星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ラビリンス上空。

 座標の特定に成功したため、オリヒメ達は移動基地のアジトごとラビリンス奥地へ足を運んでいた。

 目的は当然、海底に眠るムー大陸の起動である。

 

「ついに、この時が来た。このオーパーツに宿るエネルギーを起動キーとすることで、惰眠を貪るムー大陸を叩き起こす……ムー文明の威光が、愚民共ののさばる地球を席巻するのだ!」

 

「オリヒメ様……恐縮ですが……一体、どのようにして封印を解くお積もりなのですか?」

 

 科学に精通しているワケではないハイドには、オリヒメの実行するムー大陸復活のメカニズムを知らされてはいなかった。

 純粋な興味本位ではあったが、今の自分なら無碍には扱わないだろうという確信が彼にはあった。

 

「ムーは電波をエネルギーとしていた。故に、ムーの復活を為すために必要なのも電波である。それも、大陸を動かす程の莫大な電波がな……その役割を果たす物こそがオーパーツ、と言うわけだ」

 

「ほう!……しかし、大陸が一つ、丸ごと海底に沈んでいるとなりますと、流石に調査の手が及んでいそうなものではありますが……」

 

 如何に電波が乱れるとはいえ、科学は日々発展し続けている。

 大陸一つを、現代に至るまで隠し通せるものなのか。

 

「フッ……簡単なことだ、ハイド。……マテリアルウェーブだよ」

 

「……まさか」

 

 思い浮かんだ答えに戦慄を隠せないハイドへ対し、オリヒメはニヤリと笑い導き出された結論を語り始める。

 

「そう、そのまさかだ。太古のムー人達は、地上に逃れる前に自分達が住んでいた大陸を封印したのだ。万が一にも見つかることのないよう、巨大な電波としてな。恐らく、妾達の直下には当時のムー大陸のデータを内包した電波集積装置のような物が眠っているはず。妾達は、それを起動させれば良いというだけの話……」

 

「なんと……このハイド、心底より感服いたしました!」

 

「……さぁ、オーパーツよ!今こそムー大陸をいにしえの封印より解き放て!そして妾の野望、その礎となるがいい!」

 

 オリヒメの掲げたオーパーツの中心部が輝きで満たされた。

 そして、溢れ出た金色の電波が一条の矢となってラビリンス最奥の床を貫き、海底に眠る『何か』へと突き刺さる。

 

 ───脈動の音が響いた。

 

 それは、電波の体を持っていないはずのオリヒメにも確かに聞こえていた。

 まるで、新たな支配者に歓迎の意思を伝えるかのように。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「これは……鼓動?」

 

 スカイウェーブに上がった僕達は、まるで世界全てが揺れたかのような、そんな奇妙な感覚を捉えていた。

 頭部に装着している『フラットライブモニター』で振動の発生源を探っていたハープ・ノートは、その方角がナンスカを指し示していることに気付き、呆然とする。

 封印の解除には間に合わなかったか……しかし、絶望するには早すぎる。

 どうにかして、新・ムー国民選別までに墜とせればいいのだけど……

 

「きっと、ムー大陸の復活が近いんだ……急ごう、ミソラちゃん。大丈夫、きっとまだ間に合うハズ」

 

「うん……そう、だね」

 

 何となくだけど、ミソラちゃんの抱いている不安が僕にも伝わってくるような気がする。

 ムーの戦士である『ブライ』のチカラ。たった一人を相手にするだけで、ここまで苦戦させられたんだ。それが大陸一つ、文明一つともなれば不安になりもするだろう。

 

 道すがら、ミソラちゃんがオーパーツを使用したことは聞いている。(ありがたいお説教付きだったが)

 ……まさか、同じチカラを使った者同士、共鳴でもしているのだろうか?

 

 考えても仕方ない。今は、バミューダラビリンスへ行くことだけを意識するべきだ。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 たどり着いたバミューダラビリンスは、異様な雰囲気に包まれていた。

 未だ入り口付近だと言うのに、既に漂う空気は以前とは別物と言っていい。

 

「空気が、重い……?」

 

『ンフフ……来ると思っていたよ、ロックマン』

 

 聞き慣れた、耳障りの悪い声。何だか無性に苛立たしくなってくる。

 声が響いた方へ視線を向けると、そこには悪趣味な道化……もといファントム・ブラックが悠然と佇んでいた。

 

「ファントム・ブラック……!」

 

