ーードッシーの入り江ーー
無事に映写機を確保したボク達が入り江に戻ると、ちょうど暗い顔をしたキリモミーさんがスターキャリアーにエア・ディスプレイを収納する所だった。あの表情からしても、どうやら吉報は期待出来なさそうだ。
「……はぁ、やはりそう都合良くはいかないか……ああ、キミですか。どうでした? 私の方はお察しの通りですが……」
まぁ、子供に期待する方が普通じゃないよね。
そんなアナタにこの映写機!
「持ってきましたよ、映写機」
ほら……と、所持マテリアルウェーブ一覧に映った映写機を見せる。
「え? …………ああっ! それは正しく映写機ですよ! しかも最新鋭のマテリアルウェーブ製とは……いえ、どうでもいいことでしたね。し、しかし……これでついに私の証言が認められる! で、では早くマテリアライズしてもらっていいですか!?」
証言を受け入れられなかったことが余程堪えたのか、かなり食い気味にマテリアライズを迫られる。
「ええ、もちろんです。じゃあいきますよ……マテリアライズ! 映写機!」
スターキャリアーが発光し、マテリアルウェーブを放射する準備に入る。今回は映写機……それも割と最新機種らしく、その精密さからか、いつもより形成に時間がかかっているようだ。……よし、マテリアライズ完了。
『再生? 早送り? それとも巻き戻しちゃう? いずれもお任せあれ!』
フィルノーズという名前らしく、その見た目はまさにフィルム上映の映写機と言ったところだ。
『ハイ、どうも~!! ワタシ、映写機なんですけれどもね!! 本日はですね、ここ、ドンブラー湖に不時着した飛行機が異常を起こす直前に記録した、謎の映像を映してみたいと思いま~す!!』
やけにテンション高いなぁ……個体差?
「これで漸く私の証言が証明されますね……ええ」
期待に満ちたキリモミーさんが、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
ど こまで詳細に写るかはわからないけど、出来れば元気な姿で写っていてほしいところだ。これで顔に隈でも出来ていたら、向こうの陣営に乗り込むまであるかもしれない。
『それではVTR……スターーーートッ!!』
フィルノーズの口にあたる円筒形の部分から、エア・ディスプレイの画面が映し出される。映写機の名は伊達ではないようで、その画面はスターキャリアーで呼び出したモノより幾分か大きいようだ。
『ザザーッ……』
しかし、長く湖底で水に浸かりすぎたのか、表示された画面には酷いノイズが走り、まともに見れたものではなくなっている。機械音の一つも聞こえやしない。
「……何も映らないですね」
「あのときは殆どの機械がいかれてたからなぁ……カメラも例外ではなかったのかも……」
こめかみを押しながら、当時の様子を思い出したのかキリモミーさんは、呻くようにポツリと呟く。声色はお世辞にも良いとは言えない。証拠が絶望的なのだから、それも当然か。
ノイズによって乱れた映像が暫く続き、このまま何の手掛かりも無しか……とキリモミーさんがため息をついた瞬間、映像が一瞬だけクリアに映し出される。
クリアな映像はご丁寧にズームアップされ、ピンク色の服を纏った金髪の女の子……つまりハープ・ノートの姿がはっきりと映っていた。
『はい、おしまい!!』
『(おいおい、今のは……!)』
側で動揺して若干の震えを含んだロックの声が聞こえるが、ボクの心はとりあえず落ち着いていた。
映像を見る限り、酷い攻撃を受けた形跡はない。
予想通り、脅迫によって協力させられているようだ。これなら、何とか説得できるだろう。なんとなくだけど、ゲームのミソラちゃんとは言動の傾向に差があるようだったから少し気がかりだったんだ。
「うん……間違いないよ」
「ん? 何が間違いないんだい?」
「あ、いえ……何でもないんです。(今のはやっぱり……)」
『(ああ、間違いねぇ。あれはハープ・ノートに電波変換したミソラだぜ)』
「あ~あ……あんな一瞬の映像では証拠にはなりそうもないなぁ……残念です、ええ……」
意気消沈した様子のキリモミーさんが、ぼやく。
……っと、聞いておかなきゃならないことがあったんだった。
「あの、すいません。聞きたいことがあるんですけど……」
「ああ、なんだい?」
「今の映像って、どこで録れたものなんですか?」
「それは……ええと、『バミューダラビリンス』で録れた映像だね、ええ」
よし、これでバミューダラビリンスに向かう理由が出来た。あそこは普段セキュリティがかかっているから、ちゃんとした理由がないとロックもいい顔をしないだろう。
忘れてはいけない。ボク達は、二人揃ってこそ戦うことが出来るのだということを。
「バミューダラビリンス、か……」
「ナンスカの東の方にある地域だよ。そこを飛行機が通ると、必ず機械が狂い出してしまうんだ、ええ」
なら、どうしてそこを通ったんですかねぇ……まぁ、なにがしかの事情があったのだと納得しておくことにする。
「(ナンスカの東なら、スカイウェーブで行けるはずだよ。確か、セキュリティがかかっていたと思うんだけど……)」
『(そんなモン、あの女が入り込んでいるなら、とっくの昔に使い物にならなくなってるだろうぜ!)』
ロックにとってハープ・ノートとは破壊神か何かなのか……?
