星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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第六話『マキシマム・リジェクション/ディスコード・ラビリンス』
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 ーー異次元空間内部ーー

 

『(ゴン太はボク達の友達(ブラザー)だ! これ以上、傷つけさせるもんか!)』

 

「くだらない……」

 

 ロックマンとの戦いに敗れ、異次元空間で戦闘によって負った刀傷(幻痛)を癒すソロの脳裏に星河スバルの言葉がよぎる。鈍い痛みと共に自らの醜態を反芻したソロは、これ以上ない程眉間に皺をよせ、周期的に襲う鈍痛に耐え凌いでいた。

 

『(それでも! ボクが諦める理由にはならない! 奇跡ってのは! 信じ、進み続けた人間の上にだけ降ってくるモノなんだよ! 覚えとけ! この……人間不信野郎ッ!!)』

 

「くだらない!! 仲間……キズナ……そんなくだらない、唾棄すべき存在に……このオレが、遅れを取ったというのか!! 認めるコトなど……出来るはずがないだろう!!」

 

『さぞクヤしかろう、ソロ……オマエがモットもニクみ、タちキろうとした「キズナ」のチカラにクッしたのだから、ムリもあるまい』

 

「!!」

 

 不意に、聞き覚えのある声色で紡がれた言葉が辺りに響く。相変わらず抑揚の殆ど感じられない声質だと言うのに、不思議とソロの耳には一字一句はっきりと入ってくるようだ。

 ソロは苛立ちを隠そうともせずにその場で振り返り、怪しげな魔導師を睨み付けることにした。動揺を悟られたくないだけの、エンプティからすればひどくわかりやすい虚勢ではあったが。

 

「フン、わざわざこんな所までご苦労なことだ。……それでエンプティー、一体何の用だ?」

 

「オリヒメサマからのオコトバを、ツタえにキたのだ……イマこそ、『孤高の証』をウけイれよ……とな」

 

 ソロの嫌味も柳に風と言わんばかりに取り合うことはなく、マスクと一体化した神官帽に設けられた一対の穴から変わらぬ視線をソロへ向け、君主たるオリヒメからの申しつけを果たすエンプティー。

 

「いい加減、くどいぞ。オレがオマエ達の仲間ではないというコトは、『優秀な人間』を自称する貴様の主も重々理解しているはずだ。……手出しは無用だと、何度言えばわかる」

 

「オマエが、ココロのソコからキズナのソンザイをニクんでいるとイいキれるのならば、ナオのこと『孤高の証』をウけイれるべきだとオモうが……」

 

 何かを惜しむような雰囲気を含んだエンプティーの言葉に、要求を突っぱね続けていたソロはその体をピクリと振るわせて反応する。

 

「……それはどういう意味だ」

 

「『孤高の証』をシヨウするには、オモいセイヤクをジュンシュしツヅけなければならなくなるのだ。これをウけイれれば、オマエはキョウダイなチカラをフルえるカわりに……このセカイにノコされた、オマエがテにイれウるスベてのキズナをウシナってしまうコトだろう」

 

「!!」

 

「あらゆるキズナをタちキることでテにしたチカラをフるい、ロックマンをクダす……それこそが『ブライ《無頼》』をタイゲンするオマエにフサワしい、キズナのムリョクさをショウメイするテダてとなるのではないか?」

 

「……」

 

「ムロン、センコクショウチのトオりワレらはオマエにキョウセイすることはない。オマエにキズナをスてきるケツダンがクダせないとイうのなら、このテイアンをケったとしてもイッコウにカマわないぞ」

 

「チッ……いいだろう。キサマの言う『孤高の証』とやら、受け入れてやる。元より、捨て去るキズナなど何一つない。……その必要もない。何故なら、オレはキズナのチカラなど決して認めることは無いからだ!!」

 

「ならばウけトるがいい。『孤高の証』を……!」

 

 ソロの激情を聞き入れたエンプティーは、導師然としたローブの内部より危うげな輝きを放つ八面体の結晶を取り出す。幾ばくかの時間、掌の上で浮遊し続けていた『孤高の証』は、宿主の決定を祝福するように一瞬光量を増加させた後、ソロの体内へと吸い込まれるように溶け込んでいった。

 

「…………ぐ……これ、は……!! ッ!! ぐああああああああ!!!」

 

