1.バミューダラビリンスでついにハープ・ノートを発見(歓喜)
2.ブラザーバンドをブッチされるもめげないスバル君(偽)
3.その頃、アジトではハイドが冷遇されていた(既定路線)
ーー異次元空間ーー
『カミカクシ』によって作られた空間では、『孤高の証』を受け入れたソロが、未だにもがき苦しんでいた。
全身を突き刺すように襲う痛みに、歯を食いしばって耐えるソロの体は、融合が進行している証なのか、時折光を放っている。
「グゥッ……!! グゥウアアアアアアアアアァァァッッ!!!」
輝きが最高潮に達した瞬間、一際大きな叫びを上げ、ソロは新たな
他人を寄せ付けぬ、拒絶の障壁を。
ーーバミューダラビリンスーー
「……キャァッ!」
手加減して放たれた
やはり、地力の差は如何ともし難いらしい。だけど流石はミソラちゃんと言うべきか、こちらの動きにしっかり対応してきたので、思いの外苦戦したようには感じた。
尤も、ボク達にハープ・ノートを本気で害する気が無かったことも苦戦した要因ではあるけれど。
そしてそれは、向こうも同様だったようだ。
尻もちをついた体勢から、緩慢な動作で上体を起こしたミソラちゃんは、軽く溜息をこぼしつつ立ち上がる。
「うん、負けちゃった。……やっぱり強いね、スバル君は。追い払うことも出来なかった」
半ばわかっていたような言い草だ。委員長の名前に反応したことといい、やはり状況に相違点があるのだろうか。
「ケッ、よく言うぜ。思いっきり手加減してたクセによ」
呆れたように、ロックは悪態をつく。口調は幾分か穏やかなものになっているけれど。冗談混じりと言い換えた方が良いかもしれない。
兎も角、ボク達の間を包んでいた痛々しいまでの緊張感は、とうの昔に消え去っていた。数ヶ月とはいえ、共に鍛錬を行っていた故の共感なのだろうか?
まぁ、いい。
「……それで、事情の方は話してくれるんだよね?」
弛緩しかけていた空気が、再び緊張感を帯び始めたことを察知する。
ビクッと体を一瞬震わせたハープ・ノートは、難しい表情をつくり、眉間に皺を寄せる。
「いいよ。……でも、その前に…………ハープ!」
ハープ・ノートが構えたギターから、なにやら得体の知れない波動的なサムシングが周囲に放射される。
放たれた特殊な音波?は、ボク達を囲んだ小部屋程の大きさまで広がると、バミューダラビリンスの電波中へと消えていってしまった。……防音措置、ということなのだろうか。
「はいはい、お任せなさい。…………ポロロン、もう話して大丈夫よ」
ハープさんの言を聞くに、やはりそういうことらしい。その辺は音を操る電波体の面目躍如、というやつなのかもしれないな。
「……誰かに聞かれたらマズいような話なのか?」
ロックは訝しんだ。
「ポロロン……乙女の告白に聞き耳を立てるような、マナーの悪い
これはエンプティーのことだろう。確かに、余程時間の迫った状況でも無い限りは妥当な判断だ。
ただ、プライバシーも何もあったもんじゃない。おまわりさんこっちです。
小学生を四六時中監視する大男とか、字面だけで犯罪臭を隠しきれませんねぇ……
「なるほど……」
「じゃ、そろそろ本題に入るね。…………ワタシ、彼らに……オリヒメ達に協力しているの」
特に気負った様子も無く、ハープ・ノートは衝撃発言をかます。まぁ、既知だったけど。
「……オイ、どういうことだ? オリヒメっつったら、あの似非魔導師野郎が度々口走ってたヤツのことらしいが……」
「オリヒメは、ハイドやエンプティー達を率いる組織のリーダーだね。ソロは協力者っていうスタンスを取ってるみたいだけど」
ソロに関してはギブアンドテイクって表現が正しいような気もする。
「フン……それでつまり、どうなんだ?そいつらに協力してるってことは、オマエ達を『敵』として見ていいってことなのか?」
