ーー美術館の電波ーー
「だから気をつけてって言ったのに……」
数十秒後、異次元空間から脱出出来たらしいハープ・ノートが目の前に出現した。いきなりヒュッと現れるたらビビっちゃうね、これは。
「アハハ……ゴメンね、スバルくん」
手を合わせてこちらの機嫌を伺ってくる。微妙に上目遣いなのは計算か、それとも天然か……今はそんなこと、どうでもいいか。
「とにかく、焦らないで行こうよ。慎重になりすぎるってのも考えものだけどね」
こっちがたどり着く前にオーパーツを飲み込まれてしまったら一貫の終わりだ。オーパーツをボクらの預かりにするには、あのカミカクシが明確にオーパーツを狙っているシーンを見せなければならない。どっちにしろただの盗人ではあるのだけど。災いを避けるため、という大義名分が出来るのは大きい。……改めて考えると、結構ゲスイ作戦だ。遺産を回収していて良かった。多少なりとも罪悪感が薄れるのだから……
「……それじゃ、早速GO!」
「立ち直り早いね……」
さっきのが、まさかポーズだったってことはないのだろうけど。それにしたって……いや、切り替えが早いのはいいことだ。特に今回みたいな、二人で行動する場合にいつまでも引き摺らないでくれるのは、こちらとしても助かっている。
「うん!ワタシ、元気が取り柄みたいなモノだからネ!」
こちらに振り向いて、ピース&スマイルをかましてくる。これに騙される男は多いだろう……なんかミソラちゃんが悪女みたいな物言いだ。反省しないと。ミソラちゃんは大切なブラザーだ。それを忘れちゃあいけない。
「そうだね…………ミソラちゃんの元気な姿に、たくさんの人が励まされているんだから、もう少し誇っていいと思うよ?」
「そう?エヘヘ……ワタシの元気、
途端にしまりのない顔になってしまった。クネクネしてるし、ちょっと近寄りがたいかも……先、進んでてもいいかな?
「……先行っちゃうよ?」
「あっ、待ってよ~ッ!」
さっきから怒鳴ったりクネクネしたり、どうにも今日のミソラちゃんは忙しい。二人で事件解決……みたいなのはここ最近なかったから張り切ってるのかな?って、マシンガンストリングを飛ばしてくるのは止めろォッ!
「ったく…………ってうわっ!……危なかった」
ホッと一息ついたらすぐこの黒い穴だ。なんとか振りきれたけれど、油断も隙もあったものじゃない。
ーー五分後ーー
巷で噂のハイクラスセキュリティ(無能)が備えられた職員スペースを通り過ぎ、その最奥から伸びていたウェーブロードを伝うことで、ボクらはこの騒動の原因……カミカクシの側まで接近することに成功していた。
因みに、ハープ・ノートのコードを巻き付けてから引き摺ることで、何とかベルセ・ルークとマジカミツイタロサウルスの展示品も回収に成功している。こんなところでオックス・ファイアのメガクラスカードが役に立つとは……今ばかりは、グルメタウンで暴れたオックス・ファイアに感謝しなくっちゃね。
「近くで見ると……なんていうか、凄く気持ち悪いよね」
電波兵器のクセしてイヤに生物的だから感想にこまる。一言で言えば……キモい!それにさっきから瞳孔が開いたり閉じたり……いや、電波の波紋を表している、のか?さっぱりわからない。
「スバルくん、気をつけてね……」
あまりのキモさに恐れをなしたのか、ハープ・ノートはボクの後ろから首だけをひょっこりと出して、注意を促してくる。女の子にはやはり、このビジュアルはキツいということなのだろうか。
『キキキッ!』
……というか絶対笑ってるよね!?まさか誘きだしていた、なんてことは無さそうだし……コイツ、やっぱり全自動式か。
ーーヴィィィーン
とか考えていたら、足元には例の黒い穴が。
「ッ!」
「スバルくん!」
いち早く下がっていたらしいハープ・ノートが、マシンガンストリングのコードを巻き付けて吸い込まれかけていたボクを引っ張り出してくれる。コードを巻き付けられるのは凄いけれど、その怪力はどこから……?考えない方が良さそうな気がしてきた。ライブで歌うのって凄い体力を使うらしいし、多分筋トレしてたんだろう。
「やっぱりコレが原因だ!」
「スバルくんをよくも……」
怖い!怖いから!
