影響されてカイジ要素が一ヶ所だけ……
ーー103デパート屋上ーー
両親から逃げ出してきた白金ルナは、103デパート屋上の隅で一人、震えていた。悲しみではない。体を震わせる程の怒りに体を支配されているのだ。
「パパもママもキライ……!」
自分の気持ちなど欠片もわかってくれない両親に嫌気が差し始めていた頃、不意に、心に染み込むような声がした。
『両親の前ではよく出来た娘を演じ、友人の前では虚勢を張る。……本当のアナタはどこにいるのかしら……?』
この、声は……?
「……誰!?」
『ここよ……』
声のする方を向くと、イベント会場の屋根の上、亜熱帯の館と書いてある看板の上に、奇妙な色の揺らめきを発見した。
「ワタシはオヒュカス……お前をしがらみから解き放つためのチカラを貸してあげる……」
何か気になるようなコトを言っているように見えたが、ワタシの心を最初に支配したのは、怪物に会ったという恐怖心だった。
「か、怪物……!!」
怪物と呼ばれて、首を竦めるような仕草をしたあと、再びあの心に染み込むような声色で話しかけてくる。
「何も、恐れることはない……。ワタシはお前にチカラを与えるためにやって来たのだ」
何が恐れることはない、だ。人を騙す存在とやらは、揃って自分は怪しくないとアピールしてくるものだ。それに……
「そんなの信じられないわ!ワタシ、アナタみたいな怪物に何度もヒドイ目にあってるんですから!」
今更、信じられるものじゃない。特に炎を纏った牛の怪物には手加減されたとはいえ、無理やり気絶させられたのだ。キズは残らなかったけど。
「そうか、ワタシ以外のFM星人に会ったことがあるようだな……ならば話は早い。お前の体をワタシに貸せ。そうすれば、お前が転校せずに済むようにしてやるぞ」
「えっ……?」
どういうこと……?
「お前一人で両親に転校を止めさせるなどできるはずもあるまい。しかし、ワタシがチカラを貸せばそれも不可能ではなくなるんだぞ?」
こ、これは……悪魔の誘いだ!だけど……
「けど、どうやって?」
ーーバシュッ!
看板の上から此方にワープのように飛んできて、ワタシに言った。目を合わせて、じっくり浸透させるように……
「見せるんだよ、お前の意思を。明確な意思表示を両親にしてやるんだ。『ワタシはパパとママの操り人形じゃない!!』ってな……」
…………。
「意思表示……」
一人では出来なかった。でも、コイツを受け入れれば……
「そうだ、ワタシを受け入れろ。そうすれば、お前の意思をワタシがお前の両親に強く見せつけてやる」
コイツを受け入れれば……パパとママに、ワタシの意思を……
『よく考えて、委員長!』
この声、スバルくん!?
「ソイツは委員長を利用しようとしているんだ!だから、よく考えて!」
「ワタシを受け入れるか、受け入れないかはお前次第だ……しかし、受け入れなければ、何も変わりはしないがな」
そうね……このオヒュカスの言ったことと、スバルくんの言葉を踏まえて考えてみる。
ワタシは転校したくない。そしてワタシ一人ではパパとママの考えを覆すことはできない。なんだ、ワタシ一人じゃあ、何一つ改善出来ないじゃない。
「委員長!」
スバルくんの声が聞こえる。こんな状況なのに安心なんかしちゃって、ホントワタシ、どうかしちゃってるわ……でも、ワタシにだって譲れないものがある!
「ワタシ、転校なんてしたくない!」
「お前の願い、ワタシが叶えてやる!!」
さぁ、チカラを貸しなさい!オヒュカス!
「……ダメか!委員長は、何処へ……?」
「屋根の上だ!」
スバルくんたちの驚いた顔が見える。ちょっとやり返した気分。だけど、ワタシの邪魔はさせない!
「ワタシの邪魔をしないで……」
さぁ、パパ、ママ。今までのワタシの心の痛みを、その身で味わってもらうわ!!無理やりにでもね!
ーーオヒュカス・クイーン退出後ーー
「委員長は、イベント会場の電波世界にいる……!急ごう!」
あんまり被害は出したくはない。幸い血清を持ってる蛇博士がいるから、死亡者の心配はないけど……
「オヒュカスか……厄介な場所に現れたものね」
ハープはオヒュカスについて知っているようだ。もしかして知り合いだったかな?
「厄介な場所……亜熱帯の館か!」
「そう、オヒュカスは蛇遣い座のFM星人だ。気を抜くと、ガブッといかれるぜ」
毒蛇怖い。
「うん、気を付けなきゃ……」
ーージリリリリリリ!!!
