前回までのあらすじ
1.遂に真の主人公・ソロさん覚醒の時来る()
2.ヒロインをフルボッコにして曇らせる本作主人公(腐れ外道)
3.テンパったハープ・ノートさん、予想外のチカラを発揮する(無自覚)
ーコダマタウンー
ショックノートを食らった箇所を押さえ、足を引きずりながら、ボク達はやっとの思いでコダマタウンへと帰還を果たす。
いつものように展望台の隅でウェーブアウトするが、電波変換を解いても患部の痛みが引くことはない。
おかしいな。フレンドリーファイアが一番キツいダメージになってるんですけど……
「イツッ!……まずは、委員長の家に行かなくっちゃ……」
スカイウェーブの道すがら、委員長達には一連の出来事を説明するために集まってもらうよう既に連絡は済ませてある。えらくやつれている人を見るような委員長の目が印象的だったような。多分気のせいだろう。
「オイオイ……ったくよぉ、別にシールドも張らずに受けることはなかったんじゃねぇのか?」
呆れたような声がすぐ側から響いてくる。現在はビジライザーをかけていないので、声と何となくの電波圧しか感じることは出来ない。ただ、何と言うか……まぁ、落ち着くってことだ。
「いいんだ、こっちの方が向こうの目も誤魔化せる」
「ヘッ、オマエのそういうとこ、割かし嫌いじゃないぜ」
それにしても痛い……やせ我慢は体に毒だと思う今日この頃です。
「そういやウルフ……尾上のヤツとは、どこで落ち合うんだっけか?」
「……バスで来るって話だから、バス停で待つってことにしたんじゃないか」
何でも、夏休み明けからコダマ小学校で植木職人として雇われることになるそうで、ちょうどその下見をするために一度、このコダマタウンへ足を運ぶつもりだったらしい。これはラッキーだった。
こちらとしても、あまり申し訳なく思わなくて済むからね。
「ああ、そういやそうだったな。悪ぃ、忘れてたわ」
「知り合いが来るって言うのに、あんまり意識してる感じじゃないよね?ロックらしくもない」
ロックのことだから、オレとバトルしろォ!くらい言いそうだと思っていたのだけど。
「だってよ、どうせ会ってもバトル出来ないんだぜ?それどころかバトルしてるところすら見れねぇんだからな。乗り気になれって方が難しい話だぜ」
「ふぅん……まぁいいや。兎に角、尾上さんがコダマタウンに着くまでに、皆にはちゃんと説明しておきたいな」
尾上さんが住んでいる場所からはそこそこの距離があるらしく、幸い時間にして約一時間ほどの余裕がある。
何か、忘れているような気がしないでもないけれど。
「おう、あの魔導師野郎のハナをあかしてやろうぜ!」」
自分で考えておいてなんだけど、そう上手くいくだろうか……?
ー白金家ー
「それで、どうだったの?帰ってくるなり呼び出したってことは、何かしら進展があったってことよね?」
ミソラちゃんの手掛かりを探すために結構な無茶をしているため、期待に満ちた委員長の目には薄く隈が出来ていることがわかる。化粧で軽く誤魔化してはいるけどね。
「パイロットさんの話は聞けたんですか!?」
「待ちすぎて、腹が減ったコトも忘れちまってたぜ!」
それは重傷だ。って、そうじゃない。
「ちゃんと順を追って話すよ。まずは、ドンブラー村でパイロットさんを見つけることは出来たんだけど……」
♢♢♢
計画に関すること以外で粗方の出来事を話し終えると、予想通りというか何というか、皆瞳を驚愕に見開き暫くは二の句が継げないといった様相だった。衝撃展開の連続だったからね、しかたないね。
「それは……随分と大変なことになっているわね……でも、あのコらしいって言えばらしいかしら」
「オレには話がフクザツ過ぎて何がなにやら、ワケがわからないぜ……」
「ボクはアイツらのやり口が許せません!自分たちの都合で勝手にさらっておいて、更に脅迫して自分たちに協力させるなんて!」
三者三様ではあるが、皆共通していることが一つある。それは、ミソラちゃんのことを本気で心配していることだ。まぁ、ゴン太とキザマロに関しては、若干不純な感情があるだろうことは否定しないけど。
「ふぅ……よし、ここからが本番だ。ミソラちゃんがハイド達に協力している条件は一つ。それは向こうに協力する代わりに、ミソラちゃんの大事な人達へ危害を加えないこと……向こうはその対象として、委員長を名指しで指定してきたみたいなんだ。多分、スターキャリアーのパーソナルビューからブラザーバンドの情報を抜き取ったんだと思う」
説明してて改めて思うけど、ほんっとプライバシーもクソもないよな。組織管理としては下も下なのではないだろうか。元々少数構成のブラック企業だから、期待するだけ無駄なんだろうけど。
「えっ……ワ、ワタシ?」
「最初はボクのことを条件として提示されたらしいんだけど、それじゃ取引にならないから蹴ったって言ってたよ」
「ふぅん……へぇ、そう」
どうしてそこで不機嫌になるんですか……?
