星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーーコダマタウンーー

 

 黒歴史(仮)を生産してしまった展望台の階段を下りながら、見知った顔がこちらに向かっていることに気がついた。

 

「…………あっ、委員長さんたちだ」

 

普段の勝ち気な態度はどこへやら、委員長さんの機嫌はすこぶる悪い。もしかして、五陽田さんにトランサーいじくられたかな?

……あまり馴染みのない話だけど、この世界のトランサーは身分証や財布を兼ねているため、これ一つ見るだけで、所有者の個人情報から経済事情まで丸裸にされるようなもの、らしい。

 

「ったく、何なのよ!いきなりゼット波が何だとか、あぁ、もぅ、あんなことされたらお嫁に行けないわ!」

 

委員長さんは美人系なんだから、もっと凛としていればいいのに、何であんなに感情的なんだろう……いや、魅力的ではあるのだけど。………からかいの対象としては。

 

「やぁ、委員長さん。ゴン太にキザマロも、元気にしてた?」

 

「アラ、スバル君、ワタシの機嫌が良さそうに見えたのかしら?……なら眼科に行くことをオススメするわ。腕の良い人を紹介してあげてもよくてよ?」

 

 …………段々遠慮がなくなってきたな……軽口を叩ける位なら、そんなに気にしてるわけでもないのかな?

 

「視力は両目とも1.5あるから心配は要らないよ……ところで、何かあったの?」

 

「うるさいわね、アナタにはカンケーないでしょ!」

 

「そうだ、そうだ!おまえにはカンケーない!さっきヘイジとかいうヘンなオッサンにしつこくつきまとわれた上に、トランサーの中をしらべられたコトなんてな!」

 

 ゴン太ェ……

 

「ゴン太くん、それ全部言ってますよ」

 

「んなっ!」

 

「オトコのお喋りはみっともないわよ!……あんなオッサンにトランサーの中を見られるなんて、一生モノの屈辱よ!……あ、あのヘッドセットは……」

 

ゲェッ!五陽田さんだ……まだどっかに行ってなかったのか……

 

「ウムム……また異常なゼット波を感知したぞ……やぁ、スバル君。さっきぶりだね」

 

「五陽田さん……」

 

「アナタはさっきの……!」

 

「委員長おちついて!!」

 

「流石に国家権力が相手は、マズイですよ!」

 

 五陽田さんの姿を捉えた委員長が、まるで親の敵でも見るような目で睨んでいるのをおっかねぇ……と思いながら、ボクは挨拶をする。

 

「どうしたんですか?」

 

「あぁ、また異常なゼット波を感知してね……発生源は……キミの体?……ちょっと調べさせてもらう!」

 

 そう言ってボクの体に迫ってくる五陽田さん……ヒイッ!って、ヤバイぞ、今はロックがトランサーにいるんだ……

 

「ご、五陽田さん。さっき家に来たときにボクのトランサーは調べましたよね?……それにここに来るまでに散歩中の女性が話していたんですけど、事件現場にいた訳でもない女性のトランサーを調べまわしたんですよね?……訴えられても文句は言えませんよ」

 

「む、ムゥ……ほ、本官は、ゼット波の発生源をだね……」

 

「だからボクのトランサーはもう調べたじゃないですか。……それに、どうせ人間の体に溜まったゼット波の放出される条件なんてわかっていないんでしょう?なら、偶々今ボクの体から出ただけかも知れないじゃないですか……?……もう一度言います。勝手に他人のトランサーを調べるなんて訴訟モノですよ?」

 

「ムムム……確かにキミの言う通りかもしれないな……では、本官はここらで失礼させてもらうよ」

 

 …………………………ふぅ。

 ……なんとか誤魔化せたか。あの人勘は鋭そうだからなぁ……

 

「全く、年頃の女性のトランサーを調べまわすなんて!」

 

「す、スバル君?その、さっき言ってた、散歩中の女性っていうのは……」

 

 ……あぁ、委員長さんのコトを言ったと思ったのか。

 

「違うよ。全く関係ない、すれ違っただけの人さ……もしかして、自分のために怒ってくれた……とか思ってた?」

 

「キィーーーッ!!ゴン太、キザマロ!もう行くわよ!」

 

 委員長さんは展望台の方に行ってしまった。……おっかないなぁ……ふふっ……

 

「い、いいんちょう、そうとうキゲンわるいな……おい、おまえのせいなんだからな……」

 

