星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 未だ混乱の熱冷めぬロッポンドーヒルズ。

 ざわめく人々の間を抜け、僕達はショッピングプラザ二階へと足を運んでいた。

 なお、混乱を避けるために、ミソラちゃんには電波変換を解かずに僕のスターキャリアー内部で待機してもらっている。画面には、いつしかと同じようにデフォルメされたハープ・ノートが表示されているといった具合だ。

 しかし、おおっぴらに会話も出来ないからか、あまり機嫌はよろしくない。

 

 ……有名人だからね。仕方ないね。

 

「お久しぶりです、天地さん」

 

 エア・ディスプレイ越しではなく、久しぶりに直接対面した天地さんの顔は、普段からは想像もつかない程険しいものになっていた。

 

「やぁ、スバルくん。大変なことになってしまったね……さて、長話もなんだ、本題に入ろうか」

 

「あ、はい。ベルセルクのカード……ですよね?」

 

「ああ、ちょっと待ってくれ……っと、あったあった。はい、無事にデータの移植は完了したよ」

 

 展開したエア・ディスプレイの画面を指先で走らせ、手慣れた様子で操作すると、天地さんの手に持った空のカードに剣の紋章が浮かび上がった。差し出されたカードをスターキャリアーに読み込ませ、フォルダに登録する。

 

「……よし、端末間のデータ移行も問題無さそうだ。これで一つ目の用件は終わり。後はさっきの通信で伝えた新機能の方なんだけど……」

 

「それって、具体的にはどういったものなんですか?」

 

 いくら信用しているとは言え、流石に機能の内容くらいは聞いておきたい。

 

「そのプログラムを組み込めば、搭載した端末の性能を飛躍的に上昇させることが出来るんだ。恐らく、スターキャリアーと連動しているロックマンも強化されるだろう」

 

「スゴいプログラムじゃないですか!でも、どうしてこんな時期に新しいプログラムの開発を?」

 

 ぶっちゃけ、そろそろ本格的に次世代型端末の開発に取りかかっても良い頃だと思うのだが。

 スターキャリアーの開発にも携わっている天地さんだ。声がかかっていないとも考えにくい。

 

「フフン、よくぞ聞いてくれたよ!スバル君!実は、コイツはまだ一般に出回っていない新技術を使ったシロモノでね……!」

 

 キラキラした表情でエア・ディスプレイを開き、プログラムの概要を見せてくれる。……一般用とはいえ、ホイホイ見せていいんですかね?

 どうやらマテリアルウェーブのように実体のあるプログラムらしく、使用時は展開して直接スターキャリアーに装着されるらしい。

 画面上部には大きくPrototypeと表示されている。まさに試作型というワケだ。

 

「へぇ……試験品ってことですか。でも、どことなく素敵な響きがありますよね」

 

「一応言っておくと、安全性に関しては問題ないよ。次世代端末とリンクしたシステムになる構想で製作されていてね……安全試験は、それこそ飽きるほどやってるんだ。絶対に大丈夫さ。保証する」

 

 先行実装って、何だかワクワクする響きでござる。

 

「天地さんがそこまで言うなら……インストール、お願いしてもいいですか?」

 

「ああ、もちろんだ!……ところで、先程電話したときにはキミ一人だったのかい?」

 

「どうしてですか?」

 

「なに、ちょっと聞き覚えのある声が聞こえたと思ってね……気のせいなら、別にいいんだが」

 

「ええと、ミソラちゃんといましたけど……」

 

巨悪の手先に一杯食わされて、途方に暮れてました……とは、言いたくないなぁ。

 

「……すまない、もしかしてお邪魔だったかな?」

 

 何かを主張するように発光し続ける端末の画面は無視だ。

 

「いえ、全然。ただ、別の混乱が起こりそうだったので……電波変換して、僕のスターキャリアー内に隠れてもらっているんです」

 

 そう言って、どこか申し訳なさそうな天地さんにスターキャリアーのホーム画面を見せつける。

 

「ああ……うん、はい。……さて、それじゃ、このままインストールしてしまおうか」

 

「……ええ、お願いします」

 

 ……?