これは……イベント会場で何かが起こった?
蛇をばらまいたのか?
「早くイベント会場へ!」
「うん!」
ーーイベント会場ーー
ダメだ!やっぱり毒蛇が入り口から先を塞いでる!
「ウェーブインして中に入るよ!」
ーー屋上ーー
まずはウェーブホールを……あった!
「よし、屋上の隅にウェーブホールを見つけた。……そこからウェーブインしよう、ミソラちゃん!」
「了解!」
ーーイベント会場のウェーブロードーー
「やっぱり、そこら中にヘビがばらまかれている……」
「……そうだね」
ミソラちゃん、もといハープ・ノートの様子がおかしい。大変な事態ってのはわかるけど、それだけじゃないようにも見える。
「ミソラちゃん、どうしたの?体の調子でも悪い?」
「えっと、あのルナって女の子、この前学校で守った子でしょ?それに、ちょっと話してみたいことがあって……」
何か興味を引いたコトでもあったのかな?
「それは委員長を止めた後にでもたっぷり話せばいいよ。委員長、いい人だから」
「む~っ、スバルくん、その子のコト気に入ってるの?」
ミソラちゃんが不機嫌なのも何となくわかるけどね。
頬を膨らませても可愛いだけですよ、ミソラさん。
「えっとね、その子にブラザーバンドを結ばないかって、誘われたんだ。今日はミソラちゃんにそのことも話そうと思ってたんだけど……」
「え」
ハープ・ノートが呆けた表情で硬直した。
いや、酷くない?
「さっき委員長の親御さんにも言ったけど、ボクを学校に引っ張り出してくれたのが委員長なんだ。恩がある」
「…………」
「それに、学校でもよくしてもらってるし……ミソラちゃんは唯一のブラザーだから、最低限話を通しておきたかったんだ」
ど、どうですかね?
「…………さっきのあの子の表情を見て、ダメって言ったらワタシ、人でなしだよ……」
な、何とかいけるか!?
「ただし!条件があるの……」
何でもどうぞミソラ様!
「な、何かな……?」
死ねクズ野郎ッ!とかじゃなければ何でもしますとも。ええ!何でも!
「……ううん、やっぱりあの子を止めたあとにする」
えぇ……逆に怖いんだけど。
「さ、行きましょ、スバルくん!」
気を引き締め直したミソラちゃんを追う形でボクたちは、委員長の元へ向かった。
あ、ウェーブアウトしていかないと……
ーー現実世界・イベント会場最奥ーー
……やっぱり、委員長の両親が蛇に締め付けられている。すいません、もう少し委員長の話を聞いてあげてくださいね。
「ウググッ……!た、助けてくれぇっ!」
「クハッ……!く、苦しい……」
と、言うか聞いたことがあるぞ。確か蛇の締め付ける強さは、握力で換算すると数百からトンまでいくらしいから実はかなり危ないんじゃないのか、これ!?
い、いや、流石に両親を殺したりはしないだろうから、蛇に手加減するように命じているに違いない。
「大変、助けなきゃ!」
ミソラちゃんの叫びに応じるように委員長……オヒュカス・クイーンの声が響く。
「邪魔はさせないわよ!」
イベント会場の最奥にある、オオマダラ・アナコンダのレプリカ、その頭部付近に現れたオヒュカス・クイーン。
「委員長!キミのパパとママが苦しんでいるぞ!このままじゃ、死んでしまう!」
「違うわ!ワタシはオヒュカス・クイーン。ワタシは生まれ変わったのよ!ワタシには自分の意思がある!それをこの人たちにわからせてやるのよ!」
激昂するオヒュカス・クイーン。頼むから、取り返しのつかないことは止めてくれよ……!
「お、お前……ル、ルナ……なのか……!?グハッ!」
「ル、ルナ……は、離しなさい……ワタシたちに何故、こんなことを……」
「なら普段からアナタがワタシと話しなさいよ!もういい、ワタシはアナタたちの操り人形じゃない!アナタたちはいつもワタシのためだと何でもかんでも勝手に決めてしまうの。そのくせ毎日仕事でワタシには見向きもしない……アナタたちは、ワタシよりも仕事が大事なんでしょう!?だからワタシはアナタたちの子供であるコトを止めて、一人で生きていくことにしたのよ!!」
火に油を注ぐ形になってしまったようだ。
「バ、バカなことは止めろ!」
「心を縛られるのはカラダを締め付けられるよりも苦しいのよ!ヘビたちよ、もっと締め上げなさい!」
「グ、グワァァァッ!!」
「キャァァァァッ!!」
ヤ、ヤバイぞ!
