星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ただひたすらに、空気が重い。

 対峙するブライが周囲にまき散らす負のオーラは以前より一層の激しさを見せている。しかし、迸るエネルギーの中心にいながらも、ブライ自体は『静』を保ったままだ。

 元を正せば、こうしてラビリンスの奥地まで来ているのはブライ(と黙認したボク)のせいなんだよな。アメロッパやナンスカを回った身としては色々と思うところがあるわけだが……

 ……が、いつまでもお見合いを決め込んでいることも出来ない。

 

 ―――先手必勝。主導権を握られる前にケリを付ける!

 

 

「疾ッ!」

 

 左腕にエレキスラッシュを展開。オーパーツによるエネルギー供給先を脚部に集中させ、跳躍する。

無造作に乱立されたアンプを足場にすることで描かれる軌跡を追うことは、決して容易ではないはずだ。

 

「…………」

 

 ブライに動きはない。余裕のつもりか、はたまた心眼で探っているのか……いや、考えても仕方のないことか。

 

 闘気を纏っていない左後方から跳躍。ヒットアンドアウェイを意識して斬りかかる。

 

「!」

 

 雷光を放つ刀身は幾何学的な模様を浮かべた青い障壁に弾かれる。

 やはり電波障壁。しかし、思ったより柔そうだ。柔いと言っても、強化を施した全力の斬撃が通るかどうか、という程度であったが。

 それでも、向こうのA.T.フィールドがそこまで分厚くないという要素は戦術的に大助かりだ。何せこちとら、 フィールド非搭載なので。せめてN₂爆雷ください。

 

「なッ!?か、硬え……!」

 

「浅い……ッ!」

 

 障壁で受け止めたまま素早く体を相対させ、勢いのまま振るってきた右拳をシールドでジャストガード。

どうやら向こうは、ロックにおとなしく驚愕する暇も与えてくれないらしい。

 そのまま近距離戦闘に突入。そして当たり前だけど、攻撃のタイミングで障壁は機能しないようだ。

 ……広義的に解釈すれば、他者に危害を加えようとすることも拒絶からは外れた行為、なのだろうか?

 

「オ、オイッ!テメェッ!何だよコイツはッ!?」

 

 ジャブとストレートの嵐を凌ぎつつ、コンビネーションの合間にバスターを叩き込む。

 まっっったく効いていないが、発生するエフェクトを煩わしそうにはしているので、意味が無いというわけではないらしい。

 

「電波障壁はあらゆる存在を隔てる心の防壁。キサマらの攻撃は……」

 

 左からの掌底を、回転しながらロックの頭部をカチ当てることで軌道修正。ついでにシールドを張ってバッシュを敢行するが、障壁に阻まれ数メートル下がらせる程度に収まってしまう。

 ……敵からすれば、距離を取るには都合の良い能力なのか。何しろ、当たり判定が広がる(ただしノーダメージ)わけだからね!

 

「……通さねぇってか!?クソッ、何てふざけたチカラだ!」

 

「全身!全霊をかけて!キサマらを打ち倒すと言っただろうッ!」

 

 足払いを跳躍して回避。そのままブライの背後に着地。振り向いた頃合いを見計らってチャージショット。

 ……障壁に阻まれるが、閃光による一時的な目つぶしは成功。障壁の向こうで振りかぶった右腕を確認。右足に耐電性を付与しつつ、余剰エネルギーを全て投入。

 脚力は腕力の数倍相当。古事記にもそう書いてある。強化したなら尚更だ。

 

―――勇ましく正面から蹴り破ってやらァ!

 

「ッうぉらぁぁぁぁッ!」

 

「……ッ!」

 

 衝突したインパクトで、辺りに迅雷を思わせる轟音が鳴り響く。

 ……しかし、それに神経をすり減らす必要はない。大切なのはこちらの攻撃が障壁を明確に蹴り砕いたことと、帯電していたスパークがブライの腕を軽く焼いた、と言うことだ。

 

 来いよソロ!電波障壁なんて捨ててかかってこい!

 

 唇の端をつり上げてみせる。虚勢に過ぎないが、平静に対処されてはこちらの勝ち目がない。

 精々苛ついていただこうか。

 

 

「…………」

 

 

 這い上がるような悪寒を感じた(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「ッ!」

 

 全力で警鐘を鳴らす直感に従い、反射的に距離を取る。フワリとした風が胸を撫で、振り切ったブライの左腕には黒色の柄に灰を基調とした片刃の直刀が握られていた。

 オヒュカスだったら、きっと胸部装甲は真っ二つでしたね……。

 ハープ・ノートの謙虚さを見習うべきでは?という意見はさておき、これで向こうもより積極的にならざるを得ないだろう。最早、障壁が絶対の防御では無いとこちらに知れてしまったのだから。

 

「……本来のスタイルは徒手空拳じゃなかったのか」

 

「だけど、それはボク達にとっても好都合だ」

 

