そして長い。
ーーオオマダラ・アナコンダの電脳1ーー
これは……食虫植物?のような背景の電脳だ。分かりにくい人はウツボットって言えばわかるだろうか。アナコンダの電脳なのに、どうして植物モデルの背景になっているのかはよくわからない。関連性ないよね?
ボクたちのコトを暗示しているのだろうか。バトルカードやミステリーウェーブに寄ってきた虫……みたいな。
「この奥に、オヒュカス・クイーンが……急ごうか、ハープ・ノート!」
「んーっ!」
ハイハイ……
「じゃ、抱えるから楽にしてね……」
「♪~♪~」
ノリノリですね、ミソラさん。
「……ロック、行くよ!」
「おう!」
スタァァフォォス!!
そういえば、ブラザーと共闘してブラザーになる人と戦うって、何だかおかしくないかなぁ……
いや、委員長には必要なことか。
「よし、行くぜ!追い詰められたヤツは何を仕出かすかわからねぇからな……とっとと探して仕留めようぜ」
「わかった!」
「ラジャッ!」
絶対楽しんでるよ、ミソラちゃん……
さて、まずは周りをひとっ飛び……するほどでもないね。ゲートタイプのセキュリティがかかってる。すぐそばにデンパくんが倒れているから、話を聞いてみよう。
「キミ、大丈夫?」
「……ウウ、ジ、ジツハ ヘビツカイミタイナオンナガ キュウニ デンノウニ ハイッテキテ……ア、アチコチニ ドクヘビヲ マイタンデス……ソノ ドクヘビニ カマレテシマイマシテ……」
やはり毒か。デンパくんにも効く毒なんて、よく聞くととんでもないよね。
「大丈夫なの?」
「ワ、ワタシノカラダヨリ タイヘンナノハ ソコノ トビラデス……ソノトビラハ ワタシジャナイト ヒラキマセン。シ、シカシ ワタシガコノ アリサマジャ……」
「解毒は?出来ないの?」
「ハ、ハイ。ドコカニ ゲドクザイ ガ アルハズデス……ソレサエアレバ……」
さっき見たときにあったな、解毒剤。なんとかなりそうだぞ。……やっぱり飛行って偉大だね。
「オッケー、任せて!」
ウェーブロードを跨いですぐそこだ。数秒もかからないだろう。
「よし、飛ぶよ……大丈夫、ハープ・ノート?」
「んっ……」
回答は微かに身をよじらせたことで、喉を鳴らした音だった。まるでネコみたい。
……だから妙な気分にさせないでよ!
ーー二分後ーー
よし、取ってきたぞ、解毒剤!途中でデカいヘビがいたけど、飛行するボクには関係なかった。
「……ン?オオ!ナオッタヨウデス!アリガトウゴザイマス!!オット、ソウソウ……トビラデシタネ……ムン!!」
ーーガシャーーン!!
扉が開いた。結構楽に進めそうだぞ、この電脳は……
「ドウゾ オトオリクダサイ」
「ありがとう!」
よし、次だ……
「ウウ……ドクヘビ ニ ヤラレマシタ……」
「解毒剤取ってくるから待っててね!」
あと何回繰り返すんだっけ……?委員長父母の骨がもつといいんだけど。
ーー二分後ーー
「……ン?オオ!ナオッタヨウデス!アリガトウゴザイマス!!オット、ソウソウ……トビラデシタネ……ムン!」
ーーガシャーーン!!
さっきとまるで同じパターンだ。
「ドウゾ オトオリクダサイ」
「うん、ありがとう」
よし、次のエリアだ。
ーー十五分後・アナコンダの電脳3ーー
都合9体程のデンパくんに解毒剤を渡し、とうとうボクたちは全てのセキュリティを突破した。因みにボクはずっとハープ・ノートを抱えたままだ。スターフォースの影響か、あまり腕力の衰えを感じない。
あとは一気にオヒュカス・クイーンのいるエリアまで飛ぶだけか。でも、さっきからちょくちょく飛行中のボクたちに二筋のレーザーが飛んでくるんだけど、こんな仕掛けあったっけ?
「よし、じゃあオヒュカス・クイーンまで一気に移動するから、ちょっと揺れるよ」
「うん、優しくしてね……?」
ハープゥ!いい加減にしてよ、頼むから……
ミソラちゃんにそういうの教えたらダメじゃないか!
「スバルくん、頑張って……!」
もちろんですとも!