「ポロロン……ま、面従腹背って感じだけれど。ともかく、今ちょっと面倒なことになっているのよね」
はぁ……と大きな溜息がギターからこぼれ落ちる。
「詳しく、聞かせてくれるんだよね?」
「うん、まずは……」
そうしてハープ・ノート、もといミソラちゃんは『カミカクシ』によって拐われた後に起きた出来事を語り始める。
◇◇◇
ハープ・ノートが語った内容を要約すると、『カミカクシ』によって飛ばされた先でエンプティーに取引という名の脅迫を持ちかけられた。
しかしハープ・ノート単独ではどうしても対処仕切れないため、監視の外で動けるボク達を待っていた……ということらしい。帰って云々は、エンプティーによる監視の目を誤魔化す方便だったらしいけど……まぁ、裏切りを警戒するのは、当然と言えば当然か。
「……それでワタシ達は、このバミューダラビリンスの探索を続けてたんだ。どうやら彼らは、このバミューダラビリンスの奥にある『何か』を探しているみたいなの。その『何か』までたどり着くためにワタシ達のチカラが必要だ、って。それが何なのかはわからないけど……」
「ふぅん…………で、ヤツが持ちかけてきた取引の内容ってのは一体なんなんだ?そもそも、あの魔導師野郎がどんなにやり手だったとして、オマエ達なら逃げ切るくらいのことは出来るだろ?」
ロックが疑問に思うのも無理は無い。
そもそも、現時点でゲームのハープ・ノートよりも相当に強いはずなのだから。
「……エンプティーがワタシ達に持ちかけてきた取引の内容は一つ。それはワタシが彼らに協力する代わりに、ワタシの大事な人達に危害を加えないこと……」
「オイオイ、オレ達がヤツらに遅れを取るってのか?」
ロックの声が、微妙な不機嫌さを孕んだものに変化する。
戦闘狂なロックは、戦わずして格付けをされることが癪に障ったらしい。
「それも言われたけど……ふふん、そっちは取引になってないって、アイツに叩きつけてやったよ!」
エンプティーの反応を思い出したのか、ハープ・ノートはフフンッと得意気に胸を反らす。かわいい。
「クックックック……そいつは愉快なコトをしたモンだ!」
ギャハハハ……と、盛大に吹き出したロックが、あらぬ方向へロックバスターを吐き出す。危ないなオイ。
っていうか、取引がボク達関連でないのなら、一体どうして…………あっ。
「ならどうして…………ハッ、委員長か!」
そうだ、どうして忘れていたんだろう。ミソラちゃんのブラザーはボクだけじゃない。
委員長のことをすっかり失念していた……
「正解。スバル君の安否が取引の材料にならないとわかったエンプティーは、電波変換の出来ないルナちゃんのことを引き合いに出してきたわ……」
おのれエンプティー!
「成る程、それで協力を……」
「それにエンプティー本人がいなくても、電波世界に設置した魔方陣から配下の電波体『エランド』を呼ぶことも出来るみたいで……」
もうお手上げ、とばかりにかぶりを振る。その所作には、隠しきれない疲労感がにじみ出ていた。
苦労してたんだろうなぁ……
「どうしても手が足りない、そして助けを呼ぼうにも監視が厳しいってワケか」
神妙な声色のロックが、唸りながらそう零す。
つまり、このままバミューダラビリンスを攻略にかかっても、コダマタウンで待つ委員長達に危害が及ぶ可能性が高いってことだ。流石に、それを良しとするわけにはいかない。
「そうなのよ。あの似非魔導師……乙女のプライバシーを一体何だと思っているのかしら!」
口癖という余裕すら抜け落ちたハープさんの憤慨は至極真っ当であり、オリヒメ達の組織は速やかに壊滅することだろう。ガチ切れハープさんはヤバいのだ。ショッギョムッジョ!