 融合に伴って発生した激痛に、体を仰け反らせて悶え苦しむソロ。いきなり体内に『孤高の証(異物)』が混入したのだから、無理もない話ではあったが。

 

「アカシとのカンゼンなユウゴウには、イマシバラクのトキがヒツヨウか…………ではな」

 

 苦痛に悶える姿を一瞥したエンプティーは、オリヒメより仰せつかった用件を果たすことができた満足感に包まれながら、薄暗い異次元空間を後にした。

 

 

 ーー星河家ーー

 

「……はぁ」

 

「随分と辛気くさい顔してんな……」

 

「そりゃ、ため息もつきたくなるでしょうよ。あれから一週間、方々駆け巡ってはみたものの、結局ミソラちゃんの行方はわからずじまいなんだからさ……」

 

「オイオイ、アイツにはハープが憑いてるんだぜ? その上電波変換も出来るときてる。人間基準で言えば、逃げたゴリラを心配するようなモンじゃねぇのか?」

 

「その発想はなかったよ」

 

「へへっ、だろ?」

 

「別に褒めてないよ……」

 

 

 今の会話をハープ『さん』に告げ口した場合のロックに残された寿命を懇切丁寧に説明してあげようと思った矢先、通信電波をキャッチしたらしいスターキャリアーが、甲高い着信音を部屋中に響かせる。プルプルプル~! ……うん、やっぱり酷いな。

 

「ッと、電話だね。……ブラウズ!」

 

 スターキャリアーに取り付けられた小型のアンテナの先端から、エア・ディスプレイを構成する少量のマテリアルウェーブが放出され、極薄の画面を作り出す。薄過ぎて、素手による保持にはあまり向いていないようにも感じるけど。

 何はともあれ、無事眼前に展開されたエア・ディスプレイの中央には、酷く興奮した様子のゴン太が映し出されていた。

 

『ようスバル! 喜べ! ろうほう?だぜ!! あまりの喜びに、さっき牛丼を十杯食っちまった!! なんて言うか……ああもう、何がなんだかわからねぇ!! あはははは!!』

 

 なんかやべーやつみたいになってるんだけど……連日の調査で追い込み過ぎて、何か変な物でも食べてしまったのだろうか?……何て冗談を思い浮かべていられるのは、電話をかけてきた理由が何となく察せられるからなんだろうな。

 

「……どうしたの?」

 

『ミソラちゃんだよ!! 遂に手がかりを見つけたんだ!!』

 

 若干引き気味に続きを促すと、徹夜明け……いや、さっきまで牛丼十杯食べていたんだったか。まぁ、兎に角テンションの高い声色で僕らが一週間待ちわびていた朗報を告げた。

 

「……え? ホント!?」

 

『詳しいことは後で話すからよ、兎に角ウチに集合だ!! ダッシュだぞ!?』

 

 そう言うと、こちらの返答も待たずに通信を切ってしまった。恐らく、二人にも急ぎ連絡するつもりなんだろう。

 ……しかし、一週間か。意外に長かったな。

 

「やっと手掛かりが……よし、ゴン太の家に急ごう」

 

「おうよ! とっととあの世話焼かせなオンナを迎えに行ってやるとしようぜ!」

 

 世話を焼かれているのはロックの方では……?

 

 

 ーー牛島家ーー

 

 息せき切って向かった牛島家(ゴン太の家)の玄関には、自宅が星河家よりも近かったからなのか既に委員長・キザマロの靴が綺麗に並んでいた。インターフォンを鳴らしたボクを興奮冷めやらぬ表情(当然、気色満面であったが)で迎えたゴン太は『早く上がってくれ!』と鼻息荒く促し、二階に設けられた自室へ続く階段を上っていく。はえーよゴン太。

 

「今一瞬、アイツの背後にオックスの幻影が見えたような気がするぜ……」

 

 それ洒落にならないんですけど!?

