ーーヤエバリゾートの電波ーー
周りに誰もいないことを確認してから電波変換を完了し、噴水電波に急行する。噴水電波と言っても電脳世界ではなく、現実世界の落雪事故が起こった場所の方だ。
「改めて見るとホント、デカい雪玉だよね……」
現実の雪玉と上に乗っている雪玉型のウィルスで、巨大な雪だるまに見えるので、どうもコメディ感が抜けきれない。ちょっと愛嬌のある顔だよね……ハッ!デリートしなくちゃいけないんだったね。
「おう、コイツの原因になってるウィルスを片付けちまおうぜ!」
「うん!」
「……ギャオオオオッ!」
向こうもやる気みたいだ。雪玉の顔は動いていないのに、どうやって叫んだんだろう。あれ、中身がある雪玉タイプなんだっけ?
「それじゃロック、いくよ!」
「おう!」
ウォーロックアタックで雪玉から降り、戦闘体勢に入ったウィルスへと高速接近する。コイツ、転がって攻撃するタイプだな!?ならいいカモだぞ!
「ハァッ!」
雪玉状態のウィルスに、展開したプラズマガンを押し付け内部へ直接電撃弾を撃ち込む。思った通り、この雪は外れるタイプの外付けアーマーだ。
「…………ッ!」
プラズマガンのエフェクトにより、微動だにせず硬直するスノーゴロン(だったはず)。一応、ロックバスターの連射で雪のアーマーを削っておく。チョバムアーマーとは違うけれど、ウィルス側である程度自由に取り外し出来るようだ。
「本体は猿かよ……」
ロックの呟きも最もで、スノーアーマーを削りきった内部にはまさに猿としか言いようのない姿があった。雪玉の外見とは酷くミスマッチに見える。
「ハイハイ、油断しない油断しない……セイッ!」
マッドバルカンを展開、一斉発射しスノーゴロンのHPを削りきる。コイツは数でかかられるとマズいタイプだと思う。一斉に転がって来られたら……跳躍でなんとかなるかな?
ーーピロン!
「あ、メールが来たよ。キザマロからだ」
「落雪事故の場所だろ?読んでみろよ」
「うん、ええっと……落雪事故の起きた場所ですが……ホテルの入り口の前に一ヶ所、グルメタウンに二ヶ所になります。くれぐれも気をつけてくださいね!……だって。グルメタウンか。あそこはスキー場へ続くリフトがあるから、落雪事故の被害が大きくなっちゃうよね」
被害ってより被害額だけど。折角スキーをしに来たのに目玉のスキー場が雪玉で封鎖されているんじゃ、酷い営業妨害だよ。
「ならとっとと雪玉を潰しちまおうぜ!」
「わかってる!」
しかし、あのファンシーな雪玉の内側にキモい猿って、なんだかなぁ……気持ち悪いっていうか、やる気が削がれるというか……とにかく変なウィルスだったね。
「先ずはグルメタウンへGO!」
「おう!」
トランザム!じゃなくてウォーロックアタックで高速移動を繰り返しグルメタウンへと急ぐ。やっぱり移動にも使えるよね、これ。ロックオンした後に跳躍しているから、立体起動のイメージだろうか?
とにかく急がないと!
ーー二十分後・グルメタウンーー
「……よし、これで終わりかな?」
グルメタウンへと急行し、雪玉ウィルスを潰し回ったのでもう大丈夫なハズだ。到着して確認したら、雪玉の上にウィルスがいなかった時はちょっと焦ったけどね。探し回るのは結構、骨が折れたよ……
ーーピロン!
「またメール……キザマロからだね。ええっと、ゴン太達はホテルのロビーで待ってるってさ」
確か今、ホテルのロビーには……
「ならさっさと行こうぜ。あのツインドリルのゴキゲンも伺わなきゃいけないんだろ?」
「うわぁ……それは思い出したくなかったよ」
難易度高すぎるミッションだよ……普通にインポッシブルじゃない?