ーーアナコンダの電脳3・最奥ーー
遂にたどり着いた電脳の最奥には、委員長……オヒュカス・クイーンが佇んでいた。側には倒れ付した委員長の父母の姿がある。やはりFM星人のゼット波に影響を受けているようだ。
「オヒュカス!委員長の体から出ていってもらうよ!」
「ロックマン……!」
何だか怒ってる?
……あ、ハープ・ノートを抱えたままだったね。
「それじゃ、降ろすよ……」
「あっ……!」
そこ!名残惜しそうにしない!罪悪感が半端ないけど、悪いのはボクじゃない。
何だか変な空気になりそうだったが、空気を読んだオヒュカスが出てくることで再び緊迫した雰囲気に戻ることとなった。
「やはり現れたな、ウォーロック。このムスメからはお前の匂いがプンプンしてたからねぇ……このムスメに取り憑いて、騒ぎを起こせばキサマが現れると思っていた。……まんまと誘き出されてくれたようだね」
なんと言うか老練?というかオバサン臭がするのは気のせいだろうか。
「ケッ、相変わらず気にくわねぇヤツだぜ……オヒュカスよぉ!どうせやるんだろう?サッサとかかってこいよ!」
「血の気が多いのは変わらないねぇ……まぁ、落ち着きな。……どうだい、ワタシと取引しないか?」
ロックの威勢を軽くいなし、余裕を見せつけるオヒュカス。常に両手で持っているプーンギのような笛も、電波で出来ているのだろうか。
「取引だと?」
首を傾げるロック。そりゃそうだ。こっちは戦うためにここまで乗り込んできたんだから。
「そう、取引だよ……お前の持っている『アンドロメダのカギ』なんだが、ソイツを使って二人でこの星をシハイしないか?お前も知っての通り、『アンドロメダのカギ』だけではアレは動かせない。アレを動かすためにはお前の持つカギと、FMプラネットの管理するコントロール装置が必要だ。お前さえチカラを貸してくれるのならば、コントロール装置はワタシが王を欺いて手に入れてやろう。そうすればFMプラネットの誇る最終兵器、『アンドロメダ』は我々のモノとなる!」
あー、そうか。カギと本体だけじゃダメだったのか。
別にアンドロメダを破壊することに変わりはないから、問題ないんだけども。
「なるほど……で、オレがその誘いを断った場合は……?」
ま、ロックも渡す気はないよね。
「そのときはチカラづくで頂くまでだ……!まさか、断られるとは思っていないのだがね」
「そうか……オレがカギを渡しさえすれば、地球をオレたちが手に入れられるんだな……?」
何だ?この流れ……何処かで聞いたことがあるぞ。
「あぁ、そうだ。だからワタシと一緒に……」
「だが断るぜ!!」
「ナニッ!?」
ロック!?
「……このウォーロックの最も好きなことの一つは、自分が絶対に正しいと思っているヤツに対し、NOと言ってやることだ!スバルが言ってたぜ……こういうヤツには、こう言ってやればいいってな!!」
「ちょっ、今言うことかい、それ!?」
【悲報】ロック、ジョジョラーになる。
いや、ロックがスタンドみたいなモンなんだけどね。
どっちかって言うと、悪霊よりの。
「ウォーロック、キサマふざけているのか……!?」
「ヘッ、違うね!このオレに地球をシハイする気なんざ、欠片もねぇ!興味があるのは、いかにオマエらFM星人を全滅させるかだけだ!!」
自信満々に啖呵を切るロック。岸辺露伴さえなければカッコよかったのに!
「交渉決裂……では、チカラづくでカギを頂くとしよう……ワタシの誘いを断ったコトをあの世で後悔しな!!シャーーーーッ!!!」
蛇遣いなのにヘビの真似事をするなんて、律儀なヤツもいたもんだ!
「いくらロックマンであろうと、ワタシの邪魔をさせるワケにはいかない!それに、アナタたちふざけてるの!?さっきから見ていれば、イチャイチャと……」
返す言葉もありません……
「……………………い、委員長の体から出ていってもらうぞ、オヒュカス!」
「え、えぇ……そうよ!アナタには正気を取り戻してもらうわ!聞きたいことも、あるもの……」
何故、今回は何処か締まらないんだろう。
「来るぜ!」
「わかってる!ハープ・ノート!」
「援護は任せて!」
ウェーブバトル、ライドオン!負ける気がしないぞ!
