星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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な、何とか間に合った……


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 ーーステーションの電脳3・最奥ーー

 

 ここはステーションの電脳3、その最奥だ。対峙するは天秤座のFM星人、リブラ・バランス。両腕が巨大な秤になっていて近接戦は好まず、変幻自在の烈火と激流、と言って差し支えないほどの炎と水を操る能力を持つ中遠距離の後衛型だ。以前は高速接近からのインビジブルで撹乱した後に、リュウエンザンでズブリだったけど流石に対策はしてきてるだろうね。勝敗の確率を天秤に掛けないほど、リブラも馬鹿じゃないだろうし。

 

「しかしリブラは遠近両用と言っても、弾を飛ばすような攻撃ではないからこちらも空中にいれば、攻撃が当たることはない。つまりは……おっと!」

 

 危ない!油断し過ぎたか。

 

「オイ、スバル!どうすんだ!?……さっきからずっと膠着状態ってヤツだぜ!?」

 

「どうしようね……砲撃は相殺されるけど、あちらの攻撃も回避出来ないスピードじゃない。もう10分も続けてるけどキリが無いよ……」

 

 戦闘開始早々、スターフォースを解放し飛行したボクだったけど、あちら側も砲撃は警戒していたようでリブラが生成した炎と水はこちらの遠距離攻撃を通さない。完全に膠着していると言える。

 

「チッ、やっぱり接近戦しかないか……さっきやった、即席のウェーブロードを作るヤツはどうだ!?」

 

「アレはまだ慣れていないから、咄嗟に生成するのは難しいね。もっと練習すれば別だけど……」

 

「チッ、ならしょうがねぇな……」

 

 さて、どうするか……

 

「流石にインビジブル戦法が二度も通用するとは思えないしねぇ……」

 

「そうだな……左腕の炎さえ何とか出来りゃあな。……またパワーボムでも投げてみるか?」

 

「そんなの、近づく前に誘爆して無駄弾になっちゃうよ」

 

 近づいても以前見た分銅を落としてくるだろうし……

 

「難攻不落ってヤツだな……」

 

「うーん……」

 

 いや、突破出来なくはないんだけど、この後の連戦も考えるたらあんまりダメージを蓄積させたくはないんだよね。

 

「仕方ないか、背に腹は代えられないよ……ロック!」

 

「なるべく避けろよ!」

 

 背中の翼を急速に震わせ、リブラへ向けてスカイダイビングを敢行する。気分は紐無しバンジーだよ……

 

「おおぉぉぉっ!」

 

 全速全開!

 

「フン、破れ被れというワケカ……甘イ!」

 

 左腕の天秤で燃え上がる炎が蛇の如く襲いかかってくる!全速の状態では、細かい回避が出来ない。だからッ!

 

「ハァッ!」

 

「何ッ!?」

 

 ヘビーキャノンをあらぬ方向へ発砲、その反動で大きく進路を変更することに成功し、回避する。ホントはガトリングみたいな連射型がよかったんだけど、あれじゃあこの攻撃は避けられなかったね、うん。

 

「うおぉぉっ!」

 

「クッ……!ウオォォッ!」

 

 プラスキャノン!……ヘビーキャノン!何とか回避に成功したけど、何発かかすったダメージは食らってる。熱い!既にセレクトしたカードは使い切ったので、あとはシールドで乗り切るしかない。だけど既にかなり近づいている。もう十メートルといったところだ。

 

「……落ちロ!」

 

 ゲッ、例の分銅だ!しかし、こちらも既に見た攻撃に対処出来ないハズはない!

 

「うおぉっ!……ラァッ!」

 

 シールドを展開し、滑らせるように巨大な分銅を流していく。あ、危ない……が、しかし勝ったぞこの戦い!我々の勝利だ!

 

「ハァッ!!」

 

 左腕の炎をロックバスターで吹き飛ばす。これさえ封じればチョロいもんだ!

 

「オオオオッ!」

 

 リブラが残った右腕の激流を発射してくる。凄い威力だね。だが無意味だ。

 

「ハァァァァァ…………セイッ!」

 

 ()()()ペガサスを舐めるなァッ!水流程度、氷結させるなんてワケないんだよ!