『……キキキ!オーパーツ……キキキ!』
キィエェェアァァァシャベッタァァァ!!というかコイツ、やっぱり明確な意思を持ってるいるぞ!?もしかして、カミカクシもマテリアルウェーブに属している可能性が……?
ーーバシュッ!
「き、消えた……!」
黒い穴とか全く関係なしに、自力で瞬間移動出来るのはどういうことなのだろうか。黒い穴要らなくない?それより、オーパーツだ。これで間に合わなかったら、笑い事じゃ済まないよ。多分、今ラ・ムーとやりあっても惨敗しそうだし……何よりカードパワーが足りない!
ーーヴィィィーン
「スバルくん、向こうだよ!」
「わかってる!……オーパーツがッ!」
「このままじゃ、飲み込まれちゃう!」
既にオーパーツの真下には、例の黒い穴が広がっている。こりゃあ、チマチマ降りていたんじゃ間に合わないな。
「何とか阻止しないと!」
「……オイ、もしかしてこりゃあ、チャンスなんじゃねぇのか?」
「急にどうしたんだよ、ロック!」
チャンスって……まさかロックまでオーパーツを回収する気になったのか!?あんだけヤバいヤバい言ってたのに?
「今まで散々あのチカラに世話んなってたから、よくわかる。……アレはマジでとんでもねぇ武器だぜ」
「そんなのわかってるけど……どうしてチャンスなの?」
「いいか、よく考えろ。あのチカラの内の、ほんの一部ですらあそこまで強化出来たんだ。なら、そのオリジナルなら……?ってことだよ。それに恐らく、ヤツは今眠りについている。本体に直接妨害されることはないだろうぜ」
「いや、それ絶対起きたらヤバいヤツじゃないか……」
「そんときゃあ、またオマエの口八丁でなんとかすりゃあいい。とにかく、今はそのチカラをオレ達が手に入れられるかもしれねぇチャンスってことだ!コイツを逃す手はねぇぜ!」
口八丁でなんとかなる相手ではないような気がするんだけどなぁ……まぁ、最悪暴れだしても、キズナリョク的には問題ないハズだ。ゴン太とのブラザーバンドで、既にボクのキズナリョクは400を示している。いくらオーパーツと言っても、このキズナリョクではなんともならないだろう。……多分。
「……………………」
「なぁ、どうなんだ?オレは、ここらで更なるパワーアップをしといた方がいいと思うぜ?今までのベルセルクじゃあ、スターフォース程のパワーアップは見込めねぇ。どのみち、ハイドみたいなのがいつ襲ってきても直ぐに返り討ちに出来る程度のチカラは必要なんだよ」
意外とよく考えてるな。コチラとしても、オーパーツINロックの腹の中なんてのは(ロックの負担的に)ゴメンだし、ロックが賛成なら、是非もない。
「何にしても、このままじゃあオーパーツを持っていかれちゃう。それだけは阻止しないと……」
「ああ、わかったぜ。だが、オレの考えも忘れないでくれよ?」
「……もちろん!ミソラちゃん!」
「な、何!?」
「このまま道なりに行ったんじゃあ、間に合わない。だから……ウェーブロードから飛び降りていくよ!」
「……うん、わかった!」
いくらウェーブロードが空中に浮いてると言っても、別に大した高さじゃない。飛び降りたらちょっとジーンとくるかもしれないってくらいだ。
「それじゃ……行くよッ!」
「ハッ!」
なんとかオーパーツのある展示エリアへと着地することが出来た。ウェーブロードが美術館の上空中心辺りに集まっていたお陰で、どのエリアにも繋がっていたのが功を奏したようだ。
「……よし!」
「……っとと……!」
ハープ・ノートが若干フラついているけれど、そこまで問題ではないハズだ。
「急げ!オーパーツが飲み込まれちまうぞ!」
「わかってる!」
ーーズズズズ……
「ヤバい!……うおぉぉっ!」
飲み込み始めるのが早い!と、とにかくダッシュで近づかないと……
「よし、オレに任せろ!」
やっぱりィ!?
