星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーーナンスカ遺跡2の電波・最奥ーー

 

 

「クエェェェェェッ!!!」

 

「ッ!!」

 

 正面に滞空するコンドル・ジオグラフからは、本人の凄味だろう、ビリビリとしたプレッシャーが伝わってくる。正しく年期の入った威圧、とも言えるだろうか。

 そのコンドル・ジオグラフは開始一番、鋭い嘶きを戦場に轟かせると、電波体において尾羽に相当すると思われるパーツから高出力のスラスターを吹かし、一気に大空へと飛び立ってしまった。初手レーザーよりはラッキーなのだけどね。

 

「やはり空中戦か……ジェミニ!」

 

「(わかってる!)」

 

 やはりこの対コンドル・ジオグラフ戦、如何にヤツをこの太陽によってフライパン染みた熱さと化しているナンスカの大地に引き摺り下ろすか、それにかかっていると言えるだろう。目下最大の懸念は、こちらの飛行手段がスカイボードだけということなんだけどね。

 

「「マテリアライズ! ……スカイボード!」」

 

 かなり値が張ると聞いていたスカイボードなのだけど、ツカサ君もウィルスバスティングによって稼いだゼニーで1台購入していたのはラッキーだった。

 話を聞くに、どうやらヒカルのストレス解消に役立っていたらしい。世の中、いつ何が役に立つかわからないものだよね。ホント。

 

『『イエェェイ!!』』

 

 ベストマッチ!

 ボクのスカイボードはオレンジを基調とした穏やかなカラーリングだけど、もっぱらヒカル専用機になっているらしいツカサ君所有のスカイボードは、黒を基調として顔にあたるパーツがイエローと中々パーソナルカラーに近いと言える。

 この辺が貰い物と購入品の違いなんだろうか。スーパーハカーの天地さんに頼めばブルーにチェンジすることも可能、なのかもしれないけど。

 

「よっ、と! ……よし、追跡するよ!」

 

「了解ッ!」

 

 威勢よくスカイボードに飛び乗ったボク達は、アクセル全開でギラギラとした太陽が照りつけるナンスカの空へとエアサーフィンを決め込んだ。ブクボンのコトもあるけれど、マテリアルウェーブは結構脆いコトが判明しているので、かなり慎重に回避行動を取らなければ。

 

『ヒュゥ! コイツは中々、趣のあるフィールドだ! インターフェア(連れの邪魔)は無しで頼むぜ、相棒ッ!』

 

 隣のスカイボードにチラリと目配せしたスカイボードの『オーリー』が、ニヤリと笑いながら冗談めかす。いつでもハイテンションなのが、彼のマイペースということなのだろうか。

 

「……任せてッ!」

 

「馴れ合う暇など……与えんぞッ!」

 

 スカイボードで追い縋るボク等を横目に、緑色と黒色の個体が入り交じったミサイルバードの大群を、自らの体内から生み出したコンドル・ジオグラフが鋭く吠える。

 生み出された大量のミサイルバードは、まるで意思を持っているかのような精密な誘導性でこちらへと迫ってくる。……初っぱなから物量作戦かよ!

 

「スバル!」

 

 大量の誘導ミサイルにぎょっとしたロックが、泣き言のように叫ぶ。数にして100は下らない数だ。性質を知っていなければ、ボクも絶句していただろう。

 

「わかってるさ! ……おぉぉぉぉっ!!」

 

 迫り来るカラフルな鳥達をロックのサポートによって片っ端からロックオンしてもらい、チマチマ一体ずつ撃ち落としていく。ロックバスターが着弾した個体は誘爆するために墜とすこと自体はそこまで苦労するわけではないのだけど、なにせこの数だ。それに、黒色のミサイルバードは誘導性が低い代わりにロックバスターを弾き、シールドをも貫通する性質を持っている。なので、どちらかと言えば百を越える数よりも、この黒色のミサイルバードの方が厄介だ。

 何故なら、こちらの飛行手段は酷く脆いのだから。

 

「黒い鳥型のミサイルは、バスターを弾くのか……気をつけてくれ! スバル君!」

 

 右腕を顎にあてた白ジェミニが絶賛乱れ撃つぜ中のボク達に注意を促してくる。流石はツカサ君、戦闘にあっても冷静だ。士気を高めてくれるロックとは違い、高揚よりも安心感が先行する印象……と言ったところか。

 

「了解! ツカサ君は、ロケットナックルでコンドル・ジオグラフ(本体)の牽制を!」

 

 今のところ、ボク達は辛うじて空戦に対応出来てはいるが、飛行型の完全特化型と言えるコンドル・ジオグラフの保有する空中での戦闘能力には足元にも及ばないことは明らかだ。

 こちらの遠距離手段は揃っているため、出来るだけ空中での接触を避けることが定石だろう。と言うか、超高速で突撃してくるフライングインパクトなんて微塵も避けられる気がしないっつーの!