「さぁ!ヘビたちよ……行きなさい!」
オヒュカス・クイーンが体を振ると、割と大きな体から染み出るようにヘビたちが此方へ向かってきた。
なるほど、2対1だからね。同時攻撃による足止めは必要か。各個撃破が理想なんだろうけど、生憎とボクもミソラちゃんもそこそこ速い程度のヘビに掴まるような鍛え方はしていない。そもそもボクは飛べるんだ。こういった攻撃はハープ・ノートにしか通じない。
「ハープ・ノート!」
「大丈夫!これくらいなら、対処出来るよ!」
そう言って出現させたアンプからショックノートを発生させ、ヘビを迎撃するミソラちゃん。あっちは任せて大丈夫だろう。ボクは本体だッ!
「行くぞッ!」
因みにボクのフォルダは既に、ミソラちゃんとのデートまでの数日間で一応整えてある。今回はミソラちゃんが援護してくれるので、接近戦用の構成だ。つまりソード系オンリー。
おっと、戦闘に集中しないと。滞空しているとウォーロックアタックが使えないから、ロックバスターでチマチマ削らないといけなくなる。なので地上戦メインでいくのが良さそうだ。ゴルゴンアイ怖いし。
「ハァッ!」
リュウエンザンで側面から斬りかかる。オヒュカス・クイーンには足がないから、ズルズルと這わないと移動することが出来ない。これがどう影響してくるか……
「グッ……ハァッ!」
攻撃を受け、一瞬苦しんでから尻尾を振り回してくるオヒュカス・クイーン。振り回すというよりは、回転した体に尻尾が振り回されているといった感じだ。やはり尻尾自体を操ることは出来ないらしい。
「危ないッ!……フゥ」
不意討ちに近い一撃だったが、何とか避けることが出来た。今度は背後からだッ!
「ロック!」
「ウオォォォッ!」
一度目のウォーロックアタックでオヒュカス・クイーンの右側面を通り過ぎ、オヒュカスの死角十メートル程に移動。二度目で一気にオヒュカス・クイーンの背後を取るッ!
「うおおおっっ!!……って、これは!?」
尻尾で捕らえられた?……精密に操作することは出来ないハズじゃあないのか!?
「フフフ……教えてアゲル。ヘビの体って、結構筋肉質なのよ。……意外だったかしら?」
「じゃあ、さっきのは……」
さっきのは、動かせないと思わせるための……トリック!
「ブラフに決まってるじゃない。……電波体だからって浮いてるとでも思ってたの?それにワタシ、幼い頃から演技は得意な方だから……」
両親の前では優等生をってヤツか……!オヒュカスは浮いてたけどね!……クソッ、油断した!
「このまま締め上げてアゲル……!」
こ、これはヤバい……オヒュカス自身に毒はないハズだから、ヘビの構造上持久力を重視した構成の筋肉になっているハズ……!
「ウ、ウググ……」
「折角翼があっても、こうなってしまったら形無しね……」
マズイ……!脱出不可能だ……!
「スバルくん!」
明るいメロディーと共に飛んできたショックノートがオヒュカス・クイーンの尻尾にヒットする。
ラッキーだ、拘束が緩んだぞ!今のうちに脱出を!
「ありがとう、ハープ・ノート!」
「気にしないで!」
よし、次はこれだ……!
「き、消えた……?いえ、これは……『インビジブル』!ワタシが以前所持していたカード……!」
ヘビの聴覚が悪いことは知っているからね!
姿を見失った以上、こちらを感知することは出来ない!
「クッ!ならば……」
足音を消すため、既に飛翔しているボクの目にはオヒュカス・クイーンの目が発光しているように見えた。
あれは、一体……?
「……見えた!そこかッ!」
あれはゴルゴンアイ!嘘だろ!?インビジブル中で見えないハズなのに。……対インビジブルってそういうことなの!?
「ウッ!……やはり見えている!」
何とかシールドで防ぎきったものの、これはマズイぞ……!ハープ・ノートの攻撃じゃ軽すぎるし、決定的に決め手が欠けているんだ!マジシャンズフリーズを当てられればイケるかもしれないけど、ベースは委員長。素直に当たってくれるとも思わない!
「どうすれば……!」
いや、あるぞ!オヒュカス・クイーンを攻略する方法が!
「ハープ・ノート!」
「オッケー!」
アンプからショックノートを出し、牽制するハープ・ノート。
「こんなもの……!」
今!
「チッ!また『インビジブル』を……!」
今回はスピード勝負だ。高速でウォーロックアタックを繰り返し、オヒュカス・クイーンの背後を取る。
「そこかぁッ!」
動き出した尻尾の先を掴み、そのまま最大速度で飛び上がる!伸びきった状態なら、拘束も出来まい!
