ーバミューダラビリンスー
「ま、待ってよ電波くん……ッ!」
息を切らせた電波界のアイドルを尻目に、口数の少ない親切な(?)先導役の電波はボク達を振り切らんばかりのスピードでラビリンスを疾走する。
ウィルス達と遭遇するリスクを鑑みてのことかも知れないが、どうにもそこはかとない悪意の波動を受けているような予感も捨てきれない。……うぅむ。
「あの無口野郎、まさかわざとじゃないだろうな?」
鼻息を荒くしたロックが愚痴をこぼすが、ボクは声を大にしてこう言いたい。
「(左腕にくっついているだけのロックには、あの電波も絶対言われたくない……!)」
そんなことを思いつつ、幾度となく同じような十字路を突き進むと、やがて中規模な広場程の空間へとたどり着く。
辺りには怪しげな霧のようなエフェクトが立ちこめ、まるでこの先へ進まんとする者を阻もうとしているかのようだ。
その中央には、仄かに赤い眼光を光らせる先導役の電波が、どうやら自慢の一品らしい年代物と思しきカンテラを光らせている。なるほど、この霧の中だ。カンテラの光は恐らく、灯台としての役割をも兼ねているのだろう。これも先人の知恵というヤツか。
「はぁっ、はぁっ、はぁ……もう、ちょっと早すぎるよ……」
涙目で少しばかり頬を膨らませるが、別に本気で怒っているわけではないらしい。
因みに、電波体が息を切らすということは原則として有り得ないが、実体の体の感覚を持つ脳が、勝手にそういう類いのエフェクトを発生させることがある。電波体と現実の体で起きる齟齬を軽減するためだと思われるが、実際にはよくわかっていない。
「でも、道中でウィルスに足を止められることもなかったじゃないか」
「それはそうだけど……むぅ。って、また何か喋ってる?」
ちょっと集中するから待ってて……と釘を刺し、先程のように集中(集音?)モードで口下手な例の電波とコミュニケーションを取っていく。
どうやら彼は聞き耳を立てられることがお好きではないようなので、ここはおとなしくしておくのが吉だ。それに、彼女の集中を乱して嫌な顔をされたくもない。
……しかし、どうしてスバル君の周りには怒らせると手が付けられないようなタイプばかり集まるのだろうか。きっとそういう星の下に生まれたのだろうなぁ……合唱。
「ふむふむ……なるほど。スバルくん、何でもこの電波くんが言うには、この先は更に入り組んだ造りになってるみたい。先導はしてくれるみたいだから、しっかり見失わないようについてこいって」
「どうやら、まだまだ序の口だったらしいね。……霧も深い。これまで以上に周囲には気を配った方が良さそうだ」
ううむ、一段と霧が濃くなってきたな。今はそんなことどうだっていい気分になりそう。
ちなみに、ボクが初めてプレイしたスパロボは中古のKだった。買ってから暫くは、アレがスパロボ主人公のデフォだと思っていた記憶がある。
「うぅ……ワタシここキライだよ……! 何だか、肌がベタつくみたい」
苦々しい表情のハープ・ノートが愚痴る。流石に国民的アイドル歌手はそっち方面に気を配っているらしい。
「Dエネルギー使う?」
「胃もたれしそう…っていうか気遣うところが違うよ……」
若干げんなりした様子のミソラちゃんが苦言を呈す。そういえば
可愛らしい顔で、もう面倒だからマシンガンストリングで縛っちゃおうかな?等と呟いているのを見るに、割と堪えているらしい。もっと物騒な提案を実行する前に、最奥までたどり着けるといいんだけど。
「……、………………、………チッ」
こちらに向いたハープ・ノートの視線を潜るようにウェーブロード下へと唾棄した電波は、待っていられないとばかりに進行を開始する。そのスピードは、心なしか先程より早足だ。
「………あっ! 電波くんが行っちゃう! ワタシ達も急がなきゃ!」
額から滲み出る汗(のようなモノ)を豪快にぬぐい去ると、全身に活力を漲らせながら先導する電波へと追随していく。
霧に紛れて道を踏み外さないように気をつけないと。つーか直角フェイントは止めろォ!
