星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーーオリヒメ陣営・アジトーー

 

 松明を模した意思を持たないマテリアルウェーブによって照らされたアジトでは、エンプティーが傅きオリヒメへ報告を行っていた。

 

「ハイドが得た情報によるならば……ムーは、ナンスカより東方に眠っておるらしいのう?」

 

「そのケンにカンしましては、レイの『新入り』がゲンザイチョウサチュウです。イマシバラくオマちいただければ、セイカクなショザイもアキらかとなるでしょう」

 

「ほう……新入りと言えば、確かそなたが連れてきたあの少女のことであったな。純粋な年頃故、我らに恭順を誓わせるのはほぼ不可能だと思っていたが……大人しくこちらに従っておるとはの。フフフ……どのような手管を用いたのだ? エンプティーよ」

 

 御簾の裏から、どことなくからかうような口調でオリヒメは問いかける。現在、アジトにエンプティーとオリヒメを除く人影は存在しない。であるからか、オリヒメの雰囲気も、いつもより穏やかに感じられる。

 

「テクダなどと……そう、タイソウなマネはしておりませぬ。あのショウジョは『純粋』でとても『友達思い』だったのです。しかし……イマだオサナく、そしてシヤもセマかった。そこにつけこむスキをミイダしたのです。カノジョは、ジシンにフりかかるガイイにはタえられても、ジシンの『世界』をコウセイするモノにキガイをアタえられることはタえられなかった……ゴアンシンください、オリヒメサマ。あのショウジョは、ケッしてワレらをウラギりません。ウラギりというセンタクシなど……ゼッタイにエラべぬのです」

 

 そう言い切ったエンプティーの導師服からは、轟雷の如き黄金のオーラが溢れ出していた。

 

 

 

 ーードンブラー村ーー

 

 スカイウェーブを使ってドンブラー村へと降り立ったボク達は、電波変換を解いた直後から、村を包む物々しい雰囲気を感じていた。……当然か。自分達の生活圏に、いきなり飛行機が不時着してきたのだから。気にしない方がおかしい。

 

「……ゴン太の話では、飛行機が不時着したのはドンブラー湖だったんだよね」

 

『ああ、早速そのパイロットに聞き込みを始めようぜ。恐らく、まだこの村のどこかにいるはずだ』

 

 確か……展望台方面ではなかったはず。村の中心であるこのあたりで見かけられないということは……多分、入り江の方だろう。

 

「うん!」

 

 

 ーードッシーの入り江ーー

 

 幸いにして、件のパイロットと思わしきおじさんは直ぐに発見することが出来た。人気の無い入り江に来ているということは、もしかしなくても村の人に信じてもらえなかったのだろう。いや、信じる方が少数派だろうけど。

 

「あの……すいません」

 

「ん? なんでしょう?」

 

 翻訳機によって翻訳された、機械音に近い挨拶は何とか通じたようで、パイロットのおじさん……パーソナルビューより、キリモミー・ツィラークさんは会話に応じてくれる。

 ナンスカみたいな特殊な風習がある国の出身でなくて助かった……。しかし、イケツラさん並のインパクトを持った名前だ。前世がジョセフ・ジョースターだったりするんだろうか?

 

「ええと……不時着した飛行機のパイロットって、おじさんのことであってますか?」

 

 正直、パイロットには聞きづらい質問だ。不時着事故を起こしたのはアナタですか?って聞いているようなものだからね。

 

「ええ……そうです。飛行機を不時着させてしまったのはこの私です……全く、ふがいない限りです」

 

 やはり、相当堪えているようだ。

 

「ピンクのプリティガールを見たって、ニュースで聞いたんですけど……」

 

「ええ! そうなんです! ええ! 確かに! ピンクのプリティガールでした! しかし、不時着時の一部始終を記録したブラックボックスが湖に落ちてしまいまして……」

 

 ブラックボックスって聞くと、トランザム! を思い浮かべてしまうのは何故だろうか。

 

「では、そのブラックボックスを回収することが出来れば、当時の記録を写すことが出来るんですね?」

 