 

「流石にこの状況で残留電波の暴走は勘弁して欲しいかな……」

 

 狭い部屋で二人を守りながらあの巨体と戦うとか、無理ゲーもいいところだよ……何て考えている内に、そう多くない階段を上りきったボク達は、心なしかいつもより熱気の増したゴン太の部屋へ足を踏み入れた。

 

「……よし、みんなそろったな!」

 

 ふぅ、と全員揃ったことを確認し、一息ついたゴン太。

 

「ゴメン、待たせちゃったね」

 

 軽く息を切らせながら、待たせてしまったことを謝罪する。一応全力ダッシュで来たけれど、まさか間に合わなかった……何てことはみんなの表情からして、なかったようだ。

 

「ボク達も今来たばかりなんですけど……電話で聞きましたよね!?」

 

 情報収集に精を出しすぎたのか、いつもより若干散らかった部屋の比較的片付いている場所に座り込んでいたキザマロが、ゴン太に負けず劣らずの興奮っぷりで話しかけてくる。ええい、暑苦しい!

 

「うん! ミソラちゃんの手がかりが見つかったって……」

 

「ええ! 何しろここ一週間、何の収穫も無かったもの! 流石はワタシのブラザーってところかしらね!」

 

 部屋の熱気に当てられたのか、いつもより委員長も上気しているように感じる。いや、手掛かりを見つけ出したブラザー(ゴン太)が誇らしい……といったところか。

 

「新聞の番組表と穴が空くほどにらめっこした『かい』があったんだぜ!」

 

 そう言って胸を張る姿は、まさにゴンターガ……後で牛丼でも捧げる(奢る)べきだろうか。

 

「そっか、ありがとうゴンタ! ところで、肝心の手掛かりっていうのは一体……?」

 

 ボクの発した疑問には、キザマロが説明してくれる。

 

「昨日、ゴンタ君が録画した海外のニュースに、それと思わしき情報があったんです」

 

 そこで一度キザマロは閉口し、ゴン太に続きを促すようなそぶりを見せる。確かに、ここからは発見したゴン太に説明してもらうのが良いだろう。

 

「オレ達二人とも、あの穴で飛ばされた……いや落とされた、か? ……まぁ、どっちでもいいや。兎に角、あの穴が繋がっていた先は、いずれも海外だっただろ? だからさ、キザマロと協力して海外の情報を片っ端から集めてたんだ。そしたら、昨日放送されたニュースで見事にビンゴってわけよ!」

 

「ううう……寝る間も惜しんで頑張った甲斐がありましたよ!」

 

「オレも、苦渋の思いで飯をガマンした努力が報われたぜ!!」

 

 今にも抱き合いそうな程、シンクロした感情の発露を見せる二人。いや、ボクも連日電波世界側から情報を探していたんだけどね。いやぁ、くぅ疲でした。

 

「おお……二人とも凄いよ! そこまでして探してくれてたなんて……!」

 

「ヘヘッ! どうってことないぜ、スバル! なにせオレ達は!!」

 

「ミソラちゃんの大ファンなのですから!」

 

 ……お、おう。二人とも、反応に困るレベルの熱狂っぷりだ。

 

「あはは……」

 

「……アンタ達、もしワタシが音信不通の行方不明になったとしても、同じように必死になって探してくれるんでしょうね?」

 

 そのまま胸でドラミングでもしかねない二人を、背後にブリザードの幻影を背負った委員長がジト目で問いかける。半端ないプレッシャーだ。ぜひ踏んでください。………………おっと危なかった。

 

「そ、そりゃもちろんだぜ!!」

 

「全身全霊、命がけで探し出す所存ですとも!!」

 

 二人とも、ビビり過ぎなんじゃないか?

 

「へぇ……じゃあスバル君、アナタはどうなのかしら?」

 

 あ、これボクも答えなきゃいけないんだ……って言っても、答えなんて決まってる。

 

「……そんなこと、もう絶対にさせないよ。少なくともボクの側では……だけど」

 

 まぁ、散り散り不可避なんですけどね! あ、あれは別に行方不明とかじゃないし? ノーカン!ノーカン!

