ーーその頃ーー
スキーコースにある2つのゴール地点、その1つで思考を巡らせる男の姿があった。辺りは既に、夜の帳が降りているため、人気はない。男の体格は大柄で、派手なスーツに身を包んでいる。因みにもう1つのゴール地点はグルメタウン方面へと続くルートである。
「チッ……」
大柄な男……五里門次郎はイラついていた。誰だって、絶対の自信を持って臨んだ件で失敗の目を見たら、平常心でいられはしないだろうが。
『……落雪事故の作戦は失敗。乗っ取りは上手くいっていないようだな』
不意に、若干の失望を含んだ声が辺りに響く。決して声量としては大きくないというのに、不思議と頭に入ってくるような声だった。
「誰だ!?……アンタか。そんなこと、声高に言われちゃあ困るじゃねぇか」
暗がりから姿を現したのは、先程の不思議な声の持ち主……ハイドだった。
「けどハイドさんよ。あんなに青い電波人間が邪魔してくるなんて、オレはこれっぽっちも聞いてなかったぜ?」
五里……ゴリとしても、この代えが効かないスポンサーに後援を外れられるのは避けたい。よって計画の範疇にない妨害者を挙げて、追及を逃れようとする。
「確かに……あれは私にも予想出来なかったが、有能な乗っ取り屋なら常に、筋書きは複数描いておくものだろう?」
ハイドとしてもそこを突かれると痛いので、発破をかけるようにゴリとの会話を進めていく。何せ、自分も一度その青い電波人間とやらに、苦渋を舐めさせられているのだから。
「ケハッ!見くびってもらっちゃあ困るぜ!そうだな……こうなったら、アンタが退屈しないよう一気に決着を着けてやる。次の作戦は…………だ」
ゴリはハイドに自分の計画を語っていく。流石の青い電波人間と言えども、自分のホームグラウンドならなんとか出来るという自信があるのか、えらく饒舌だ。乗っ取り屋として口が上手いことは、商売を円滑に行うための前提条件でもあるのだが。
「面白い。大自然を舞台にしたショーが見られるというわけか。明日を楽しみにしているぞ」
ゴリの計画はハイドとしても満足のいくものだったらしく、上機嫌だ。脚本家として他人の創造するショーが気になるようにも見える。
「ケハ!高見の見物を決め込むつもりか?……まぁいい。じゃあオレは、早速仕込みにかかるぜ。アンタに貰った、『古代のスターキャリアー』を使ってな!」
そう言ってゴリが懐から出したのは、ハイドよりもたらされた古代のスターキャリアーだった。これこそが、ハイドに後援を離れて欲しくない、最大の理由である。
何故なら、このチカラは代えが効かないのだから。
「出でよ!!イエティ!」
ゴリがスターキャリアーを構えると、閃光が辺りを塗り潰す。ハイドが自身の目を、被っているソフトハットで対閃光防御する。閃光が晴れると……
「また、新しいミッションか?……何であれ、私は呼ばれた人間にチカラを貸すだけ。争いがあるところなら、何処へでも行ってやる……」
顔と両手、それに足首から下をプロテクターで覆った電波体が現れた。電波人間を行う者同士だからなのか、ハイドとゴリにはその姿が見えている。
「ケハ!大したプロ意識だ。今度のはとびきりのミッションだからよ、頼むぜ!それじゃあ……電波変換!」
再びの閃光。
「グハーーーー!!!」
そこには、正に雪男と呼ぶに相違ない姿のゴリ……イエティ・ブリザードが佇んでいた。だらしない体型のオッサンと、シュッとした猿のようなイエティが融合した姿なので、二言で表すと……とても汚い。
「だが、未だに信じられないぜ。これが世界中で目撃される、UMAの正体だったとはな」
汚い雪男……イエティ・ブリザードが冗談混じりにハイドへと確認する。その体格はゴリの時よりもかなり大きくなっており、威圧感すら醸し出す程だ。
