・・・目出度いのに、宇田海から始まるなんて盛り上がりに欠けるような・・・
なんと週間12位、月間100位!これは流星の時代が来たか……!?
6/25、微修正しました。
ーーその日の夜ーー
「ふぅ……や、やっと完成が見えてきました……」
連日の残業で、不健康そうな顔が板についてきた男ーー宇田海は誰に畏まるでもなく、一人ごちていた。
「今日も残業か?」
「天地さん……え、えぇ……」
「…熱心だね、結構結構。……ところで、キミが開発に取り組んでいるソレ、名前が正式に決まったみたいだな……えっと、何といったかな?」
…この天地という人間は、いつもハキハキとしていて親しみのある、人気者だ。
彼は特別に外見に秀でているというわけではなかったが、元NAXA職員という実績と、頼りがいのある雰囲気が彼を職場の中心人物に押し上げていた。……自分が勤めている天地研究所の所長ということも手伝っているかもしれないが。
陰気で内気な自分にもしっかりと相手をしてくれるのに、何か下心があるようには感じられない、不思議な男だった。
…発明品の名前位なら教えてもいいだろうか……
「…………こ、これの名前はフライングジャケットです」
「今日一人で実験してたってのも、コレのことなんだろう?……どうだ、開発は順調かい?」
この男になら……と、思わなくもないが、自分に限らず科学者が未公表の発明品について、他人にペラペラと喋ったりはしない。
「…ど、どうでしょう」
「そうか…まぁ、無理はしないようにな。……さて、ボクはそろそろ上がらせてもらうよ」
「お、お疲れ様です」
「…そうだ。なぁ、突然だけど……僕とブラザーバンドを結ばないか?」
………。
「ブ、ブラザーバンド……ですか。……どうしたんです?突然……」
「まぁまぁ、そんなに驚かないでくれよ。ただ、ふと思ったんだ……知り合いになって随分長いけど、仕事以外でのキミとの交流があんまりないなぁ……ってね」
「…そ、それは」
確かに、天地の言う通り自分はこの頼りがいのある男を含め、職場の同僚とも、事務的な交流しかしていなかったことを思い出す。
しかし、あの件から自分は他人を信用しきることが出来ず、名字の通り疑い深くなってしまった。
それが悪い変化であることは、以前から人の言動に敏感だった自分にとって理解出来ていた。…誰だって、自分を疑う人間と進んで交流したいとは思わないだろう。…しかし……
「それは、業務命令ですか?」
今の自分に他人を心の底から信頼することは……出来ない。
「め、命令?……ハッハッハッハ!……いやいや、勘違いしないでくれ。いい友人になれればと……ただそう思っただけさ」
「…いい、友人……」
いい友人とは、何だろうか。
あんなことを経験してしまった以上、自分にそれを理解することは出来ないだろう。だが……
「正直なことを言うとだね……僕は仕事で成果を上げるよりも、より良い人間関係を作るほうが大事だと思ってるんだ」
「………」
天地 守は良い、人だ。本当にいい人なんだろう。
…再び自分が人を信じるきっかけには、なるだろうか……
「ハハハ、今のセリフはちょっと臭かったかな?」
「(…この人なら、この人なら、きっと……裏切らない…………)…か、かまいませんよ……ブラザーバンド」
「おお!本当かい!?じゃ、早速結ぼうじゃないか……言っとくが、僕が教えるヒミツは強烈だぞ……果たして平常心でいられるかな……!」
……今度こそ。今度こそは……!
自分を変えるため、勇気を出して天地の申し出を受けた宇田海を、映像として見知らぬ観客が見ていたなら、多くの人間が賛辞の言葉とともに、彼に拍手するだろう。
しかしーーーそんな彼の大きな決意は、ある勘違いから崩れ落ち、やがて一つの事件を引き起こすきっかけとなることを、彼ーー宇田海は、知らない。
ーー数時間後ーー
「(大丈夫……あ、天地さんは、きっと信用できます……で、でも……やっぱり不安が……)」
…もし、万が一、裏切られたら……
「(あの時みたいに……)」
『フフフ……苦しんでいるようだね……』
「!!?だ、誰ですか!?」
…くっ!
部屋が一瞬、閃光に包まれたと思うと、目の前には、水色の揺らめきに白鳥の頭といくらかの装甲を身につけた、科学的にいって、荒唐無稽な存在がこちらに笑いかけていた。笑いかけてきたというのは、宇田海の妄想で、鳥の口は笑顔をつくることなど出来ないのだが、その全身から発するオーラが、何よりもこの不可思議な白鳥擬きの感情を告げていた。
…この表情は、あまり信用できない……
「・・・初めまして」
「わ、わわわ!!」
…鳥が、喋った!?