……まぁ、現実逃避をしなくとも、一応は何とか出来るあてがある。
相性的に考えて、尾上さんかケン太君……辺りに委員長達の護衛を頼めば何とかなるだろう。どうせ、万が一にも湧いてくるのは
「まぁまぁ、落ち着いて……それじゃあ、委員長達のことはボク達に任せてほしい。いつまでもこんなところで、キミに悪事の片棒を担がせるワケにはいかないからね」
「……何か考えでもあんのか?」
「まぁ、一応は……」
「本当!?」
瞳を輝かせたハープ・ノートが問いかけてくる。
彼女も、いい加減変わらない現状に嫌気が差していたようだ。
「うん、でもその方法だと準備に少し時間が必要なんだ。一度、コダマタウンに戻らないといけない。だからミソラちゃん、もう少しここでエンプティー達に従っているフリをしてもらわなくちゃならないんだけど……」
準備やら連絡やら説明やらで、やはりどうしても一旦ここを離れなくちゃあいけない。
「……詳しく、聞かせてくれるんだよね?」
「もちろん。まずは……」
先程と立場が反転しているな……なんてどうでもいいことを考えながら、三人へ策とも呼べない策を説明していく……
◇◇◇
「……っていう流れになるんだけど、いい?」
「う~ん……確かにそれなら上手くいきそう、かな?」
おおよその流れを説明すると、難しい顔をしたミソラちゃんが首を傾げながら賛同の意を示す。
まぁ、反対されないだけ良しとしよう。そも、ミソラちゃんの役目は決して多くないのである。ラビリンスの突破とちょっとした演技をするだけでいい。何とかなるだろう。
「オレはあんまり回りクドいのは嫌なんだがな……」
渋々といった様子だけど、ロックも概ね賛成してくれるようだ。
そもそも、これはエンプティーを正面戦闘の場に引きずり出すための案なんだけどね。
ベルセルクブレードの錆にしてくれるわ!
「じゃ、後は手はず通りということで……」
「あっ、ちょっと待って」
「……どうしたの? 何かおかしいところでもあった?」
「いや、そうじゃなくて……ほら、ワタシ演技とは言え酷いこと言っちゃったりしたでしょ?ブラザーバンドのことも……でも、スバル君はワタシのこと信じてくれたよね? その……何でかなって……」
ああ、なんだ、そんなことを気にしていたのか。
「簡単だよ。前にロッポンドーヒルズで話してくれたでしょ? ほら、世界中の親を亡くした人達の悲しみを和らげられる、優しい歌を作りたいって。……黒い穴で世界中に飛ばされた皆をニホンに連れ帰るために、ボクは間接的とは言え、ハイド達が原因となって起こしたいくつかの事件に遭ったんだ。その中には、村一つ津波で沈めようとしたモノだってある。だから、そんなことをするヤツらに本心で協力するなんてあり得ないよ。だって、それはミソラちゃんのやりたいって言っていたことを自分で否定する行為なんだから」
親を亡くした人達のために歌うのに、自分で孤児を増やすようなコトに手を貸すワケないだろってことだ。
ハープ・ノートは最高級ジュエルのような輝きを放つ瞳を見開いたまま、数秒ほどその活動を完全に停止し、そして勢いよく湯気を放出しながら再起動する。……ちょっとクサい台詞だったかな?
「……ああ、もう!……ハープ!」
「はいはい、人遣いが荒いパートナーねぇ……クスクス」
冗談めかしたハープさんが遮音された空間を解除し、その手に慣れ親しんだギターを構える。
高ぶった感情から放たれるショックノートは、威力2割増しといったところだろう。
……もうちょい加減してくれてもいいのよ?
「ミ、ミソラちゃん!?」
「いい加減諦めて……!ワタシは帰らない!ハアッ!」
迫真の表情を浮かべたハープ・ノートがギターを弾き、特大の音符が生産される。普段の5割増しのパワー・スピードで迫るショックノートを正面から受けたボク達は、そのまま背後に設置されたワープホールまで吹き飛ばされてしまう。ちょっと、威力高すぎやしませんか……ミソラさん……!
◇◇◇
「ポロロン……にやけてるわよ、ミソラ」
「そんなことないよ!……本当だよ!?ねぇハープ、どうしてそんな目で見るの!?」
割と、いつも通りの二人なのであった。
この後滅茶苦茶(エンプティーからの追及を)誤魔化した。
LOST DATA……『響ミソラのパーソナルデータ』
『アビリティ諸々』
遅れてすいません。