「ま、まぁそんなわけで……ハイド達が探している何かへ先にたどり着けば、アイツらの企みを阻止できるかも知れない。だから、その間委員長達のことをどうするかってことなんだけど……」
「あのコ一人でそのバミューダラビリンスとやらに向かわせるわけにはいかない、ってことよね?でもそうすると、守りの無くなったワタシ達が狙われるかもしれない……と?」
口元に手を当て、考える仕草を取った委員長が推測を語る。
しかし、委員長は何をやっても様になるよね……ちょっと羨ましい。
「流石は委員長。でも、安心して。委員長達を護衛してくれる人には心当たりがあるんだ。…………って、通信がきてる。ああ、噂をすれば、だね。……ブラウズ!」
少し早めにバスがコダマタウンに到着したのか、尾上さんから電話がかかってきている。
『よぉ、ボウズ。こっちはもう着いちまったぜ』
ブラウザの画面では、ワイルドな眼光を光らせる偉丈夫が笑っている。
一応言っておくと、尾上さんは同性愛者ではない。
「あ、尾上さん。今回はすみません、チカラを借りることになってしまって」
『ああ?いや、構わねぇさ。しっかし子供を人質に取るなんざ、そいつらも大概腐ってやがるな。ああ、そうだ。オレもそのオリヒメとやらと戦うことに協力してやってもいいぜ?最近は暴れ甲斐のあるヤツもいなくってなぁ……』
「いえ、気持ちだけで十分です。ホント。元々、戦力よりも人手が足りないだけでしたから。……っと、コダマタウンに到着したんですよね。迎えにいきます」
尾上さんが電波変換した姿、『ウルフ・フォレスト』は団体行動には致命的に向いていないからね。
疑うわけじゃないけれど、同士討ちに発展する可能性はゼロにしておきたい。
『おう、頼むぜ。この辺りは土地勘もねぇから困ってたところなんだ』
じゃあな、と尾上さんはさっさと通信を切ってしまった。相変わらず竹を割ったような性格と言うか……どちらにしろ、良い人であることに変わりはない。頼りになる類いの大人だ。
「……と、いうワケで、今話してた人……尾上さんに皆を護衛してもらうことになる。それから直ぐにまたバミューダラビリンスに戻ることになるから、尾上さんの指示にはちゃんと従ってほしい」
「ええ、わかったわ。でも……必ず戻ってきなさいよ。あのコを置いてきたりなんてしたら……承知しないから!」
「……わかった!」
ボクの身の安全のためにも、ね。
♢♢♢
尾上さんに委員長たちのことを任せた後、ボク達は再び展望台の片隅で出発の準備をしていた。
単純に考えてもエンプティーとブライの連戦だ。アイテムの補充は欠かせない。
それに加え、バミューダラビリンスの電波状況の特殊性もある。先ほどハープ・ノートと戦闘した体感では、動きに微妙な抵抗があるようにも感じた。その辺りの適応が、戦闘の決め手になる可能性もある。とにかく、考え過ぎても無駄になることはないってことだ。
「よし、行こうか!」
「ククク……オレもツメが疼いてきたぜ……!」
いざ!バミューダラビリンス攻略へ!