「フッ、全ては電波のチカラだというわけだ。では頼んだぞ、『イエティ・ブリザード』よ。このヤエバリゾートを、我が組織の日本での活動拠点にするためにもな」
イエティ・ブリザードの力強さを目の当たりにし、これならと確信したハイドは、余裕そうにゴリへと計画を明かす。ハイド達の組織は、ここを活動拠点にするつもりであったのだ。
「グハ!!だがその時は、料金はキッチリ払ってもらうぜ!」
「フッ……契約通りになることを期待しておくとしよう。ではな」
颯爽と歩き去っていくハイド。その姿には一分の淀みもない。
「グハ!グハ!!グシャーーーア!!」
誰も居なくなった雪原に、氷雪を纏いし雪男の咆哮が鳴り響いた……
ーー翌朝ーー
「ふぁ~あ」
うう、あ、朝か。起きなくっちゃ。
「ウグ……何だか、体の節々が痛いような……」
ソファーで寝たせいなんだろうな、きっと。
「ソファーで寝たせいだろうな」
考えることは同じ、か。
「うん、多分そうだろうね」
『オハヨーーー!!!』
ヨッシーみたいな声出さなくったって聞こえてるよ!
この感じからすると、ぐっすり寝られたみたいだね。畜生。 呪ってやる。
「おはよ……」
「おう、大丈夫か!?今日は絶好のスキー日和だぜ?」
「部屋の窓から見える景色はサイコーでした」
お?お?ケンカ売ってる感じ?
「…………」
拳をポキポキ言わせながらにっこりすると、二人とも黙ってくれた。何だ、もう少し話してても良かったのに。
「わりぃわりぃ……」
「アハハ……あ、ボク委員長を起こしてきます!」
そう言って駆け足で委員長の御休みになられている寝室へと、愚かにも足を運ぶキザマロ。神の裁きが降るぞ……!ガタガタ……
「キザマロっ……!」
なんまいだ、なんまいだ……
「……五月蝿いわね!!ワタシに構うなって言っているでしょ!!」
ーードンガラガラガッシャーン!!
「ひえぇ……」
何をどうしたらあんか音が出るというのか。むしろ怖いよ。元々怖いけど。
「イテテテ……」
あ、キザマロが帰還してきた。どこかぶつけたのかな?
「大丈夫か?」
「委員長にも困ったもんだよ……」
これ、旅行が終わっても続いたりしないよね?
「まぁまぁ……委員長と付き合いの長いボクに言わせれば、これも委員長の愛情表現みたいなものです」
なにそれこわい。
「キ、キザマロは愛されてるんだねぇ……」
顔が引きつっていないだろうか。
「いえ、スバルくんの方が……」
「あ、そうだ!愛と言えば……アイちゃんとの待ち合わせに遅れちまう!」
おっ、手が早いね。ボクも見習った方がいいのかな?
「へぇ、いつの間にそんな約束を?」
「昨日の夜、思いきって電話してみたんですよね」
「『一緒にスキーしてください』ってな。そしたら、『もちろんいいよ!』って、オッケーくれてさ!」
う、羨ましい……ボクがテーブルとソファーによる呪詛を受けている間に、そんなことをしていたなんて!この恨み、晴らさでおくべきか……!
「いいなあ……」
「あ、でも一人じゃなくて、皆で来てねって言われたんですよね」
「ま、まぁな。あー、でもオレ、じっとしてられねぇ!行くぜ!!」
あ、そうだ。忘れてた……
「ゴン太!待って!」
「何だ!?」
「コレ!」
ポイッとゴン太に投げ渡す。
「これは……何だコレ?」
「それはリサイクルカイロ。ゴン太、張り切り過ぎて迷子になったら大変でしょ?ホントにヤバくなったら、真ん中に浮いてる金属のパーツを押してね!」
「……お、おう。サンキューなスバル!ハート型だけど……」
「それはその形しか家に無かったんだよ!」
変な誤解はゴメンだからな!