「……どういうことだ?」

 

「何せ片腕でも、そこまでパフォーマンスは落ちない」

 

 未だ握力の戻らない右腕を軽く振って見せる。

 

「それは―――違いねェな」

 

 ニヤリと笑ったロックが、エレキスラッシュを展開することによって格納された。

 オーパーツの恩恵を受け、雷剣の性能は二段飛ばしに飛躍する。一切の漏電を許さず、純粋に接触時火力と切れ味に特化した様は、まさしく秘剣と表現して差し支えない。

 

「仕切り直しだな。……行くぞ」

 

「来る……ッ!」

 

 剣戟の応酬が始まった。

 

「ハァッ!」

 

 袈裟斬り。足払い。上段突き。唐竹割り。右薙ぎ。シールドバッシュ。左切り上げ……まで切り結んで理解したことが一つある。

 それは……

 

「巧い……!」

 

 単純に、剣術の技量が高いのだ。

 こちらの太刀筋にそっと剣を合わせ、流すように軌道を逸らす。先程までの荒っぽいコンビネーションとは雲泥の差だ。

 間違い無く、相手は連綿と紡がれた歴史に裏打ちされた技術を持っている。

 

「隙だらけの動きだな」

 

 銀閃が瞬く。速い……ということを理解する前に左腕が弾かれた。

 咄嗟に構えた右腕ごと浅く斬りつけられる。焼けるように痛い……が、痛みに嘆く暇も無い!

 

「足裁きも悪い。……オーパーツのエネルギー供給に無理を言わせた強引な強化の弊害ということか」

 

 距離を取り、斬撃の範囲からやっとの思いで抜け出した。斬られた数は片手で収まらないが、致命傷は無い。

 だが、スピードに任せた剣線は既に見切られつつある。これ以上の継戦も難しい。

 ……然らばッ!

 

トライブ(ベルセルク)は見せかけだけじゃない!……ロック!」

 

「おうよ!」

 

 右腕に纏うようにロック本来の腕を展開。ボクでは無くロックが独立して動かすために精密な連携は不可能だが、両の手で大剣を握りしめて振り下ろす位なら出来るはずだ。

 代償は無理に動かすことによって発生した激痛だが、後遺症になるようなレベルではない……と思う。

 

「長引けば不利と悟ったな?……いいだろう!正面から切り伏せてくれる!」

 

「終わりにしよう!……ブライ!」

 

 エレキスラッシュを格納し、ベルセルクブレードを再展開。硬く握りしめ、肩に乗せるように担ぐ。

 脚力・腕力・切れ味に全開で強化を施し、いざ突貫。

 凄まじい反動が予想されるが、最早なりふり構ってはいられない。

 

 『カミカクシ』で皆が世界中に飛ばされた時に見た、悲壮さと苦悩。

 委員長の青ざめた表情、キザマロがはき出したコンプレックス、傷ついたゴン太の魘された顔、そして今まさに後ろで怯えている、ミソラちゃん。

 

 でも、もうイヤだ。あんな顔はさせたくない。

 ……後悔はした。なら繰り返さない。原作など知ったことか。ボクは僕のやりたいようにやる。

 これは僕のエゴだ。でも、だから、負けたくない。こんなこと、何でも無いと言い放ってやる!

 

 

「おおおぉぉぉッ!!」

 

「その威勢を完膚なきまでに砕く!そして証明してやろう!いかにキズナのチカラが脆いのかを!」

 

 雷刀を振り上げ、叩き斬る。

 今まで幾度となく繰り返してきた行為だが、断言出来る。

 間違い無くこれ(・・)は、最高の一太刀だ。

 

「サンダァボルトッ!ブレイドォッ!!」

 

「ブライブレイク!ソリチュードォッ!!」

 

 

 

 黄金の暴雷と滅紫の豪炎の衝突が、辺りを光嵐の渦に包み込んだ。

 

 

 

 

 目が眩む。ラビリンスの澄み切った空気を、いっそ冒涜的なまでの混沌さが侵していく。

 

「ミソラ!」

 

 抱えたギターのマイクから発せられた声にはっとする。

 ……いけない。ぶつかり合う火線一つ触れただけで、この体にとっては致命傷なのかもしれないから。

 せっかく庇ってくれているのに、最低限の自衛すら出来ないんじゃスバルくんに示しがつかないもの。

 

「ワタシは大丈夫だよ、ハープ。……でも、スバルくんは……?」

 

 そうだ、これだけのチカラの衝突。当事者のスバルくんが無事なワケがない。

 一緒に電波人間として活動していた時は、よくリカバリー万能説を提唱していたけれど、こんなピンチにそうそう上手くいくとも楽観視しきれない。

 

 ……っ!

 エネルギーの拮抗が収まった。……っと、いうことは……!