いや、推測は間違っていないんだけどね。
……では、ミソラちゃんに罵倒されにいくとしますか。
…………あっ。
「そういえば、ケン太君に後で入り江に伺うって言ってたんだった……」
色々あったから、すっかり忘れてたよ……
でもゴート・カンフーとの戦闘経験は、この先のブライ戦でもきっと役に立つハズだ。
どちらも型に沿って流れるように動くスタイルのファイターだから、こちらとしても良い勉強になると思うんだよね。
『(仕方のないヤツだな……だが、今から爪が疼いてきたぜ……クククッ!)』
まぁ、その爪が役に立つことはないのだけれど。
ただ、ロックオンの精度に関してはロックの調子に左右される傾向があるので、高揚しているに越したことはない、と思う。
「……あっ、その前にカメラマンさんに映写機を返しにいかなきゃ……」
借りパク良くない。
ーードッシーの入り江の電波ーー
……というワケで、バミューダラビリンスに向かうより先にゴート・カンフーと戦うという先約を果たすために入り江奥地まで来たボク達。当然、電波人間の姿だ。
「おぉ……やってるやってる」
『ハッ! テァッ! セイッ!』
奥地に浮かぶ離れ小島まで来ると、先程言っていた通り、修行に汗を流す山羊をモチーフとした電波体の姿を見つけることが出来た。どうやら先方は余程集中しているらしく、近づいても演舞と見紛うその動きを止める気配はない。声をかけるべきだろう。
「ハイサイ!」
沖縄式(シーサーアイランド式?)の挨拶で呼びかけると、一対のねじれた角を生やし、濃いめの蒼とライムグリーンに彩られた道着を纏う電波体…ゴート・カンフーはその白い体毛に覆われた体をピクリと震わせ、パッとこちらに振り返る。その表情は、無邪気さと強者との戦いを待ち望む求道者の
「……ッ!? あ、スバル! いや、ロックマン?」
申し訳ないが、リアル割れはNGの方向でお願いします。
「あはは……じゃ、ロックマンの方でよろしく」
「しむん、サー! ではロックマン……いざ、尋常に手合わせ願う!」
そう宣言すると同時に、ゴート・カンフーは山羊の蹄となった両手を構えて距離を取る。自分が近接系のインファイターだと自覚しているが故に、公平性を考慮しての行動だろう。
ちなみに、今のボクはトライブ・オンすらしていない素のロックマンだ。ゴート・カンフーは木属性。ベルセルクの雷属性では相性がよろしくない。動きを見切ってもいない内からそんなリスクを負うこともないだろう。
「もちろん!」
「では、いくサー!」
「ウェーブバトル……ライドオン!」
♢♢♢
対面にて構えたゴート・カンフーを観察する。今回は特に地球の命運がかかってるとか、勝たなきゃ死ぬ……何てバトルではないので、幾分か心に余裕がある。
……相手の動きに対応出来るように、暫くは様子見で……
「メェッ!」
「ッ!?」
「速ぇッ!」
何て考えていた時期が、ボクにもありました。視界中央で構えていたはずの山羊人間の姿は一瞬で消え去り、固い蹄が勢いよく大地を蹴る音が左側方で響く。
……そうだ、オーパーツによる動体視力の強化を切っていたんだった。オゥ、シット!
流れるような動作で大地を踏みしめたゴート・カンフーが既に打ち出しかけていた掌底(蹄?)に対し、ボクはシールドを展開することで正面から受け止めようと試みる。ガードを貫く威力は無かった……はず。
「……ウグッ! ……身軽なのに、攻撃自体はかなりの重さだ!」
何とか間に合ったシールドと、余すことなく重心を乗せた掌底が正面からぶち当たる!火花を散らしながら、不安定な体制で攻撃を受けたボクははじき飛ばされる結果に終わる。
これが威力の乗せ方を知った電波人間の一撃か……思ったより、結構やるぞ。
「メェッ!! まだまだここからサッ! ロックマン!!」
再び堂に入った構えを見せ、不敵に笑うゴート・カンフー。その顔は、純粋に闘争を楽しんでいるといっていい。
ロックとはまた違った戦闘狂の気質を持っているようだ。
「オイスバル! コイツ、結構なやり手だぜ! 気ィ引き締めろよ!」
「わかってる! でも、どうすれば……」
まず、キャノン何かの砲撃系は駄目だ。あんなモノ、見てから回避余裕でした、に決まってる。
現状の身体能力では、
「いや、そんなの決まってる……!」
「トライブ・オンッ! ……ベルセルクッ!!」
突如として電波製の雷雲が頭上に発声し、稲光が戦場を包み込む。背負った大剣を振り払い、硬直しかけた空気を一刀の下に斬り捨てる。
もう、出し惜しみなんてしている場合じゃない。こっちも腹をくくるべきだ。
「それがそっちの奥の手かッ! なら……ボクも全力で打ち倒してみせる、サー!」
更に好戦的な笑みを浮かべ、全身から発せられる圧力が一層の強まりを見せる。
……まだ、上があるのか!