 

「ああ!」

 

 ツカサ君が断続的に放ったロケットナックルをアクロバティックな動きで軽々と避けていく目標の大型鳥類。そしてツカサ君の猛攻を凌ぎきり、こちらに旋回してくるコンドル・ジオグラフの両肩に取り付けられた大型砲塔は、思わず顔を覆ってしまいそうになるほどの目映いエメラルド色に輝いていた。

 

 コンドル・ジオグラフにはミサイルバード、フライングインパクトに加えてもう一つ、非常に厄介な攻撃がある。と言うか、厄介な攻撃しかない。改めて考えると、電波体に変身者含めて強敵過ぎないだろうか?

 

「…………捉えたッ!!」

 

 コンドル・ジオグラフの右肩に取り付けられている砲塔が一瞬だけ赤い閃光を周囲に撒き散らす。ヤツの発言からしても、ボク達のどちらかをロックオンしたと考えるのが妥当だろう。ミサイルバードで牽制出来るボクの優先度は低いはず。

 だとしたら、向こうが最優先で撃墜したい相手は……!

 

「ツカサ君ッ!」

 

「もう遅い!脱出不可能だァッ!」

 

 砲塔がより一層の輝きを見せ、ボク達の目を眩ませる。

 ボクは知っているぞ。古今東西、ビームとは音速に近い速度で照射される兵器だということを。見てから回避余裕でした……は大抵不可能なのだ。クソッ!

 

「しまっt……」

 

 コンドル・ジオグラフの巨体に相応しい口径から照射された膨大な破壊のエネルギーは、発射前のフラッシュから瞳を庇っていたために逃れ遅れたツカサ君の体を躊躇なく飲み込んでいった。しかも、コンドル・ジオグラフの属性は木。ジェミニ・スパークの雷属性には数値上、ダメージは倍近く跳ね上がっている。

 ……頼む、耐えてくれ!

 

「…………ゴフッ!」

 

 その膨大なエネルギー量故に照射時間は短かかったが、『ウイングレーザー』を真正面から受けることになったツカサ君は手酷い痛手を負ったようで、血反吐(のようなエフェクト)を吐きながら誘爆したらしきスカイボードと共に戦闘を開始した遺跡最奥へと墜ちていってしまう。

 ナンスカの遺跡最奥は、遺跡中最も高い位置に建造されていたので幸運にも落下時のダメージは(電波体にとっては)軽そうだが、飛行手段(スカイボード)を失った以上、戦線復帰は難しそうだ。これは痛い。

 

「……クソッ!こうなったら、まとめて相手をするしか……ッ!!」

 

「クエェェェェェッ!!!」

 

 ツカサ君を墜としたことでいい気になったのか、雄叫びをあげるコンドル・ジオグラフ。見れば、既に手下のミサイルバード共の製造も完了しているようだ。子供にかまっていられるか!

 ミサイルバードだけで手一杯だったボクに追い打ちをかけるとするならば、間違いなくフライングインパクトを選ぶはず。こうなれば力比べにするより他に方法がない。あとは、タイミング次第か……ッ!

 

「マテリアルウェーブごときで我が戦場たる空に上がってくるなど……不遜にも程がある! 支配される人間はただ、大地から私の姿を仰ぎ、崇拝していればいいのだよ! それでこそ、民衆の意思は統一されるというものだ!! 故に、その壁となるであろうキサマはここで果てる! さあ忌まわしき青い男よ、ここで消え去るがいい!」

 

 大層な口上を謳いながら、最大出力でスラスターを吹かしたコンドル・ジオグラフはこちら目掛けて突っ込んでくる。やはり『フライングインパクト』。身一つで体当たりするだけの技とも言えない技とはいえ、あれほど巨体ならその威力も言わずもがなだろう。

 ボクは、コイツを真っ向から叩き墜とさないといけない。……出来るのか?