「ウワァァァッ!!」
悲鳴を上げるオヒュカス・クイーン。
なんかごめんなさい……
「食らえッ!」
上空高くまで引き上げた巨体を、今度は地面に叩きつける!いきなりウェーブロードに叩きつけられたオヒュカス・クイーンは直ぐに戦闘態勢を取ることが出来なかった。当然だ。さっきまで普通の女の子だったんだからね。
「いくよッ!マジシャンズ・フリィィズッ!」
気合いを入れて発生させた氷柱は、見事オヒュカス・クイーンを捕らえ、氷結させた。
「ウグアァァァッッ!!」
女の子がしちゃいけないような叫びを発するオヒュカス・クイーン。これはオヒュカスが叫んでいるに違いない。違いないったら、違いないんだ。
「フゥ……」
氷柱を解除することで支えを失い、倒れ伏すオヒュカス・クイーン。デリートは避けられたようだ。よかった。
「ウググゥゥ……」
「チッ、限界はとうに越えているクセにしぶといヤツだ!」
ロックが鬱陶しそうに毒を吐く。キミってオンナには本気を出さない趣味じゃなかったっけ?
「オヒュカス!委員長から直ぐに出ていけ!……既にお前は詰んでいる!」
「ハ、ハァハァ……お、お断りするよ!こうなったら、このムスメも道連れにしてやる……!」
そんなコト、させるものかよ!
『往生際が悪いのは、美しくないね』
ゲッ!ジェミニ!やっぱり潜んでたか……!
「その声は……まさか、ジェミニ!?」
オヒュカスが驚愕を表すように叫ぶ。
「……ジェミニだと!?2対2、いや3か……ジェミニの野郎は万全の状態か。これは分が悪いぞ!」
何?そんなにジェミニって評価高いの!?
「ジェミニ、いいところに来てくれた!ワタシと一緒にこの裏切りモノを始末しておくれ!」
一筋の希望を見つけた!と、ばかりにジェミニに助けを求めるオヒュカス。しかし、なぁ……
『……フフフ。そうだね、始末を着けなきゃね』
「ロック、ジェミニの気配は!?」
無駄とわかっていても、聞かざるを得ない!
「わからねぇ……!ただ、オレたちがヤツの射程距離に入っちまってるってことだけは確かだ!」
「ジェミニ!早くやってしまって!!」
もう後がないことを自覚しているんだろう。オヒュカスの声色は、既に懇願するようなものに変わっていた。
『フフ……せっかちだね、キミは。……そんなに焦らなくても、直ぐに始末してあげるさ』
来るッ!
『……ジェミニサンダー!!』
「ギャーーーッ!!」
一応ボクに落ちてくるかと思って警戒したけど、ジェミニの選択は変わらなかったらしい。突如降ってきた落雷は、敵であるオヒュカス・クイーンの体に叩き込まれることになった。
「ジ、ジェミニ!!な、なぜ……!」
未だに自分に起こったことが信じられないという表情のオヒュカス。
「ウ、ウワァァァァァ!!」
断末魔の声をあげ、消滅するオヒュカス。キミの存在は無駄ではなかったよ……
『ウォーロック……いや、ロックマン。いずれキミとは直接戦うコトになるだろう……そのときまで『アンドロメダのカギ』は、大事に抱えていることだな』
「何故、オヒュカスを殺った!?」
ロックも信じられなかったらしい。
『邪魔だから……さ。オレにはオレの目的があるんでね。……けど、次は間違いなくキミを狙うことになるだろう』
「行きやがった……ケッ、いけすかねぇヤロウだぜ」
どうやら行ったらしい。正直何処に隠れていたのか、検討もつかない。あんまり隠れられるスペースはなかったハズなんだけどな。
「あ、委員長は!?」
オヒュカスが消え去り、両親の側に倒れ付した委員長の元へ駆け寄るボクとハープ・ノート。
「委員長!大丈夫!?しっかりするんだ!」
「……ウ、ウウン…………ハッ!ロ、ロックマン様!?」
ボクの呼び掛けが聞こえたのか、意識を取り戻す委員長。ハープ・ノートは空気を読んで特に何も言ったりはしない。
「ワ、ワタシ……大変なコトをして……ど、どうしよう」
今さらながらに、自分のやったことを自覚したらしい。体が震えている。あんまりいい気分じゃないな、折角オヒュカスを倒したってのに。委員長には常に自信満々、というか唯我独尊でいてほしいし。
「大丈夫。キミの思いは伝わってるはずだよ。それに悪いのは心の弱さにつけこんだFM星人さ。それももういないんだ。安心していい。キミのパパとママも気を失っているだけだから」
ーーゴゴゴゴッッ!!