「うぅ、あの委員長を落ち着かせるにはかなり苦労しそうです……この分だと、中々家に帰してはもらえなさそうですね」

 

「いいんちょうにはわるいけど、明日はミソラちゃんのライブがあるからな……」

 

「そうですね……出来れば早く帰って体力を温存しておきたいトコロなんですけど……せっかく徹夜してチケットをゲットしたんですからね、ぜひとも万全の状態で、本番に臨みたいですし」

 

「ミソラちゃん、ねぇ……その人の曲ってそんなに良いの?」

 

「響ミソラと言えば今ニホン中で大ブレイクしているミュージシャンですよ!?……因みにボクもゴン太くんも、ミソラファンクラブの会員なんです」

 

「そのミソラちゃんがなんと!明日このコダマタウンでライブをするんだぜ!……明日はゼンリョクでミソラコールのよていなんだぜ!そして、今夜の晩飯はミソラにかけてミソカツ定食だ!」

 

 別にそこまでは聞いてないんだけど、やっぱり凄い有名人なのか……

 

「へぇ……」

 

「けど、今日の委員長はあの調子でしょ?委員長がああなったら、きっと夜遅くまで反省会ですね……」

 

「こ、こうなったら……逃げるか。……け、けど、そのあとどうなるやら……」

 

「い、いいですかゴン太くん、委員長は毎日会います……しかし、ミソラちゃんには今後、何回会えますか?」

 

「……きっといいんちょうも、ゆるしてくれるはず!」

 

「何してるの!早く来なさい!」

 

 委員長さんの声が展望台の方から聞こえてくる。幸い聞かれてはいないようだ。

 

「いいんちょう!!ゴメンなさい!!」

 

 ……ええぇ……行ってしまった……あれは帰ったな。

 

 普通にやられたらかなり引きずりそうなコトを平然とやってのける……そこに痺れる憧れるっ!……わけはない。

 …………多分これボクのせいでもあるんだろうなぁ……

 

「今のが五陽田とかいうオッサンか……オレたちのコトをかぎまわるなんて良い度胸してるじゃないか。ちょっくらヤツの素性を調べさせてもらうとしようぜ」

 

「トランサーの中にでも忍び込むの?」

 

「そういうコトだ」

 

「でも、ちょっと待って……展望台に行って委員長さんにゴン太とキザマロのコトを話して来なきゃ」

 

「……ほっとけばいいじゃねぇか」

 

「ダメだよ……ボクが原因でもあるんだから、責任はとるよ。……それに置いていかれるとか、割とトラウマになりそうだからね。委員長さんには、いつもあの調子で

 いてほしいのさ」

 

「オマエも物好きだな……」

 

 ……何とでも!

 

 ーー展望台ーー

 

 展望台の階段を登りきると、天体観測時に使われる、少し広まったスペースに委員長さんを発見することができた。

 

「……何かしら!……またワタシをからかいに来たの!?」

 

おぉ、おっかないです。

 

「違うって……今回はボクのせいでもあるからね……責任は取るさ」

 

「せ、責任……!?天地研究所で起きた事件は偶然よ……!?いえ、と、トランサーの中を見られたけど、そこまで!?」

 

「何を言ってるの……」

 

「そ、そういうのは、まだ覚悟が…………って、え?」

 

 何で狼狽えてるんだ……?

 

「だから、ボクが委員長さんを怒らせてしまったからね、ゴン太とキザマロが帰っちゃったことを伝えに来たんだ……流石に自分のやったことの責任くらいは持つさ」

 

「あ、アナタねぇ……!いえ、今はワタシの勘違いね……そう、ゴン太とキザマロが……」

 

「それじゃ、伝えたからね」

 

「(よし、ロック。五陽田さんのトランサーにウェーブインしよう)」

 

「(オマエ、やっぱりあのオンナに気があるのか?)」

 

 無いったら!やっぱりって何さ!?

 

 ーーコダマタウン・ウェーブロードーー

 

「見つけたよ……五陽田さんだ」

 

「早速ウェーブインと行こうぜ」

 

 

 

 ーーコダマタウン・現実世界ーー

 

「ム?異常なゼット波を感知……近いな。ゼット波の影響を受けたら大変だ……よし、ゼットリフレクター起動!」

 

 ーーコダマタウン・ウェーブロードーー

 

「ケッ、何をしたかはしらねぇが、ちょいとオジャマさせてもらうぜ」

 

 …………何か固そうなフィールドが五陽田さんの周りを包んでいる……

 

「大丈夫かな……行くよ、ロック」

 

「おう!ウェーブイン!」

 

 ーーーガキィン!

