星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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本日2話目です。


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 ーーグルメタウンーー

 

 取り敢えずはグルメタウンに急行することにしたのだけれど、休業中の店には散策時の時、既にいくらかのやりとりをしている。そのため、あまり目新しい情報を手に入れることは出来なかった。精々が降ってきた雪魂に一瞬何かがダブって見えた、とかその程度だ。いや、間違ってはいないのだけど。このグルメタウンは割としょっちゅうビジブルゾーンになるらしく、そういった証言は多かった。

 

「あまり目新しい情報はなかったね」

 

「だが、無いこともなかっただろう?オレにはそのダブって見えたモンが、スゲー怪しく感じるぜ」

 

 流石に勘が鋭い。そのダブったモノはウィルスで、結構めんどくさいヤツだった記憶がある。ただ属性が水だったので、プラズマガンがよく効くハズだ。

 

「確かに、一瞬だけ見えたってのは怪しかったよね。もしかしてウィルスだったり?」

 

「だが、ウィルスどもが連続落雪事故を起こしている犯人、とも考え辛いよな。ヤツらにそんな知性があるとは思えねぇ。何か、裏で糸を引いているヤツが……」

 

 

ーープルルルル!!

 

 来たか。有能黒服だ。多分。

 

「電話だね。誰からだろ?……ブラウズ!」

 

 毎回思うんだけど、大衆の前でブラウズ!って叫ぶ仕様は本当に止めてほしいよね。天地さんに改造でもしてもらおうかな……

 

ーーブゥーーン

 

 相変わらず、ハエが飛ぶような音を放ちながら出現したエア・ディスプレイは酷いノイズで画面が乱れたモノだった。エア・ディスプレイにも干渉出来るなんて、これ以上有能っぷりを見せないでほしいよ、まったく。

 

「(オイ、なんで顔が出ねぇんだ?)」

 

『もしもし……』

 

 はっきりしない声だ。何か機械でも通して喋っているのだろう、少しばかり低い声が聞こえる。

 

「もしもし……どなたですか?」

 

『星河スバルくん……でしょう?キミ……落雪事故のことを知りたいんだってね』

 

 こちらの名前、電話番号、目的を既に知られている……黒服さん達有能過ぎるでしょう!?

 

「ボクがしていること、知ってるんですか?」

 

『他にも知ってるわ……スウィートルーム扉に細工をした犯人とか……あれは、私よ』

 

 な、何ィッ!?ど、どうやって室内から細工をして、脱出出来たというんだ!?ば、バカな!ありえない!もう全うな職にでも就けよ!サテラポリスの特殊工作チームとかになら入れるレベルだろコレ!

 

「どういう、ことですか……!?」

 

『知りたい?それじゃあホテル玄関の噴水……いえ、噴水電波の前で待ってるから』

 

 ーーガチャッ!

 

 改めて考えるとかなりヤバい集団だよ、ゴリの会社の社員って。ゴリよりも圧倒的脅威に感じる。ゴリ要らないでしょ!というか、スターキャリアーの電話番号をバラ蒔かれるだけでもヤバいんですけど……

 

「切れちゃったね。向こうにはかなりの情報アドバンテージがありそうだ。……どうするロック?」

 

「コイツはワナの匂いがプンプンするぜ。……だが行ってみるぞ、スバル!」

 

「ワナ……なんだよね?いいの?」

 

「だから行くんだよ!そこに怪しいヤツがいれば、ソイツを取っ捕まえて情報を聞きだせばいい。コイツはチャンスだろ!」

 

 子供に期待するには過剰過ぎる結果じゃない?

 それにあの黒服お姉さん、絶対なにか武道かじってるタイプだよ!震脚からの発剄でもされたら、小学生のボクは死んでしまう!いや、どうせ待ち合わせ場所にはいないんだけどさ。

 

「ヤバそうならロック、頼むよ」

 

「わかってる!こっちもフォローはするぜ」

 

 やっぱりロックは頼もしい。ハンターVGが普及し出したら、バトルウィザードとしても鍛えてみようかな?

 

「それじゃあ行くよ。待ち合わせは……噴水電波の前、だったね」

 

 そういえば、どうしてさっきは一度言い直したんだろう。噴水電波はマテリアルウェーブで出来ているから、別に噴水でも間違いではないのだけど……まぁいいか。多分完璧主義だとか、そんなんだろう。

 

 

 ーーヤエバリゾート・噴水電波ーー

 

 やはり黒服お姉さんはいない。それにさっきから何時雪玉が降ってくるか気が気でない。……震えてないよね?