 なんとも言えない、微妙な表情で差し出したスターキャリアーを天地さんは受け取った。

 それから自前のスターキャリアーに保管してあるデータを転送するまでの間、時折何か言いたげな表情を浮かべていたが、僕は悪くないと思います。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「さぁ、これでプログラムのインストールは完了だ」

 

「意外にかかるものなんですね。ベルセルクのカードは一瞬だったのに」

 

「ああ、スバル君のスターキャリアーに合わせて、軽い調整をしていたんだ。一応、次世代型端末で使用することを前提に作られているからね。……ただ、注意して欲しい。このプログラムはスターキャリアーの性能を飛躍的に向上させるが、その分使用時にはエネルギーを大量に食ってしまうんだ。スターキャリアーのエネルギーをフルチャージした状態で使っても、プログラムの展開から保って十分が良いとこだろう」

 

 燃費悪っ。

 太陽光とかで何とかならないんですかね……

 

「わかりました。気をつけておきます」

 

「一応、稼働限界までのタイムリミットを知らせる機能も付けておいたから、上手く役立ててくれると嬉しいかな。……っと、そうだ。忘れるところだった。もう一つ、キミに渡しておきたいモノがあったんだ」

 

「……これは、バトルカード?」

 

 そう、天地さんが渡してきたのは赤く染まったバトルカード。

 赤いバトルカードは一般にギガクラスカードとされ、滅多に手に入ることは無い、はずだが……

 

「UMA事件の起きた場所を五陽田警部が現場検証したんだけど……その時に手に入れたデータを解析して、僕が作ったモノなんだ。強力なバトルカードだから、きっと何かの役に立ってくれるだろう」

 

 カードの表面には『ナダレダイコ』と銘打たれている。発動すれば、イエティ・ブリザードのナダレダイコが周囲を銀一色に染め上げることだろう。

 使いどころは難しそうだけど、使いこなせば一発逆転の切り札にも成り得るハズだ。

 相変わらず、天地さんは頼りにしかならないな。

 マジで頼りにしかならない男……マタオ、はちょっと響きが悪いので却下。だって、恩人だからね。

 

「ホント、至れり尽くせりですいません。……必ず、ムー大陸を止めてみせます」

 

「こちらこそ、こんなことしか出来なくてすまない。本来なら、ボク達大人が何とかしなくちゃいけないことのはずなのに、な」

 

「大丈夫ですよ。なんたって、今回は僕達だけじゃないですから」

 

 そう言って、インストールしてもらったばかりのスターキャリアーを振って見せる。

 中でハープ・ノートが目を回していた。

 ホント、申し訳ない……。

 

「とにかく、くれぐれも無理はしないでくれよ、スバル君。危なくなったら直ぐに引き返すんだ……いいね?」

 

「はい、わかってます」

 

「……良い顔だ。さぁ、今日はもう帰りなさい。明日のために、ゆっくり休んでチカラをつけるんだ」

 

「……ハイ!」

 

 天地さんに再三頭を下げ、改めて感謝の意を表す。

 天地さんには、いつもお世話になりっぱなしだ。その恩を返すためにも、こんなところじゃ終われない。

 ……必ず、ダイゴさんは連れて帰らなくては。

 

 そしてふと、スターキャリアーに通信が入っていることに気付く。

 ……委員長からだ。きっと、心配してかけてくれたのだろう。

 

「すいません、天地さん。ちょっと……」

 

「ああ、ボクのことは気にしなくていい。……友達からだろ?」

 

「それじゃ、失礼して……ブラウズ」

 

 立ち上がったエア・ディスプレイには、心配そうに眉尻を下げる委員長の顔が映っていた。

 電波変換を解いた僕に一瞬怪訝な表情を浮かべたが、得心がいったとでも言うように手を打つと、ホッとしたように息を吐いた。

 

『ちょっと大丈夫なの!?……って電話してみたんだけど、どうやら無事だったみたいね。ひとまず安心したわ』

 

「ゴメン!途中でファントム・ブラックに妨害されちゃって……ロッポンドーヒルズまで飛ばされてしまったんだ」

 

