ーーコダマタウンーー
ーーガチャッ!
「お、おはよう。委員長……」
「あら、スバルくんおはよう。……顔色が悪いけど、何かあった?」
どうやら昨日の疲れが顔に出ていたらしい。苦笑いしてたってのもあるかもしれないけど。
「いや、何でもないって。フフッ、ありがとう。心配してくれたの?」
「い、いや……その、ちょっと気になっただけだから!何もないならいいんだけど……」
「行ってらっしゃ~い!」
今日もあかねさんは満面の笑顔だ。いや、とても嬉しいんだけど何やら寒気が……
「わぁっ!」
「な、何!?どうしたの!?」
左腕のトランサーが勝手に動きだした……?いや、ミソラちゃんの仕業か!……画面にはムスッとした顔のデフォルメハープ・ノートが映っている。フキダシが出ているぞ……何々、なんか新婚さんみたい、だって?知らないよ、そんなこと……
「な、何でもないよ……」
「そう?まったくスバルくんったら、世話が焼けるわねぇ……フフッ」
なんでそんなに嬉しそうなんですかね。こういう年相応の可愛いところもあるんだなぁ……って、うわぁ!またかよ!ミソラちゃん自重してください……!
ーーコダマ小学校5-Aーー
ここは普段ボクたちが授業を受ける教室だ。生徒用のデスクには全てPCが搭載してあり、トランサーとデータのやり取りをすることで宿題なり、ドリルなりのデータを送受信出来るというわけだ。
「よ~し、みんなちゃんと座ったか~?それじゃ、授業を始めるぞ~!今日は……算数の教科書、24ページをからだな。オマエたち、ちゃんと宿題はやって来たか~?」
育田先生の声で授業が始まったことを悟る。どうやらこの後の苦労を想像して、現実逃避していたらしい。トランサーを見ると、フキダシが出まくっている。面倒くさいのでデフォルメハープ・ノートに向かって、
「(ゴメンね、ちょっとミソラちゃんのコトを考えててボーッとしちゃってた)」
そう言って授業に集中しようとしたけど、トランサーの画面を確認したらフキダシは消え去り、代わりにトランサーが熱を持ち始めた。ア、アチッ!
ーー休み時間ーー
幸運にも、授業中にボクの行動を訝しがられることはなかった。隣のデスク……ツカサ君が不在だったのも大きかったのかもしれないけど。今は委員長と話し込んでいる。話題はトランサーに書き込んでいない情報のことだ。まぁ、好き嫌いとかそういう類いのものだけど。それに、この話題になってからハープ・ノートがトランサーを動かすこともない。平和な話題だ。
「あ、そうだ委員長。ボクたちはブラザーなワケだけど、何かトランサーに入力してない、気になるコトとかってある?」
「そうね……スバルくんの好きな食べ物とかってワタシ、あんまり知らないわ。あ、あと、気になる人とか……」
最後はボソッと言ったので聞こえなかったけど、言いづらいことか……あ、もしかしてもっと早く登校したいとか?誰よりも早く登校して、委員長の威厳を見せたい……とかなら納得出来そうなのが委員長なんだけど。フフッ……ドヤ顔で、登校してきたクラスメートに向かって挨拶する委員長可愛い。
「オーイ、スバル~!ドッジボールしようぜ!」
あ、ゴン太の声だ。そういえば、今日の昼休みはドッジボールをするって約束してたんだっけ。実はボク、結構ドッジボールは好きだ。使うボールは結構柔らかいヤツだから、トランサーを着けたままでも出来るし、カウントプログラムを用いるので正確にアウト・セーフがわかるという親切仕様だ。
「はぁーい!あ、委員長……そういうわけだから、また今度ね!」
「あ……うん……また、今度ね……」
学校にいれば何時だって話せるのに、なんであんなに寂しそうにするんだろう。トランサーの画面ではデフォルメハープ・ノートが強敵だねぇ……というフキダシを出しているが、何が強敵なんだろう。まさかボクのトランサーにウィルスが!?
「オイスバル!まだか~!?」
「ハイハイ!今行くよ~!!」
まぁ、いいや。ウィルスならハープ・ノートが何とかしてくれるでしょ。フフッ、今宵の左腕は血に飢えているぞ……!
ーー放課後ーー
「よ~し、それじゃ、帰りのホームルームも終わり!オマエら、寄り道しないで真っ直ぐ帰れよ~!」
『はぁーい!』
……やっと、終わった。体育の授業の時なんか、ずっと震えっぱなしだったもんね。特に着替え中は。ボクの着替えなんか覗いて、何が楽しいんだろうか。よし、とにかく帰ろう。流石に今日位はロックも外出を諦めてくれるはず。ほとほと疲れたよ……。
「あ、スバルくん?い、一緒に帰らない……?」
おっと、委員長だ。というか、頻繁と言えるくらいには一緒に下校してるんだから、あんまりビビらなくてもいいんじゃない?
「もちろん喜んで!」
「……そう!フフッ……」
「あ、そういえばゴン太とキザマロはどうしたの?姿が見えないけど……」
「あぁ、あの二人なら算数ドリルで居残りよ。まぁ、キザマロはゴン太の付き添いなんだけど……」
「アハハ、キザマロらしいね」
「フフッ、そうね……」
うわわっ、またかよ……!相変わらずトランサーでは不機嫌なハープ・ノートが映っている。タチの悪いウィルスより厄介だぞ、これは……!