ウッ!電脳が揺れている!
「オイ!さっきの爆発の衝撃でこの電脳世界が不安定になっているぞ。早いトコずらかったほうがいいんじゃないか?電脳世界が消えたら、このまま現実世界に戻されちまうぞ」
ハープ・ノートの方を見ると、了解したとばかりに親指を立てている……ウインク付きで。心配は無さそうだ。
「そっか……じゃ、委員長、ボクは行くから……」
この後は……わかってるんだけどなぁ……流石に女の子一人にするのは……でもなぁ……いや、これも星河スバルとしての責任か。
「ロックマン様……!!」
やはり抱きついてきた。きっと今の委員長は凄く不安なんだろうな。まぁ、どうせブラザーになったときにロックマンの正体なんて、わかっちゃうことでもあるし……
「ワタシ、これからどうしたらいいか……グスッ!」
「……大丈夫。キミは一人じゃないよ」
抱きついてきた委員長の頭をゆっくり撫でて、励ます。そう、委員長は一人じゃないんだ。ゴン太やキザマロ、それにボクだって……
「うぅ……ロックマン様ぁ……!」
「……電脳世界が消えるぜ」
ロックが教えてくれるけど、その声には覇気がない。何故だろう……背筋に寒気が走ったような気がするのは、気のせいかな?
「キャーーーッ!!ロックマン様ーーーッ!」
委員長の絶叫を聞きながら、ボクたちは強制ウェーブアウトすることになった。……さっきから怖くてミソラちゃんの方を見れないんだけどね。
ーー現実世界・イベント会場最奥ーー
抱きついてきた委員長の頭を撫でた状態のまま、現実世界に戻ってきたボクと委員長(とミソラちゃん)。
すぐそばには委員長の父母の姿もある。どうやら無事に脱出出来たようだ。
「ロックマン様…………ロッ……ク……スバルくん……?そ、そんな……!」
慕っていたロックマン様の正体がクラスメートだと知った委員長の驚きは凄まじいものだった。開口したまま後退りするなんて、普段の委員長ならはしたない行為として絶対にやらないだろう。
「ウ、ウソでしょ……まさか……アナタがロ、ロックマンだったなんて……しかもピンクの方は、響ミソラ……!?」
「……黙ってて悪かったよ」
「ホ、ホントに……?」
委員長がまだ信じられないとばかりに確認してきたが、返事をする前に委員長の父母が意識を取り戻した。
「う、ううん……」
「パパ!!」
「うぅ……」
「ママ!!」
意識を取り戻した父母を介抱する委員長。ここは手を出すべきではないだろう。
「ルナ……」
「ママたち、夢を見ていたわ……ルナが泣いている夢……『もっと、ワタシを見て』って……」
「夢の中のルナに本心を聞かされてショックを受けたよ……生き方を縛られるコトは、カラダを縛られるよりも苦しいコトだ……私たちは、今までお前を見えない鎖で縛っていたのかもしれない。……転校の話も白紙に戻そう。私たちは、一度話し合う必要があるんだ。しっかりとな。……お前の意志を聞いておきたい。すまなかったな、ルナ……」
「パパ……ママ……」
親子三人で抱き合い、家族の絆を確認する委員長たち。
とても、美しい光景だと思う。
人が人を理解することは、本当に難しい。たとえそれが常日頃から側にいる人だったとしてもだ。だからこそ人は、分かり合うための努力をしていかなきゃいけない。分かり合おうとする勇気も出せないで、本当の絆を手にすることは出来ないと、ボクは思う。
「じゃあ、ボクはそろそろ帰るよ……ミソラちゃんは?」
「流石に水を差すわけにはいかないよ。……また今度の機会にしようかな」
「ちょっと待ちなさい!」
ボクたちが揃って帰路に着こうというときに、委員長が引き留めてきた。別に明日の学校でもいいのに。
ーー十分後ーー
十分後にまたイベント会場の最奥に来なさい!とのご要望だったので、ボクたち二人は連れ添ってこのイベント会場・最奥にやって来ていた。
「パパとママはどうしたの?」
「ほ、他のフロアの様子を見に行ったわ……」
何だか委員長の様子が変だ。赤面しているように見える。いや、いつもからかってばかりのヤツなんかがロックマンでゴメンね……
「そ、そんなコトより…………その……助けてくれて……アリガト」
わぁーい、委員長のデレだぁ……!そんなコトより、ミソラちゃんの反応が怖いよ、ボクは。さっきから喋ってないし。ニコニコしてるし。確か笑顔って、威嚇の意味じゃなかったっけ?
