星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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「キサマらのような存在を憎む理由、それは……オレが、たった一人だからだ」

 

「……そんなこと」

 

 そんなこと、ワタシ達だって元はそうだった。

 いつも孤独を抱えて日常を送っていた。でもワタシは、ワタシ達は繋がりを…キズナを手に入れた。そして……あのころより、確実に強くなったハズ。それが確かにキズナによってもたらされたものなのだと、ワタシは信じている。

 

「……そんなことで済まされない所以があるということだ。そしてそれは、オレにとって生まれながらに不変であることを決定づけられたもの。オレは現代にただ一人残された……ムーの生き残りだ!」

 

「ムーの……?」

 

「確か、ムーが滅びたのは文献もロクに残っていない程の遙か古代。そんな時代で生きていた人間の血を引いている、ですって!?」

 

 冗談じゃない!とハウリングしたハープの声がマイクから飛び出すも、煩わしそうにするだけなのは、この反応になれているからなのか、それとも……

 

「……続けるぞ。オレはムー大陸で生きていた人間の血を引く、最後の一人……

 

物心ついた時から、オレはムーのチカラによって電波を瞳に映すことが出来た。そしてオレの手には『ムーの遺産』であるスターキャリアーがあり、電波変換が可能だった……」

 

 『ブライ』はムーの遺産によってもたらされたチカラだったのね。

 とは言え、これほどのチカラ……恐らく、彼の血筋は当時の王侯貴族に値する階級のものだったのだろう。

 

「いつもバケモノ扱いだった。ワケのわからないチカラを持っただけの子供であるオレは、周りの人間にとって『恐怖』でしかなかったというわけだ……」

 

 どれだけのチカラがあったとしても、子供一人であることに違いはない。

 周囲の『大人』達はそれを恐れ、悪し様に扱っていた……?

 

「そして、いつのまにかオレは攻撃の対象になっていた。……相手はいつも複数だった。必ず大勢で一緒になってオレを襲った……」

 

 怨嗟に満ちた表情。

 ワタシには『歌』という『商品』があったから、マネージャーだったあの人は一応の友好を示してくれていた。

 最も、歌うことに忌避感を覚えるようになってからは酷いものだったけれど。

 

 ……でも、彼には『チカラ』しかなかった。だから大人達は恐れたんだ。

 そして、チカラによって酷い扱いを受けた彼にとってそれを数で覆された挙げ句否定されるのは、ただの屈辱でしかなかった……

 

「そうやって集団でオレを襲うヤツは決まって、一人では何も出来ない臆病者だった……!」

 

 握りしめた拳から僅かなデータが舞い、ラビリンスの空に消えていく。

 ……きっと、自傷行為に対しては障壁が発生しないんだ。

 

「コイツらは弱い……

 

 だから群れを作る……

 

 一人じゃ面と向かって罵倒することすら出来ないくせに、数が増えると急に偉そうになる……!」

 

 苛立ちを浮かべた顔を奥底に押し込めるようにして消し、再びむき出しにするのは純粋な敵意。

 これは、既に自分の中で答えを出しているように見える。言葉が通じるとも思えない。少なくとも、今のワタシには彼を説き伏せられる絶対的な自信はない。

 ……それでも。

 

「……オレは誰も必要としない。それはオレが強いからだ。

 キズナはオレが最も憎むべき敵だ。キズナの醜さを生きながら味わってきたオレからすれば、キズナを否定することこそがオレの強さを、存在を証明することになる!」

 

「……アナタは、今まで何度もキズナに否定されてきたのかもしれない。でも……」

 

 キズナには人を変えるチカラがある。

 たとえどんなにそのキズナの輪が小さくとも、それが心の支えにさえなれば、誰よりも強くなれる!

 

「だからこそ、オマエ達のようにキズナが何より大切だとほざくヤツらを見ると苛立たしくなる。……このオレの”血”が、無性に騒ぎ出すんだよ!ヤツらの全てを否定しろ、とな!」

 

「……確かにワタシは、誰かにすがらなきゃ生きていくことも出来ない弱い人間かもしれない。でも、だからこそ!こんなワタシを支えてくれるキズナ(友達)を否定されたくない!ワタシを変えてくれたキズナは、決して脆くなんてない!」

 

「そこに横たわる男の姿こそ、キサマらのチカラが脆く儚いことの証拠ではないのか?」

 

「チカラが及ばなくとも、心は決して折れてなかった。……スバルくんは、自分に出来ることを全力でやってくれた。だから今度はワタシの番。ワタシは、ワタシのキズナを守りたい!」

 

「ポロロン…………ミソラ……アナタ、随分強くなったわね……」

 