♢♢♢
性悪電波を追いかけること数分。ボク達は再び、濃霧漂う広場の中心で立ち尽くしていた。
エリアの構造は以前訪れたエリアと全く同じようだが、視界の悪さは抜群に悪化している。何気なく近くの霧を払ってみると、軽く腕にまとわりつくような感覚を覚える。どうやら、僅かに粘着性を持っているらしい。
「もうそろそろ奥地が近づいてきた、かな?」
「……うん、電波くんもそう言ってるね。………あ、でもこの先までは先導してくれるワケではないみたい………」
「あぁん?まさか、ここまで来てビビッちまった何て言い出したんじゃねぇだろうな?」
カンテラを光らせ、山高帽の下から覗く赤目をこちらに向ける電波は、このエリアに到達してから移動する気配を見せていない。ロックがしびれを切らすのも無理はないと言うことだ。
そもそも、見た目が擁護出来ないレベルで怪しいからなぁ……。
「ううん、違うよ。ここから先は、エリアそれぞれに道を示してくれる電波がいるみたいなの。彼らの言葉の真実を見抜くことが出来れば道は開かれる。正しき道は、星が示すだろうって」
そう言いながら上空に人差し指を立てたので、つられてボク達も空を確認する。
そこには、赤・青・黄・緑に輝く美しい星を見てとることが出来た。うへぇ、これ絶対面倒くさいヤツだわ……。
♢♢♢
『黄色の電波が四体……ッ!来るぞスバル!』
『霧で星と同じ色の電波くんが見つからないよ!』
『コイツら嘘つきばっかじゃねーか!』
『もう縛って聞き出した方がいいんじゃないかな?』
『3数える前に正解の道を言いな。オレのヘビーキャノンはせっかちなんだ。3……2……1……』
『電波くんが死んだ!この人でなし!』
♢♢♢
欺瞞渦巻く十字路のラッシュを漸く突破したボク達の精神は、既に這う這うの体だった。だけど、ヘビーキャノンの銃口を突きつけられても口を割らなかった電波達の覚悟には敬意を表したい。
尤も、ヒートアッパーでぶっ飛ばしてやりたい気持ちの方が強いけど。
「……って、まただ」
簡易ワープホールで飛んだ先に待っていたのは、迷宮区に入ってきた時と同じ方向感覚を狂わせる暗闇だった。
これ、もしかしてムー大陸に向かう時もこの暗黒空間を抜けないといけないのだろうか?
「大丈夫。見えないけれど、確かに道はあるよ。……囁き声が聞こえるもの」
「電波状態が酷すぎて誰もいなかったらどうしようかと思ってたよ」
まぁ、こんな場所に留まる電波というだけで、余程の物好きなのだろうけど。ここがしっかり管理されている、なんて話も聞かないしね。
「フフッ……それじゃあ、さっきみたいに聞いてみるね。……この先へ繋がる道は、どっち?」
口元に弧を描きながら、凪のように穏やかな声で漆黒の闇に潜むカンテラ電波に呼びかけるハープ・ノート。
とてもさっきまで『縛り上げちゃう?』とか言っていた人と同一人物とは思えないですね。
「……うん、ありがと。今度はこっちだって!さ、行こ!」
彼女が差した方向を眺めていると、ずっと先に仄かな明かりが見えるような気がする。
しかし、反動が怖いオーパーツによる五感強化に頼らなくていいのは本当にありがたい。やっぱり省エネって大事だ。
省エネと言えば、オーパーツから流れ込んでくるエネルギー量の調節は感覚的なものだけど、しっかりパーセント単位で上昇率を管理することが出来ればもっと効率的にチカラを発揮できるような気もする。今度、天地さん辺りに掛け合ってアビリティプログラムの形で組んでもらうのも良いかも知れない。
♢♢♢
暗幕に包まれた領域を抜けた先に広がっていたのは、多少入り組んではいるものの、今までとは明らかに異質だとわかる空間だった。濃霧の量もそうだけど、何より肌にひりつくようなこの電波圧……。恐らく、この先がムー大陸の封印されている座標なんだろう。
そこへオーパーツから湧き出る電波をありったけぶつけてやれば、晴れてムー大陸の復活となる。
「こ、この強力な電波……!オリヒメ達が探しているモノって、一体何なの……?」
ノーヒントとは言え、ボク達はこの先へ繋がるであろう簡易ワープホールを簡単に特定することが出来ていた。とは言え、それはこのワープホールの先になにやら途轍もない電波の片鱗を感じるという、確信染みた感覚によるものであったが。