 

 A.T.フィールドみたいなヤツに弾かれたっ!

 

「痛ッ!電波を弾く何て……キャノンでも撃ち込んでやろうか……!」

 

「オイヤメロ、スバル!」

 

 ……止めないでよロック!……さっきのコトもある。

 コイツにはトランサーを新調してもらうことにするぞ!

 

「落ち着け!……あのゼットリフレクターってフィールドのせいだな。今の地球にはあんなモノを製作する技術はないはずだぞ……?アイツ一体何モンだ?」

 

知るかそんなモン!どうせサテライトの三賢者か何かだろ!

 

「チッ!じゃあ本人を気絶させて調べよう……確か展望台にピッチングマシーンがあったはずだよ」

 

「それだな」

 

 よし、じゃあまずはピッチングマシーンの所有者に話を通さないと。

 ……確かBIGWAVEの周りにいた子が、野球がどうとか言ってた気がする。確か、『コダマタウン・カイキ』ってピッチングマシーンに書いてあったはずだから……

 

 ーーコダマタウンーー

 

ええっと、ああ、いたいた。雰囲気はまさしく野球少年といった感じだけど、どうしてだろう、全身から自棄気味な雰囲気を感じる。

 

「……え?カイキはボクだけど……展望台のピッチングマシン?悪いけど貸すわけにはいかないね」

 

「どうしてか、聞いてもいいかな?」

 

 なるべく優しく、諭すように話しかける。

 

「……ボクは野球を捨てたんだ。キミには関係ないだろ!」

 

だから、何でなのか、聞いてるじゃないか!

 

「(ピッチングマシンの情報を吐かないなら色々とやりようはあるぜ……)」

 

 

 

 ーーコダマタウン・ウェーブロードーー

 

「それじゃあ、あの子のトランサーに入って、原因を探るよ」

 

カイキ少年がウェーブロードから離れて、トランサーにウェーブインできなくなる前に、調べてしまおう!

 

「おう、いいぜ!」

 

「それじゃあ、レッツ、ゴー!」

 

フフ、潜入ミッションスタートだ!

 

 ーーカイキ少年のトランサー内部ーー

 

はい、来ました。見知らぬ少年のトランサー内部です。中は思ったより広くて、自動車の電脳辺りを一回り小さくしたようなサイズのパネルとウェーブロードが広がっている。さて、お目当てのデータは……

 

「何々……あのピッチングマシンで遊ぼうとピッチマンのカードを通したとき……ピッチングマシンの上に赤い火の玉が見えたんだ……あのピッチングマシンには何かが取りついているに違いない!あのピッチングマシンのカードはベンチの下に封印したから、きっと火の玉はもう出ないだろう……だって」

 

「そいつはウィルスだろうな。ぶっ倒せば解決だぜ!」

 

 うん。そういう単純なのは、嫌いじゃない。

 

「まずはカードを見つけて読み込ませてみようか」

 

「いいぜ、どうせウィルスだろうがな」

 

 ーー展望台ーー

 

 カードを通したけど、こっちの操作を受け付けない……内部の回線が切れているということも無さそうだ。これはつまり……

 

「やっぱりウィルスか」

 

「そうだね……じゃ、行こうか」

 

 ーーピッチングマシンの電脳ーー

 

「へっ!案の定ウィルスにやられてやがるな……ぶっ倒すぜ!」

 

「うん!」

 

 ウィルスは……ベルゴングが一体に、キャノベースのGタイプが二体。キャノベースは戦ったことがあるけど、ベルゴングは初めてだ。原色のUFOから、頭を出したような形をしている。一応気をつけよう。

 

「ハッ!」

 

 チャージしたロックバスターをキャノベース一体に向け、発射。着弾と同時にウォーロックアタックで近づき、ワイドソードを振るう。

 デリートを確認し、既に発砲されていたキャノベースの砲弾をシールド斜めに受け、爆発の威力を幾ばくか逸らす。ここまでベルゴングは沈黙を保っているけど……いけるか?