「ええ!?」
「……ガブッッ!!」
威力60の確率で怯みそうな噛みつきっぷりを見せたロック。コレ、あとでオーパーツに歯形とかつかないよね?
「噛みつくのッ!?」
「スバル!オマエも全力で引っ張れ!!」
「うん!うおぉぉぉぉっ!」
って、ヤバい!このままじゃあ、オーパーツはロックの腹の中に……どうせロックもオーパーツを手放す気はないんだし、別に誤飲する必要は……ない!
ーーズズズズ……
「ウグググ……ダメだ、引き離せない!……ミソラちゃん!」
「わかってる!あっちの気味悪い目玉を殺れば……」
ミソラちゃんの殺意がヤバい!って、そうじゃない!ここはミソラちゃんにしか出来ないことを……
「違う!ボクがやるから、少しだけコードで引っ張ってて欲しいんだ!アレを倒せば、黒い穴も消えるだろうし!」
「わかった!……ハァァッッ!」
ーーギュギュギュギュ……!
ミソラちゃんのギター(ハープ?)から伸びたコード(弦かもしれないけど)が幾重にもオーパーツの刀身へと結び付いていく。オーパーツ自体に切れ味はないようなので、コードが切れることはない。
「……ありがとう!それじゃ、食らえ!」
一旦オーパーツからロックを引き抜き(?)、ロックバスターを構える。チャージ状態を解放し、単発のロックバスターを発射する。FULL CHARGE……いけ!ボクの必殺技……パート1!
「……キ、キキィィィ!!!」
やったぜ。
「きゃあっ!」
「うわぁっ!」
破壊に成功したせいか、辺りが閃光に包まれる。しかし、なんとか飲み込ませずに上手くいったようだ。実際、結構辛そうだったから負担を軽減出来るのは嬉しい。
「……イタタタ。黒い穴が消えた……。これで一件落着ってことでいいのかな?」
「いいや、まだだぜ。そこのオーパーツをどうするか決めてねぇ」
あ、そうだった。コードで縛っていたハープ・ノートが、後ろに吹っ飛んだせいで既に拘束は解けている。なんとか上手いこと持っていけるといいんだけど……
「スバルくん、どうかしたの?」
「ああ、それなんだけどさ……」
ーー少年説明中ーー
「確かに、さっきの不気味なヤツはそのオーパーツを狙っていたよね。それはオーパーツを名指ししていたことからもわかるし……でも、勝手に持っていくのは……」
ロックの計画を聞いて、ハープ・ノート……ミソラちゃんも悩んでいるようだ。美術館側の防衛戦力に期待出来ないからとはいえ、勝手に持ち出すのはやはり気が引けるのだろう。
「だよねぇ……」
「オイオイ、わかってねぇな!?スゲェチカラが手に入るんだぜ?……コイツを放っておく理由はねぇだろ!それにこのままオーパーツを放置していたら、絶対また同じことが起きるぜ。今度はオレ達が対応出来るかはわからねぇ。アンゼンカンリってヤツだと思うぜ?」
屁理屈に近いけど、向こうに利用されても困るって意味ではロックも危機感を持っているんだろう。なにせ凄い電波兵器だからね。
「うう~ん……」
何とか、費用さんの許可でも貰えればいいのだけれど……
『おや!!』
あっ、この声は……費用さんだ。向こうから近寄ってくる。まるで今話題のヒーローに会ったかのような顔をしている。……それってこの状況そのままか。
「アナタはもしや、ニュースで噂の青いヒーロー?」
「え?ああ、それは……」
開口一番だったので、少しつっかえながら話そうとするボクをミソラちゃん……もといハープ・ノートが遮る。
「そう!この人が青いヒーロー!さっきの騒動を納めてくれたのも、この人よ!」