 

「そんなこと、村の人は誰も望んじゃいませんよ! ボクだって、彼らに託されて今、ここにいる。負けるわけには……いかないんだよォッ!!」

 

「キサマにはわかるまい! 電波社会において、その発展や整備が遅れるとはどういうことなのかッ!! 私の言動、振る舞い……全てが正義なのだッ!!」

 

「アナタのエゴに付き合うために、ナンスカの人達は生きているんじゃない!! 目を覚ませっ!! コンドル・ジオグラフ!!」

 

「消え去れロックマン(青い男)!!」

 

「オォリィィィィッ!!」

 

『クライマックスにアゲてくぜェッ!!』

 

 スカイボードをベルセルクのチカラで無理矢理強化させ、全開機動でできる限りコンドルの左側へと移動する。やはり正面から当たるのは無謀過ぎるな。まずは翼を砕き、飛行能力を奪わなくては……!

 ポジションをしっかり確認し、背中にマウントしてあった雷の大剣を最速で引き抜きながら振りかぶる。カラダの奥からエネルギーが流れ込んでくる様を鮮明にイメージし、ベルセルクブレードへと流し込んでいく。今なら、何だって斬れそうだ……!

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 ツツッキー(クソ鳥)すら凌駕する速度で飛来する巨鳥を、極限まで強化された動体視力によって完全に見切り右上段に振り上げた大剣を振り下ろす。

 寸分の狂いなく、肩に取り付けられたウイングレーザー用の砲塔を切断したベルセルクブレードには、やはり全く抵抗を感じることは出来なかった。

 

「…………クッ、抜かったか!」

 

「まだだ!!」

 

「何!?…………ウグァァッ!!」

 

 右の翼を失い、些か出力の落ちたような挙動を見せながら離れていくコンドル・ジオグラフの背後からヘビーキャノンを発砲し、尾羽の辺りから突き出ている推進機関に命中させる。……うまく当たってくれて良かった。

 誘爆によって周囲のミサイルバードを巻き込んだことで期待値以上の損傷を負ったらしい巨鳥は、重力に抗う術を失いその体をゆっくりと沈めていく。

 ………いや、待てよ。確か、この真下には委員長達やツカサ君が……!

 

「オーリィッ!」

 

『イエェイ!コイツはまた、最ッ高にスリリングなチャレンジになりそうだ!行くっきゃねぇ!』

 

「ちょっと無茶をするけど……頼むよ、オーリー!」

 

 先程のように、オーパーツから流れ出るエネルギーをオーリーへと回しスカイボードの限界出力を一時的にブーストすることで、スピードだけはスラスター全開のコンドル・ジオグラフの足元程度まで強化することが出来る。

 強化とは言っても、半ば以上無理なドーピングに近いため、事後のメンテナンスは必須事項なのが珠にキズ……と言ったところだろうか。オーリーには申し訳ない気持ちで一杯だよ、ホント。

 

『……ヒュゥ!任せなァッ!』

 

「おぉぉぉぉっ!」

 

 推力全開で落下中のコンドル・ジオグラフを追い越し、遺跡最奥のムーに祈りを捧げる為の祭壇?エリアへと危なげなく着地する。ホントは空中で軌道を逸らしたかったのだけど、剣を振るだけなら兎も角、あの巨体を動かすにはスカイボードじゃあ、足場が悪過ぎたんだよ。

 

「だから、ここで迎え撃つしかない……!」

 

「スバル、大丈夫か?」

 

 クソッ!こんなコトならキガクラスカードの一枚でも購入しておくんだったよ!

 あんなお手軽高火力ツール、持っておいて損は無かったハズなのに!……今は悔やんでも仕方がないか。

 

「やるしかないっての!…………うぐっ!」

 

「……スバル!?」

 

 何だ? 突然四肢に力が入らなくなったような……。

 もしかしなくとも、さっきの全力強化と黒ジェミニに使ったSVB(サンダーボルト・ブレイド)でかかった負荷が限界に達したのか!

 やっぱりヒカルって、邪魔な行動しかしてねぇな……!