 二体目のキャノベースに向かってチャージ済みのロックバスターを発射し、先ほどと同じようにウォーロックアタックで接近し、ロングソードで斬り捨てる。

 キャノベースがデータを電脳の海に散らせていくのを横目に、ベルゴングに注意を向ける……ッ!!消えた!?

 

「うわぁっ!……く!」

 

 いきなり消えたと思ったら、目の前に出現しUFOのライト部分に当たる膨らみを取り外して殴ってきた!

 なんとかシールドの展開に成功し、ガードする。

 油断したッ!

 

「うおぉぉっ!」

 

 シールドを前に思いっきり突き出し、ベルゴングを弾き飛ばす。その隙にバトルカードを選択し、追撃をしかける!

 

「ロック!」

 

「オラァァァッ!!」

 

 ヒートアッパー!ベルゴングは回転しながら宙を舞い、やがてその体を飛散させた。

 

「よし、やったぞ!」

 

「まさかウィルスが瞬間移動してくるなんてな……」

 

 ああ、良い勉強になったよ……

 

「さ、ピッチングマシンを起動させよう……あ、どうやって五陽田さんを誘き出す?」

 

「それはオレが担当してやろう……オマエはオレが誘いこんだヤツにボールを叩き込んでやれ!」

 

「イエッサー!」

 

 ーーコダマタウンーー

 

 ボクは今、展望台にある機関車の影に隠れて、ロックを待っている。

 

「ロックが誘きだしに行ってから、結構経つけど、大丈夫かな……」

 

あのロックが捕まるとは思えないけど、またゼット何たら、とかいって捕獲用の装備があったらマズイ。

 

『待て、ゼット波の発生源……ハァハァ……』

 

 ロックがこっちに来るのがビジライザー越しに見える!

 

「来たッ!」

 

「ハァハァ……やっと止まりおったな……もう逃がしはせんぞ……」

 

「スバル、今だ!」

 

「(ピッチングカード、カードイン!)」

おっと、声を出して気づかれるわけにはいかないぞ。……なるべくそーっとカードイン!

 …………モエルタマシイでイッキュウニュウコン、らしい。

 ともかく、発射ーッ!

 

「グァッ!」

 

 よし、ヒット!……じゃない、ストライク!バッターアウト!

 

「見事なデッドボールだったぜ……気を失っているだけだな。調べようぜ」

 

 ーー五陽田ヘイジのトランサー内部ーー

 

こうやって他人のトランサーに入り込むのにも慣れてきたボクがいるよ……

 

「何々……捜査メモ……ゼット波は宇宙からやって来た電波で、それを発生させるのが電波のカラダを持つ宇宙人……この付近でゼット波の関係すると思われる事件発生……要注意人物……星河、スバル!?」

 

 ボクだ!サテラポリスはもうそこまで……クッ!無能ではないってことか……サテラポリス本部の施設内部には、WAXAのヨイリー博士もいたはずだし。

 

「サテラポリスって一体何だ?」

 

 …………スバル君の記憶にあるぞ……

 

「サテラポリスっていうのは、フォースサテライト直属の組織で、警察じゃ解決できないような事件を担当してるって話だけど……」

 

確かエリート中のエリートって3で言われていたような……そう考えると、ルパン三世の銭型みたいな感じかな?……単独任務が許されているってことは、それなりにサテラポリスの中でも優秀ってことのハズだし。

 

「なるほどな、そんなヤツに狙われていたのか……よし、データを消しまくるぞ!オレたちに関わる情報を全て消してやる!」

 

ちょっと待って!……ただ消すのはマズイって……

 

「バカ!……そんなことしたら逆に怪しまれるじゃないか!データが消えている。消えたのは星河スバルに関するデータで、私はさっきその少年に会った。急に何かが飛んできて顔に当たり、気がついたらこの有り様だ。

 って……どう考えても怪しいじゃないか!」

 

「もう遅いぜ、ゼット波に関するデータは粗方消してやった……」

 

 ……うわぁぁぁぁぁ……

 

『う、うーん……本官は……確か何かを追いかけていたはず……そうだゼット波だ!強いゼット波を追いかけてここまで来たのだ!ゼット波の数値は……う、う、うわぁぁーーー!ほ、本官の調査データが全部消えている!……何て報告すればいいんだ!』

 

 ……気が動転していて、それどころじゃなかったみたい……何故バックアップを用意しておかないんだ……?

トランサーは不壊じゃないのに。

 

「さ、家に帰ろうぜ」

 

 ロック強心臓過ぎるよ……




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