58
ーーOHANASHIから四日後の朝ーー
アンドロメダを破壊して地球に戻ってきたボクだけど、疲労も溜まっていたのか、帰還した後にすぐ、眠りについてしまった。記憶が不確かなんだけど、取り敢えず家には帰ってこれたらしい。朝起きたら星河家のベッドの上だったのは軽くホラーだったけど。両隣に委員長とミソラちゃんがいたのは最早ファンタジーだったけど。
「ふぁ~っ、や、やっと休日か……」
そうだ。帰還したボクを待っていたのは朝チュンだけではなかったのだ。忘れてはならない。ステーションに飛び立ったのは、火曜日だったということを。世界を救ったとはいえ、ボクは一介の小学生に過ぎない。待っていたのは、登校という現実だったのだ……
「スバル~!朝御飯出来たわよ~!」
あ、朝食の時間か。今日は予定があるんだったね。お待ちかね?のデートだ。今日は委員長、明日はミソラちゃんという流れだったはず。まだ疲れは抜けきっていないので、今日はゆっくり寝ていたかった……
「はぁ~い!今行くよ!」
ーー食事中ーー
「あら、スバル。今日はよく食べるのね?」
唐突にあかねさんから問われた内容にどう返答すべきか迷っていると、何かを察したのか笑顔になった。ニヤニヤした感じで、あかねさんらしくない。いや、委員長かミソラちゃんのコトを聞く時の顔なのでむしろあかねさんらしい顔と表現すべきなのだろうか。
「あぁ……ええっと、実は今日、ちょっと用事があって……」
「ルナちゃん?」
何でわかるんだよォッ!
「……ッ!?ゴホッ、ゴホッ!」
「あらあら……大丈夫?」
「な、何でわかったの……?」
実際気になるところだと思う。あかねさんの情報源はいったい……?
「百合子さんから聞いたのよ」
「ええっ!?そっちからか……」
ステーション出発前に言った通り、帰還した翌日にはあかねさんに百合子さんのコトを伝えている。というか、何故か百合子さんからメアドと通話番号がメールで送られてきたので、連絡をとること自体は難しくなかった。
百合子さんに聞いたところ、料理上手の友人が欲しいわね……と言っていたのであかねさんを紹介したというわけ。通話を始めた二人はすぐに意気投合し、今日は実際に会って料理談義とやらをするらしい。百合子さんはあまり料理上手とは言えないので、あかねさんに教えてもらうカタチになるんだろうね。
「(しかし、百合子さんから漏れるとは。いや、あの人なら嬉々として漏らしそうな気がする……)」
「そうよ~!百合子さんって、結構ワタシと気が合うみたいで娘共々よろしくお願いしますね、なんて言われちゃったのよ。これはどういうことかしらね、スバル~?」
凄く楽しそうだ。怖い。
「さぁ……ちょっと頑張ったからね、ご褒美ってコトらしいけど……」
デート場所は例によってヤシブタウン。今度ロッポンドーヒルズとかも行ってみたいけど、何やら改装中らしくてTKタワーやら映画館やらは閉館中らしい。残念。もしかしてマテリアルウェーブ用の改修工事、なのかな?よくわからないけど。
「ふ~ん、ご褒美、ねぇ?」
「何でそんなに怪しい目付きなの……?」
「一体誰のご褒美なのかしらねぇ……」
どういうこと?
「そりゃあボクなんじゃないの?」
「どうかしらね……ウフフ!」
やはり、あかねさんは今日も大魔王であった。
ーー暫くしてーー
「さて、そろそろ行くか。ロック、準備は?」
「バッチリだぜ!というか、今日はオレにやることはないんじゃないか……?」
ふぁぁぁ……っと、欠伸をしながら体をほぐすロック。ロックって寝ないし、カラダは電波で出来てるはずだよね……?代謝とかよくわからないけど。
「何言ってるんだよ!ステーションの中で助けてくれるって言ったじゃないか……」
忘れたとは言わせないぞ!
「あぁ…………そういえば言ったな」
酷いよロック!