「あ、マンションが見えてきたわ……じゃあ、スバルくん。またね……」
毎回思うんだけど、何でそんなに儚げに笑うんだろう?一生の別れみたいじゃないか。
「委員長は、もう少し明るく笑ってた方が可愛いよ。自信満々な委員長じゃないと、こっちも調子狂っちゃうしさ」
ーーボフン!
委員長の顔と、左腕のトランサーから爆発的に湯気が迸ったような気がした。アチッ!熱いって!
「ス、ススス、スバルくん!?」
「アチッ!……え、何?」
「アチッ?い、いえ……その、今のは……?」
一瞬訝しげな顔をした委員長だけど、すぐに顔を真っ赤にして問いただしてきた。照れくさいのかな?まぁ、自分の表情のコトを突っ込まれたら、誰だって恥ずかしくなるか。
「そのまんまだよ。儚げな委員長もキレイだけどね」
「ワワワ、ワタシ、今日は帰るわ!」
キャーッ!っと、珍しく慌てて走り去る委員長。今日は中々、珍しい委員長が見れたな。
さて……
「ミソラちゃん、今日はどうだった?」
別にトランサーに話しかけていても、普通に通話しているようにしか見えないハズなので、問題はない。
『さっきのルナちゃん、スッゴく可愛かった……』
「え?」
『え?あ、ゴメンゴメン!今日はアリガト!楽しかったよ、ワタシ!』
楽しかったならいいんだけどね。
「そっか。けど、いい学校でしょ?コダマ小学校って」
実際人に自慢できる程度にはいい学校・いいクラスだと思う。
『そうだね、ワタシもスバルくんと同じ学校に通いたかったよ……』
「でもウチの学校、ミソラちゃんのファンが多いから、大パニックになりそうだけどね」
『アハハ……』
実際ゲームではなるしね。
「さ、今日はもう帰るよ。ボクの部屋でウェーブアウトすればいい」
『うん、わかった。あ、ヤシブタウンのコト、忘れないでね!』
「はいはい、ちゃんと覚えてるから」
『むーっ、なんだかおざなりだなぁ……』
気のせいですハイ。
ーー星河家ーー
さて、ミソラちゃんも行っちゃったし、今日は早めに寝るか……
「オイ!スバル!」
「あ、ロック。いたの?」
「一日中ずっといたわ!トランサーの中でなぁ、アイツらの機嫌を窺いながら過ごすの、スゲー大変だったんだぞ!?」
あ、それはそれは……ご迷惑をおかけしました。
「悪いね」
「軽ッ!?」
「でも楽しかったでしょ?」
「あんなんキツいだけだっての!」
ロックのフラストレーションがヤバい。まるで爆発寸前の火山と言ったところだ。しかし、今日はもうウィルスバスティングをする体力もないし……あ、そうだ。
「じゃあ、昨日集めたバトルカードでフォルダをつくってみるってのは?これなら体力も要らないし、ボクも付き合えるよ?」
「そういうのだよ!そういうのがやりたかったんだ!オレは!」
「それじゃ、持ってくるから……」
ウィルスバスティングのリザルトで手に入るバトルカードのデータはあくまでデータなので、カラのカードにバトルカードのデータを入れないと現実でやり取りするのは難しい。表面上は取り繕ったウィルスデータだった、何てのもあるし。しかしウィルス対策に関わるツールだから、というよりも様式美としてトレーダーや店売りの商品の仕様としてリアルのカードを採用している部分もある。カラのカード自体は安売りされているので、手に入れるのに苦労はしない。
「……っと、こんな感じだね」
ざっと広げてみると、結構集まっていることがわかる。苦労したなぁ……
「おっ、このヘビーキャノンってのはいいんじゃねぇか?」
当然3積みに決まってるじゃないか!早く3の環境にならないかなぁ!同名カードは三枚までなんて、そんな殺生な……
「このファイアバズーカなんてのも良さげじゃない?不動の重砲撃型……ロマンがあるよね」
「おお……ロマン!いいなソレ!」
ロックもお気に召したようだ。ヴァーチェカッコいいよね。途中でセミヌードになるけど。因みにボクは金ジムが好きです……ネタとして。あとはフラッグ。あれはおかしい。主にパイロットが。
こうしてボクたちの賑やかな夜は過ぎていった。
……最近、ボクの部屋賑やか過ぎない?
ーー翌日ーー
ね、寝不足だ……
『スバル~!』
も、もう来たのか……
「はぁーい」
ーーガチャッ!
「お、おはよう委員長……」
「大丈夫!?アナタ、昨日より顔色悪いわよ!?」
「あぁ、うん。ちょっと寝不足なんだ……」
瞼を擦りながら言うと、委員長はおずおずと手を差し出してきた。何、この手は……?
「ホ、ホラ、今日のスバルくん、フラフラしてて危なっかしいじゃない?だ、だからこのワタシが!わざわざ手を引いてあげようかと思ったのよ!嬉しいでしょ!?嬉しいって言いなさいよ!」
「あーうん、ありがとう。……委員長の手、あったかいな……」
「さ、さぁ行きましょう!」
「ウフフ……」
この声は、あかねさん……?ま、また見られたのか……
やはり
やはり砂糖漬け。
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