 

「誰もいないね……」

 

「ああ、周りから見られてるってワケでもないみたいだな」

 

 ならよかった、とはならない。多分今頃は、ウェーブロードの上でイエティ・ブリザードが雪玉を構えてボクを狙っているのだろう。

 

「取り敢えず、警戒はしておこうよ」

 

「ああ、わかって……」

 

『危ない!走って!!』

 

 考える暇は無かった。声が聞こえた途端、ボクはその場から走り出して離脱する。クソッ、会話中の隙を狙ってくるなんて!

 

『早く!』

 

「ッッ!!」

 

ーードゴォッ!!

 

 何とか上空から降ってきた巨大な雪玉を回避することに成功し、ホッと一息安堵する。今のはヤバかった……

 

「……あ、危なかった」

 

「まるでオマエを狙ったように落ちてきたな」

 

 そりゃあ、ボクを狙ったんだから当たり前だろ!しかし、ターゲットのチョイスまで完璧とは恐れ入る。ボクさえ負傷させれば、ロックマンの介入は出来なくなるんだから。万が一に備えてミソラちゃんを呼ぶべきだっただろうか?

 

「つまり、さっきの電話は……」

 

「ま、ワナだろうな。オレも流石に予想出来なかったぜ、落雪事故の被害者になりかけるなんてな」

 

 まったくだ!

 

「ま、避けられてよかったよ。あのサイズなら打撲じゃ済まなさそうだし……」

 

 思い出したら、少し震えてきた。やっぱり生身ってかなりリスキーだよね。アイアンマンみたいなスーツ依存症ならぬ、電波体依存症にならないといいけど……

 

「声がした方向は……ええっと、あっちか」

 

 ホテル外部に取り付けられたスキーコースのスタートラインの上に、スキーウェア姿の少女を発見した。足にはマテリアルウェーブで構築された、専用と思われるスキーセットを装着している。スキーセットがピンク色なのは、年頃のお洒落というヤツなのだろうか。なんて考えている間にスキー少女はコースを滑り降り、心配そうに近寄ってきた。

 

「よかったぁ、助かって……」

 

「うん、ホントに助かったよ。さっきのはちょっと、本気でヤバかった……」

 

 冷静に考えると命の恩人、になるのだろうか?

 

「アハハ……でも気をつけてね。ここじゃ最近、こんなコトばっかりで……」

 

「今のが落雪事故ってヤツだよね。キミは……確かテレビで見た……天才スキー少女のアイちゃん、で合ってる?ゴメン、ボクあんまりスポーツ系には詳しくなくってさ……」

 

「なんだか照れくさいけど……うん、そうだよ!アタシ、アイ!」

 

 も、もう少し情報を集めておくべきだったかな?でもアイちゃんの個人情報って、今回あんまり関係ないし……

 

「確か世界選手権を目指しているって、ドキュメンタリーか何かで見たんだ。有名人、になるのかな?」

 

「有名人だなんて……別に普通だよ……」

 

 け、謙虚だ……その愛らしい容姿も相まって、ファンも一定層いるだろうに。普通は思いっきり調子に乗っちゃいそうなもんだよね。いや、本人はスキーが大好きなだけ、なんだっけ?ミソラちゃんといい、アイちゃんといい、この世界の有名人は謙虚というか、ストイックな人が多いよね……

 

「いや、謙虚ってのはいいことだよ。謙虚さはニホン人の美徳だって、母さんが言ってたんだ」

 

「へぇ……立派なお母さんだね!」

 

 お、こやつ中々話がわかるな?確かこのホテルの支配人さんがお父さんなんだよね。人格者の親を持つと、子供も一本筋の通った性格になるのだろうか。

 

「自慢の母さんでさ……ボクが世界で一番尊敬してる人でもあるんだ。ボク、母さんには一生頭が上がらないだろうね……」

 

 ホント、あの人には返しても返しきれない恩がある。憑依したばかりで不安だったボクを、あの人は星河スバルとしてとはいえ最大限に愛情を注いでくれた。それは今も続いている。もしあかねさんが母親だったら、スバル君じゃなくてもマザコンになっているっていう不思議な自信があるくらいだ。

 

「凄いお母さんなんだね……」

 

 感心したように呟くアイちゃん。フフフ、あかねさんの偉大さは、こんなものではないよ!

 

「もちろん!あ、自己紹介もせずに長々とゴメンね。ボク、星河スバルって言うんだ。さっきは助けてくれて、ホントありがとう!」

 

「うん!よろしく!」

 

 元気ってのはいいモンだね。なんというか、ミソラちゃんに通じるモノがある気がする。周りを元気にするパワー、みたいな?