「そんな……ボクがどれだけロックを頼りにしているか、知らないわけじゃないでしょ!?」
デートとか、したことないし……
「そうは言うがよ、オレってぶっちゃけ邪魔者なんじゃないか?……多分あのオンナ共にとっては、だがよ」
オンナ共?あぁ、ハープのことね。
「でも……」
でも今日は、委員長だけだよ?
「まぁ、どうにもなりそうになかったら助けてやるから安心しろ!多分大丈夫だぜ、多分!」
「多分を強調しないでよ……」
なんかちょっとテキトー過ぎやしないですかね、ロックさんや。
ーーヤシブタウン・忠犬バチ公像前ーー
「うん、まだ時間はあるね。委員長も来てないし……」
『スバルくん!』
え、はえーよルナ。
「おはよう、委員長」
「ええおはよう……っていう時間でもないかしらね。ごめんなさい、待たせちゃったかしら……?」
今は丁度10時。約束の時間が10時30分だから、おはようと言うかは人によって分かれる時間だね。
「ううん。今来たところ。まだ30分以上あるのに、もしかして委員長、結構楽しみにしてた?」
フフフッ、とからかってやると委員長の反応がない。
「…………うん。たのしみにしてた……!」
俯いてボソッと言ったので、あんまり聞こえなかったけど、楽しみにしてくれたのなら嬉しいかな。
「さ、行こうか?」
委員長に向かって手を差し出す。
「……手?」
「デートなんだからさ、手くらい繋いでいこうよ。雰囲気位は出るだろうし」
ーーボフッ!
うわっ!委員長の顔が爆発した!湯気が凄いな……
「嫌ならいいけ『そんなコトはないわよ!?』……あ、そうですか……」
食いぎみ委員長。心なしか必死に見える。別にデートなんだからそれっぽいことをしようよ、位の気持ちだったんだけど。
「じゃあ……行こっか?」
「うん……」
ボクの手を握った委員長の手は、柔らかくてスベスベしていた。因みにボクは手フェチではない。断じて。
ーー103デパートーー
委員長の趣味とかもよくわからないので、取り敢えず買い物でも、という感じで103デパートに来たボクたち。因みに今日百合子さんがいないことは確認している。だってあかねさんと料理談義するらしいし。
「委員長は、何か見たいものでもある?」
「そうね、それじゃあリボンを少々……」
あ、そういえば委員長ってリボンしてたんだよね。ツインドリルの印象が強すぎて忘れてたよ……
「それじゃあ、あっちの方かな」
確か103デパートに新しいバトルカードショップが出たとか何とか……気になるね。リボン選んだら行ってみるか。おい、バトルしろよ。みたいな展開にはならないだろうけど。
「あ……うん」
相変わらず、手は繋いだままだ。
ーーヘアアクセサリー店ーー
よ、よくわからないな。ボクはリボンなんてしたことないし。因みにボクの髪型はセットしているワケではない。何故か重力に逆らってしまうのだ。あかねさんの遺伝だからね、仕方ない。
「…………………………」
一心不乱にリボンコーナーを見定める委員長。その眼差しは鷹のようだ。いや、良さげなものを見つけると顔が綻ぶので真剣なだけなんだろう。どんなリボンでもばっちこいだ!予算はそれこそ莫大にある……!
ーー1時間後ーー
「あ、これ……!」
そう言って委員長が指で示したのは、赤いリボン。普段、というか今も着けてるリボンと同じ色だ。特にデザインというわけではなく、単に上質な素材を使っているのかとても高い。(小並感)
「今着けてるのと、あんまり変わらなくない?」
「そんなことはないわ!とっても手触りがいいし、それに今のリボン、大分古くなってきたもの……」
あぁ、そういうこと。ツインドリルにばかり目がいくものだから、リボンの状態にまでは気が回らなかった。でも、値段が……
「委員長、値札、見た……?」
「値札……?………………あっ!」
五万ゼニーとか、誰が買うんだろう……。
「ご、五万ゼニー……!今回は、諦めましょうか……」
一気にショボくれる委員長。そういうのも可愛いんだけど、中々正面切って買うわけにはいかないよね。小学生が買うには高過ぎるし。
「まぁまぁ、そんなこともあるって。ね?」
サワサワと委員長の頭を撫でながらそう諭す。
「んっ…………って、もう大丈夫よ!大丈夫!」
「そう……?あ、そうだ。実は見たいところがあるんだけど……いい?」
デート中にバトルカードを漁るのはマナー違反だろうか。
「ええ、いいわよ。それにしても、暑いわね……」
パタパタと手を扇ぎながらそう言う委員長。顔が赤いからじゃないかな?