「ムーの復活までは、今少しの時間が必要だ。……ショーの開演前に舞台裏を覗こうとは、些か無粋に過ぎないかね?」

 

 ニヤリと笑って、来た道へ引き返すようにステッキを向けてくる。

 まるで『本当は乱暴な手段を採りたくはないのだがねぇ……』とでも言うかのようだ。

 

「調子の良いことを言って!アナタ達の行動で、どれだけの人に迷惑をかけると……!」

 

「ンフフ……ともかく、我々の脚本に手出しはさせない」

 

 ファントム・ブラックの視線が僕達の足下に移る。ラビリンスに蔓延る異様な空気のせいでイヤでも鋭敏になってしまっていた感覚が、足裏で歪む空間の流れを察知した。

 

「スバルっ!」

 

「大丈夫っ!」

 

 足下に広がった異次元空間へのゲートを危なげなく避ける。

 それは、僕よりも感知に優れたハープ・ノートも同様だった。

 

「ンフフフ、甘い!」

 

「テメェがな!」

 

 時間差で出現した黒い穴も軽やかにステップで避け、チャージしていたロックバスターを撃ち込むがはためかせたマントによって防がれてしまう。

 だけど、このまま追撃すれば……!

 

「いやぁぁぁっ!」

 

「ッ!?……ミソラちゃん!」

 

 振り返ると、僕達に仕向けられたモノよりも二回りは大きな黒い穴が、ハープ・ノートを異次元空間の奈落へと引きずり込もうとしていた。

 ……本命はハープ・ノートだったのか!

 

「さて、どうするロックマン?その先(ゲートの先)ではきっと、ウィルスの大群が待ち構えているだろう。か弱い少女を放って、今すぐラビリンスの奥まで進もうと言うのなら、この私が相手になるが……?」

 

 歪んだ笑みを浮かべ、大仰に構えるファントム・ブラック。しかし、戦闘に応じようという圧は感じない。

 わかっているんだ。僕に選択肢など無いことを。

 ……だけど、ここはヤツの思惑に乗るしか無い。警戒を怠ったのは紛れもない、僕なのだから。

 

「スバル!もうヤベェ!……飛び込むぞ!」

 

「…………了解っ!」

 

 既に全身を飲み込まれてしまったハープ・ノートの後へ続くように、僕達は『カミカクシ』のゲートへ飛び込んだ。ズブズブと沈みゆく僕達を再度あざ笑うように、ファントム・ブラックは言の葉を紡ぐ。

 

「では、心ゆくまで楽しんでくるといい。選びに選び抜いた、ウィルスのフルコースを、ね」

 

 絶対許さないからなァッ!

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「……ここは……」

 

 転送された異空間は存外に広く、体育館相当のサイズだった。

 

「ゴメン、スバルくん。ワタシが油断したばっかりに……」

 

 肩を落として見せた彼女に、苦笑いでフォローする。

 僕の油断が原因でもあるのだ。他人のせいにはしたくない。

 

「いや、元からミソラちゃん狙いだったみたいだから、遅かれ早かれこうなってたと思う。だから気にしないでいいよ。それより今は、この場を乗り切ることだけを考えよう」

 

「うん、この気配……!」

 

 ざわめく気配が一際大きくなり、僕達の視線の先で色とりどりのウィルス達が群れを為しはじめる。

『カミカクシ』は機械のはずだけど、こんなにウィルスを発生させて大丈夫なんだろうか?

 ……故障して脱出不可能なんて冗談は、御免被るぞ。

 

「ウィルス、それも大群だ。……気を引き締めていこう」

 

「了解!さっさと蹴散らしちゃお!……今度はバッチリいいとこ見せちゃうもんねっ!」

 

 好戦的な笑みを浮かべながら、彼女は全身で気炎を燃やす。

 空間の広さを活かし、ハープ・ノートはヘルメットから無数のアンプを召喚。

 迎撃の態勢だ。いや、殲滅の間違いか。

 

「OK!ウェーブバトル!ライド・オンッ!」

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「そこッ!…………ふぅ、そろそろ一段落着いた……かな?」

 

 アンプの間に張り巡らされたコードを手繰り寄せ、残っていたウィルスをバラバラに刻んだハープ・ノート。

 ……無慈悲!