「そうか。ならありがたく借りてくぜ!じゃあな!」
「あ、ちょっとゴン太くん!……っと、因みに待ち合わせの場所は、グルメタウンからリフトを2回登っていったトコロです。じゃあボクも行ってきますね」
行っちゃった……
「それじゃあ、ボクたちも行こうか?」
「だな!オレもスキーってヤツには興味あるぜ!」
どうせゲレンデの電波で、電脳スキーすることになるんだけどね。あれは面倒だったような……
っと、そうだ。確かスウィートルームの電波にはロック用の装備があったような……何だったっけ?
ーーグルメタウンーー
スウィートルームの電波にあったのは、『タンガロピアス』という万能型の装備だった。貧弱なスルドイツメから漸く卒業出来たので、ロックの機嫌も上々だ。
「おっと、スキー場……ゲレンデへのリフトには、スキーをマテリアライズしないと乗れないのか……」
「(そう言えばまだマテリアライズしてなかったな、スキーセット)」
だって無くても問題ないんだもん。
「そうだね……それじゃあいくよ!マテリアライズ!スキーセット!」
ーースキーのマテリアルウェーブ、スタンバイ!
『ボクらはスキーセットのマテリアルウェーブ!人呼んでボーゲン兄弟だよ!実は右が兄で左が弟なんだ!よろしくね!』
意思ある存在をスキー板として下に敷くなんて、中々精神にキそうだな……
「……おお!確かにスキーセットだ!」
なんとスキーウェアまでマテリアルウェーブの一部らしい。但し、その意識は下のボーゲン兄弟に集約されているらしく、意識の気配は感じない。
「よーし、行くぞ!」
リフトへGO!
ーーゴウンゴウン……
「着いたけど……ここは中間地点だね。あともう一度乗るんだったっけ……」
あ、幽鬼うさぎがある!……ん?何かが違ったような……
ーーゴウンゴウン……
「ええっと、ゴン太達は……」
『おーいスバル、こっちだぜー!』
左奥の方から、ゴン太の大声が聞こえる。
「今行くよー!」
ーーザシュッ
おおっ!中々滑れるな、ボク。
「……お待たせ!」
辺りは一面銀世界だ。何故か視界の隅に、クリスマスツリーがあるような気がするけど……
「おおっ、スバルくん結構上手いですね!ボクら、途中で何度も転んじゃったんですよ。スキーって結構難しいですね」
へぇ……というか初心者ならそんなモンか。いや、ボクも初心者だけど。
「まだ来てないのは……アイちゃんだけだな。ちゃんと来てくれるかなぁ……」
いや、来るでしょ。これで来なかったら、紐神様のように、ヴァレン某って呼んでしまうかもしれない。本家はアイズだけど、些細な違いだろう。多分。
『みんなー!お待たせー!!』
声の方向は……ゲレンデの上級者コース頂上か!
「あ、この声は!!」
急にテンション上がったな、ゴン太。
そんなことを思っている間に、アイちゃんは華麗なスキー捌き?で滑り降りてきた。おお……これが噂のゲレンデマジック。キラキラして見えるね。あんまりよくわからないけど。
「流石世界選手権の候補ですね!」
「オレ、惚れ直したぜ!」
うわ、ゴン太ストレート過ぎィ……
「?、ゴン太くん、今なんて?」
な、難聴持ちだと!?コイツ……ラノベ主人公だ!きっと鈍感属性も持ってるんだろうな……見た目も相まって、とてもあざとく見えるのは気のせいだろうか。
「イ、イヤ何でもないよ!」
あの態度で多くの男を惑わしてきたんだろうな……自覚無いのって、ボクは逆に良くないと思う。
「アハハ!ゴン太くんって、面白いね!じゃあ皆でスキーしよっか!」
誉め言葉が『△□くんって、面白いね!』だと十中八九アウトだと思うんだけど……気のせい?