 

「決着が、付いた……?」

 

 戦場を取り巻いていた光の暴風雨が晴れ、視界が拓いていく。

 影は二つ。片方は膝をついているが、どちらもデリートには至っていない。その事実に少しだけホッとする。

 電波世界でデリートされるということは、つまり、その、現実における死を意味するわけで……。

 

「ッ!スバルくんッ!!」

 

 完全に回復したワタシの瞳は、膝をついて苦悶の表情を浮かべるブライと両腕を振り下ろした姿勢のまま(・・・・・・・・・・・・・)、辛うじて立っているであろうスバルくんの姿を捉えていた。

 

 良かった……本当に良かった……ッ!

 

 安心した途端、膝の震えが止まらなくなってしまう。さっきまでは恐怖で笑っていた膝を必死に立て直そうとしていたと言うのに。

 

 決着が付いた以上、これ以上オリヒメ達が追いかけてくることもないハズ。

 エランドの大群を新たに呼び寄せる可能性も捨てきれない今、ワタシ達は一刻も早くこの場を離脱した方がいい。

 

 未だ笑い続ける膝にムチを打って、必死になって戦ってくれたスバルくんの側に駆け寄る。

 こういう時は何て声をかけたらいいのかな?アンドロメダの時は側にいられなかったし。

 『ありがとう』?『ごめんね』?……それとも『かっこよかったよ』、とか?

 むむむ……頬が熱い。いけないな。スッゴく頑張ったスバルくんに邪な感情を向けるわけには……。

 

「えっと……だ、大丈夫だった……?」

 

 心の中でチキンな選択をしたワタシにヒートアッパーを叩き込み、スバルくんの肩を軽く叩く。

 正面に回り込んでいるわけではないのでその表情を伺うことは出来ないが、きっと疲れ切った顔をしているんだろうな───

 

「……ゴホッ!」

 

 え?ゴッホ?どうして今?等という疑問が氷解する前に、肩を叩かれたスバルくんはベルセルクの強化体を解除しながら倒れ伏してしまう。水を打ったような静けさが場を支配した。

 ……血の気が引いていく。冷や汗が滝のように背中を駆け巡る。心臓の鼓動数を押さえられない。

 

「クッ……ここまで張り合ってくるとはな……流石、一時とはいえ時代を征した種族のチカラ、か」

 

「そんな……嘘……」

 

「だがこれでヤツを……キズナのチカラを超越したことは証明された。そして次は……キサマだ」

 

 絶対零度の視線がワタシの体を無慈悲に貫く。まるでゴルゴンの瞳に睨まれたように自由がきかない。

 

 そんな絶望的な状況の中で、ふとした疑問が生まれる。

 

「ア、アナタはどうしてそんなに……いえ、どうしてそこまで他人を拒絶するの!?」

 

「ミソラ!?」

 

 わき上がる疑問が濁流のような勢いとなって発せられる。

 

「時間稼ぎのつもりか?」

 

「違う!でも、ええ、認めるわ……アナタは強い。それもただチカラに任せて暴れているわけじゃない……それを扱うだけの技術を持っている。修めるには相当の修練が必要だったはずよ。だからこそ……それだけのチカラがあって、どうしてこんなコトを!?」

 

 ただ鍛えるだけじゃ、ここまで強くなることは出来ない。絶対にその心を支えた信念……決意の原点がある。

 

「……キズナについて御高説を垂れるようなヤツらは、所詮一人では何も出来ないクズばかり……」

 

「何を……?」

 

「弱い者同士が集まって、あたかも自分達が強者であると勘違いをする。それがオマエらの言うキズナの正体だ……!」

 

「……そんなことない!ワタシやスバルくん、ルナちゃんだって、お互いを大切に思っていても、それを笠に着たコトなんて絶対にしないわ!」

 

 ありえない!ワタシ達はいつも、お互いを思い合い、心の中では支え合ってきた!

 それは確かなコトで……だからこそ!絶対に否定されたくない!

 

「……相変わらず、オマエ達の言葉は反吐が出る。いつまでも綺麗事を口にし、その醜さを全く理解しようとしない!仲間だの友情だの……薄っぺらい嘲笑を並べて同調し、その本質は外敵と定めただけの人間を排斥することに何の躊躇いも持たないような存在だ!もう一度言うぞ。……反吐が出る」

 

「どうしてそう決めつけるの!?アナタがそこまで人の繋がりを……キズナを憎む理由は何!?」

 

「……フン、いいだろう。教えてやる」

 

 倒れ伏すスバルくんを一瞥し、鼻を鳴らしたブライは背を向ける。

 あの障壁がある限り、ワタシでは傷一つ付けられないのがわかっているんだ。

 

───悔しい。

 

 ……でも、出来ることはある。

 ワタシは震える手で『リカバリー150』を取り出すと、気を失ったスバルくんの体の上に放る。効力を発揮したカードが溶けるように体内に入り込んでいくのを見届けた後、ワタシは彼の言葉に耳を向けた。

 

 まだ、終わってない。諦めるには早すぎるんだ。

 




GET DATA……無し

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