「ええ、そうなんですが……これが中々見つからないのです。無人のマテリアルウェーブを使って捜索しているんですが、何分、湖の底にボチャンですので……」

 

「そうですか……わかりました! 情報、感謝します!」

 

「ええ……こんなことで良ければいくらでも喋りますよ。……では!」

 

 そう言って、キリモミーさんは入り江の奥へと歩き去ってしまった。恐らく、潜水艇でもマテリアライズして捜索を続けるのだろう。

 

「……よし、それじゃあ湖の底まで行ってみようか!」

 

 ブラックボックスの場所は……確かついでにブラキオ・ウェーブEXとバトルしていたような気がするので、恐らくエリア2のどこか……だと思う。

 

『今度は青い服を着た男を見かけた……とか言い出すかもしれねえな。クククッ!』

 

 ロックェ……

 

 

 ーードンブラー村ーー

 

 目的地の展望台は、一度村の中央を通らなければいけない立地になっているため、ボク達は未だ舗装されてもいない通りを急ぎ足で横切っていく。

 しかし考えてみると、デマキューのブラキオ・ウェーブは湖上で戦闘することが出来たけど、残留電波にそれを求めても無駄っぽい気がしてきたぞ。これはもしかして、戦闘を避けてブラックボックスの回収だけに目的を絞った方がいいのかもしれない。

 

 思考の海に沈みながら展望台に向かっていると、不意に聞き慣れた日本語が耳に入り込んでくる。

 

「ハイサイ!」

 

「ッ!?」

 

 唐突且つ結構な声量だったので、少々面食らってしまった。慌てて声が聞こえた方向へ振り向くと、日焼けで浅黒くなった肌に、快活そうな表情を浮かべた同年代くらいの少年が手をブンブン振っている姿が目に入った。

 はいさい……ハイサイか。確か、沖縄辺りの方言だったはず。意味は……『ナンスカ』と殆ど相違ない。普通に挨拶を意味していたはずだ。

 

「ハ、ハイサイ……?」

 

 多少つっかえつつも返事をすると、額に藤紫(ふじむらさき)色のバンダナを巻き、使い込んでいると思わしき浅緑の道着に身を包んだ少年……八木ケン太はニッコリ笑って近寄ってくる。

 

「ボクは八木 ケン太(やぎ けんた)! 世界中を回って、修行の旅をしているのサー! キミ、でーじ強力なチカラを感じたのサー!」

 

「へぇ……」

 

 凄い無邪気そうな見た目なのに、凄い中二病だ……何て冗談はさておき、ボクはこの少年を知っている。

 八木ケン太。山羊座のFM星人であるゴートと電波変換することで、ゴート・カンフーという近接戦主体の電波人間になることが出来る。出来れば会っておきたいと思っていた人物だ。

 

「それでキミ、もしかして電波変換ができるサー?」

 

『(オイ、スバル! どうやらコイツも電波変換が出来るらしいぞ。かなり希薄だが、確かにコイツからはFM星人の気配を感じる……武闘家ってヤツか?)』

 

 電波体が気配遮断する必要、あるんですかね……?

 

「(なら、隠し立てする必要はないね)……うん、そうだよ。でもよくわかったね」

 

「実はボクも、電波変換することで『ゴート・カンフー』になれるサー! それで見慣れない電波を近くに感じたから、試しに声をかけてみたのサー!」

 

 にっこにこしながら嬉しそうに語る姿を見ると、何だか眩しいものを感じるような気がするのは、恐らく気のせいなんだろう。兎に角、この八木ケン太君に害意は感じない。それだけで十分だ。

 

「そっか……ボクの場合、電波変換することで『ロックマン』になれるんだ。ゴート・カンフーか……聞いたことはないけど、修行って言うからには、悪いことはしてないんでしょ?」

 

「ボク達は人に迷惑はかけないよ! ……って、それよりロックマン!? あのアンドロメダを倒した!? あがー!!」

 

『ククッ、オレ達も有名になったもんだよな』

 

 ビジライザーをかけていないのではっきりとはわからないが、恐らく得意げに胸を張っているはずだ。

 というか、アンドロメダの情報漏れすぎじゃない?