 

「ク、クソ……こ、このワタシが……!」

 

「終わりだよ……リブラ・バランス!」

 

 ギガクラスカード『ペガサス・マジックGX』発動(ロード)!既にリブラに回避手段はない。為す術なく氷柱に飲み込まれ、HPは速やかに0を刻んだ。

 

「グォォォォォッ……ワ、ワタシヲ倒したとしてモお前には……必ずヤ滅びノ未来が待っていル……アンドロメダ……が、めざ……め……ル……」

 

 そう言い残してリブラ・バランスは消滅してしまった。中々強敵だったね。

 

 ーーゴゴゴゴ……!

 

「この揺れは……!」

 

「アンドロメダの目覚めは近いぜ……!」

 

 神妙な顔をして呟くロック。やはりAMプラネットの滅亡が頭から離れないのだろうか。

 

「ロックまで不穏なコト言わないでよ……」

 

「わりぃわりぃ、とっととあのデカブツをぶっ壊しに行こうぜ!」

 

「最初からそう言ってよ……」

 

「ほら、ウェーブアウトするぜ」

 

 はぁーい……

 

 ーー居住モジュールーー

 

 リブラ・バランスを倒し、セキュリティを解除したボクたちは、発電モジュールの先にある居住モジュールに足を進めていた。しかし、これは……

 

「ロック、もしかして……」

 

「ああ、もしかしなくとも、この先にはFM王、そしてアンドロメダがいるだろうぜ。この雰囲気、プレッシャーとでも言おうか。コイツは間違いない、ヤツのモノだ……!」

 

 凄い圧力、というかプレッシャーを感じる。PPを余計に使ってしまいそうだ。電波体なので、情報圧と言ったところかな?

 

「なら取り敢えず、この扉のロックを解除しなくちゃね」

 

 この先に進むためにはあと一つ、難関がある。残るFM星人は……!

 

「だな。残るはオヒュカスのヤツだけだ。しかしアイツは正直、オレたちにとっちゃカモだからな」

 

「ヘビのスピードに、遠距離攻撃がゴルゴンアイだけだしね。かなり有利に立ち回れるハズだよ」

 

 うーん、一番の強敵はリブラだったね、やはり。

 

「とにかくウェーブインしようぜ。まだ向こうは探索してないが、恐らくウェーブホールがあるハズだ」

 

「そうだね、そうしようか」

 

 プレッシャーを感じる方とは逆の通路を進むボクたち。その先にあったのは……

 

「ここは……多分、父さんたちが使っていたスペース。あ、写真がある。……写っているのは、ボクだ」

 

「そうだ。ここは星河ダイゴが使っていた実験室。……聞くか?今のオマエには、あまり関係のない話だが……」

 

 ちょっと、気を使ってくれてるみたい。

 

「聞くさ。ボクが星河スバルである以上はね」

 

「……そうか。あれは、今から三年前だったな……」

 

 物思いに耽るロック。ダイゴさんとも友達だったらしいし、思うところがあるんだろう。彼は今もメテオGの最深部で攻撃を続けているのだろうか。

 

「あの日、オレたちはFM王の命により、この宇宙ステーションを占領した。そして乗組員は全員捕らえられ、FMプラネットで裁判にかけられた……」

 

「なるほど、さっきまで戦ってたのはロックの同僚だったんだね……」

 

 ロックはボクの言葉に返すことなく、話を続けていく。

 

「FM王が下した判決は……全員、例外なく死刑だった」

 

 王様が政治やって、侵略して、裁判やってるなんて、相当人材が不足してたんだね、FMプラネットって。

 

「物騒なんだね、FM王って」

 

「いや、極まった疑心暗鬼ってヤツだな。……それでその後、刑が執行されるまでオレは乗組員たちの世話係をかって出た。そして、そこでオレはオマエのオヤジと会った……。ダイゴのヤツ、やたらオレにちょっかい出してきやがって、気がついたら、いつもアイツのペースになっちまってたな……」

 

 過ぎし日を語るロックだけど、その表情は柔らかだ。きっと、とても印象的な時間だったんだろう。

 

「そしてあの日、『アンドロメダのカギ』を手に入れたオレは追っ手に追われ、あの宇宙ステーションに逃げ込んだんだ……」

 

 ここからは、ダイゴさんの言ったことも話してくれるみたいだ。

 

「そうだ……あの時は……」

 

