星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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本日二話目の投稿となります。


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 ーーナンスカ遺跡1の電波ーー

 

 珍しく浅倉ァ!じゃないヒカルと、心の清涼剤的なツカサ君を一時的なメンバーに加え、広大なエリアを誇るナンスカ遺跡の電波にて炎のデンパくんを捜索すること数分。

 ボク達は前情報通り、エリア北西のウェーブロード上で縮こまっている炎のデンパくんを発見することに成功していた。

 

「ツツッキーコワイ……」

 

 炎のデンパくんは、ツツッキーに恐怖して逃げ出したらしいので、まず間違いなくこのデンパくんだろう。

 何処と無くチラチラと燃えるような電波圧(プレッシャー)が感じられる。腐ってもセキュリティの管理者ということか。

 

「キミが『台座』のデンパくん?」

 

「……そうです。ボァ」

 

 一応確認の言葉を入れると、炎のデンパくんは酷く怯えた声で認め、首肯する。そんなに怖いなら、皆揃って地下遺跡の中にでも隠れていてくれればいいのに。探す手間が省けるし。

 

「ボク達がキミの管理する『台座』まで連れていってあげる。さぁ、キミの『台座』を教えてくれるかな?」

 

「タスかったボァ! ボクの『台座』は、このイセキのヒガシにそびえる『東の台座』だボァッ! くれぐれもツツッキーにはキをツけて! アイツはボクたちの炎がダイコウブツなんだボァッ!」

 

 ブルブル……と、ツツッキーに追い回されたコトを思い出したのか、デンパくんはその場で軽く震え出す。まぁ、過剰戦力に近い現状だ。ツツッキーがスカイダイビングをかましてきても、しっかり撃退することが出来るだろう。

 

「よし、皆聞いたよね? 次に向かうのは……」

 

「『東の台座』、だろ? スバルくん」

 

 この遺跡には、東西南北に石造りと思われる『台座』が設置されており、それぞれに対応したデンパくんを配置することで、セキュリティを解除出来る仕様になっている。

 しかし、何を思って台座だけ現実の物質で建造したのだろう。セキュリティの根幹を担うデンパくん達を、ナンスカの民は目視することが出来なかったはずなのに。……もしかしたら、地上に降りてきたムーの民を歓迎する施設だったのかもしれないな。

 

「うん。でもエリアの中央を横切るから、ツツッキーの襲撃には注意しないといけないよ」

 

「電波体を食べる電波体なんて、アンドロメダを除けば、見たことも聞いたこともないけど……」

 

 そう言えばそうなんだよね。

 電波体って、別にカロリーを使って動いているわけではない(と思う)から、食事を摂る必要は無いし、それこそ嗜好品以上の意味は無いと思うのだけど。

 

「…………チッ」

 

 ヒカルは当たり前のように不機嫌だねぇ……。

 

 

 ーー数分後ーー

 

 

『ピエェェェェッ!!!』

 

 炎のデンパくんの存在を目ざとく感じ取ったツツッキーの眼光が鋭く光り、ジェット噴射を最大まで吹かしながらこちらへ襲いかかってくる。それはさながら、真昼に煌めく閃光の様。回避は困難を極めた。

 そしてこの数分で何度もツツッキー襲撃を体験して、ハッキリと体感したことが一つある。

 ツツッキー、マジヤベェ。

 ……スターフォースなら余裕とか言って、ホントサーセンした!冷静に考えて、変態天馬の劣化コピー程度で、ジェットスピードに勝てるワケが無かったんだ……。

 

「逃げてッ! 超逃げてェッ!」

 

 既にサンダーベルセルクへの強化は済ませている。そうでもしないと、超高速で飛来してくるツツッキーを目で捉えることすら出来ないからだ。

 因みに回収したデンパくんは黒ジェミニに任せている。ヒカルにやる気があったのは間違いないのだし、何よりボクがツツッキーの迎撃に回った方が確実だからだ。

 

「おおぉぉッ!! 間に合え、間に合え……間に合えェーッ!!」

 

 今まで見たこともない必死な形相で、デンパくんの隠れていた北西エリアのほぼ反対側にある『東の台座』に向かって全力疾走するヒカル。

 右脇にヘッドロックする形でデンパくんを固定し、強化された腕力にモノを言わせることで何とか保持しつづけており、その後ろにボクとツカサ君が追いすがるようなフォーメーションで突貫している。

 

「…………来るッ!」

 

 ヒカルが『東の台座』の中心へと炎のデンパくんを据えたことを確認し、背部にマウントしている大剣を流れるように抜き放ち、両手で構えつつツツッキーの襲来を待つ。まったく、こんなに苦戦させられるなんて!