 

『あーーー!!!アイちゃん!!』

 

 この声……ゴン太とキザマロか。ホテル出入口を見ると、凄いスピードでこちらに向かってくる二人が見えた。後ろからゆっくりと追う委員長はどこか投げやり?に見える。

 

「すごいです、ホンモノです!」

 

「ハ、ハ、ハ……はじめますてアイちゃん!!」

 

「ブフッ!」

 

 吹き出したボクは悪くないと思う。

 

「オラ、アイちゃんの大ファンなんどす!」

 

「ちゃんと言えてないですよ」

 

 キザマロの突っ込みが的確にゴン太に刺さる。

 

「フフフ、ありがとう!」

 

 こういう純粋なファンの反応も嫌いではないのか、満更でもなさそうな笑みを浮かべる。うーん、やはりミソラちゃんとダブってしまうな……

 

「でも、アイちゃんがどうしてココに?」

 

「アタシ、普段ココのスキー場で練習してるんだ」

 

 そりゃあ、親が経営してるスキー場だからね……環境が名選手を育てるってのは間違ってないと思う。

 

「でも最近は落雪事故が起こってるよね。ちゃんと練習出来てるの?」

 

「うん、こんな事故が多くってね。練習出来なくてちょっと困ってるかな。もうすぐ代表選考会だしね……」

 

 そういえば、アイちゃんってボク達と同じ10歳だったよね?10歳でニホン代表ってかなり凄いような気がする。U-15みたいな年齢制限があったりするのだろうか?

 

「これはアイちゃんのためにも、なんとかしないといけなくなりましたね」

 

 キザマロもかなり乗り気なようだ。可愛い女の子のためだからね。仕方ないね。

 

「フフフ、スバルくん達、優しいんだねっ!」

 

 これは男を惑わす魔性の笑みってヤツだね。も、もちろんボクには通用しませんけど?

 

「そんなことないって……」

 

「ちょっと!」

 

 ゲッ、さっきから黙ってた委員長がお冠だ!ゴン太とキザマロもビクンッ!反応し、恐る恐る委員長を伺う。

 

「委員長、どうしたの?」

 

 べ、別に……ちょっと話し込んでただけなんだからね!他意なんてないんだから!勘違いしないでよね!

 委員長っぽく思考してみたけど、ボクがやってもかなり気持ち悪いな……あと疲れそう。

 

「スバルくん、アナタ……グルメタウンで落雪事故の調査をしてるはずじゃなかったの!?なのに、なんでこんなトコロで女の子とイチャイチャしてるわけ!?」

 

 ちょっと、完全に冤罪だ!

 

「委員長、スバルはフツーに話してただけだぜ?」

 

 ゴン太からフォローがもらえるとは。でもチェックインする人を決める時の逆援護射撃(フレンドリーファイア)は忘れてないからね。

 

「ゴン太は黙ってて!ワタシはなんでイチャイチャしてるかを聞いてるの!」

 

 なんだ、イチャイチャって!小学生に何を期待してるって言うんだ!?

 

「待って、待ってよ!ボクはただ、母さんの素晴らしさについてアイちゃんとだね……」

 

 なんか変態みたいだな……いや、ここは引けない!マザコンじゃない男子なんて、いないんだよ!(錯乱)

 

「ワタシ達に落雪事故の調査をさせておいて、自分は女の子とこっそり逢い引きだなんて見損なったわよ!」

 

 ダメだ!聞いてくれやしないよ!

 

「アイちゃんがいなかったら、ボクは今頃病院送りだったかもしれないんだよ!?」

 

 さっきのはマジでヤバかったんだ。誰だって相棒との会話中くらいは気が緩んじゃうでしょう!?

 

「フーン、なるほど。助けるフリしてスバルくんをたぶらかそうと寄ってきたってワケね!?よくある手だわ!」

 

 一体何時からボクは女の子ホイホイにでもなったんだ!っていうか、よくある手ってなんだよ、よくある手って!学校じゃあそんなこと……た、たまにしか無かったぞ!

 クソッ、ツカサ君さえいれば、スケープゴートに出来たものを……!

 

「そもそも初対面なんだってば……」

 

「あぁ、そう!スバルくんもそのコを庇うワケね!?」

 

 話が通じない!乱神モードかよ!?ゴン太、キザマロ、ヘルプミー!