 

 ーー回想・ウォーロックーー

 

「ウォーロック、これからどうするつもりだ?」

 

 追っ手が来るというプレッシャーから、堪らずステーションに逃げ込んじまったオレだが、既に落ち着きは取り戻し、さぁ行くかと思ってた矢先だったんだ。ダイゴが話しかけてきたのは。

 

「どうするも何も、FMプラネットのヤツらをブッ倒してやるのさ。そろそろ行かねぇと、ヤツらが来ちまう……!ヘヘッ、短い付き合いだったが、楽しかったぜ」

 

 そうだな、オレだって戦士の端くれだが、それなりに付き合ってればそれなりの情も湧いてくるってもんだ。

 

「待ってくれ、ウォーロック」

 

「何だ……?」

 

「我々も、連れていってはくれないか?」

 

「何を言ってやがる……気は確かか?オマエたちは地球人だろう?どうやってオレについてくるつもりなんだ?」

 

「オレたちのカラダを電波化させてくれ。電波のカラダを持つ宇宙人から放出される高濃度のゼット波を浴びれば、我々地球人でも電波化出来るハズだ」

 

「確かにゼット波には触れた物質の周波数を変化させ、電波化させるチカラがあるが……」

 

 しかし、簡単には頷けねぇ。何せ、コイツは自分で人間を辞めるって言ったんだぜ?

 

「どうせ、このまま待っていてもロクな末路にはならないだろう。どんなに小さくても、そこに希望があるなら命を賭ける価値はある。頼む、ウォーロック」

 

「オマエ、オレが追われている立場なのはわかってるだろう?」

 

「なぁ、ウォーロック。復讐なんてやめて、オレたちと地球に来ないか?きっと、オレの息子とも仲良くやっていけると思う」

 

 この時のオレは確固たる目的があったからな。ダイゴの誘いを受けるワケにはいかなかったんだ。今?今は……どうだろうな。

 

「地球に?仮にオマエたちが電波化出来たとして、何を目印に帰るつもりなんだ?電波になったからって、万能じゃねぇ。宇宙で迷ったら永遠に宇宙空間をさまようことになるかもしれんぜ?」

 

 別に心底心配してたワケじゃないが、憎めないヤツではあったからな。宇宙の真ん中でくたばっちまったら寝覚めが悪い、それくらいの気持ちだったんだ。

 

「オレのトランサーから息子のトランサーにアクセスシグナルを送る。その信号を伝っていけば、息子のところまで導いてくれるハズだ。今ならまだ間に合う、『アンドロメダのカギ』を捨ててオレたちと……」

 

 だがアイツの、ダイゴの目は本気だった。どんなに小さな確率でも、それを掴み取って生還する。そんな目をしてたんだ。だから……応えたくなっちまったんだろうな。

 

「ハッ、止めてくれ。オレは安息なんて求めちゃいないんだ。オレの目的はただ一つ、FM王をブッ倒すコトだけだ。悪いがオマエたちを連れていくワケにはいかねぇ。……が、そこまで地球に帰りたいって言うんならオマエたちを電波化させてやるよ。けど、そこから先はオマエたちでどうにかするんだな」

 

「ウォーロック……ありがとう。それじゃあ、乗組員を呼び出すよ」

 

 ーー居住モジュールーー

 

「その後、オレはダイゴを始め乗組員たちにゼット波を浴びせ電波化させた……。そしてオレたちが宇宙ステーションを出た、その時だった。オレを監視していたオックスが、突然攻撃を仕掛けて来やがった」

 

「そりゃあ監視対象が逃げ出そうとしたんだから、脱出阻止も含めて攻撃するのは当たり前なんじゃないの?」

 

「………………は、激しい攻撃が止み、気がつけばそこにダイゴたちの姿はなく、ダイゴのトランサーだけが浮いていたんだ……」

 

 図星だったみたい。話の腰を折りそうになっちゃったな。あんまり口を挟まないようにしないと……

 

「キズついたオレは、ダイゴのトランサーが放つ信号を頼りに飛んだ。そしてスバル、オマエの元にたどり着いたってワケだ」

 

「その、父さんのトランサーはどうしたの?届ければ、母さんが喜ぶかも……」

 