「何があるかは知らねぇが……奴らが随分と物騒なコトをしでかそうってのはオレでもわかるぜ。オレ達の手に負えるモンならいいが……最悪、この辺り諸共ぶっ壊すしかねぇだろうな」
「ウェーブロードごと消し飛ばすのはちょっと……」
「フン、どうせ確かめないことにはどうも出来ないぞ。早いとこ魔導師ヤロウが探してるブツってのを拝んでみようじゃねぇか。どっちにしろ、それでヤツらのハナをあかせるんだからよ」
「ああ、うん。わかってる。ドンブラー村で起こったようなコトを、もう繰り返さないためにも。ボク達はこの先に進まなきゃならないんだ」
「おう!」
この辺の胆力は、流石FM星の戦士だっただけはある。実に頼もしい……けれど、申し訳ない。
ディーラーに悪用されることを防ぐためとは言え、打算で世界を危機に陥れる後ろ暗さを抱えているボクには少し、眩しいような気もする。
♢♢♢
「やはり、ここに何かがあるな。明らかに、ここまでと空気が違う」
ワープホールの導きによってたどり着いたラビリンスの最奥は、大広間へと続く長い階段の体を擁していた。
あれほど鬱陶しかった濃霧は晴れ、澄み切った電波がこのエリアを形成しているようだ。
恐らく、長いこと人も電波も足を踏み入れていなかったことによる現象なのだと思う。そして今気付いたがこのエリアに形成されているウェーブロードはマテリアルウェーブに近い電波で出来ている。この分なら、生身の人間でも十分な活動が出来そうだ。
きっとここは太古の時代、封印を施した人物が電波のチカラを失っても再び訪れることの出来るように作った……のかもしれない。まぁ、歴史考証なんてしても意味はないのだけど。
「……ふぅ、結構長い階段だったね。もうクタクタだよ……」
「あはは、お疲れ様。って、何だコレ?……ブライの胸にあった意匠とよく似てる」
階段を上りきった先に広がっていた大広間は正方形の巨大なウェーブロードになっており、その中心には古代ムー文字で綴られた紋章が浮かび上がっている。絶えず変色しながら発光する様は、まるで生きているようだ。正直言って気味が悪い。
「多分、このずっと下の海の中にオリヒメ達が探しているものがある……んだと思う」
「近づいてみると、奇妙な周波数のチカラをヒシヒシと感じるわね……」
エランドやファントムの時もそうだったけど、やっぱり地球産の電波はあまりなじまないらしい。
地球でチカラを発揮出来ないことにも関係ありそうだけど……って、この気配は……ッ!
「オイ、スバル」
「わかってる。この雰囲気……かなり、近い!」
ハープ・ノートの方も気付いたようで、背中のギターを構えて即座に臨戦態勢へと突入する。
「どうやら、オレ達はそろいもそろってはめられちまったみたいだな」
その正体からすれば意外だが、クスリと鼻を鳴らす音を響かせた後、雷の魔導師がボク達の正面、ムーの紋章中心に現れる。しかし、全く気がつかなかったぞ。どれだけ広い感知範囲なんだ?それとも、ハープ・ノートに気付かれないようにマーキングの類いを仕掛けて追跡してきたとか?
『キヅくのがショウショウオソかったな』
「エ、エンプティー……まさか、つけていたの!?」
動揺したハープ・ノートの詰問も柳に風か、感情の揺らぎを見て取ることは出来ない。
「アオイオトコよ、ワタシがヒトリでオマエにソウタイするのはハジめてだった。ではアラタめて、ワタシのナはエンプティー。ワがアルジ『オリヒメ』サマのチュウジツなるブカだ。……さて、ヨくやったぞハープ・ノート。オマエのノウリョクをタドることで、ようやくこのバショまでトウタツすることがデキた……」
「やっぱりここがアナタ達の探していた……!じゃあ、ここにあるのは一体……」
「そのシツモンのコタえをミせるためには、まずキサマらがモつオーパーツをワタしてもらわなくてはならないが……」
「それは無理な相談だったなぁ、エンプティー?オマエらが欲しくて欲しくてたまらない
……まぁ、つまらなくても冗談を吐ける余裕があるのはいいことだ。
酷い
「どうして、そこまでしてこのオーパーツを求めるんだ?