『ってことは、明日またムー大陸に行くのよね?』

 

「うん、そのつもり」

 

『なら、明日出発する前に一度、ウチに寄っていきなさい。さっきはアナタに言われてばかりだったじゃない。だからゴン太もキザマロも、言っておきたいことがあるって言ってるの。……どうかしら?』

 

 スターキャリアーの待機画面に表示されているデフォルメされたハープ・ノートが神妙に頷いた。

 確かに、先程はいささか自分の言いたいことばかり言っていたような気がする。

 

「わかった。それじゃ追って出発時刻は連絡するから……また、明日」

 

『ええ、また明日』

 

 明日の正午、ついに世界規模の混乱が巻き起こる。どれだけ犠牲を減らせるのか。

 この戦いにはきっと、あらゆる人間の運命が掛かってる。だからこそ、負けられない。その敗北の味を、今さっきこれでもかと言うほどに味わったばかりなのだから。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 翌日。午前十時。

 バミューダラビリンスへと向かうはずだった僕達は、白金家に立ち寄っていた。

 

「……来たわね、スバル君。ミソラちゃんも。さぁ、上がってちょうだい」

 

「えっと、お邪魔します」

 

「そういえば、ルナちゃんのお家にお邪魔するのも久しぶりだなぁ……」

 

 しみじみ、といった風に呟いているが……アレ?

 ミソラちゃんが委員長の家に行ったことってあったっけ?

 ……とでも言いたげな僕の表情に気付いたのか、ミソラちゃんが苦笑交じりに説明してくれる。

 

「たまにだけど、ルナちゃんと二人で話したりするんだ。スバル君の学校での様子とか、ワタシじゃ中々知れないことも話してくれたり……」

 

「ちょっと、他言は無用だったハズでしょ!?その言い方じゃ、まるでワタシがへ、変態みたいじゃない!」

 

 本人のあずかり知らぬところで、僕のプライベート情報が共有されている……!?

 僕は自分の肩を搔き抱いて、ドン引きアピールを敢行した。

 

「うわぁ……」

「誤解だわっ!って言うか、なんでそんなに引いてんのよ!」

「身の危険を感じました」

「ワタシはストーカーじゃないっ!」

「あのー、ゴン太くん達を待たせてるんでしょ?そろそろ……」

「アナタ達わざとでしょうッ!?」

 

 その後、ぶち切れた委員長を平静な状態に戻すのに、五分ほどかかりました、まる。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「どうして、自分の家でここまで疲れなくちゃいけないのかしら……」

 

「ルナちゃんが自爆したからじゃない?」

 

「元を正せばっ!アナタのフレンドリーファイアが原因でしょうがっ!」

 

「ゴメンね☆」

 

 そこで悪びれないミソラさんマジパネェっす。

 これが女同士の友情……なーんか、想像と違くない?

 

「……コホン。さ、どうぞ」

 

 漸く、委員長の部屋まで案内される。

 開かれたドアの先では、ジト目で睨みつけてくる二対の視線が僕を貫いていた。

 ……痛い!視線が痛い!

 

「スバルくん……可哀想に。死線を潜り過ぎて、委員長の地雷原で無意識にタップダンスしてしまったんですね……ボクの『マロ辞典』によると、そういう人は戦場カメラマンに向いているらしいですよ」

 

「その慰めるような笑顔はなんなの!?」

 

 悟ったような笑みを浮かべているキザマロ。

 命知らずって言いたいのか……ッ!?

 

「生きろよ、スバル。オレから言えることは、それだけだぜ」

 

「酷いっ!」

 

 どう考えても、これから決戦に向かう人を送り出す言葉じゃないだろ!

 明らかに別の死因を暗示してますよねぇ!?