「……所詮は虚勢だ。万に一つもキサマに勝ち目など巡ってこないことは理解しているだろうに」

 

「ええ、だから考えたわ!アナタを退ける方法を!……ロックくん!」

 

 この場の誰よりも敏感な聴覚はスバルくんの覚醒を知らせてはくれなかったけど、天は全てを見放したわけじゃない。彼の左腕に息づく相棒の目覚めはバッチリと捉えていた。

 

「……良くわかったな。だがスバルはまだ……すまねぇ」

 

 申し訳なさそうな声色のロックくん。今のロックくんにとっては恐らく、電波変換を維持しているだけで相当な負担になっているはずだ。体を構成するプログラムだけが、戦闘で発生する余波からスバルくんの命を守っている。

 

「ううん、今度はワタシが全力で応える番ってだけ。それよりロックくん……オーパーツを」

 

「なッ!?……やめとけ!コイツは暴れ馬なんてモンじゃねぇ!下手をすると、心の奥底をズタズタに食い破られちまうかもしれないんだぞ!?」

 

「スバルくんは、キズナのチカラでオーパーツを制御してた。なら、ワタシもスバルくんが信じたキズナのチカラを信じたいの。……お願い」

 

「ああもう、わかった、わかったよ!……後悔するなよ!?」

 

「ありがとう、ロックくん」

 

「……フン、目を覚ましたスバル(コイツ)には、オマエがバカをやったって言っといてやる」

 

「あははは、手厳しいなぁ……そこは嘘でも最高に可愛くてかっこよくて素敵で可愛かった、にするべきじゃない?」

 

「オマエ、たまに図々しいって言われないか?」

 

「自分を上手く表現しようとするのは歌手のクセみたいなものだよ……なんてね」

 

「ケッ……オレも、そろそろ限界だ。……後は頼むぜ、ミソラ」

 

「……うん。ごめんね」

 

 ロックくんからせり出してきたオーパーツを力強く引き抜きながら、精一杯の気持ちを口にする。

 ……凄いチカラの脈動。持っているだけで飲み込まれそう。ロックくんが言っていた暴れ馬という例えすら生温いようにすら感じられる。

 

「……やっぱりオンナってやつはわから……ねぇ……な……」

 

「……」

 

 ロックくんの目が閉じた。鋭敏な聴覚は、二つの規則正しい寝息をキャッチしている。

 後は……ワタシだけだ。

 

「ワタシは逃げない。最後まで諦めない!……一人ぼっちで歌ってた頃の弱いワタシとはお別れをしたからッ!」

 

 

 

 お願い。

 オーパーツ。アナタがスバルくんの想いに応えてくれたのなら。

 今だけでいい。ワタシの何を犠牲にしたっていい。

 もう一度、皆で笑い合える日々を取り戻すために。

 

 ワタシの勇気を、彼に対抗できるありったけのチカラに変えて!

 

 

 

『そのネガい、カナえよう。ヤドヌシのイノチはワレラにとってもオしいユエに、な』

 

 

───聞こえた。感じた。そしてはっきりわかった(理解した)

 

 ……これが、オーパーツ。体が羽のように軽い!チカラが溢れてくる!

 

「っく、ううう……!」

 

 熱い!

 湧き出るエネルギーの勢いが止まらない!

 スバルくんはいつも、涼しい顔でこんなものを扱って……!

 

「ミソラ!オーパーツを手放しなさい!……ソレは危険よ!」

 

「このエネルギーを全力で放出し続ければ……いや、それじゃダメ。スバルくんはこのチカラを体中に纏っていた。なら、やらなくちゃいけないのは考え無しの暴発じゃない。もっと抑えて、密度を高めた状態で維持すること……!」

 

 溢れ出る雷エネルギーを、全身をすっぽり覆う程度の球体の中に押し込めるイメージ。

 周囲にとどめた雷撃を、体中隈無く浸透させていく。

 

「……これで!」

 

 全体からシルバーの鈍い光を放っていたオーパーツが、握りしめた手の中で雷光に包まれた。

 今まさに沸騰せんとばかりに煮えたぎっていたチカラが、まるで春の日差しを浴びたような心地よい暖かさに塗り変わっていくのがわかる。

 

───迷宮の静寂さを切り裂く稲光が一つ、ワタシの体を貫いた。

 

「……全く、つくづく度し難いことをする」

 

 チカラ強い雷のエネルギーラインを刻む白銀のガントレット。五指を包むのは、穢れ無き純白のグローブだ。

 同じく白銀で彩られた脚甲は、ラビリンスに差し込む陽光を反射して煌びやかにその存在を主張している。ま、眩しい……

 どこか高貴さを備えた赤マフラーを後ろに流し、ワタシは取りあえず自身の見た目を品評した。

 

 

 

 ……後でスバルくんに文句を言ってやろう。どうしてこんなにゴツいんだって。

 でも、そのために取りあえず目の前の彼が邪魔だ!