「やり過ぎだよ、委員長!」
ダメだ。聞く耳持たぬって感じだ!毒蛇を警戒してじりじりと下がり始めるボク。意図に気づいたのか、ミソラちゃんも真剣な顔を崩さず、ボクに合わせる。これで!
「ありゃダメだ、オヒュカスに心を操られている。こっちの言うことなんて、聞きやしないぜ」
「やっぱりか……それ以上締め上げたら、キミのパパとママが!」
「うるさい!ワタシの邪魔をするなと何度も言っているだろう!!毒蛇よ、そいつを黙らせろ!」
口調まで変わってる。これは本格的に我を忘れてるな……って、ヤバい!
「ミソラちゃん!!」
「ワァッ!」
あ、危ない……咄嗟にミソラちゃんの腕を引いて助けることが出来た。凄く禍々しい色のヘビだ。これは噛まれたらかなりヤバいヤツだったな、絶対。予め来るってわかってなきゃ避けられないよ、まったく。
というか、最初からボクじゃなくてミソラちゃんを狙ってきたぞ!?どういうコトだ?
「ならば……出てきなさい、ヘビたち!」
す、凄い数だ!さっきのヘビとは違い、一般的なヘビのイメージ通りの色をしている。因みに緑色だ。
「チィッ!このままだと形勢不利だ!一旦出直すぞ!」
「わかった!……ミソラちゃんも!」
「う、うん!」
何だ?大人しく逃がしてくれる……?やっぱり追い払ってるだけなのか。よし、なら早いとこズラかろう。
ーーイベント会場ーー
何とか、離れられた。しかし、途中で毒蛇に噛まれた人が何人もいたんだ。やはりヘビを何とかしなければ……
「オイ、早くオヒュカスの野郎をぶっ倒しに行こうぜ」
「ダメだ!ヘビを何とかしないとイベント会場で被害が出てしまう!流石に放っとけないよ!」
「チッ……ならまずはあのヘビどもを何とかするぞ!アテはあるのか、スバル?」
「……ヘビは変温動物だから、周りが冷えると眠っちゃうんだ。冬眠ってヤツだね。どうにか空調を弄ることができれば……」
「スターフォースで何とかならねぇか?」
それは考えたけど、流石にこのイベント会場全体を冷やし続けていたら、いつか限界を超えてしまうよ。それに……
「無理だ。長時間の使用は負担が大きすぎるし、オヒュカス・クイーンとの戦闘まではなるべく体力を消耗したくないんだ。それにイベント会場の空調でこの気温や湿度を保っているから、冷やしても直ぐに元通りになってしまう」
「チッ!ならしょうがねぇか……」
よし、ならまずは……
「確か空調管理者のエンジニアがイベント会場にはいたハズだよね。でも、ここまで来るのにその人を見かけることはなかった。つまりヘビの特性を知ってるってことなんだ。だからヘビが来ないような、冷えた場所にいる可能性が高いってことになる」
「えっと……確か103デパートに、北極を題材にした展示があったはずだよ、スバルくん」
「あぁ、あそこか……頼もしいよ、ミソラちゃん」
この後のコトも考えて、おべっかも忘れない。
委員長を止めてハッピーエンドじゃないんだから、しょうがない。
「フフフ、ちょっと持ち上げ過ぎじゃない?別に心配しなくても、彼女に悪意があるわけじゃないんだ。ただちょっと、今までの話を聞きたいだけ。スバルくんが気にするようなことはないよ」
穏やかに笑うハープ・ノート。ヤバい惚れそう。
圧倒的笑顔……!
「アハハ……じゃ、行こうか」
ーー103デパートのウェーブロードーー
やっぱりここにもヘビがばらまかれている!
ええっと……北極の展示は……あった!
「よし、北極の展示スペースへ急ごう!あ、ミソラちゃんはウェーブロード上で待っててね」
「え、どうして?」
そりゃミソラちゃんって有名人なんだもん。下手に混乱させるよりはいい。それに万が一にもヘビが来ないとも限らないし。ミソラちゃんの柔肌にキズをつけるなんて普通に暗殺案件だと思うんです、ハイ。
「えっと、ヘビに噛まれてほしくないし……」
「心配してくれるんだ。そう……ふふっ」
満足気なミソラちゃんを何とか説得し、ボクは北極の展示スペースへ向かう。さっさと済ませないと。
ーー103デパート・展示スペースーー
現実世界に降り立ったボクは、かまくらの展示物に人の気配を感じ、声をかけた。
「エンジニアさん、いますか?」
『……………………』
無視されたかと思ったが、ビビってるだけなのかな?
