいんだけど……。
「コイツはただ事じゃねぇな」
周囲の警戒を続けながら、真剣な声色でロックが語る。なんやかんや言って、実は結構委員長達のことを気に入っているんじゃないかと、最近気づいてしまった。
なんだか可愛らしい。言ったらぶっ飛ばされるけど。
「急いでナンスカに戻ろなくちゃ!」
多分大丈夫だとは思うのだけど、ナンスカ族の人達が暴動を起こさないとも限らないので、早めに戻らないといけない。少なくともナンスカの遺跡で捕まっている間は、コンドル以外の外敵からは守られる形になるのだから。
「オイ、そこのアンタ! アンタもスカイウェーブのリヨウシャかい?」
急いでドンブラー湖行きのワープホールに飛び込もうとしたボク達に、トラックを模したと思われる姿のデンパが話しかけてくる。輸送系のデンパだろうか?ただ、雰囲気からしてデンパ『くん』呼びは合わないな。
「……何? ボク達、今凄く急いるんだけど。用事なら後にしてくれない?」
「まぁまぁ、ちょっとはオちツけよ。シンコキュウだ、シンコキュウ。……いいな? オレっちのシゴトは、イワユル『チョウキョリユソウ』ってヤツだ。ナカマうちじゃあ、バクソウドライバーなんてイわれてるんだぜ」
爆走バイク?
「…………で?」
「アンタ、キズナリョクがメチャクチャタケェだろ? オーラでわかったぜ。……ビビッときたんだよ」
そんな取って付けたようなデンパくんアピールしなくたって、別に疑いやしないっての。というかこのデンパ、嫌に回りくどい言い方をする。さっさと用件を言って欲しいのだけど。
「こっからコダマタウンのホウにイくと、セキュリティのかかったトビラがある。それをコイツでヒラいてみな!」
「はぁ……開けばいいの?」
そう言って、気前の良さそうな長距離輸送担当のデンパは此方にデータの入っていると思わしきカードを投げ渡してくる。ぶっちゃけ全く事態が飲み込めないぞ。どういうことだってばよ?
「おう! そしたらナンスカまであっというマにバクソウだ! かなりのショートカットができるんだぜ。イソいでるってんならモってこいだ!」
……ああ、なるほど。さっきの通信を聞いていたのか。これで合点がいった。困っていると思って親切にしてくれたのだろう。見た目は江戸っ子みたいなノリだが、その実かなりのお人好しだ。
「そっか……ありがとね、爆走ドライバー!」
「いいってことよ! ハヤくそのダチのところにいってやんな!」
照れているのか、そっぽを向いて早く向かうよう促してくる。
ありがたい、ありがたいんだけど……。
「オイ、スバル」
「うん、わかってる」
ボク達はナンスカのウェーブホールからスカイウェーブに上がってきている為、ウェーブアウトで簡単にナンスカまで帰還することが出来るんだよね……。
ただ、ナンスカのスカイウェーブまでショートカット出来るということは、非常に魅力的だと言わざるを得ない。ありがとう、爆走ドライバー。
「それじゃあ、ナンスカまで一気に飛ぶよ……!」
そう言えば、ここまで遠距離のウェーブアウトは未体験だったような。町を2つ3つ越えるのとはワケが違うので、気を引き締めて取り掛からないと。
「……舌、噛むんじゃねぇぞ?」
「だから、茶化してる場合じゃないんだってば!」
ロックを叱咤しながらも、ボクの体は既にナンスカのウェーブホールへ帰還する道筋を超高速で飛翔している。
最後にウェーブインした場所は、ウェーブアウト用の受け皿として電波体の内部へと自動的に記録されているため、このような芸当が可能ではあるのだけど……あまり、心臓に良くは無さそうだ。
ーーナンスカ村ーー
その頃、村の一角では村長のナンスカ・オサ・アガメによる召集を受けた全村民達が、老若男女に関わらず、一同に会していた。
集結したナンスカ族の視線に晒されているのは、アガメが異形の生物と化して拐ってきた元ゴンターガとその一味である。彼らは皆、後ろ手に縄で縛られることで、ナンスカの砂ぼこり舞う大地の感触を存分に堪能することとなっていた。
「聞け、皆の者!!ゴンターガ様は、ムーとは何ら関係のない偽物であった!!ムーを崇める我らを愚弄したのである!!」
前に出たアガメは、集まった者達を煽るかのように激しい口調で、お縄を頂戴された不届き者達を攻め立てていく。その顔は興奮作用により赤く、諫言を聞き入れる余裕も無さそうだ。
「アンタらの勝手な誤解で、空から落ちてきただけの無関係なゴン太を祭り上げたんでしょうが! ゴンターガ様、ゴンターガ様って!!」
「そ、そうですそうです!!」
「そういえば、気絶してからロクに食ってねぇなぁ……」
当然、捕まった者達もただ言われるがまま、ということはなかったが、村人達はこれまでにないアガメの激昂ぶりに、中々口を挟めずにいた。
「我らの信ずるムー大陸からの使者を騙ったこの者達の罪の重さは計り知れん!!……ナンスカの慣例に従い……ムーへ捧げる生け贄となることで、その罪を償ってもらうこととする!!」
「い、生け贄ですって!?」
命までは取らないとたかを括っていた白金ルナは、躊躇なく失われた命の保証に顔色を蒼白へと変化させる。温厚だと思っていたナンスカ族の口から、まさか『生け贄』なんて言葉が飛び出してくるとは露程も思っていなかったのだ。
「今更怖じ気づいたのか! いずれにせよ、覚悟してもらうぞ! この、偽物め!!」
『ま、待て!!』
タベルンスカ、再び。
「ま、待て!」
ウェーブアウトによる高速移動を駆使することで、無事に再びナンスカの地へと密入国を果たしたのだけど、いざ辿り着いてみたら、さぁ大変!普通にprprコースまっしぐらじゃないか。
慌てて電波変換を完了させてから群衆の間を割って入ることで止められたのだけど、もしかして制止が間に合わなかったら、この場で
おまわりさんこっちです。
「ロ、ロックマン様!」
悪い意味で涙腺崩壊寸前の委員長が、後ろ手に縛られているために拭うことが出来ず、零れ落ちた雫を朝日に光らせながら九死に一生とばかりに喜んでいるのが伝わってくる。prprはマズいよ、prprは。
「ロックマン!」
「オレは絶対駆けつけてくれるって信じてたぜ!」
男共は後!