 

『ピエェェェェッ!!!』

 

 さながら携帯獣のドリルクチバシのように全身を回転させつつも、真っ直ぐにデンパくんの元へと突っ込んでくるツツッキー。コイツ、段々襲い方がアグレッシブになってきてるぞ!?

 

「「いくよッ!! ツカサ/スバル君!! うおおぉぉッ!!」」

 

 ボクは右方からベルセルクブレードを、ツカサ君は左方からエレキソードを、それぞれ正面から突っ込んでくるツツッキーに向かって振り下ろす。

 動体視力の関係上(オーパーツによる感覚拡張が無い為に)、完全な見切りの出来ないツカサ君がボクのタイミングに合わせた形の連携だ。

 

『ピガッゲェッ!?』

 

 某電気ネズミの声を汚くしたような断末魔を上げ、地面に叩きつけられたツツッキー。

 先ほどまで、鷹のような鋭さを放っていた眼光からは既に、幾らかの光をも感じとることはできない。完全にデリートされたのか、サラサラと電波体を崩壊させ、チリのようにその忌々しいフォルムを消滅させてしまった。

 

「…………ふぅ、何とか倒せたみたいだ」

 

「ナイスタイミングだったよ、ツカサ君。まさかベルセルクの膂力で振るった大剣に合わせられるなんて……」

 

 ベルセルクによって全身を強化されているボクのパワーは、並の重量級を遥かに上回っている。いくら軽量さが取り柄のエレキソードと言っても、まさかこの速さに並んでくるとは思っていなかった。

 まぁ、今のボクって『技を越えた力、それがパワーだ!』を地で行く存在に近いんだけどね。

 

「いいや、ただの偶然さ。それより、『台座』の方は……」

 

 謙遜する姿勢を見せるツカサ君だけど、実はかなりの戦闘センスがあるんじゃないかとボクは睨み始めている。だって動きにそつが無いんだもの。

 

「タスかったボァッ! ホカにもナカマがカクれているボァ。だからタスけてあげてホしいボァ!」

 

「アァ!?」

 

 キレ易すぎだってば!

 

「ちょっとヒカルは黙ってて! ……脅かしてゴメンね。それで、その仲間の場所はわかるかい?」

 

 若干ビクビクしながら、台座によって守られたデンパくんは瞳を閉じて集中し、周囲に同類が居ないかどうか、サーチを開始する。

 

「……このチカくに、ナカマのケハイがするボァ!」

 

「わかった、探してみるよ! ……さぁ、探しに行こう!」

 

 さぁさぁ!と尚も苛立ちを見せる黒ジェミニの背を押し、台座から距離を取る。

 台座の設置されている場所は小さめの正方形を象った足場になっているため、端から転落してしまっては大変……という建前だ。

 

「チッ……だがよ、あの忌々しいクソ鳥野郎はもういないんだぜ? 誰が邪魔するって言うんだ?」

 

「その心配は杞憂だよ、ヒカル」

 

 ヒカルの言葉を聞いたツカサ君が、何とも言えない顔で武装化していない右腕の人差し指を、上空に向ける。

 ワケもわからず、ボク達は示されるままに上空を見上げると、先程完膚なきまでにデリートしたハズのツツッキーが、元気にナンスカの空を飛んでいた。

 ツツッキー……オマエ、リスボーンすんのかよ……

 

 

 ーー三十分後ーー

 

「これで……東西南北全ての台座に設置完了だ……」

 

 さながらデンジャラスなゾンビのように無限湧きしてくるツツッキーの猛攻を捌き続けること約三十分。

 ついに全ての台座に炎のデンパくんを戻し、長らくボクらを苦しめたセキュリティが今、漸く解除されようとしていた。

 

「タスかったボァッ! これでナカマがソロったボァ! ミンナ! イシキをシュウチュウするボァ!