「……まだ、信じられないんだけど、アナタ、ロックマンなのよね?その……響ミソラも」
「うん、そうだね」
「そうだよ」
ボクたちの反応を見て、やはり真実だと悟ったのだろう。委員長が息を吐く。……何だか安堵している?いや、直ぐに赤面に戻ったぞ。面白いな、コレ。
「そ、その……勘違いしないでよ!ワ、ワタシが今までロックマンに向けてきた思いは、あくまでロックマンに向けたものであって……その、アナタに向けたモノじゃないんだからね!」
なんという典型的なツンデレ。
「アハハ……劇のロックマン役も、ボクは楽しかったけどね」
「ア、アナタねぇッ!やっぱりあのとき、耳元で囁いたでしょう!」
顔を更に赤くする委員長。ま、あれはボクも恥ずかしかったからね。おあいこだよ。
「あ、バレてた?でも助かったのは事実なんだ、別にいいでしょ?本物のロックマンだったんだから」
「スバルくん……その話、後で聞かせてね……?」
ゲェッ、藪蛇だったか!
「えっと、それは……」
「アナタもそうよ!響ミソラって……有名人じゃない!……二人はやっぱりブラザー、なの?」
最後だけ語調の弱まった発言になる委員長。別に気にすることじゃなくない?
「フフッ、そう!ワタシがスバルくん唯一のブラザー、響ミソラよ!」
何故かとても誇らしげに胸を張るミソラちゃん。やはり小学生か。張る胸は流石にn
「スバルくん?」
「ヒィッ!ごめんなさいミソラ様!」
怖い、怖いよ!
「フフッ、まぁいいよスバルくん。ところで、アナタ、スバルくんのクラスメートなんだよね?ちょっと話しておきたいことが……」
「え、えぇ。構わないけど……」
そう言って密やかに話し込む二人。
ミソラちゃんの手の動きからして、男は邪魔らしい。星河スバル、退散しま~す。
二十分後、イベント会場から出てきた二人はとても親しそうに見えた。仲良く手を繋ぎ、話をしているが、ここからじゃあ聞くことは出来ない。
「何を話してたの?ミソラちゃん」
「フフッ、女の子には女の子にしか出来ない、話があるんです~!」
ボクの質問に対し、はぐらかすような答えを告げるミソラちゃん。委員長の機嫌も良さそうだ。本当に何を話していたのだろう。
「あ、そうだ委員長。ブラザーバンドの件なんだけど……」
ここでミソラちゃんの方を見る。相変わらず満面の笑みだ。ダークオーラなんて微塵も感じない。
「うん、ワタシからは何も言うことはないね。ルナちゃんも良い子だし、大賛成だよ!」
ホントに何があったんだ……!?
「ええ、じゃあ早速ブラザーバンドを結びましょう!」
委員長も凄くニコニコしている。逆に怖くなってきたよ、ボクは……
「あ、ワタシもルナちゃんとブラザーバンド結んだから、そこのところもヨロシク!」
ノリノリのミソラちゃんから告げられたのは、衝撃の内容だった。
「え!?ミソラちゃんも?」
いや、いいの?
「ルナちゃんとは、凄く気が合ったんだ。ね?」
「ねーっ!」
イエーイ、とばかりにハイタッチする二人。もう着いていけないよ……
「あ、あのコトも、ルナちゃんには話して大丈夫だと思うよ!」
ええ!?もうそこまで信頼してるの!?
「いや、別にいいけどさぁ……」
ボクとしては、ミソラちゃんが分かっていればいい、ぐらいにしか思っていなかったけど、どうなんだろう。委員長は受け入れてくれるのだろうか。
「ええっと、実はボクは……」
ーー五分後ーー
「……というワケなんだ。頭可笑しいと思うなら、ブラザーバンドを切ってもらっても構わないけど……」
「バカね!ワタシがずっと接してきたのはアナタでしょう!?今さらそんなコトで……」
何ということだろう。さらっと受け入れられてしまった。ボク自身も理解者がいるだけで、結構オープンに話せるようになってきたのだろうか。
この日、ボクは新しいブラザーと秘密の共有者を同時に一人、得ることになったんだ。
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