委員長は繊細なんだから!
「漸く現れたか、先の青い男よ……オマエは、いつか必ず我らの道を阻む障害として立ちはだかると思っていた……だが、断じて邪魔立てはさせぬ!私の……我らが繁栄の為に!」
あらゆる迷いを振り切って、ナンスカの勢力拡大を成し遂げる為の象徴になることを決意したと思わしきアガメさんは、懐からお馴染みの古びた携帯端末を取り出し、ボク達に見せつける。
コンドルか……スカイボードの機動力で立ち回れればいいのだけど。
「『古代のスターキャリアー』……ソロとエンプティー以外にも、このナンスカへ来ていたヤツがいたのか……!」
主要な出来事は、大体アイツが悪いような気がする。
これもすべて、ハイドってヤツの仕業なんだ!
「スバル、気を付けろ!」
ロックが注意を促すと同時に、アガメさんの手にある『古代のスターキャリアー』が目映い輝きを放ち始める。各々が顔を逸らしたり、手で両目を覆ったりしている中、バイザーを対閃光防御モードに設定していたボクの目が眩むことはなかった。
「……コイツはまた、妙なのが出てきたぞ!」
閃光が収まった後には、燃え上がるような雄々しい真紅の電波によって体を構成した巨鳥の電波体、コンドルがアガメさんの側に控えていた。ヒュー、カッコいい!
「電波変換!」
古代のスターキャリアーから、コンドルが完全に出てきたコトを確認したアガメさんは、一切の揺らぎをも感じさせない発声で宣言し、『ムーの監視者』コンドルをその身に纏う。紅の閃光が再びナンスカの地を席巻し、辺りは多大な混乱を孕んだ沈黙に包まれる。
「ひえぇっ!? 村長の姿が……アレは一体!?」
「ナンスカ!? どういうことッスカ!?」
ボクがこの場に現れたことで、アガメさんの所持する古代のスターキャリアー内部に潜んでいたコンドルと反応してしまい、ビジブルゾーンを発生させてしまったのだろう。強力な電波体が相対すると、発生しやすいらしいからしょうがないね。
「私の名は、コンドル・ジオグラフ!!正真正銘、ムーのチカラを行使する存在である!! これからは、この私が支配者となってナンスカの『勢力拡大』を成し遂げてみせようぞ!! さぁ、皆の者!!私を崇めよ!! そして私に従うがいい!! これより、停滞を極めたナンスカの、新たなる歴史が幕を開ける!! 刮目するがいいぞ!!」
高らかにそう宣言したアガメさん……コンドル・ジオグラフは、自らの体から小型の飛行ユニット『ミサイルバード』を生み出し、委員長達の下へと飛び立たせる。……なるほど。鳥型故に腕が無いコンドル・ジオグラフの運搬は、もっぱら手下の仕事ってワケなのか。
「では手始めに……我らがナンスカ族を謀った者達の末路、この者達に思い知らせてくれよう!!……オマエ達は、そこの青い男を仕留めるのだ! いいな!?」
そう言い残してミサイルバードにより、縛られたままの委員長達を背部に乗せたコンドル・ジオグラフは、そのまま地上絵の方角へと飛び去ってしまった。速ッ!
「ロックマン様ーーーーッ!!」
高所恐怖症とか、男性恐怖症になったりしないといいんだけど。
不憫過ぎるよ委員長……。
「あの周波数……イエティ・ブリザードやブラキオ・ウェーブと同じ、妙な感じだぜ。と、言うことはつまり……」
「アガメさんに『古代のスターキャリアー』を渡したのは、ハイドか……!」
ここまで顔見せしているオリヒメ陣営の面子は、ソロ、エンプティー、ハイドなので、一応的外れではないはずだ。
などと考えていると、先程のコンドル・ジオグラフが発した命令を聞き届けたのか、未だに慌てている群衆の中から二人のナンスカ族がボクの道を塞いでしまっている。
まさか、電波体と一戦交えるつもりか……!?
「チッ……コイツはメンドクセェな」
「今、この人達の相手をしている時間なんて……あれ?」
……と思ったら、今度は二人揃って道を開け出したぞ。
一体全体、何がどうなっているんだ?
「村長を止めてください!!」
「村長はナンスカの未来を思うあまり、あのようになってしまったと思うんです!」
「恐らく、村長は地上絵の先にある遺跡へと向かったハズです!!」
……成る程。この人達もアガメさんの異常には気づいていたってことか。つくづく、ナンスカ族ってヤツは人が好い。
それならこっちも、それ相応の結果を見せなくっちゃいけないな。
「ええ、わかりました!どうか、村長さんのコトはボクに任せてください!…………では!」
「貴方にどうか、御武運を!!ナンスカ!」
地上絵の方向へと疾走するボクに向かって、先程道を塞いでいたナンスカ族の人が声をかけてくる。
……やってやるぞ!打倒、コンドル・ジオグラフだ!
「ナンスカ!!」
冒頭で地の文を省いているのは仕様です。
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GET DATA……無し