 

「やってくれるぜ、あの脚本ヤロウ……!オイ、こんなトコで油売ってる暇なんてねぇぜ!……とっとと脱出しちまうぞ!」

 

「出口は……」

 

 何せ体育館相当の空間だ。装飾も無い殺風景な間取りなので、イマイチ探索には向いていない。

 しかし出口となるワープホールは目立ちにくく、それがまたこの空間のいやらしさを物語っていると言えるだろう。

 

「……探査(サーチ)完了。あっちだよ、スバルくん!」

 

「ありがと……でも、サーチなんて出来たっけ?」

 

 マッピングとか、サポート利き過ぎじゃないか?

 戦闘極振りな仕様はいい加減どうにかならんものかねぇ……

 

「何だかあれ(ラビリンス戦)以来、やけに感覚が鋭くなったような気がしちゃって……もしかしてオーパーツのおかげ、だったり?」

 

 拡張された感覚に馴染んだとか、そういうので説明が出来ればいいけれど……特段異常と呼べるものでもない、か?

 

「僕にはそんな兆候はなかったからなぁ……取りあえず、気分が悪くなったら無理せず言ってね」

 

「……はーい!じゃ、早くここを抜けよっか!」

 

 ワープホールの出口を潜る。まだ、取り返しはつくはずだ。

 選択を誤ってはいけない。決して、対岸の火事ではないのだから。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 薄暗かった異次元空間を抜けた先には、近代的なビルの立ち並ぶロッポンドーヒルズの町並みが広がっていた。

 降り立った屋上からは、雑踏の様子が手に取るようによく見える。先の放送を受けて、世間には不安の波が広がっているようだ。

 

「ロッポンドーヒルズか……大分引き離されちまったな。してやられたぜ……!」

 

「ポロロン……悪いわね、ロック。……?これは……」

 

 突然、辺りを正体不明の揺れが襲う。

 いや、これは自然的なものではない。と、言うことは……!

 

「何、アレ……!?」

 

 ハープ・ノートの呆然とした声が響く。

 それもそのはず、突如襲った揺れはタダの自然災害ではなく、ムー大陸復活に伴う地響きだったのだから。

 海中より姿を現したらしいムー大陸は悠然と空に浮かび、その異様な姿を衆目の目に晒している。

 

『ほんの挨拶程度の出力だが……ムーのチカラを拝ませてやろう!……見るが良い!』

 

 

 待機状態のスターキャリアーから先程聞いたばかりの女性の声が鳴り響く。

 瞬間の後、ロッポンドーヒルズのメガ・ディスプレイがジャックされた。映ったのは、ムー大陸の下部から莫大なエネルギーを持ったレーザーが海底に向けて発射された映像。

 海底に向けて放たれた『それ』は、そのエネルギーの強大さを示すかのように海面に巨大な穴を開けていた。

 

『これこそが伝説のムー大陸である。先に伝えておくが、今の攻撃などは所詮、氷山の一角に過ぎん。出来ることならば、この場でチカラの全てを披露したいところではあるのだが……誠に残念極まることに、まだ幾ばくかの時が必要なようだ……仕方ない。明日の正午まで待つが良い。その時にはムーのチカラ、その神髄をとくとお見せしよう』

 

 プツッとスターキャリアーへの通信が途切れ、同時に空中にて異様な存在感を放っていたムー大陸もその姿を消した。

 明日の正午……出待ちか。時間がわかっているのなら、それに合わせればいい。

 戦闘を極力避け、ムー大陸の中心を叩く。これでイケるだろう。後はミソラちゃんだけど……

 

「明日の正午か……どうする?」

 

「ああ、ムー大陸がその姿を消しちまった以上、取れる方法は一つしかねぇ。……明日だ。明日、ムー大陸がもう一度姿を現した時を狙って攻勢に出る。……それしかねぇ」

 

 ロックも同意見だ。

 実際、ステルス完備の相手に特攻するにはそれしかない。遠距離じゃ火力差が酷すぎるのは明白なのだし。

 

「……だね。それでいこう。ミソラちゃんは、どうする……?」

 

 ハープ・ノートは、未だメガ・ディスプレイに映し出された映像の余韻が抜けていないようだ。

 ……わからないでもないが。何せ、スケールが違うのだから。

 

「スバルくん、今の見てたよね……?」

 

「うん」

 

 声が震えている。

 

「海に、あんなおっきな穴が空いちゃったんだよ?」

 

「うん」

 

 握りしめた手の指先が震えている。

 

「しかも、まだほんの一部なんだって。明日になったら、もっとスゴいパワーが出せるんだって言ってたね」

 

「うん」

 