「ククククッ、オレは高みの見物を決め込ませてもらうぜ。オマエの反応は面白いからな、いい娯楽ってヤツだ」
遂に認めやがったな!?人の受難を娯楽扱いしやがって!スターキャリアー開封の時からそんな節があったような気がするけど……
「ちぇっ、それじゃまずはロビーに向かうよ……」
何でこんな気持ちでソロさんに会わなくっちゃいけないんだ!さん付けは必要ないかな。一応敵だし。
ーーリゾートホテル・フロントーー
フロントとロビーは役割の関係上、同階にある。あとはゴン太たちを待つだけなんだけど……
「ゴン太達、遅いな……」
もう別にソロは来なくていいんだけどね。ていうか何してたんだよ。こんな所で。
「……あ」
うわー、やっぱり来たよ。民族衣装に近いけれど、古めいた感じはあまりしない。そんな不思議な服装に身を包んだ白髪赤目の少年がこちらへ向かって来ていた。別にこの通路を通らなくてもいいじゃないか!どうせロックを見て近づいてきたんだろうけど。
「……」
こちらを睨んでくるソロ少年。ブラザーバンドや絆を憎んでいるんだっけ?
「何かな?」
「目障りなんだよ……」
初対面の人間に目障りとか言ってるから、ぼっちになるんだよ……
「いきなりだね」
「もし……自分の身が大切なら、下らん電波ごっこは止めておくんだな。そして今すぐ、ここから立ち去れ」
下らんって!世界救ったんだぞ!?だけどブライも接近戦タイプ。正直実力の程なんてわからないからな……
「マテリアルウェーブのことかな?あれは別に誰だってやってることで……」
「(スバル!気をつけろ!!凄まじい電波のオーラを背負ってやがる!)」
普通に丸聞こえなんだけどね。
「…………」
「コ、コイツ……!」
「ああそうだ。聞こえてるし見えてるんだよ、そこの電波体」
電波が見えるなんて、不便な生活送ってそうだよね……ボクならしょっちゅうコケちゃいそう。
「クッ……!ナニモンだ……!?」
ロックの警戒レベルもマックスだ。後でブライ対策でも考えておくか……でも電波障壁なんていうA.T.フィールド持って来られたら、打つ手なさそうだしなぁ。
「言っておくがオレは雪男じゃないし、このホテルがどうなろうと興味は無い。お前が目障りだから忠告しただけだ。……そこを退け」
「……別に、少し迂回すればいいだけの話なのに」
「聞こえなかったのか?そこを退けと言ったんだ」
はいはい、わかりましたよ……
「……フン」
鼻を鳴らし、ホテルの出入口から出ていってしまった。酷い態度のヤツだったな。あんなのとブラザーとか、絶対無理だよきっと。
「ヤロウ、ビジライザーもかけずに……」
「同い年くらいに見えたけど……」
「フンッ!今度会ったらコッチの実力を見せてやるぜ!」
どうせ戦うんだ。ロックのやる気があるに越したことはない。あとはボク次第か……
「まぁまぁ、ロックの同族に心当たりとかはないの?」
「いや、見たところ普通の人間みたいだな。オレらみたいな電波体が取り憑いている様子もねぇ。だがそれじゃあ、凄まじいオーラの説明がつかねぇしな」
うーん、凄まじい電波のオーラって一体なんのことだったんだろう。ムーの遺産から出てたとか?それって虎の威を借る狐……いや、本人も強いらしいし、それは違うか。
「ふーん……」
『オーーイ!!』
あ、遅いよゴン太、キザマロ!アイちゃんは……別れたんだね。
「雪の方、片付いたみたいですね」
「うん、凄く気持ち悪いウィルスだった……」
あの猿は暫く忘れられそうにないよ。キモい猿……クソ猿……EM……禁止。ウッ、頭が……!
「そ、そうでしたか……」
「で、雪男は?出てきやがったか!?」
猿は出てきたけどね。雪玉の中から。
「いいや、ダメだった」
「うーん、オレはゴリのヤロウが怪しいと思うんだけどなぁ……」
「でも証拠はないからね。尻尾を出してくれればいいんだけど……」
電波体の罪を立証するのって、実は限りなく難しいような気がする。戦闘力を持った電波体なんてかなり限られてるし、目撃者は皆殺しだ!……が罷り通っちゃうのが電波人間なんだしね。
「今度会ったらオレ、問い詰めてやる。アイちゃんのためなら、ちょっとぐらい怖い目にあってもいいぜ」
流石にブリザードに突貫は止めたいところだけど。
「……やはり動機はそれですか」
「うるせーよ、キザマロ!」
痛いところを突かれた、とばかりに反論するゴン太。反論っていうか誤魔化し?