ーーカードショップーー
「おお~!凄い!流石は大型デパート内部につくられたショップだけはあるよ!この品揃え、南国さんのBIGWAVE程偏ってない、幅広いラインナップだ!」
凄いな、ホントに!ウィルスのリザルトデータと思われるカードデータもある。どうやって補充してるんだろう。あ、対戦用のカードだ!シラハドリ、だって。流石にウラギリノススメとかギガマインとかは無いようだけど。
「カ、カードショップ……?」
委員長が呆気にとられたような顔をしている。いや、まぁデート中に寄るところじゃないけどさぁ……
「うん!最近新しく出店したらしくて、凄い賑わいでしょ!?」
「ええ、確かに凄い賑わいね……」
休日ということもあってか、人は多い。というか、ウィルスに対抗出来る数少ないツールだから、バトルカードを収集していてもオタク扱いされるようなことはないらしいんだよね。なんか嬉しい。
「さ、見て回ろうよ!」
「わ、わかったわ……」
ボクの勢いに押されて遂に入店を決意した委員長。でも前に委員長からもらったルナフォルダって、結構構成はしっかりしてたんだよね……
ーー30分後ーー
「へぇ……結構種類があるのね、バトルカードって」
少しは興味を持ってもらえたかな?
「確か……全部で200種類位、だったかな?」
「なるほど……。ワタシはそういうこと、あまり考えたことはなかったわね……」
「エンジニアの人とかだと、ウィルスバスティングが出来るかどうかって、結構重要だから拘ってる人とかは結構いるんだ。天地さんとか、まさにその典型例だったよ」
「あ、天地さんが?……フフッ、そう……」
確かに、天地さんがカードコレクターだなんて中々想像出来ないよね。フェイバリットカードも強力なものが多かったし。
「あ、そろそろお昼だね。ボク、お腹減ってきちゃったよ」
「じ、実は……」
そう言って、肩に下げたバッグに手を入れる委員長。何だろう。
「ええっ!?お弁当作ってきた!?」
「(スバルくん、声、声!)」
あ、しまった。つい慌ててしまった。しかしこれは喜んでいいことなのかな?委員長って確か、料理上手という属性は持っていなかったはず。まさかポイズンクッキングになったりはしない……よね?
「あ、ごめんごめん。ちょっと意外だったものだから……」
というかお弁当を入れるために肩掛けバッグを持ってきたのか。ボクなんてトランサー一丁だよ。あ、空のポーチもベルトに着けてたっけ。忘れてた。
「そ、そんなに意外だった?」
「いや、だって、料理が得意ですアピールとかしてなかったし……」
「ま、まぁ練習したのよ!(まだ三日目だけどね!)」
そうなの……?まぁ委員長がわざわざ用意したと言うのなら、そっちを優先すべきだろう。
「それじゃ、外にベンチでも探しに行こっか?」
「そ、そうね。い、行きましょうか……」
いつの間にか指が絡んでいることに、ボクたちはベンチにたどり着くまで気づくことはなかった……
ーーヤシブタウン・ベンチーー
「ど、どうぞ……」
「何で敬語なのさ……」
「いえ、何だか緊張しちゃって……」
まぁ確かに。自分で作ったものを人に出すって、緊張するよね。楕円型の弁当箱の中身を見る限り、全体的にちょっと不恰好なのを除けば不自然なところもない。
ただ女の子が一生懸命につくったお弁当が、そこにはあった。
「そう?美味しそうだよ?それじゃ、いただきます」
「め、召し上がれ?」
委員長が言うと、何だか少しえっちに感じるのは何故なんだろう。大人っぽいから?
「あれ?委員長の分は……?」
「あ、忘れてたわ……」
うそーん。なんか悪いんですけど……
「それじゃあ、半分こしようよ。ね?」
「~~っ!そ、そうね。ししし、仕方ないもの……」
キョドり過ぎィ!