 

「…………」

 

 そんなボクの(内心では)適当な発言を聞いた委員長は、熱気に当てられて上気した頬を隠さずに俯いてしまった。ヤバい、キレさせてしまったか……? 委員長のリアルゴルゴンアイ(目潰し)はもう食らいたくないです、はい。

 

「ゴ、ゴホン! そ、それじゃ昨日録画したニュースを見てくれよ」

 

 部屋中に漂う不穏な雰囲気を感じ取ったのか、ゴン太が咳払いをして録画した件のニュースを再生するための準備をし始める。心の友よ! ピッ!という古典的な音を響かせて表示されたテレビ画面には、海上に不時着したと思わしき飛行機の全体図が映っていた。2200年になっても、機体形状は大きく変化しないのか……それだけ航空力学に即した構造だったということで、納得するしかないということなのかねぇ……。

 

『続きまして、最近世間を賑わせている「奇妙な飛行機事故」についてです。それでは早速いきましょう! ズー〇アップ!』

 

「……飛行機事故?」

 

 白金ルナ(激情態)から何とか白金ルナ(怒り)にまで抑えたと思わしき委員長が、飛行機事故というニュースに対して特大の疑問符を浮かべているのを横目に、録画された映像はそんなこと知らんとばかりに進んでいく。

 

『その飛行機事故には不気味なことに、同じ場所、同じ状況で発生しているのです……恐ろしいですね。昨日もあわや墜落という大事故が発生しました。危なかったですね。では、問題の飛行機を操縦していたパイロットに、事故当時の話を伺ってみました。それでは行ってみましょう、ズーム〇ップ!』

 

 飛行機の全体図が写されていた映像が、中年のおじさんを中央に写した構図に切り替わる。件のパイロットらしいおじさんは、当時のコトを思い出したのか所々つっかえながら説明を開始した。

 

『ええ、昨日も、いつも通り順調な空の旅でした。ところが、ですね……ええ、その場所に入った途端、機械類が完全に狂ってしまって……ええ、もう滅茶苦茶でした。そのままでは当然、墜落は避けられなかったと思います。何とか不時着したので、怪我人も無く済みましたが……』

 

 不安を煽るようなBGMが流れ、誰かが唾を飲む音が部屋に響く。……唾を飲んだのはボクだった。

 

「さぁ、ここからなんだぜ! しっかり聞いてろよ!」

 

 ゴン太の言葉に、キザマロもコクコクと強く肯定する。

 

『ええ、その時……機械が狂い出す直前……見えたんです……ピンク色の服を着た女の子が、空に浮いているのを!! ええ、嘘じゃありませんとも! 間違いなく、この目で見たんだ!! 上空に浮かぶ、プリティなピンクガールを!!』

 

 テレビには、ピンク色の女の子(ミソラちゃん)を目撃したと熱心に訴えるいい年したおじさんが写っていた。

 危ない絵面だな……。

 

『コイツ……やたら「ええ」が多い喋り方だったな』

 

 スルー安定で。

 

「ピンクの服を着た女の子か……」

 

 間違いない、ミソラちゃんだろう。やっぱり、敵対することになるんだろうな。……はぁ。

 

「な? ミソラちゃんだと思うだろ!?」

 

「まぁ、その可能性は高いわね……」

 

 ミソラちゃんの特徴を脳内に羅列したらしい委員長が、納得といった表情で肯定の意見を示す。とは言え、状況が状況だけにパイロットのおじさんが見たモノが幻覚ではないとも言い切れない、といったところかな。

 

「ピンクであること、そしてプリティであること……どちらもミソラちゃんに一致します!」

 

 間違ってはいない、間違ってはいないんだけど……どうにも釈然としない判断方法だ。

 

「昨日の事故で飛行機が不時着したのはドンブラー湖って話だぜ」

 

「なるほど……今行けば、そのパイロットさんからもっと詳細な話が聞けるかもしれないってわけね」

 

「じゃ、ボクが行ってくるよ。電波体ならひとっ飛びだし、話を聞くだけなら一人でもこと足りるだろうからね」

 

 ついでに電波人間の一人ぐらいと戦っても、問題ないだろう。何だか楽しみになってきたな。

 

「そう……わかったわ。でもいくらアナタがロックマン様になれるとしても、一人で行くのなら、安全面でどうしても不安が残るのよ。だから、しっかり準備をしてから出発なさい。……いいわね?」

 

 相手との相性的に、炎属性のバトルカードを中心としたフォルダを組んでおくべきかな……って、多分そういうことじゃないんだろうな。

 

「了解。……でもちょっと心配性過ぎない?」

 

「……うるさいわね! ほら、さっさと行きなさいよ!」

 

 激昂した委員長を背に、ボク達はゴン太の家を後にした。

 さて、さっさと出発しますか! 

 




GET DATA……ナシ

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