 何より、心が震え上がっている。

 ……ダメだ。僕は、そんな顔をして欲しくて戦っているわけじゃない。

 

「……怖くないの?」

 

「そりゃあ、怖いけど。でもあんな威力の攻撃、そうそう自分の陣地では撃てない。……それに」

 

「……それに?」

 

 僕には相手を罠に嵌めたり、策を練るようなことは出来ない。

 だから、いつだってやってきたことは変わらなかった。

 

「真正面からぶつかれば、きっと何とかなる!……と、思うよ」

 

「でも……何とかならなかったら?」

 

 彼女の不安は拭えていない。

 ……そりゃそうだ。さっきまで寝込んでた元怪我人がどの口でって話なんだから。

 

「何とかならなかったら……それは、その時考える。でもきっと、ただ黙ってムーの支配を受け入れるよりはいいと思う。だって、僕達は他の人よりも出来ることがちょっとだけ多いんだ。……諦めるのは、やれることを全部やった後からでも遅くない」

 

 吐き出す言葉は慎重に。不安を煽ってはいけない。

 でも、ミソラちゃんがここで退くというのも、あながち悪くない。

 友達を危険にさらさないようにするってのも、やれることの一つだと思うし。

 

「諦めるのは、やれることを全部やった後からでも遅くない、か……うん。そっか、そうだよね!初めてライブをやった時だって、不安でしょうがなかったけど……ステージに立ってお客さんと真正面から向き合ったら、不安なんて全部吹き飛んだもん!……うん、もう大丈夫!そう、スバルくん(ブラザー)がいる限り、ワタシはいくらでも立ち上がれるんだっ!」

 

 暫く僕の言葉を反芻した彼女は、突如燃え上がるような覇気を滾らせ、天高く拳を突き出した。

 その瞳はキラキラと光り輝き、いっそ眩しさすら感じる程だ。

 は、発破をかけてしまったか……?

 

「やる気があるのはいいんだけど……取りあえず、今日は帰って明日に備えてゆっくり休むべきじゃない?」

 

「ええっ!?ワタシ、エネルギーが有り余ってしょうがないよ!……そうだ!丁度良いし、今からカラオケでも行こうよっ!」

 

 食い気味に誘ってくるミソラちゃんの勢いに水を差すように、スターキャリアーに通信が入る。

 表示された名前は……天地さん?

 

「どうどう……はい、もしもし」

 

 馬扱い!?という嘆きが聞こえたような気がするが、気のせいだ気のせい。

 暴れ馬の扱いはペガサスのスターフォースで慣れちゃったから、しゃーなしだ。

 

『スバル君、大丈夫かい!?さっきの放送……まさか、巻き込まれていないよな?』

 

 そういえば、天地さんにはナンスカの辺りに行ったことをメールで伝えていたんだった。

 心配して連絡をとってくれたのだろう。流石はキズナリョク650の男だ……!

 

「大丈夫です、天地さん。それと、中々そっちに寄れなくてすいません」

 

『ああ……全然ベルセルクのカードを取りに来ないから、どうしたのかと思っていたところだったんだ』

 

 ……すっかり忘れていた。

 そういえば、以前ロッポンドーヒルズまで来た時はなんやかんやで会えなかったのだったか。

 

「すいません、あれから色々あって……」

 

『ははは……気にしなくていいよ。都合が合った時に来てくれれば良いからさ。そうそう、実は新しくスターキャリアー用の拡張機能を開発したから良ければ…………って、もしかして今、ロッポンドーヒルズに来ているのかい?』

 

 周りの音から居場所を察したらしい。スゴい洞察力だ。

 

「えぇと、ちょっと不慮の事故というかなんというか……」

 

『それじゃあ、今からボクのところに来ないか?さっき言いかけたけど、実はスターキャリアー用の新機能を開発してね。きっと、キミのチカラになれると思うんだ……どうかな?』

 

 どうせ、今日はもうすることが無い()のだから、寄るべきじゃないだろうか。

 新機能とやらも気になるし。

 

「……じゃあ、今からそっちにお邪魔にすることにします」

 

『それじゃショッピングプラザの二階……いつもの場所にいるから、待っているよ』

 

 通信が終了し、エア・ディスプレイがスターキャリアーに収納される。

 

……見下ろした雑踏は、未だ晴れようのない混乱に包まれていた。

 

 




GET DATA……無し

引き続き、活動報告で意識調査もしておりますので、良ければそちらもどうぞ!

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