『キミたち!』
この声……滑田さんか。
「雪を片付けてくれたんだね。助かったよ!一体どうやったんだい?」
「それはこのスバルが……」
「ゴン太ストップ!」
ちょっ、ナチュラルにバラそうとしないでよ!
「??まぁ、とにかくありがとう。これで明日からスキー場をオープン出来そうだよ。その前祝いに、この後、グルメタウンでイベントを開催することにしたんだ」
おっ、ついに大食い選手権か!?ゴン太が興奮してオックス・ファイアになっちゃうんだよね、確か。なるべく止めたいところだけど、本人は出たがるだろうし……何とかフォローするしかないか。
「イベントですか?」
「ああ、『大食い大会』をね!」
選手権じゃなくて大会だったか。スキーの方とごっちゃになってたね。
「待ってましたーーーー!!!」
ゴン太ェ……いや、切り替えが早いのはいいことなんだけども。
「タダで参加出来るけど、誰か参加するかい?」
「ハイハイハイハイーーーー!!」
テンション高過ぎじゃない?でもタダか……いや、ボクが参加しちゃダメだな。万が一の時に、動けなかったら困る。公衆の面前でリバースなんてゴメンだし。
「なるほど、キミなら期待出来そうだ。活躍を楽しみにしてるよ。それからさっき、アイの話をしていなかったかい?」
そういえば……あんまり似てないよね、親子にしては。眉もあんまり……
「アイって……スキーのアイちゃんですか?」
「……ムッ、滑田さん、いくら支配人だからってちょっと馴れ馴れしいですよ」
ゴン太……それ、完全に痛いファンじゃないか!
「ハハハハハ!アイは私の娘だよ。仲良くしてくれてるみたいだから、お礼を言おうと思ってたんだけどね」
そういえば、滑田さんの奥さんってどうしているんだろう。シングルファザーだったり?
「エ!?お、お父さん!?オ、オレ、お父さんに向かって……もうダメだ、終わった……」
ゴ、ゴン太が真っ白な灰に……ゴン太の魂が一筋の煙となって天に昇っていくのが見える……いや、冗談だよ。
「『マロ辞典』によりますと、ここからの回復は不可能ですね」
ま、まだアイちゃん本人が……目はある、ハズ。
「ハハハ、眉毛とか似てるから気づいてると思ってたんどけどなぁ……」
いや、似てないです。というか、会話中に出現していたパーソナルビューでわかってたけど。
「まぁそれで、アイも大食い大会を見に来るって言ってたんでね。キミたちに教えておこうかと……」
「ウォーーー!!!お父さん、オレやります!!挽回のチャンスを!!」
大食い大会で優勝することがアピールになるかは甚だ疑問だけど……
「ま、まぁ頑張れとしか……」
ボクには応援しかできないよ。
「ハハハ、まぁいいさ。とにかく、またアイとも仲良くしてやってね」
そう言って、滑田さんは行ってしまった。きっと大食い大会の準備があるんだろう。大変そうだなぁ……他人事だけど。
「ウォーーー!!!燃えてきたーー!!!」
「遂に来た見せ場って感じですね。どうします?グルメタウンに行ってみますか?」
「そ、その前にさ、委員長のコトをこれ以上放置するワケには……」
やべーよ。絶対マジギレしてるよ。何か手土産でも持っていけばいいかな?それかロックマンの状態で行くとか?いや、電波体じゃ委員長に見えないよね……都合よくビジブルゾーンが発生するとも思えないし。
「確かにそうですよね。でもまだ、機嫌は直ってないと思いますけど……」
チラチラと見ないでくれよ!
やっぱりボク一人で何とかしなくちゃいけないのか……
「ボク一応、委員長の様子見てくるよ……」
「じゃあボクは、こっちでゴン太くんが暴走しないように見張っておきますね」
暴走を警戒されるってどんだけ入れ込んでるんだ……?部屋にアイちゃんのポスターを張ってるようなレベルではないと信じたいけど……
「(それじゃあ、あの口煩いドリルのところに行こうぜ。ちゃんと看取ってやるからよ)」
どういう意味だそれは!