ーバミューダラビリンスー
ウィルスを蹴散らしながらワープホールに駆け込むと、まず目に入ったのは先ほどと変わらぬ華奢な後ろ姿だ。
「お待たせ!」
どうせ今から裏切る……もとい取引を反故にするのだから、一々監視対策をする必要はない。
なるべく明るい声色で呼びかけると、ビクッと一瞬震え、そしてこちらへと振り返る。その表情は、暫く見ていなかったであろう満面の笑みに彩られていた。守りたい、この笑顔。
「……待ってた!」
そのまま脇目も振らずにタックルを敢行するミソラちゃん。
微妙に柔らかい衝撃を胸板で受け、その場で踏みとどまる。遮音しただけじゃできることに限界があったので、気の置けない相手とのコミュニケーションに飢えていた部分が発露したのだろう。
「……ちょっとオーバー過ぎない?」
「いいや、全然足りないね!……ワタシが!満足するまで!抱き着くのを!止めない!」
このアイドル歌手、クッソノリノリである。
いや、歌手にノリは必須要素なのかもしれないけど。案外、スカイボードのオーリー辺りと気が合うのではなかろうか。
さて、寂しがりの姫が満足するまで数分程ふれあった後、ボク達は漸くバミューダラビリンスの迷宮区画への入り口となる簡易ワープホールの前へと立っていた。
ハープ・ノートが同行している以上、理不尽にさまよい続けるという心配は消えたものの、依然として油断のならないエリアであることに変わりはない。気を引き締めすぎるということはないはずだ。
「よし……準備はいい?ミソラちゃん」
「ばっちこいだよ!……っと、あ、そうだ」
「……どうかしたの?」
「ええっと、その……もし、もし勝手にブラザーバンドを切ったことを、スバルくんが怒っていないなら……」
ああ、そういえばブラザーバンドを切ったままだったんだっけ。
しかし、このままミソラちゃんに言わせるわけにはいかない。そうしたら多分、後で委員長辺りにしばかれるから……
「あ、ストップ」
「ええ!?や、やっぱり怒ってた……?」
「…………ミソラちゃん、キミさえよければもう一度、ボクとブラザーバンドを結んでくれないかな?」
「え、でも……勝手に切断したのはワタシの方なんだよ?」
きっと、自分から言うのが筋だと言いたいのだろう。
しかしボクには、委員長から賜ったありがたい言葉があるのだ。ブラザーバンドの申し込みは、男の子から言い出すものだ、という言葉がね。
「委員長が言ってたんだ。こういうのは男の子から言うものだって。だから……って、あれ?」
そういえば、その前日にブラザーバンドの繋がりをテーマにした連続モノの恋愛系ドラマが放送されてたらしいけど……まぁ、きっと無関係だろう。多分。
あの漢気が服着て歩いてるような存在の委員長が、まさかそんな乙女チックな趣向をしているとは到底思えない。何故か握り拳が迫ってくるイメージが浮かんだけど。気のせいだろう。多分。
「ふーん、そうなんだ。……ふーん」
どうしてここで不機嫌になるんですかねミソラさん!?