 

 東西南北に散ったデンパくん達へと通信を飛ばし、セキュリティを解除するための準備に入るミナミの台座所属のデンパくん。台座からは凄まじい勢いの炎が燃え上がり、セキュリティ管理者として扱えるチカラの片鱗が窺える。この熱量からして、かなり強固なセキュリティだったらしい。

 

「……うぉぉぉぉ……ボァ! ファイアッ! イセキのオクへとツウじるトビラをヒラいたボァッ!」

 

「ありがとう!」

 

 この先に広がっているエリア……ナンスカ遺跡2のの電波へと続く通路となっている坂を塞いでいたセキュリティが解除されていることを確認して、全員で喜びを分かち合う。デフォルトで不機嫌なヒカルも、今回ばかりは達成感の大きさが勝ったようだ。まことに喜ばしい限りである。

 

「さぁ、遺跡の奥に向かうぜ!」

 

 さて、真の絶望はここからだ。

 確か、双子や三つ子の台座があったような……。

 

 

 ーーナンスカ遺跡2の電波ーー

 

「……空にはツツッキー。あちこちに点在している台座。奥にはバカデカイセキュリティウォール。どうやらさっきまでの繰り返しみてぇだな……はっきり言って滅茶苦茶ダルいぜ。電波体が暑さへの耐性を持ってなかったら、とっくにくたばってたかもな……」

 

 苦労して突破したセキュリティの先には、先程までのエリアを2つ並べたような地形が広がっていた。

 基本的な構造やギミックは変わっていないようなので、最初に探し出さなくちゃいけない炎のデンパくんの情報が無いこと以外は特筆することもないだろう。いや、面積が2倍なのだから、しらみ潰しも一苦労なのだけどね。

 しかし、そっちは何とかなりそうだ。問題はコンドル・ジオグラフの攻略なのだけど……。

 

「さて……とにもかくにも、まずは台座を起動させるためのデンパくんを探さないといけないよ」

 

「何か、アテでもあるのかい?」

 

 神妙な表情を浮かべたツカサ君が問いかけてくるけれど、実は結構いけそうな案がある。我ながら、電波人間への適性の高さを感じずにはいられない。順調に人間を辞めていってる……とも言うけれど。

 

「炎のデンパくん達の発している周波数?みたいモノは大体掴んでいるから、後は強化された感知能力を頼りに探せば……」

 

「……勘頼りとか、不安要素しかねぇんだけど」

 

 ヘッドセットから溢れた頭髪を左手でガシガシ掻きながらヒカルが愚痴ってくるが、ボクは声高にして言ってやりたい。ほならね? 自分で考えてみなさいよって。

 差し迫った状況で文句を言う権利を持つのは、建設的なコトをしている人間だけなのである。異論は認めたくない。

 

「どうせ最初の一人だけだからね。ダメだったらしらみ潰しの方向で。……どう?」

 

「チッ……勝手にしやがれ。ダルさのせいか、どうにもカリカリしてんなぁ、オレ……」

 

 やれやれ……とばかりに肩を竦めているが、ボクはヒカルが上機嫌だったコトなんて、数える程度しか記憶に無いぞ。

 ……まぁ、以前のツカサ君に押し付けられた分の不平不満もあるのだろうけど。

 

「ヒカルはいつもイライラしてるじゃないか……」

 

「うっせぇぞツカサ。……オレは自分に正直なだけなんだっての」

 

 ううむ、何だか話が脇道に逸れそうな気がする。prprの件もあるし、攻略はなるべく急がなくてはならないと言うのに。

 

「ハイハイ、そろそろデンパくん探しに戻ろうよ。ボクの感覚的には…………ええっと、向こうに炎のデンパくんに似た周波数を感じるような気がする……」

 

 かがり火が燃えるような電波圧(プレッシャー)は、このエリアの入り口付近に感じるような気がする。

 炎のデンパくんは台座とセットで運用することが前提のセキュリティであるために、単体では風前の灯火程度の弱々しさしか感じることは出来ない。それが転じてツツッキーから逃げられる隠れ蓑になっているのだろうけど。

 

 

 ーー数分後ーー

 

「ツツッキーコワい、マジで……」

 

 そろそろ電波体でもただじゃ済まない高さになってきたウェーブロードの行き止まりに、プルプルと震えているデンパくんを発見出来た。どうやら大当たりだったらしい。

 

「…………おおっ!? マジで居やがった!」

 

 半信半疑どころではないレベルで疑っていたであろうヒカルも、これなら多少は信用してくれるだろうか。

 

「ちょっとは見直した? ……ねぇ、キミはどの『台座』のデンパくん?」

 

「ボクの『台座』は、このイセキのキタにそびえる『北の台座』だボァッ!」

 

「了解!ボク達が連れていってあげるよ!……道中の無事は保証出来ないけどね……」

 

 先程までのツツッキーと繰り広げた攻防を思い出し、予防線の意味を含めて注意を促す。ぶっちゃけ食われてもおかしくないレベルで、向こうの攻めは強力だからね。仕方ないよ。

 

「よ、よろしくボァッ!」

 