「慌てないで……ボクはキミの理解者だよ……フフフ……」
この白鳥擬きと、これ以上会話を続けるのは、マズイ!
「だ、誰かー!!」
声を上げるも、誰かが反応する様子はない。残業が仇になったか……!
「だから落ち着きなって……ボクにはわかるんだよ。キミは心から他人を信用することが出来ない……そのせいで、今とても胸を痛めている」
「…!」
「その原因は、過去に起きた事件……違うかい?」
な、なぜ、それを…………
「そ。その通りです。……私は昔、酷い目に遭った……他人を信用したせいで……でも、どうしてそれを?」
「言ったよね?ボクはキミの理解者だって……さぁ、話してごらん。キミの過去に何があったのかを……」
「あ、あれは……まだ私がNAXAで働いていたころの話です……と、当時、私は若手でナンバー1のエンジニアと呼ばれていました……実際、たった数年で大きなプロジェクトを何度も成功させるほどでした……」
何故こんな話をしているのだろう……?
なんか、この白鳥擬きと話していると、話さなくてもいいことまで話しちゃいそうな気がする…………
「仕事は楽しかった?」
「え、ええ、まぁ……ただ……」
「ただ?」
「わ、私は小さい頃から勉強に明け暮れていましたし、……お、大人になってからは研究に人生の全てを捧げてきたので……その、何と言いますか……」
「他人との付き合い方が上手くなかった……そうだね?」
「え、ええ、その通りです……この職場にも友人と呼べる存在は一人も居ませんでした」
「孤独だったんだ」
「で、でも、そんな私に声をかけてくれる人がいました。……当時の私の上司です。彼は言ってくれました『私たちはいい友人になれる』と……それだけじゃありません、私とブラザーバンドを結ぼうと言ってくれたのです」
「キミはとても喜んだ……そうだね?」
「ええ!もちろん!……わ、私にとって、生まれて初めてのブラザーバンドでしたから……で、でも、それは全て、私の思い込みでした……」
…そうだ、あのブラザーバンドを結んで……
「……私たちがブラザーバンドを結んでから、数日後……ある発明が発表され、世の中を賑わせました……お、おどろいたことに、それは……私が以前から考えていたものにソックリでした」
「もしかして、アイデアを、盗まれたの?」
「…ええ。そ、その発明を発表したのは他でもない……」
「……そう、ブラザーバンドを結んだ私の上司でした…………ブラザーバンドは、あらゆる秘密をお互いに共有することになるので、やろうと思えば研究のアイデアを盗むことも……」
「彼はきっとキミのアイデアが目的で近づいたんだね……キミは若手でナンバー1と知られていた……だから狙われたんだ」
「わ、私は、ショックを受け、NAXAを辞めました……発明は出来るだけ一人でやって、以前よりもっと他人と距離を取るようになりました……二度とあんな思いをしたくないから……」
「フフフ……興味深い話を聞かせて貰ったよ……キミの過去は、今の世の、真の姿を実に見事に表現している」
「……」
「裏切りがこの世の本質なんだよ。だから何も信じちゃいけない……全てに疑いの目を…………それが賢いやり方さ」
「裏切りが……世界の本質」
…でも、それでも、今度こそは……
ーー次の朝ーー
「うっうーん……いい朝だね、ロック」
昨日はあんまり眠れなかったよ……恥ずかしいから言わないけどね!
「おう、準備しようぜ!」
「そうだね……トランサーと……」
トランサーと、何を持っていけばいいんだろう……?
…カメラとか?
ーー出発時刻ーー
「よし、そろそろ時間だね」
「おう、さっきからソワソワしてるもんな、スバル」
止めてったら!
「確か天地さんの研究所は、バスで行くんだっけ……」
「おう、展望台だな?」
違うって!
「あのねぇ、ロック。今回は正式にお呼ばれされてるんだ……こっそり忍び込む訳じゃないんだよ」
「なんだ、つまんねぇな」
バトル脳過ぎィ!
…あ、メール来てる。タイトルは……NO-TITLE?
…ああ、オックスね。残留電波だっけ?……ゴン太居ないから知能下がってるんだよなぁ……まぁ、気が向いたらってことで……
ーーバス停ーー
「なんかまたワクワクしてきた」
「オマエも案外ガキっぽいトコロ、あるじゃねぇか」
…心外なんですけど……
「それはちょっと酷くない?」
「いや、そのくらいがいいぜ……っと、バスが来たようだな」
プップーーー!!
