ーーナンスカのスカイウェーブーー
以前ナンスカへ来るときに
「この先バミューダラビリンス! 危険なので絶対通れません! ……だってさ」
バミューダラビリンスへの道を塞ぐセキュリティゲートを指差して、肩を竦める。ただ、そのセキュリティゲートは素人のボクから見てもボロボロで、お世辞にも通行を制限出来ているとは思えなかった。
「フン、そんなモノ既に無力化されてるみてぇだが……」
「……やったのはミソラちゃんかな?」」
「だろうぜ。……ったく、何が乙女だっての! やり方は
聞かれたら洒落にならないですよ、ロックさん……
「まぁまぁ……でもさ、取りあえず先に進む為には
「ケッ……ああ、わかってる。だが、これなら何とかなりそうだぜ……オラァッ! ……よし、一丁上がりだぜ!」
威力を底上げしたチャージロックバスターを直撃させると、崩壊寸前だったゲートは小規模な爆発エフェクトを発声させながら儚くも崩れ去ってしまった。やったぜ。
「よし、それじゃあ奥に進もうか! ミソラちゃんが待ってるかもしれない……!」
意を決して、バミューダラビリンスへ転移するためのワープホールに身を投じる。
怪我とかしてないといいんだけど……。
ーーバミューダラビリンスーー
バミューダラビリンスは、厚い雲の上に設けられた一度入れば脱出不可能とまで言わしめる迷宮のスカイウェーブだ。幸いにも、ミソラちゃんがいれば攻略は容易になるのだけど……。
「……あ」
そんなことはどうでもいい。現在のボクは、約2週間ぶりの再開となったハープ・ノート……もといミソラちゃんに釘付けだった。
こちらに背後を晒してはいるが、恐らくボク達がここに来たことは察しているはずだ。
「ミソラちゃん……」
名前を呼びながら、ゆっくりとハープ・ノートに近づいていく。しかし、その華奢な背中は微動だにしない。
「良かった、ここにいたんだね……探してたんだよ? さぁ、一緒にニホンへ帰ろう!」
「…………」
「どうしたの? まさか具合が悪いとか?」
「……いや、そうじゃないな。何か様子がおかしいぜ」
不審に思ったロックが、目を細めて訝しむ。
「…………スバル君……」
ハープ・ノートの肩が上下する。電波人間には必要ないけれど、あれは多分、深呼吸だ。そして恐らく、ロックは気付いていない。
そんな微かな決意の兆しを見せつつ、何事もないようにハープ・ノートはこちらに振り返る。その宝石のような美しい瞳は、既に覚悟の色へと染まっていた。
「もう、ワタシのコトは放っておいて」
わかっていたとはいえ、こう面と向かって拒否られると中々クるモノがあるなぁ……。
「何言ってるのさ! 連絡の一つも寄越さないで……みんな心配してるんだ!」
「……それは、悪かったと思ってる。でも……これ以上ワタシを探さないでほしいの。ニホンにも、暫くは帰るつもりないから……」
そう言い捨てたハープ・ノートの表情は、誤魔化しようもなく苦渋に満ちていた。
今とよく似た表情を、ボクは最近目にしている。忘れようもない。ドッシーの入り江で、キザマロに真意を問いただした時だ。あの時と同じで、何とも言えない気持ちにさせられる。
「ミソラちゃん……」
「ダメ!! 来ないで!」
両手をキツく握り込み、視線は最早ボク達に向けられてはいないけど、確かにミソラちゃんはそう言った。
そしてボク達に背を向ける。
……わずかに肩が、震えていた。
「お願い、帰って……帰ってよ……」
「一体何が……まさか、誰かにそう言えって脅されているの?」
『アンドロメダのカギ』の件もあるため、ここで脅迫について言及するのはおかしくはない、はず。
正直言って、ディーラーに悪用される可能性のある
それに、ゲームでは目立った被害は無かったけれど、現実になぞらえた場合、ラ・ムーの生み出した電波体による被害規模は時間に比例して拡大してしまう。なので、ここは本来の流れを変えてでも迅速に排除した方が良い……と、思う。勝手な推測だけど。
「……っ!…………ち、違うわ! そんなこと、スバル君には関係ないでしょ!? ……今すぐ帰ってよ!」
そうやってムキになると、ますます怪しく見えると思う。やっぱりミソラちゃんに悪役は合わないってことだね。でも、それでいい。
「そうはいかない。みんなニホンでキミを待ってるんだよ。委員長も、ゴン太も、キザマロも……皆、心配してるんだ」
……?