 ちょっと引き気味だけど、こちらの戦力を見て大丈夫だと判断したらしい。大人しくついてくるようだ。まぁ、電波人間が3人とか、何処のオリヒメ陣営だよって話だからね。しかも内二人は雷神ジェミニの電波体だ。……残留電波由来の電波人間だけど。

 

「よし、それじゃ早く『北の台座』に運んであげようか!」

 

 後は、同類同士のテレパシーに期待しておけば無問題なはず。コンドル・ジオグラフの方は……まぁ、何とかなるでしょう。多分。

 

 

 

 ーー三十分後ーー

 

 途中でツツッキーに啄まれたり、双子や三つ子の台座にヒカルがマジギレしそうになったりと色々あったけど、何とか狩人の目を振り切って全てのデンパくん達を台座にセットすることが出来た。お、終わった……。

 

「……ふぅ。これでお仕舞い……のはずだね」

 

「タスかったボァッ! これでナカマがゼンインソロったボァ!」

 

 キミ達は群れると元気になるねぇ……なんてソロみたいなコトを考えてみる。いや、下らない愚痴みたいなモノなんだけどね。

 

「ミンナ! イシキをシュウチュウするボァ! ……うぉぉぉぉ……っ! ボァ! フレイムッ!! ……これでコンドルのトコロまでイけるボァ! ナカマをタスけてくれてありがとうボァ!ゴブウンをボァ!ボァッ!」

 

 ゴゴゴゴゴ……と遺跡の最奥へと続く通路に掛かっていたセキュリティが解除される。まだprprされていないといいのだけど……おまわりさんあっちです。

 

 

 ーー数分後ーー

 

 ボク達は台座から移動し、先程まで強固なセキュリティが行き先を塞いでいた遺跡最奥への通路、その坂に登らんとしていた。

 一応、軽くストレッチや柔軟体操によって出来る限り高いパフォーマンスを発揮するための努力をしておく。土壇場で足を釣って敗北とか、悔やんでも悔やみきれないからね。

 

「オシ! 村長をぶっ飛ばしにいくぜ!」

 

「ああ!」

 

 ロックの気合いも十分だ。相手が大型の飛行タイプだからと言って、まるで怯む様子もない。頼もしい相棒と言えるだろう。強いて言えば、ツカサ君……ジェミニ・スパークはどうするのかってことだけど……。

 

「オイ、岩男ッ!」

 

「ッ!?」

 

 背後で跳躍した黒ジェミニ……ヒカルがボク達の目的地へと続く通路の前に着地し、道を塞ぐように武装化した右腕のロケットナックルをこちらに向けてくる。

 ……どういう、こと?

 

「オイ、ツカサ! コイツはどういうことだ!?」

 

「い、いや、ボクに聞かれても…………どうしたって言うんだよ、ヒカル!?」

 

 ロックの困惑した声質で問い質すが、ツカサ君にもヒカルの真意が読めないらしい。

 ……いや、ボクは知っている。この流れ、まさか……!

 

「テメェには、いつか絶対にリベンジしてやろうと思っていた……!」

 

 武装化した右腕からバチバチと雷光を迸らせながら、黒いジェミニ・スパークはゆっくりと近づいてくる。

 表情を見るに、説得が通じるとも思えない。

 

「いつかって、今じゃなきゃダメなのか!?」

 

 なんと言うか、ここを通りたきゃ、このオレを倒してからいけよ!……とでも言いそうだ。

 

「そうだ。……今じゃなきゃ本気で闘えないからなァッ!ここを通りたきゃ、このオレを倒してからいけよ!岩男ッ!」

 

 マジで言いやがった!?

 

「……説得が通じる状態じゃ無さそうだ。なら、しょうがねぇ!……やっちまうぞ、スバル!」

 

 こうして問答している時間も惜しいと判断したのか、ロックは即座に臨戦モードへ突入する。バイザーに解析された黒ジェミニのデータが映し出され、後はバトルカードのセレクトを待つばかりと言ったところだ。

 

「やるしかないのか……」

 

「今回は二対一でやる気はねぇ! ……どうせツカサは協力してくれねぇだろうからな!いくぞロックマン!」

 

 雷撃を纏わせた右腕を構えながら、黒ジェミニが襲い掛かってくる。どうやら戦闘は避けられないらしい。こりゃ、こっちも本腰を入れて闘わないと!

 

「鳥野郎の前座ってヤツだ! ぶっ飛ばすぜ、スバル!」

 

「ああ! ウェーブバトル! ライドオン!」

 




どうしてこうなった……!?

GET DATA……
『ダバフレイム1』『ベルセルクソード1』

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