ーー十分後ーー
「ふぅ、美味しかったよ。ありがとう委員長」
意外や意外、普通に美味しかった。あれれ~?おかしいなぁ~?(某高校生探偵感)
「そう?よかった……」
ホッとした様子の委員長。そんなにお弁当の出来が気になってたんだ。そういうもの、なのかな?
「あ、そうだ。ボク飲み物買ってくるよ。委員長は何がいい?お弁当をご馳走になったし、奢っちゃうよ?」
今がチャンス!
「じゃ、じゃあ……何でもいいから、お茶で……」
「了解!ちょっと待っててね!」
委員長の視界から外れると、すぐさまダッシュを敢行。急げ急げ……!
ーー五分後ーー
「ハァ、ハァ……か、買ってきたよ!」
何とかミッションコンプリート。
「だ、大丈夫……?」
「ああ、うん。ちょっとね!」
「そう……それじゃあ、そろそろ行きましょう?」
「あ、次は映画とかどう?ヤシブタウン内には、映画館があったはず……」
「そうね。そうしましょうか……」
この後、何故かラブロマンスを見ることになったのは、ボクが生涯考えても理解出来ないと思う。
ーー2時間後ーー
「中々良い映画だったね」
「ええ!凄かったわ!まさかあそこでヒロインが主人公に…………キャーッ!」
テンション高いっすね。まさか、顔を赤くしてイヤンイヤンする委員長が見れるとは思わなかったよ。
ーー更に2時間後ーー
「スバルくん、今日は楽しかったわ!」
「それは次のお誘いってことかな?」
「っ!?え、あ、いや……その、予定が合えば……」
ま、マジにならなくても……
「ま、まぁ。ボクも楽しかったし、ね。また今度来よっか?アハハ……」
「そ、そうね!アハハ……」
乾いた笑いが、忠犬バチ公像の周りに響いた。既に結構いい時間である。お子様デートなので、そろそろお開きになるのかな。
「あ、そうだ。これ、委員長に……」
ふと思い出し、綺麗にラッピングされた包装紙を渡す。
「これは……?」
「今日のお礼。というか委員長には結構お世話になってるし……」
「べ、別に気にしなくてもいいのよ?……その、開けても?」
「もちろん!」
ーーペリペリペリ……
丁寧に包装紙を外していく委員長。ボクならベリベリベリ!とかになりそうなもんだ。
「こ、これは!103デパートで見た、あのリボン……!」
驚愕といった表情の委員長。流石に予想出来なかったかな?だが、それでいい!
「フフン!実はさっきジュースを買いにいったときにだね……」
「そ、そんな、悪いわ!だってこれ、五万ゼニーもするのよ!?」
委員長的にも五万ゼニーは大金らしい。良い教育をしてると思いますよ、百合子さん。
「ボクが日夜、ウィルスバスティングに勤しんでいることを知らないね……?まぁ、そこそこの収入があるってことで……」
「で、でも……!」
まだ納得がいかないといった様子だ。五万ゼニーは流石に罪悪感が湧いちゃうかな……?
「まぁまぁ……着けてあげるから、ね?後ろ向いてよ委員長」
「え?あ、うん……」
ーースルスルスル……
元々委員長の着けていたリボンを外し、新しいリボンを着けていく。委員長はソワソワしていて落ち着かない様子なので、早く結んであげなきゃ……
「ほら、出来たよ」
「に、似合ってる?」
結構似合ってる。色は変わらないけど、なんというかリボンの上品さが委員長の魅力を更に引き出しているというか……ああもう、何を考えているんだろう。
「うん、スッゴく似合ってる。可愛いよ」
ーーボフッ!
ま、また委員長か湯気を吹いた!
「あ、ありがと……」
「いえいえ、そんな……」
何だか平行線になりそうな予感がしたので、そろそろお開きとする。
「アハハ、凄く似合ってるから、家で確認してみなよ。百合子さんにも、見せてみたら?」
「そ、そうするわ……」
「うん、それじゃあ、また学校で!」
「ええ、学校で……」
こうして、委員長との1日デートは幕を下ろした。
感想・評価がミソラちゃんデート回のモチベーションです。