 

「……とまぁ、実は色々考えてはみたんだけどよ。あんまり小難しく言うよりも、シンプルなほうがいいって気付いたんだ。な、キザマロ?」

 

「ですね。そもそもゴン太くんが難しいことを言っても、なんだか嘘っぽいですし」

 

「嘘っぽいってなんだよ……」

 

 気落ちした様子のゴン太がキザマロに軽くチョップする。

 アイタ!とそれらしくリアクションをとったキザマロがズレた眼鏡を直し、レンズを輝かせた。

 

「あはは……ゴン太くんらしいね」

 

 思わずといった風にミソラちゃんは相好を崩す。

 見える、見えるぞ。背景に花のエフェクトが見える。

 さきほどとは似ても似つかない様子を見るに、どうやら三十秒前までの彼女は別人だったらしい。

 

「お、おう!オレ、めちゃくちゃ頑張るぜ!」

 

「何言ってるんですか、ゴン太くん。頑張ってくれるのはスバル君達の方なんですよ?」

 

「わ、わかってるって!だ、だからめちゃくちゃ頑張って応援するって言おうとしたんだよ!」

 

 慌てて言い直すことで誤魔化そうとするが、だらしなく伸びた鼻の下は隠せていない。

 騙されているぞ、ゴン太。彼女こそ真の戦場カメラマン(タップダンサー)だ。

 僕に地雷原でケンケンパする趣味は無いからな!

 

「ほら二人とも、落ち着きなさい!あまり時間を取らせるワケにもいかないでしょう?」

 

 手を打ち鳴らして注目を集めながら、委員長が渇を入れる。

 このままでは埒があかないと思ったのだろう。

 途端、あれほど騒いでいた二人がピタリと動きを停止させた。

 

「す、すまねぇ委員長……」

 

「ふざけすぎてしまいました……」

 

 反省した態度を見せた二人を見て鷹揚に頷くと、促すように視線を向けた。

 

「それじゃ、オレから……スバル!ミソラちゃん!地球のことは任せたぜ!……特にスバル!ミソラちゃんにキズ一つ付けでもしたら、オレたちゃゼッテェ許さねぇからな!きっちり守れよ!約束だからな!?」

 

「もちろん……約束だ!」

 

 拳を合わせ、お互いの瞳の奥に燃える炎をのぞき見る。

 轟々と燃え上がる炎が、ゴン太の瞳に灯っていた。まるで、今すぐオレも戦いたい、とでも言うかのように。

 

「よぉし!なら、こっちは任せてくれ!何せ、オレは他人より頑丈だからな!」

 

 そう胸を張るゴン太は、ある種の使命感に溢れているようにも見えた。

 そしてそのまま、となりのキザマロへ目配せをする。

 

「えっと……スバル君、ミソラちゃん。ボクは電波変換したことは無いし、電波世界のことだって良くわかりません。……でも!今、みんなの為にムー大陸へ立ち向かおうとしているのがボクの友達なんだってことはわかっているつもりです!……だから、これからもずっと、ボク達のヒーローでいてください!」

 

「それじゃ応援になってないじゃない……」

 

 委員長の言葉にハッとなるキザマロ。

 

「え?あ、えっと……と、とにかく!絶対無事に帰ってきてくださいね!約束ですよ!?」

 

「うん、わかった。絶対に、無事に帰ってくるって約束するよ」

 

 そして、満足げな二人の視線の先には委員長。

 

「さて、ワタシから言っておきたいことは一つよ!……絶対、無事に帰ってくること!特にスバル君は、ミソラちゃんに危険が及ばないようしっかり守りなさい!いいわね!?……って、これじゃ二人とモロ被りじゃないの……まぁいいわ!とにかく、ワタシ達はここでアナタ達の無事を祈ってる。これ以上ブラザーに心配かけさせたくないのなら、チャチャっと終わらせて帰ってきなさい!」

 

「りょうかい!」

 

「らじゃーだよ、ルナちゃん!」

 

 二人揃って、前後に『サー』付きそうなほどビシッとした敬礼を見せると、一瞬キョトンとした委員長だが、次の瞬間には思いっきり吹き出してしまった。

 そしてそのまま、『この様子なら大丈夫ね』と笑顔で送り出された僕達。

 

 

……それじゃあ、チャチャっと世界救ってきますかぁ!

 

 




GET DATA……『ナダレダイコ』

次回、逃れえぬ運命!『ファントム・ブラック死す』デュエルスタンバイ!
活動報告の意識調査も継続中ですので、気兼ねなくご意見をどうぞ!
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