 

「こういう人に知られるのは大歓迎なんだけどね……」

 

 面倒な人や電波体にばかり知れ渡っているような気がしていたからね。仕方ない。ただ、暴蒼(悪名)の方は知られていなかったようなので、そちらは僥倖だった。

 

「ボクのことはケン太って呼んでくれサー! 暫くはドッシーの入り江で修行してるから、よかったら手合わせをお願いしたいんだ! 気が向いたら、いつでもめんそーれサー!」

 

「了解! それじゃ、ボクのことはスバルって呼んでね。後で伺うと思うから、その時はよろしくお願いするよ。オッケーかな?」

 

「あたいめー! 何か用事があるなら、そっちもちばりよーサー! んじちゃーびら!」

 

 そう言って、腕をブンブン振りながらケン太君は入り江の方へ走り去っていってしまった。

 何て言うか、色々まっすぐな人だったな……。

 

「さて、それじゃ改めて展望台に向かおうか」

 

『おう! って、オイ……あそこにいるのは……』

 

 ロックの声に従い、展望台に繋がる橋をよく見てみると、特徴的な男性がたたずんでいるのがわかる。背中にX字が描かれたコートに妙な形をしたヘッドセット。間違いない、五陽田さんだ。

 

「こんにちは、五陽田さん」

 

「ん……? おお、スバル君じゃないか」

 

 考え事の最中だったようで、ボクが挨拶をするまでこちらの存在には気付いていなかったらしい。サテラポリスも大変なんだなぁ……。

 

「ドンブラー村に来てるってことは、やっぱり例の飛行機事故の調査なんですか?」

 

「ああ、そうなんだ……奇妙な飛行機事故の報告が続いていてね。これらの事故はどういうわけか、いつも同じ場所、同じ状況で発生しているらしい。……ここ最近、UMA騒動や怪奇現象が頻発しているだろう? この状況は、はっきり言って異常だ。本官はこれらの騒動の裏に……何者かのよからぬ陰謀を感じるのだ」

 

 凄い。五陽田さん、あなた探偵になれますよ。いや、既に警察関係者だったか。

 

「…………」

 

「おっと、これはすまない。確証も無しに、物騒なことを口走ってしまったな。本官の思い過ごしであってほしいのだが……」

 

「いえ、調査頑張ってくださいね。では」

 

「ああ、誤って展望台から落ちないよう気をつけるんだよ。湖に墜落するのは、飛行機だけで十分だからな」

 

 フン……とヘッドセットの位置を直しながら、少々照れくさそうに五陽田さんはそう言った。五陽田さんらしくもない。何だか調子が狂ってしまいそうだ。

 

「あはは……気をつけます」

 

 つい苦笑を漏らしてしまった口を抑えながら、ボク達は再び展望台へと歩き出した。

 

 

 

ーードンブラー湖2ーー

 

スーパーメカニックである天地さんの手によって完全復活を遂げた潜水マシーンの『ブクボン』に掴まり、ボク達はドンブラー湖の湖底を突き進んでいた。

しかし、何というか……

 

「前に来たときよりも……若干水質が悪い?」

 

「そりゃ、あんだけ馬鹿でかい飛行機が不時着したんだ。パーツやら漏れ出したオイルやらで多少汚れるのは仕方の無いことだと思うぜ」

 

「じゃあ、暫くは湖で捕れた魚介類なんかも食べられなくなっちゃうのかな……」

 

そうなったら、結構ここの人達の暮らしに響きそうなもんだけど……ううむ、電波人間として出来ることがないってのが逆にもどかしいな。

 

「とりあえず、今はオレ達の目的を果たすことを優先しようぜ。出来ねえことを嘆いても、仕方が無いからな」

 

「うん、わかってるよ……あ! アレじゃない!?」

 

エリア2の端、なにやら非常に手の込んだ燭台の側にそれらしきものを発見。近づいてみると、やはりブラックボックスだった。水中でも破損しているような部分は見受けられない。最近のブラックボックスは丈夫に出来ているらしいね。良かった。