 

「クソッ!強化解除(トライブ・オフ)だ……」

 

 ベルセルクによる強化状態を解除して、通常の素ロックマンへとフォームアウトする。これで多少は動けるようになる……はずだ。

 しかしこれじゃ、あのコンドル・ジオグラフ(デカ鳥)を墜とす為の火力がまるで足りないぞ。さながら墜落寸前の旅客機のように制御を失っているので、過剰ダメージによる電波変換の強制解除を狙いたいところだが……

 

「ボクも協力させてくれないか……?」

 

 途方にくれていたボクに弱々しい声をかけたのは、まさに満身創痍という表現がふさわしいであろう状態の白ジェミニ……ツカサ君だった。片膝をつき、武装化した左腕はだらんと脱力しているように見えるが、その瞳に燃える闘志には些かの衰えも見せていない。いや、それどころか戦闘前よりも燃えている……?

 ツカサ君まで戦闘狂というオチはやめていただきたい次第なんだけど。

 

「ツカs……ジェミニ・スパーク!?キズは大丈夫なの!?」

 

「ああ……リカバリーで応急処置は既に済ませているよ。ボクのことはいいんだ。……それより、コンドル・ジオグラフ(アレ)をなんとかしなきゃいけない」

 

 アレ、と言いながらツカサ君が指し示したのは、片翼と尻尾付けのスラスターから火を吹きながら絶賛制御不能&落下中のコンドル・ジオグラフだ。既にオーパーツによる身体能力のブーストは切っているために表情までうかがえるワケではないけれど、恐らくはパニックにでも陥っているんじゃないだろうか。

 何にせよ、迷っている暇はない。聞き流してはいるけれど、炎上したコンドル・ジオグラフに委員長達のパニクった悲鳴も耳に入ってきている。よく考えなくても普通にトラウマ案件だよね、これ。

 

「うん、了解。現状の最高火力なら……そうだ! アレがある! ……よし、これなら……!」

 

 選択可能になっている一枚のバトルカードをセレクトし、すぐさま読み込む(ロードする)。せっかくの新しいチカラなんだ、使わなきゃ損じゃないか!

 

「オイオイ、何をする気だよ……って、うおぉぉ!?」

 

 読み込んだメガクラスカード『ジェミニ・スパーク』のプログラムにより、一時的にロックマンの電波体をジェミニ・スパークのそれへとコンバートすることが出来る。

 今まで使用したことがなかったので気が付かなかったが、ジェミニ・スパーク使用中は完全にボクとロックの意識は分離されるらしい。それはボクの眼前で目を見開いた状態の白ジェミニがたたずんでいることからも明らかだった。……って、オイ!

 

「どうしてボクの方が()なんだよ!」

 

 普通に考えて、ボクの方が白であって然るべきだろ!? 

 

「アン?知らねぇよ、そんなこと。どうせランダムで割り振られてンだろ。それより……来るぜ!」

 

「何か納得いかないんだけど……まぁいいか。いくよ、ジェミニ・スパーク!」

 

「え? あ、うん……」

 

 武装化した腕を密着させることで、各々の腕に宿っている雷のエネルギーを共鳴させ、増幅させる。集約しきれずにロケットナックルから漏れ出た雷撃が弾け、穏やかなナンスカ遺跡の最奥部が俄に危険地帯と化すのがわかる。流石にロックの同類を葬った技だ。非常に高い威力を誇っているのだろう。しかも今回は三人分だ。オリジナルを超えている可能性は十分にある。

 ……オーバーキルにならなければいいけど。

 

『ジェミニ・サンダァァァァッ!!!』

 

 密着するように構えられた三本の腕から放出された膨大な威力を誇る強化版ジェミニ・サンダーが巨鳥の身体の正中線をなぞるように貫き、そのまま彼方へと消えていく。

 三人で撃ったジェミニ・サンダーなので、言うならば『トリニティ・サンダー』と言ったところだろうか。噛ませ犬のガンダムマイスターではないけれど。

 

「グ……グオォォォォォォォォォッッ!!」

 

 破滅を体現した光線に貫かれたコンドル・ジオグラフは、断末魔の叫びを上げながら徐々にその体を崩壊させていく。無論、電波体となったアガメさんにもこのルールは適応されるため、このまま放っておけば滞りなく人体消失マジック()が目の前で展開されることになるのだろう。させないけど。

 

「ほい……っと」

 

 電波体を崩壊しかけているアガメさんに『リカバリー120』を放って応急処置を施し、重力に引かれて落下してくる老体を優しく抱きとめる。

 生身で落下してたからね。仕方ないね。……非常に不本意だが。

 これにて一件落着だ。いやぁ、コンドル・ジオグラフは強敵でしたね。

 




GET DATA……『コンドル・ジオグラフ』

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