何だか古式めいた音が耳に入り、バスが近づいてくることに気づく。
「ほぅ!これがバスの中身か!……意外と狭苦しいんだな」
…ああ、ロックってば、今まではバスの電脳に忍び込むことしかしてなかったから、内装をしっかり見たことがなかったのか。
でもまぁ、流石に電脳のほうが広く感じるよね、隠れながらってのを差し引いてもさ……
「さぁ、乗るよロック」
ーーコダマタウン・バス発車後ーー
「……」
「……」
「……」
ーー天地研究所(以後、アマケン)ーー
「ここが天地研究所か……」
……あっ、門の前に天地さんがいる。
「やぁ、よく来たね!」
先に挨拶しようと思ってたのに……
「こんにちは、天地さん」
「ここが僕の研究所、『天地研究所』……通称『アマケン』だ。……自慢じゃないが、割といい設備が調っているんだ。一般の人も見学出来るように解放していて、結構評判がいいんだよ、これが」
「へぇ……確かにまだ結構新しい……」
「よし、じゃあ早速案内……」
プップーーー!
……もう次のバスが来たのか……さっきの人気があるって話も嘘じゃなさそうだ。
「また、バスだ……」
「今日は休日だからね。……来客がいつもより多いから何本もバスが通ってるんだ。……フフフ、今や人気スポットなんだよこの研究所……!」
……あ、委員長さんたちも来るんだっけ?
忘れてたよ……もうホントに大筋のストーリー位しか覚えていないな……スバル君になったときは、もうすでに天地さんが来ていたから、ノートに書き写すヒマなんてなかったし……ロックは四六時中側にいるからそんな隙は無かったんだよなぁ……
「アラ、奇遇ね。アナタも研究所の見学に?」
「どうして、ここにいるのかな……(って、人気スポットなんだっけ、ココ……)」
「それはオマエのあとをつけて……」
「ゴ、ゴホン!」
委員長さんが誤魔化すように咳払いをしたってことは、やっぱりそうなのか……
「と、とにかく……この研究所は一般公開されているハズでしょ?……ワタシたちが来たって変じゃないはずだわ!」
「……」
…苦しい、苦し過ぎるよ委員長さん…………
でも、普段強気な委員長さんが慌ててるのは何か新鮮だなぁ……
「(今日こそアナタを説得してみせるんだから!)」
まぁ、いっか。ボクの目的は新ウィルスとキグナス・ウイングだし……あとは展示!忘れてないよ!本当だよ!
「こちらは……スバル君の友達かい?」
「うーん……登校を誘ってくれる人たちって言うなら、友達かな?」
「……っ!……ええ、クラスメートでもありますわ、おじさま」
「なんだなんだ!ちゃんと友達がいるんじゃないか!……安心したよ。僕は天地マモル。……この研究所の所長だよ……ちょうどいい、キミたちも一緒に案内してあげよう。賑やかなほうが、楽しいしね」
「えっと、お願いします」
何でお願いしてるんだ?ボクは……
「所長自ら案内ですか!」
「ありがとうございますわ、おじさま!」
「じゃ、早速案内しよう」
……早く自由行動したいな……
って、委員長さん?
「(アラ、どうやら学校に来る気になったようね?)」
……あぁ、さっきのね。
「(違うよ……あれは天地さんがよく心配してくれるから、安心させるために……それと、委員長さんたちが完全に友達ですよオーラ出してるのに、否定したら変な空気になっちゃうじゃないか)」
天地さんの後ろ姿を追いながら、並んで歩き、小声で話す。どうやら勘違いさせてしまったらしい。
「(っ!!フフフ……どうやらワタシを怒らせたいようね……)」
「(怒るも何も、キミたちが勝手につけて来たんじゃないか……っ!イテッ!)」
…この女、蹴りを入れやがった!
「(イタッ!あぁ、痛い痛い……これじゃあ痛みが気になって見学どころじゃないよ)」
「(ッッ!!……それならワタシが診てあげましょうか!?……医療の知識がないので対応を間違えてしまうかもしれないけどっ!)」
あ、すごい怒ってる……しかもこれは患部をさするとかいって痛めつけてくるパターンだ……
「(そ、それじゃあお願いしようかな?優しくさすってくれないとダメだよ……?)」
…なんて、作り笑顔で言ってみる。
「(っ!……止めておくわ!ツバでもつけてなさいッ!)」
…おおぅ、これは対応をマズったか……委員長さんが怒りでヒートアップしてる……なんでチラチラ見てくるのかは、わからないけど。
「さぁ、ここがアマケンの玄関口……一般の人が主に使う出入口だね……職員の人もよく使うけど、裏口もあるから全ての人が使うってわけでもないかな」
「(あ、天地さんの説明が始まった。中々楽しかったよ、委員長さん)」
「(アナタ……覚えておきなさいよね!)」
…委員長さんのツンがキツい……あれ?委員長さんって流星シリーズのヒロインじゃなかったっけ?なんか凄い険悪な感じなんですけど……。
賢明な読者の皆さんならわかると思いますが、委員長の言動は照れ隠しです。
恋愛とかまだないですからね!本当ですよ!
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