 

「……よし、これで回収完了。さぁ、キリモミーさんの所に戻ろう」

 

「大事な手掛かりだからな……落とすなよ?」

 

からかうようなトーンで、ロックが注意する。ボクは子供か! いや、子供だけど。

 

「わかってるってば!」

 

信用ないなぁ……

 

 

ーードッシーの入り江ーー

 

「キリモミーさん! 持ってきましたよ、ブラックボックス!」

 

軽く一区切りついたのか、幸運にも先程と同じ場所にキリモミーさんの姿はあった。やはり成果はなかったらしく、声かけるまでは酷く落ち着かない様子でスターキャリアーを弄っていた。

 

「……ああっ!! それはまさしく『ブラックボックス』!」

 

さっきまでの顔が嘘のように破顔し、諸手を上げて手渡したブラックボックスを受け取る。

そのままキスでもしそうな勢いだ。それだけ必死だったということか。

 

「それじゃ、映像の再生をお願いします」

 

「これがあれば、私の証言が正しいことがわかるはずです。……ああっ!」

 

映写機が無いんですねわかります。

 

「し、しまった……私、データを再生するための『映写機』をもっていないんです。……どこかから調達出来ないものですかね? 映写機……」

 

『(今度は映写機かよ……まぁいい。とっとと探すぜ)』

 

「(確か……ニュース放送用の大型者があったよね。なら恐らく、カメラマンの類いもいるはず)」

 

『(よし、ならその辺りから探ってみようぜ!)』

 

「(了解!)じゃあ、映写機探してきますね!」

 

「え? あ、わかりました。では一応、こちらでもあたってみますね」

 

パイロットの伝手なら何とかなりそうだけど、それじゃ時間がかかりすぎる。

 

「そっちも頑張ってくださいね! ……では!」

 

件のカメラマンは、確かドンブラー村の入口あたりにいたはずだ。急がないと。

 

 

ーードンブラー村ーー

 

この村で最新機材を積んだ放送車となれば、発見するのはそう難しいことではない。

ある程度暇そうにしているカメラマンを見つけられたことは、幸運だったと言えるけど。

 

「あの……すいません、映写機とかもっていたりしませんか?」

 

「ん? 映写機? 持ってるよ。仕事で時々使うことがあるんだ。ボクはテレビ局のスタッフだからね。それに、マテリアルウェーブだから持ち運びにも苦労しないんだ」

 

ああ、そういえば映写機はマテリアルウェーブなんだっけか。最新技術で出来てるのだから、きっと高いんだろうなぁ……。

 

「言いにくいんですけど……それ、ちょっと貸してもらうことって出来ませんか?」

 

「……う~ん、でもまぁキミ、キザマロ君のブラザーなんだよね……」

 

 キザマロ? ああ、そうか。キザマロが言ってた、ナンスカに人が落ちてきたという情報を流してくれた人なんだ。

 何やかんやで、この人がいなかったらゴン太が手遅れになっていた可能性もあるんだよね……ありがたやありがたや。

 

「キザマロ……? もしかして、キザマロが言っていた、親しくなったスタッフの人って……」

 

「ああ、ボクのことさ」

 

「そうだったんですか! ……そうだ。一週間前にいただいたナンスカの情報、凄く助かりました!」

 

「いいよいいよ、ボクが好きで教えたんだからさ。……で、そうそう……映写機だったね。……はい、これでキミのスターキャリアーに転送したよ。大事に使ってね」

 

 うーん、湖に沈んだブラックボックスのデータを再生するんだけど、それは大丈夫なのだろうか……?

 まぁ、ゲームじゃ問題無かったはずだし、心配はいらないよね。フラグでは無い……はず。

 

「ありがとうございます! では!」

 

 さて、早くキリモミーさんの所に戻らないと。

 




沖縄弁の再現に一番苦労しました……

沖縄弁(うちなーぐち)意味集
でーじ   =とても
あたりめー =当たり前・当然
あがー   =感嘆詞
めんそーれ =いらっしゃい

GET DATA……映写機

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