「あのー?」
「ちょ、ちょっと待っててくれ!」
いそいそと出てきたのは紛れもない、空調管理のエンジニアさんだ。
「ガチガチ……い、いったい何がお、起こったんだ?ききき、急に大量のヘビにおおお、襲われて……と、咄嗟にこのひ、氷山にか、隠れたんだけど……」
コイツがイベント会場にいれば問題は起こらなかったんだよね。まぁ、いいや。昼食に休憩してただけだろうし。人の勤務時間にまで口を出す気はないよ。
「あの、エアコンをコントロールするカードを持ってますよね?ボクに貸して欲しいんです!急いでいるので!」
「え、あぁ、エアコンの?何に使うの?」
「人命救助ですよ!」
「そりゃ、大変だ!持っていきたまえ」
よし、『エアコンカード』を手に入れたぞ!
「ありがとうございます!」
「き、気をつけてな……」
ーー103デパートのウェーブロードーー
「お待たせ!エアコンカード、もらってきたよ!」
「じゃ、イベント会場に急ぎましょう!」
何か楽しんでない?
ーーイベント会場のウェーブロードーー
「ここからはウェーブアウトしていくよ!」
「了解!」
……なんだか今日って、電波変換と解除、し過ぎじゃない?
ーーイベント会場・最奥ーー
「オヒュカス・クイーン!」
ホントはイベント会場に入ってすぐ使ってもいいんだけど委員長……オヒュカス・クイーンの出方を見ないといけないからね。不思議に思って、イベント会場の外まで出張されたらたまらない!
「また性懲りもなく現れたわね……アナタが何をしたところで、ワタシを止めることは出来ないわ!」
「取り敢えず、ヘビの毒に苦しんでいる人は解放させてもらうぞ!『エアコンカード』、カードイン!」
……また何か出てきた!エアコンマンだって。触れ込みは『暑さ寒さも自由自在!快適空調エアコンマン』らしいけど。とにかく、冷房をタッチ!
『クラクラクラ、クーーーラーーー!!温度を下げましょヒュールルルー!』
その変な口上はカードナビ共通なんですか……?
何はともあれ成功!
「バ、バカな!このエリアの温度が下がっていく!!あぁ、ワタシのヘビたちが……」
前から思ってたんだけど、普通ヘビを操ってたらその弱点にも気を配らないかなぁ?
「……温度が下がったせいでヘビたちが冬眠状態になってしまっただと!?お、おのれ……!!」
FMプラネットのヘビは冬眠なんてしなかったとか?電波体のヘビ?
『冷却完了!』
「委員長、もういいはずだよ!キミの声は、ご両親に届いてる!それに、もうヘビを操ることは出来ないんだぞ!?詰みなんだよ!」
「うるさい!うるさい!ワタシの邪魔は誰にもさせない!!」
……オオマダラ・アナコンダの電脳に入ったか。
「そのデカいヘビのロボットだ!ヤツは電脳世界に逃げやがった!追いかけるぜ!」
「オッケー!行くよロック!」
「わ、ワタシも行くよ、スバルくん!」
ええっと、飛び回るから、あんまり飛行不可ユニットは要らないんだけどな……。でも、ミソラちゃんは真剣に見える。電脳体なら、死ぬことも滅多にない……か?
「えっと、ボクは電脳世界に入ったら、飛び回らなきゃいけないんだ。だからミソラちゃんと一緒に行動するのは……」
「……ん」
「何?ミソラちゃん。腕を伸ばしたりして……」
「…………お姫様抱っこ」
ええぇ……ボクたちって、何しに来てるんだっけ……?
っていうか、最後のセキュリティを突破したらオヒュカス・クイーンにゴルゴンアイだっけ?で、撃ち落とされそうなんですけど。いや、何でかはわからないけど。
「どうやら女王は二人いたみたいだね……」
どっちもクイーンと言うには可愛らしすぎるけど。
「もうっ、スバルくんったら!」
あぁ、もうわかったよ!任せとけ!
「それじゃ、ウェーブインしてオオマダラ・アナコンダの電脳へ!」
おかしい……こんな感じじゃなかったハズなのに……
「クスクスクス……ミソラも大胆になったわねぇ……」
……ハープの入れ知恵だったの!?
どうしてこんな雰囲気になってしまったのだろうか。
おかしい……緊急事態だと思ってたら、いつの間にかラブコメになっていた……催眠術や超スピードなんてチャチなもんじゃ断じてねぇ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……