 本人程ではないだろうけど、今となってはダイゴさんの遺品に近いモノだ。あかねさんの慰めにはなるだろう。

 

「すまねぇが、大気圏を抜ける時に燃え尽きちまったんだ。かなりの速度で飛んでいたからな、シグナル元の喪失に対し、オマエのトランサーが反応するまでに時間があったんだろう」

 

 そういうことか……まぁ、仕方ないね。

 

「まぁ、オックスの攻撃はオレに集中していたからダイゴたちには直撃していないと思うが、恐らく今も電波のカラダで宇宙をさまよい続けているハズだ……」

 

「なら、いいよ。父さんのコトは、いつか助けに行く。大して実感も湧かない父親だけど、これがボクに出来る母さんへの恩返しってヤツさ。あの人はきっと、世界を敵に回してもボクを守ろうとしてくれる。それが親の強さなんだろうね。スターフォースと同じだよ。誰かの為になら、どこまでだって強くなれる。それが人の持つ可能性なのかもね……」

 

「人の可能性、か。オマエも言うようになったな……」

 

 酷いなぁ、ボクってそんなに人を信じられないように見えてた?元のスバル君じゃあるまいし。でも、もしそうだとしたら。

 

「フフッ、ロックのお陰かもね?」

 

「アン?オレが何をしたっていうんだよ」

 

「一番の理解者がいつも側に居てくれるってのは、思いの外心強いってコトだよ。だからありがとね、ロック」

 

「…………ほら、さっさと行くぞ。この先には、あの扉に繋がるウェーブホールがあるはずだ」

 

 あっ!もう、引っ張らないでよ……!

 

 ーーステーションの電脳4ーー

 

「ロック、やっぱり……」

 

「ああ、間違いねぇ。やはりこの奥で待ち構えてやがるのは、オヒュカスだ」

 

「だよね……」

 

 さ、流石に蛇遣い座は予習の時間をください……

 

 ーー少年確認中ーー

 

「よし、トランサーにも蛇遣い座の並びは記録しておいたし、これでいつでもセキュリティが突破出来るよ」

 

「おう、それじゃ行くか。蛇睨みが通用するのは蛙だけだってことを、ヤツに教えてやろうぜ!」

 

「うん!委員長も居ないからね、今回は大分気が楽だよ」

 

「ケケッ、あのオンナの有無に随分拘るじゃねぇか、なぁスバル?」

 

 ちょっと、そういうこと言うのは卑怯だよ!

 

「いや、違うって!委員長は大事なブラザーだし、それに色々お世話になってるし……」

 

「フン、まぁそういうことはオレにはわからんからな、好きにしていいぜ」

 

 やっぱりわかってないのね……。いや、何をだ?

 

「まぁいいや。それじゃあセキュリティを解除するよ、ロック」

 

「おう!」

 

 

 ーーステーションの電脳4・最奥ーー

 

「待っていたよ……」

 

「ヘビらしく冬眠でもして待ってりゃあ、デリートされることもないだろうによ、ヘビオンナ!」

 

 ロックの啖呵に一瞬笛を持つ手が硬直するオヒュカス。蛇遣い的には歓迎出来ない呼称らしい。

 

「ヘビオンナとは随分酷い言い方だわね……このオヒュカス、FM王の命を受け、最後の扉を任されたからには蟻一匹この先へは……通さないわ!」

 

 また閃光。もう飽きたよボクは。というか電脳世界に蟻なんていないだろうに。FMプラネットには生息していたんだろうか、蟻は。

 

「スバル!コイツを倒せば、残るはFM王だけだ!アンドロメダを止める為にも、こんなトコロで足留めを食らってる場合じゃねぇ!さっさと消えてもらうぞ!」

 

 ロックの消化試合感が半端ないな……

 

「そう簡単にいくかな……?我が毒牙の前に倒れ伏すがいい!」

 

 強化されたオヒュカス・クイーンが脅しをかけてくる。キミ自体が噛むワケじゃないよね……?

 委員長がベースだったらまぁ…………ハッ!ボクは何を考えていたんだろうか。

 

「煩悩退散!……ウェーブバトル、ライドオン!」

 

「煩悩……?」

 

 うっさいロック!




委員長に首筋を噛まれる妄想をしてしまった私は俗物ですね。死にたい。

感想・評価が私のエナジーフィラーです。

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