「ハイ!コーチしてください!ボクたち初心者なんです」
「ハイ!わかりました!……じゃあそうだね、最初は細かいコトよりスキーに慣れるのが大事!転ぶのを怖がらずに前傾姿勢で雪に乗ってみて!」
これならゴン太も得意そうだ。何せオックス・ファイアで散々……
「ハイ!」
「じゃあ、ココの初心者コースを滑ってみよう!アタシの後に、皆ついてきて!」
「わかりました!」
キザマロも張り切ってるな……
「ちょっと待ったー!」
あ、やっぱり?
「そのコトなんだけど。アイちゃん、やっぱりオレ達だけで滑るよ!」
突然の突き放し。誘っといてやっぱ止めるとか、鬼畜の所業だよ!いや、冗談だけども。
「どうしたんですか、ゴン太くん?」
「だってよ……アイちゃん、選考会あるのに最近練習出来てなかったんだろ……?だったら今日は、自分の練習しなきゃ」
まぁ、普通そうだよね。アイちゃんは一体、どんな気持ちでゴン太の申し出を受けたのだろうか。
「ゴン太くん、アタシなら別に大丈夫だよ」
「そう言ってアイちゃんがオレたちとスキーしてくれるのはサイコーだけど、でもそれより自分の練習をしてくれた方が、もっと嬉しいんだ」
「だね。それでアイちゃんが世界選手権に出れたなら、ボクたちも凄く嬉しいよ」
「……うん、わかった!!アタシ、練習する!皆のためにも頑張らなきゃ、だもんね!じゃあ、向こうのプロコースで滑ってるけど、何かあったら連絡してね!」
実はこの初心者コースをリフトで上がると上級者コース、そして更にリフトで上がるとプロコースへと行くことが出来る。確かプロコースのスタート地点にイエティ・ブリザードがいるんだっけか。
「あ、アイちゃん!えっと……コレ!」
「これは……リサイクルカイロ?」
良かった、ちゃんと渡してくれるみたい。
「うん。コレ、借り物なんだけど……スバル、いいか?」
「もちろん!」
願ったり叶ったりだ。これでゴン太が突貫しなくても、アイちゃん一人で持ちこたえられる時間が出来るだろうし。ラッキーだ。
「そっか……エヘヘ、ありがと、ゴン太くん、みんな!」
「うん、頑張って!」
「ハイ!」
ゴン太の声に元気よく返事をして、アイちゃんは行ってしまった。アイちゃんには申し訳ないけれど、ちょっと我慢しててね……
「……あーあ、行っちゃった」
ゴン太が気の抜けたような声を出す。顔もまるで、萎んでいるかのようだ。
「ゴン太くん、楽しみにしてたのに。でも、いいこと言いましたね」
「うん、カッコよかったよゴン太!」
取り敢えずフォロー。とにかくフォロー。
「そ、そっかな……お前らにそう言われたらオレ……グズッ……グズッ……よし!こうなったらとことんスキーを楽しもうぜ!行くぞスバル!キザマロ!誰が最初にグルメタウンにたどり着くか、競争だ!」
「立ち直りが早いですね!流石ゴン太くn」
ーーザシュッ!
言い終わるが先か、ゴン太は行ってしまった。最近じゃ、世界陸上でもフライングは一発アウトなんだぞ!
「あ、フライングはズルいですよ!スバルくん、行きましょう!」
「そう言いながら先に行かないでよ!」
汚い、流石キザマロ汚い!
「ボクも行くぞ……!ライディングスキー!アクセラレーション!」
「(スバル、オレがビジライザーにウェーブインして、コースのナビゲーションしてやろうか?)」
そんなことも出来るの!?ぜひお願いします!
初めての方も感想ウェルカムですよ!
感想・評価が私の継続力です。