「(それじゃボク、死んでるじゃないか!)」
「(それくらいの気持ちでいけってことだよ。クックック……)」
他人事だと思って楽しみやがって!
ーースウィートルーム・寝室前ーー
恐らく、と言うより確実にこの先にいる。禍々しいオーラだ。きっとネズミ一匹入っていけない領域になっているんだろう。ケフェウスの電磁波にも似た強力なプレッシャーを感じる。なんでボクが、こんな目に……
「い、委員長?入るよ……?」
寝室に一歩踏み入れた瞬間、何かゾワッとしたものがボクの全身を突き抜けた。人間の出していいプレッシャーじゃないよ、ホントにさぁ!
「ちょっと!!そこから一歩でも入ってきたら、タダじゃおかないわよ!!」
ヒエッ!怖い……こんなの説得とか無理だろ!
「(クククククッ……説得は無理みたいだな。諦めてゴン太たちのところへ行こうぜ。クックック……)」
「(わかってるけどさぁ……もう少し協力してくてもいいんじゃないの?」
「(オレに何を期待するってんだ?)」
そりゃそうだけどさぁ……
「ハァ……もう行こうか」
「(おう!)」
委員長とスキー、結構楽しみにしてたんだけどな……
ーーガチャっ!
ーーリゾートホテルーー
ーープルルルル!
あ、電話だ。黒服お姉さんからだっけ?
「ブラウズ!」
ーーブゥーーン!
エア・ディスプレイの画面に映ったのはゴン太だった。ああ、大食いマシーンの件か。忘れてたよ……
「あっ、ゴン太。どうしたの?こっちは全然ダメだったんだけど……」
『頼むスバル!助けてくれ!!』
「……何かあったの?」
『オレ、大食い大会で、どうしても優勝したいんだ。だからスバル!わりぃが「大食いマシーン」を探してきてくれないか!?』
普通そんなモノ持ってる人いないってば。いや、いるんだけどさ。
「大食いマシーン……なんか凄そうな名前だね」
『大食いマシーンは食いしん坊達の間ではかなり有名なんだ。食い物を無理やり口に運んでくれるんだぜ。例え……どんなに腹が一杯でもな』
それ大食いマシーンじゃなくて拷問マシーンじゃない?
「うわっ、聞いただけでお腹一杯になってきたよ……」
『わかるか、スバル。コイツを使うにはかなりのリスクが伴う。胃袋がおかしくなっちまうかもしれねぇ。ただ……それでも、それでもオレは優勝したい!』
画面の向こうのゴン太はかなり焦っているように見える。そこまでするか……?とは思うけれど。これがゴン太の良さなのかもしれないね。
「まぁ、探してみるけど……あんまり期待しないでよ?」
『ああ、わかってる!恩に着るぜ!今回は何としてでも勝ちたいんだ!オレ、アイちゃんにいいところを見せたくてよ……!』
そこまでの覚悟なら、止めるのも野暮か。どうせ怪我人は出ないんだし。
「わかった。……頑張れよ、ブラザー」
『へへ……おう!あ、もうすぐ大会が始まるから、なるべく早めに頼むぜ!じゃあな!』
ーーバシュッ!
「……よし、『大食いマシーン』を探しにいこう。ゴン太は本気だからね。ボクも少しは応えなくっちゃ!」
「(だが時間的にそう遠くへは探しに行けないぜ。取り敢えずはホテル内部だな)」
確か……ヒゲダンディーが所有者を知ってたハズだ。ホテルマンは多いから、名前まで特定出来ればいいんだけどね。
「まずはヒゲダンディーさんに情報を聞きにいこう」
「(ああ、確か『困った時は何時でも相談しろ』って言ってたしな!)」
取り敢えずはスウィートルームに戻って、ヒゲダンディーに話を聞かなくちゃいけないな。
ってことは、またマジギレ委員長のいるスウィートルームに入らなくちゃいけないのか。嫌だなぁ……
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私の為の物語!