 

「い、委員長、おかしいですよ」

 

「キザマロのクセに、ワタシにお説教するつもり!?とにかく、も・う・い・い・わ!!男三人揃いも揃ってデレデレ鼻の下伸ばしちゃってみっともないったらありゃしない!そんなに皆そのコが好きなら、もう勝手にしなさい!!フン!!!」

 

 そう言って委員長は鼻息荒く、ホテルの方へ行ってしまった。一歩歩く毎に地鳴りでも鳴っているかのような怒りっぷりだ。

 わ、わかっていたのに宥められなかった……いや、アレは無理だって!小学生がしていい怒り方じゃないよ!

 

「行っちゃったね……」

 

 男三人、みっともなく遠い目をしております。失った委員長の機嫌はプライスレス……

 

「アタシ、悪かったかな?」

 

 なんかもう全て計算ずくでやっているように見えてきたな。このタイミングでアタシ、悪かったかな?って言われても『ハイ、そうです』なんて言えるわけないじゃないか。いや、多分勘違いなんだろうけどさ。

 

「そうじゃないんです。委員長、ああなると止められないんですよ」

 

「うん、アイちゃんは気にしないで!」

 

 こ、こいつら……!なんて塩反応だ!とばっちりはボクに来るんだぞ!?

 

「ハァ……と、とにかく、この雪玉をなんとかしないとね」

 

「そのことなんだけど……さっきスバルくんに雪を投げた犯人……雪男かもしれないの」

 

 平常時なら、雪男なんていませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから、なんて冗談を飛ばすか電波少女扱いするところなんだけどね。でも、電波少女って該当する人結構多いような……電波人間的な意味で。

 

「え、どういうコトですか?」

 

「雪が勝手に浮いて、あれ?って思ったらその時、雪男が見えたんだ。直ぐに消えちゃったから見間違いかもしれないけど……」

 

 もしかして、電波人間が現実のモノに直接干渉するときは一時的にビジブルゾーンが発生しやすい、とか?

 

「(ロック、これは……)」

 

「(ああ、ビジライザーだ。落ちてきた雪玉を見てみろよ)」

 

「(うん)」

 

 ーーカチャ!

 

 ビジライザーをかけて落ちてきた雪玉を見ると、顔だけの雪だるまみたいなウィルスが見えた。コイツが……!名前は確か……スノーゴロン、だっけ?

 

「(うわ、やっぱり……)」

 

「(電波ウィルスだな。やはり雪男は電波世界の住人だったらしいぜ)」

 

「(うん、ならこっちのものだ。アンドロメダよりは弱いだろうし、ボッコボコにして足形でも採ってやろうよ!)」

 

「(お、おう……)」

 

 なんでロックが引いてるの?漸くおおっぴらに探し回れるってのにさ。

 

「そうだスバル、同じようなことが他でも起きてたぜ」

 

 うわっ、そうだった……

 

「移動が出来なくなっていて、ホテル側からしたらいい営業妨害ですよ……」

 

 だよね。うっし、気張っていくぞ!

 

「わかった。ボクが何とかするよ」

 

「場所はここ以外に2箇所あります。後でメールを送っておきますね」

 

 思ったんだけど、キザマロって結構オペレーターとして優秀だよね。直ぐにビビらなければ。いつかサテラポリスにオペレーターとして推薦してみようかな?本人が望めば、だけど。

 

「それじゃあ、危ないから皆は屋内へ!」

 

「了解!アイちゃんもここは、スバルに任せてくれ」

 

「よくわかんないけど、いいんだよね?」

 

 ちょっと心配そうな様子のアイちゃん。ダメだな。どうしてもあざとく見えてしまう。

 

「うん!」

 

「フフッ、それじゃ了解!」

 

「ゴン太、アイちゃんは任せたよ!」

 

「……おう!任せとけ!」

 

 ググッと拳を合わせる。脳筋みたいだな、これ。

 

「……よし、行ってくるね!」

 

「おう、じゃあな!」

 

 そう言ってゴン太達はホテルに避難していった。ここからはボク達の戦場だ!今宵のロックバスターも血に飢えている……!

 

「(ヘッ、お楽しみの時間だぜ!雪玉を潰し回っていれば雪男が釣れるかもしれねぇしな!)」

 

 なんだよ、なんだかんだで楽しみなんじゃないか。

 先ずは一つ目、手早く潰してしまおう!ウェーブホールは……あった!

 

 電波変換!星河スバル、オン・エア!

 

「よぉし、暴れまくるぜ、スバル!」

 

わかってらぁっ!




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