「上等ッ!!」
「いくぜスバル!」
「ああッ! ……おおぉッ!!」
先手必勝とばかりに強化された脚力にモノを言わせ、ゴート・カンフーの正面に躍り出る。今の動体視力と腕力なら、向こうの動きに合わせて叩き斬ることが出来るハズだ。
「せぇいッ!」
右手に掴んだ大剣を、そのまま袈裟に斬りかかる。見たところ、大質量の大剣を正面から防げる装備を所持してはいないので、このまま斬り捨て御免になることだろう。少々、あっけなさ過ぎるきらいはあるが。
「ッ!! ……メェェェッ!!」
一瞬で圧倒的暴力の脅威に晒されたゴート・カンフーは、限界までその眼を見開き、超高速で足下に広がる草花から大自然のエネルギーを吸い上げる。
眼前に迫る大剣の煌めきとはまた趣の異なる、圧倒的な生命の息吹を感じ取った山羊座の電波人間は、通常は肉体の一時的巨大化に用いるエネルギーを左腕が吹き飛ぶ程の勢いで噴出させ、神速の正拳突きを撃ち放つ。
超人的なまでに強化された動体視力でさえ完全に消失したと錯覚する程のスピードで放たれた突きは、高出力で保たれた刀身の中程に直撃し、ボクの右手からはじき飛ばしてしまった。
「嘘ッ!? う、るあァッ!!」
「あぎじゃびよーッ!? 目がッ!」
弾かれた反動を利用し、左足に『ホタルゲリ1』を展開しつつ三連の蹴りを放つ。体制の関係上、体重の乗ったキックとはいかなかったが、追加効果の盲目付与の方はしっかり効果を発揮したらしい。
助走距離を確保すべく、バックステップで距離を取る。山羊頭の電波人間が未だ盲目の呪縛から解き放たれていないことを確認し、両腕に燃えさかる『ヒートアッパー』を展開。両の拳を胸の前で勢いよく弾かせ、限界まで引き引き絞る。これでチェックメイトだ。
「おぉぉぉぉぉぉッ!!!」
爆速で踏み込んだ大地が抉れたことを足先から伝わる感触で理解するが、意にも介さず直進を続ける。
周囲の景色は引き延ばされるが、目標到達点たるゴート・カンフーだけははっきりと目で追うことが出来そうだ。
「メェェェェェェッ!!!」
盲目であるハズのゴート・カンフーは、突如として天を突かんばかりの雄叫びを上げ、両の掌底を後方に引き絞りつつ、突進を開始する。奇しくも、鏡合わせの体制となってしまったようだ。
だけど、当てづっぽうの攻撃が当たるとも思えない。ここは冷静に軌道を見切りつつ、掌底の下方からガラ空きになったボディにぶち込めばK.O.だ。
「(……いやッ、これは……見えている!?)」
が、しかし、実際に繰り出された正拳突きの軌道は、想定よりもかなり低かった。
いまから側面に回って回避することは確実に不可能。なら……ッ!!
「押し切るッ!」
「メェェェッ!!」
豪炎を纏った鉄拳と黒曜石の如き輝きを放つ蹄が正面から衝突し、ド派手な火花を散らす。
僅かな拮抗の後、両腕を振り切った格好でその場に立ち尽くしていたのは……ボク達だった。
♢♢♢
「あがー……ロックマン、流石にでーじ強いサー!」
草むらに体を任せるように仰向けで寝転んだゴート・カンフーが、爽やかな笑顔と共にそう言い切った。
敗北したと言うのに、それを引きずっている様子は微塵もない。やっぱり、いい人なんだろう。
「オメーも結構やるじゃねぇか! 中々楽しませてもらったぜ!」
「なら、また修行の手伝い、お願いするサー!」
「おう!」
何故かロックの方が親し気な件について。おかしいなぁ……
「ボクも結構勉強になったよ。こっちからお願いしたいくらい」
「そう言ってくれると、ボクもでーじ嬉しいサー!」
にこやかに笑いつつ感謝を述べるゴート・カンフーに別れを告げ、ボク達は漸く空に浮かぶ電波の迷宮、バミューダラビリンスへと歩を進めることとなった。
沖縄弁(シーサーアイランド弁?)集
あぎじゃびよー = ちくしょう、なんてこった
しむん = いいよ
GET DATA……『ゴート・カンフー』