 

「これ以上、スバルくんを傷つけさせはしない!」

 

 逆手に構えるのは、戦闘用の形態に変化したダガータイプのオーパーツ。刃渡りはある程度変更出来るらしい。

 どうせ身の丈程の大剣など扱えないのだから、出来れば手数で圧倒したいところ。卓越した技量すら超越した強化が可能なのがオーパーツの触れ込みだと、以前スバルくんから聞いた覚えがある。

 ……けど、今はそんなこと関係無い。

 

「……が、キサマを葬ることに変わりはない。…………消えろ」

 

「今のワタシには、守りたいモノも、人も、信念もある!だから絶対……絶対に折れない!折れちゃいけない!」

 

 高速戦闘には使えないギターを仕方なく背負う。煌めくダガーを握り締め、気炎を滾らせた。

 心臓の早鐘が止まらない。闘志が燃え上がる。まるで体がもっと前にと急かすようだ。

 

 ワタシは今きっと───スバルくんと同じ場所に立っている。

 

「ポロロン……さぁ、意地の張り合いを始めましょう!」

 

 付き合ってくれるハープに感謝の念が消えることは無い。

 そしてその気持ちに応えるにはただ一つ。

 ……勝利。勝利だけがあればいい!

 

「ウェーブバトル……ライドオン!」

 

 じゃあ行こう。……ワタシの、大切な相棒(パートナー)

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 幾度もの攻防が繰り返される。競り合うことすら出来ないレベルの圧倒的な戦闘力の差は、ロックマンとの激突に伴う消耗によって既に埋められていた。

 適度な高揚感の中、ワタシはいっそ冷ややかなまでに現在の状況を正確に悟っていた。心は燃え上がる程熱く滾っているのに、思考だけが氷漬けでもされたように最適解を導き続けている。

 死の煌めきが迫る。冷静に強化された動体視力で見切り、軌跡上にダガーを配置。

 

 ……ッ!重い……けど、受けられる!

 

「……弱いクセに、足掻いても見苦しいだけだ」

 

 鍔迫り合いの火花が散る中、ブライが口を開く。

 軽く切らした息と共に、拮抗するパワーへの驚きが含まれているのが感じ取れた。

 

「まだわからない!?ワタシには、足掻き続けるだけの理由がある!」

 

「下らないと言ったハズだ!……キサマらは一体、何度同じ言葉を口にさせれば気が済む!」

 

「なら!」

 

「ならどうしたッ!」

 

「それを勝手に否定して、あまつさえ壊そうとするアナタには絶対に屈しない!ただそれだけだよ!」

 

 エネルギー供給をカットし、ダガーの刃を消失。半身になることで、刀身の軌道上から退避する。

 これまでの攻防で、空振りによって崩した体勢を咄嗟に整えられない程度に消耗していることは、既に見抜いていた。

 致命的な失策を悟った彼の眉間に刻まれた皺の一本に至るまで、ワタシの超感覚は捉えている。元々、戦闘における情報戦では圧倒していたのだから。ただし、それを生かし切れない程彼に隙がなかったというだけで。

 

「チィッ!」

 

 エネルギー刃を最高出力・密度で生やし、ダガーを順手に持ち替える。ついでに左手も添え、脚部強化によって生み出された爆発的な加速でもって突貫。

 ……正面から叩き付ける!

 

雷光一閃(フラッシュ・スティング)!」

 

 ……が、やはり障壁に防がれてしまう。どうしても、素の一撃ではこの壁を突破することが出来ない。

 あれだけパワーにリソースを振ったスバルくんの斬撃が通じていないことからも、それは明らかだ。

 

 だからこそ、この瞬間を待っていたんだ───ッ!

 

 

 

「……そんな刺突程度が、この電波障壁を突破出来ると……?」

 

 膝を付きながらも余裕を取り戻したブライが嘲笑を浮かべて言い放つ。きっと彼の目にはワタシは酷く滑稽に見えているのだろう。いくら慣れないチカラとは言え、今さっき通用しなかった正面突破を試みているのだから。

 ……でも、ワタシとスバルくんでは決定的な違いがある。……パートナーだ。

 故に、その特性を知らない彼の不意を突くことが出来る。

 

「貫けないのなら……」

 

「……何を言っている?」

 

「……削り斬る!」

 

 このダガーはただの高エネルギー刃じゃない。

 刀身のみをハープの音波(振動)を操るチカラで高速振動(バイブレーション)させることにより、その切断・貫通力を比類無く高めた必殺の電刃!