理不尽な対応にフォローしてもらおうとハープさんの宿るギターに注視するが、ハープさんもどことなく機嫌が悪いように見える。ハープ、お前もk……ハープさん、貴女様もですか……。
取り敢えず、結び直したブラザーバンドで発生したキズナリョクは以前より上昇してました、まる。
♢♢♢
「これは……ダメだね。方向感覚すら掴めない」
迷宮区画へと足を踏み入れたボク達に待ち受けていたのは、視界を塗りつぶすがごとく広がる暗闇だった。
最新鋭の飛行機に搭載されたシステムをも狂わせる電波状況はやはり、電波生命体の感覚へ少なくない影響を与えるらしい。
なるほど、これは元科学者だったオリヒメでも手こずるわけだ。何しろ、入って来た方角すら瞬時に狂わせるのだから。
「ワタシに任せて!」
電波体特有の淡い光を全身放ちながら近づいて来たのは、自信に満ちた表情のハープ・ノート。
なんか電飾みたいだなー、何て思っていると、目前にて立ち止まった彼女は両の手を耳に当て、目を伏せる。所謂、聴覚強化モードというやつだろうか。
「ワタシの言葉に答えて……この先へ進むための、正しい道は、どこ?」
ミソラちゃんの声に応えた『何か』が喋っているのか、極小さな音、のようなものが聞こえるような気がする。
小さすぎて、話している内容を理解することは欠片も叶わないが。
「『導いてやるからついてこい』、だって。声が聞こえる方向は……こっち!……ほら、逸れると危ないから」
当たり前のように手を差し出してくる。
ただ、気持ち早口気味だったような……?
「いや、発光してるからそんなことないと思っ……いえ、なんでもないです」
背負っているギターが一際鋭い輝きを放ち、その文字通りの威光にひれ伏したボクは、おっかなびっくりと差し出された左手を握った。
最近理不尽な扱い多くない……?
♢♢♢
右も左もわからぬ暗闇に包まれた空間を抜けた先には、十時に分かれた分岐が広がっていた。
……っと、その脇にカンテラを構えた電波が佇んでいる。恐らく、彼がハープ・ノートの呼びかけに答えたロリコン疑惑のある電波なのだろう。まぁ、ハープ・ノートの容姿は電波世界基準でも優れている(コダマタウン在住のとあるデンパくん談)らしいので、それほど驚くということも無かったが。
この世界、小学生女子を人質に取る(または食い物にする)悪漢の多いこと多いこと……。
電波系男子の誘いに、ホイホイ乗ってはいけない(戒め)
「あっ、さっき道を教えてくれた電波くんだよ!…………また『ついてこい』って言ってるわ」
先程のように、瞳を閉じて聴覚を強化したハープ・ノートがそう呟く。
ダークブルーを基調としたボーラーハット……山高帽を目深に被り、鼻まで覆ったコートに身を包んだ電波が手に抱えたカンテラを揺らす。口下手らしい彼は、先導するタイミングを教えてくれるらしい。見た目にそぐわず心優しい電波なのだろう。
暗闇を抜けてきたボク達に対する歓迎が、山高帽の下から覗く目を盛大に細めての舌打ちだったのは、どうやらボクの勘違いだったようだ。
「……、……。…………、…………チッ」
オイ今はっきり聞こえたぞコラ。
何だか正面から陰口を言われているようでイラッときたので、こっそりオーパーツによる聴力の強化を行うと、
「アオイホウハコノママ、ココデマヨイコマセテヤルベキカ……?」
「ヒエッ」
想像以上に怖いよここの電波。
やっぱり電波状態が乱れていると、そこに漂う電波の精神状態も乱れるのかもしれない……
「どうかした?」
正に純粋無垢といった様子でボクに問いかけてくるハープ・ノート。
そうですか、今は聴力強化していないんですね……。しかし、この電波に任せて本当に大丈夫なのだろうか?
そんな一抹の不安がよぎりつつも、ここはお茶を濁すしかないだろう。親切な現地人の裏の顔なんて、知ってもなんの得にもなりやしない。主に精神衛生上の。
「ああ、いや……うん。なんでもないです……」
「…………? どうしていきなり敬語になったの?」
「ホントに何でも無いから。ホントに……」
ただ、世の中には知らない方が良い真実もあるってだけのことだよ。
それだけだ。『シャベッタラコロス』何て空耳は聞こえない。聞こえないったら聞こえないんだ……!
GET DATA……ブラザーバンド:響ミソラ
前書きは不評なようでしたら止めたいと思います。