気のせいかもしれないけど、委員長と口に出した瞬間に少しだけ、息を飲むような音が聞こえたような気がした。多分、気のせいだろうけど。
「ワタシは探してなんて、一言も言ってないよ!」
「ならせめて理由を聞かないと……ボクだって、ここではいさよなら、なんて帰れないよ! みんな心配してるって、そう言ったじゃないか!」
強化ブライに初見で勝たなくてはいけないという不安がつきまとうけど、どうせ戦うことになるのだから関係ない。自分を……自分とロックを信じよう。
「なら……力尽くで追い払うから……!」
再びこちらへと振り向き、今度は背中のギターを抱えて構える。
何度も見てきたその構えは、今は強張って隙だらけにも見えた。
「止めてよ! こんなこと……ブラザーじゃないか!」
やっぱり、言葉による説得は無駄みたい。
まぁ、話し合いで付かない決着には決闘だと、古事記にもそう書いてある。多分。
「ブラザー…………ブラザーで無ければ、もうワタシには構わないでくれるの? ……なら、これでいいよね?」
ハイライトさんが仕事を放棄しかけた瞳で、ミソラちゃんは懐から取り出したスターキャリアーを操作し……ブラザーバンドを切断する。
ブツッ! という音が嫌に響き、体に負荷がかかる。そういえば、ボクはまだ一度もブラザーバンドを切ったことがなかったんだっけか。わかってたはずだけど、何だか……空しいな。
「マ、マジに切りやがった……オイ、ハープ!オマエは納得してんのかよ、こんなこと!」
憤ったロックの咆哮にも、ハープ・ノートのギターに宿ること座のFM星人が応えることはない。
「…………(ありがと、ハープ)」
「(ポロロン……いいえ。でも、辛い役回りねぇ、ホント……)」
スターキャリアーをしまい、再びギターを構えるハープ・ノート。
「ミソラちゃん……キミに事情があることはわかったよ。それを話そうとしないことも……なら、こっちだって力尽くだ! 全力で抵抗させてもらう! ボクが勝ったら、洗いざらい話してもらうからね!」
キズナ力を失ったことにより発生した、アビリティの過剰装備が体を蝕む激痛に、歯を食いしばって耐える。
ハープ・ノートの表情は、悲壮感に溢れているようにも見えた。辛いんだ。……当たり前か。
「………………っ!」
「来るぞ!」
ロックの声と同時か否か、ハープ・ノートはギターを弾き、ショックノートを発射する。
しかし、そこは何度も受けた攻撃。体が勝手にシールドを展開し、ガードの姿勢に入っていた。
「…………くっ!」
高速で飛来する音符を展開したシールドで受けきり、キズナリョクを超過している分のアビリティを緊急解除。
乱暴に解除したアビリティがウェーブロード上に収まりきらずに地上へ落下していくが、そんなことを気にする余裕もない。少なくとも、ハープ・ノートはボクのバトルを最も間近で見ている電波体だ。
今のミソラちゃんは、ATMのプレイングを側で経験し続けたAIBOだと思ってかからないと。
「ここは引けない……ウェーブバトル・ライドオンッ!!」
ーーオリヒメ陣営
「エンプティーよ……ムーが封印されし場所は突き止められたのか?」
「バミューダラビリンスのナイブにカクされていることはマチガいありません。しかし、あのバショはラビリンスのヨびナにタガわぬフクザツなチケイをホコるメイキュウ……フツウのニンゲンがマヨいこんでしまえば、イきてヌけダすこともカナいません。まさに、ヤミのメイキュウなのです」
「ふむ……やはり一筋縄ではいかぬようだな」
「ゴシンパイにはオヨびませぬ、オリヒメ様……あのショウジョのモつノウリョクがあれば、ハナシはベツです。まもなくムーはミつかるコトでしょう。これで、ノコるジョウケンはあとヒトつのみ。それも、あのショウジョがヒきヨせてくれるコトでしょう」
「フフフ……流石はエンプティー。抜かりはないようであるな。そうだ、ソロはどうしておる?」
「……カクセイまでは、もうショウショウのジカンがヒツヨウとミています」
『では、オーパーツの件は、私めにお任せを!』
恥を知らず……と言うよりは、明らかに虚勢を張っているであろう明朗な声色がアジトに響く。
会話を紡いでいた二人は、空気を読まない闖入者に対し、眉をひそめることでハイドの歓迎っぷりを露にする。
ぶっちゃけお呼びではなかった。
「このハイドが、必ずやロックマンからオーパーツを取り戻してご覧に入れましょう! ですからオリヒメ様! 何とぞ、この私にご命令を!」
「ハイド……」
厳かな、という表現がピタリとはまるであろう、オリヒメの声に、ハイドは興奮を抑えることが出来なかった。
オリヒメの期待に応え、エンプティーをも凌ぐ真の右腕として重用される未来まで幻視したところで、
「ははっ!!」
「其方には、失望しておる」
溜息すら聞こえてきそうな、そんな心底冷めきったオリヒメの声が御簾の内側より発せられる。
流石にうら若き?女性として、そのような辛気臭いことは憚られたが。
「ありがたき幸せに……って、は? あ、い、いえ……し、失望でございますか!?」
「其方の立てる計画は、悉く失敗しておるではないか。他ならぬ、
「オ、オリヒメ様……!!」
オリヒメの呆れ果てた叱責を受けたハイドは、尚も情けない声を上げ、数歩後退る。その表情は、今にも泣きそうな程、追い詰められたモノであった。
「オーパーツの奪還はやはりエンプティー、其方に任せることとする。頼んだぞ」
見ていられない……とばかりにオリヒメは、自身の右腕たるエンプティーにオーパーツの奪還役を命じる。
やはり、最重要案件は信頼に足る者に任せるのが筋と言うものだろう。そう、オリヒメは自身の中で再認識することになった。今更の話ではあるが。
「オオせのままに……」
恭しく礼をしたエンプティーは、早速とばかりにその姿を消した。状況の確認に努めるのだろう。
「くっ……!」
後に残されたハイドが歯噛みする音が御簾の向こうに座すオリヒメにはしっかり聞こえてはいたが、最早一々態度を言及する気も起きない程に、ハイドがオリヒメの心中に占める割合は小さくなっていたのであった。
GET DATA……無し