 ……これなら!

 

「届けェェェェッ!!」

 

 ちょっとスバルくんには聞かせられない絶叫と共に押し込んだ刃は瞬く間に障壁の耐久値を削りきり、ステンドガラスが割れた時のような甲高い音を響かせて粉々に四散させた。

 

「ッ!オオオォォォォォッ!!」

 

 咄嗟に両腕をクロスさせて胴体を防御するけれど、もう遅い。

 そんなものに止められる程ワタシの刃は、背負った想いは軽くない。

 心底驚いたとでも言うべき表情の、そんなアナタが犯したミスは一つ。たった一つだ。

 即ち。

 

「乙女を舐めるなァァァッ!!」

 

 爆音唸らせる必殺の電刃が、抵抗虚しくクロスした両腕ごとブライの胸を貫いた。

 

♢♢♢

 

「ぐ……バ、バカな……!」

 

 胸を押さえるブライの体にムーの紋章が浮かび上がったかと思うと、次の瞬間には電波変換が解除される。

ソロは膝を付き、生身を晒す格好になっていた。

 ……これで、ようやく……!

 

「……ハァ、ハァ…………うっ!」

 

 全身からチカラが抜け、増加装甲が消え失せる。握りしめたオーパーツは、鈍い光を放つばかりだ。

 やっぱり、無理な強化が体に与える影響は強い。こんなに危険なチカラだってことをどうして言わなかったのか、小一時間は問い詰めてあげたいくらい。

 ……あまり、心配させないでほしいから。

 

「……大層なことを言っているようでも、結局は大人数でオレを迫害したヤツらと、何一つ変わらない……キサマらの言葉は何一つ、このオレの心には響かない……!」

 

 確かに、彼の言う通りかもしれない。ワタシ達が数のチカラを使ったのは事実だ。

 ……だけど。

 

「それでも……それでも今、ワタシがアナタに屈せずに立っていられるのは……皆とのキズナがあるからなんだよ……」

 

「…………そんなもの、だれが認めるもの、か……」

 

 最後までこちらを睨み付けながら、ブライ……ソロは気を失った。

 ホッと息が漏れる。

 これでまた、ワタシは戻ることが出来る。スバルくん達がいる日常へ。

 ……些か、日常と呼ぶには今の状況が危険(デンジャラス)であることは否定出来ないけれどね。

 

「スバルくん……や、やっと終わったよ……。帰ろっか、コダマタウンへ……」

 

 痛む体を引きずってスバルくんの元に向かう。人一人背負っていけるかは既に怪しいけれど、フロートシューズ辺りのアビリティを装備させれば重さは消えるはず。何とかなる……いや、何とかしてみせる。

 

『ンフフ……困るなァ、キャストの手前勝手で舞台袖に退かれては……ワタシの脚本はまだ、幕引きに至っていないというのに』

 

「ッ!?」

 

 背後からかけられた声に、背筋が一瞬で凍り付く。

 

───背中に衝撃。どうやら斬り付けられたらしい。ぼんやりと薄れゆく意識の中、咄嗟に振り向いて収めた視界の中央には、ニヤついた笑みを隠そうともしないファントム・ブラックの姿があった。

 

「やれやれ……脚家家自ら幕引きに現れるなど、とんでもない展開もあったモノだ。自画自虐に値する。しかし……いやはや、これも終わりよければ、というヤツなのかね?」

 

 倒れ伏したワタシの元から、オーパーツの強大な電波が遠ざかっていくのを感じる。

 守れなかった……ッ!

 

「ンフフフフ……ンファーハッハ!遂に、遂にオーパーツをワタシが……ッ!エンプティーも、ソロすらも失敗したオーパーツの奪還を、このワタシが成し遂げた!これでオリヒメ様の信頼は、一気にこのハイドに傾くであろう!……素晴らしい!最高のクライマックスだ!ンファーッハッハ!!」

 

 今は……スバルくんの安全を優先しない、と…………

 伸ばした掌がスバルくんに触れる前に、ワタシの意識は完全に暗転した。

 




GET DATA……無し

ここが凄いぞハープ・ノート・ハイボルテージ(仮称)!
・全身から放電出来る!
・音(振動)をオーパーツで強化した振動攻撃が使えるぞ!
・ヘッドギアの機能拡張により、未来視に近いレベルの予測が可能!

……ロックマンって弱くない?

活動報告で意識調査的なことをやっていますので、良かったらそちらもどうぞ!

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