「……まぁ、いいだろう。オシえてやる。このモンショウのマシタにはあるモノがフウじられている……モノとヨぶには、ショウショウスケールがオオきスぎるかもしれないが……」
「もったいぶってねぇでさっさと話しやがれ!」
ロックは元々、あまり遠回しな表現を好まないきらいがあるが、今回もその例外にはあたらなかったようだ。
しびれを切らしたロックの叱咤を愉快そうに聞き流した後、両の腕を広げ、高らかに言い放った。
「このラビリンスにフウインされし、ワレらのサガしモトめていたモノ……それこそが『ムー大陸』!」
「ムー大陸……そんなモノが、未だ発見もされずに現存してるだって!?」
「このラビリンスでハッセイするトクシュなデンパジョウキョウが、それをカノウにした……と、ワレワレのチョウサではケツロンがデている」
最新の航空機の電子機器をも狂わせる程の酷さなのだから、それほどおかしな話ではないけれど……この近海で活動するダイバー達の間で伝説程度にはなっているかもしれないな。
「そしてそのフウインをトくカギこそ……ロックマン、キサマがモつオーパーツなのだ……」
今明かされる衝撃の真実。……知ってたけど。
仰々しい仕草を潜めたエンプティーは、こちらの様子を探っているように見える。しかし、些か下に見られているような気がするのは、恐らく気のせいではないと思う。
「ムー大陸……現代の文明を遙に上回る電波技術を持っていたと言われるヤツらの暮らしていた大陸、だったか。フン、漸くコイツらの企みってヤツが読めてきた気がするぜ」
既に滅んではいるものの、現代水準を超越した技術が存在した大陸だ。ディーラーのようにサルベージすることで、少なくとも現代の電波技術に対しては優位性を持つことが出来ると言うわけだ。
まぁ、実際は
「タショウのサイはあったものの、スベてはワタシのケイカクドオり……いや、むしろオマエ達のコウドウはワタシのケイカクをハヤめるケッカとなった。ハープ・ノートよ……オマエをワレワレのナカマとしてヒきこんだのは、このバショをツきとめるためだけではない。オマエがこちらガワにいれば、ロックマンはカナラずオマエをタスけにアラわれる。……ウツクしいユウジョウとイうわけだ」
仮面の裏側で酷薄に嘲笑した表情が目に浮かぶようだ。
ここに至ってなお、エンプティーは自身の圧倒的優位を疑っていない。そして実際、それはあながち的を外しているわけではない。出力の差が戦力の決定的差では無いことを、彼は恐らく知っている。
「アトはここでオマエ達フタりをシマツし、オーパーツのデンパをカモチいてムー大陸をナガきネムりからヨびサますだけだ!」
体中から目映い閃光を迸らせ、臨戦態勢をとる仮面の魔導師。
同時に辺り一帯のウェーブロードの情報が書き換えられ、赤黒い魔方陣を刻んだ模様が敷き詰められた空間と化していく。残念ながら、パネル干渉系統のバトルカードをフォルダから引っ張り出す時間を与えてはもらえないらしい。
「どうかな?ボク達が
「ククク……違いねェッ!」
「ミソラちゃん……ゴメン。キツいバトルになると思う」
「いい。スバルくんと肩を並べて戦うの、キライじゃないから。……むしろ、すっごく燃える!絶対勝つ!」
謎の気炎を発するハープ・ノートを横目に、体内で脈動する古強者の魂を自らに共鳴させる。
僅かに漂う霧電波をも切り裂いて、稲光がボク達の体を包み込む。背部にマウントされた大剣を二度三度振って調子を確かめ、改めて前方の強敵を睨み付けた。
「エンプティー、ボクはオマエを倒す。ミソラちゃんだけじゃない……委員長達まで巻き込んで!ブラザーを、ボク達のキズナを貶めた!もっと色々言いたいことはあるけど……兎に角今はブッた斬ってやる!」
「よかろう……ゼンリョクでクるがいい、ロックマン!」
『ウェーブバトル!ライドオンッ!!』
GET DATA……ナシ