「(ちょっと、ミソラちゃん!)」
「(いいじゃない、ホントのコトなんだし)」
いや、まぁそうなんだけどさぁ……
「ありがとうございます!アナタはホンモノのヒーローだ!」
費用さんの純粋な目が痛い。これからオーパーツを持ち出す為の交渉をしないといけないなんて……
「そんなこと、ないですよ」
「いいや、現に私は助かったんだ!感謝を述べさせてくれ!ありがとう!」
そう言って割と直角に近い角度で頭を下げてくる費用さん。む、むしろ交渉がしづらくなったような……
「ええっと、守っておいてなんですけどね。その、オーパーツのコトなんですけど……」
ーー少年説明中ーー
「な、何だって!?さっきの黒い穴は、オーパーツを狙ってきた!?しかもこのままオーパーツを狙ってまた同じようなコトが起こるかもしれないだって!?」
「ええ、そうなんです。ボクらで預かってもいいんですけど、このオーパーツは美術館が管理しているモノですし……」
ここでわざわざ欲しいんです!とは言えないのが辛い。まだるっこしい会話は疲れるんだよなぁ……
「ムムム……だが、既に相当数の被害が出ている以上、オーパーツまで失っては、費用が、費用がぁ……」
「あ、展示品なら回収しておきましたよ。確か、滅びの種族エリアにまとめて置いておいたハズです」
「な、何だって!?そ、それなら何とか建て直せるかもしれないぞ!」
もう一押しか。
「これ以上被害が出たら、困りますよね?」
「……背に腹は代えられないか。かけた費用はもったいないが、コチラで守りきれるとも思わない。防衛戦力に費用を取られても意味がないし……グヌヌ……仕方ない。も、持っていってくれ!」
よし、ミッションコンプリート!最悪、ロックに首トンでもしてもらおうかと思っていたから、大分平和的に済んでくれてよかった。
「ええ、コチラでも原因を追ってみますので……」
「『滅びの文明展』をやっている間に頼むよ!」
「ぜ、善処します……」
もう戻ってこないとは言いづらいよなぁ……いや、この人の安全の為でもあるし。展示品全滅よりはマシだと思ってもらうしか……
「それじゃ、ボクらはこれで……」
アンドロメダのカギ方式で体内に保持しておけるらしく、ロックには取り出し可能な状態で取り込んでもらった。新しいチカラが手に入って、ロックもご満悦だ。
「あっ、待ってよ!」
おっと、忘れてた。なんだか後味悪いし、後でこの美術館に寄付でもしておこうかなぁ……ゼニーだけは有り余っているし。普通に寄付したら足が着きそうだから、ロックマンの状態で費用さんのスターキャリアーに直接置きに来ることになりそうだけど。ロックマン名義で予告でもしておけば、悪用もされないだろう。
「はぁ、費用が……いや、まだチャンスはある。何とか立て直してみせるぞ!まずは、どうにか費用を捻出しないとな」
費用さんの戦いはまだ、始まったばかりだ!
ーー二人が去った後ーー
ーーヴィィィーン……ズズズズ……
人知れず、カミカクシによって転移してきた少年……ソロはやる気に満ち溢れた美術館のプロデューサーを眺めていた。計画が失敗したからか、その表情は厳しい。
「…………」
ーーTKタワー前ーー
何とか当初の目的(もちろん誰にも明かしてはいないのだけど)を果たし、オーパーツを回収することに成功したボク達は、電波変換を解いてTKタワーの前に戻ってきていた。
「いやぁ、大変な目に遭ったね。せっかく遊びに来たってのにさ……」
「ううん、ワタシもスバルくんと一緒にいられて楽しかったよ。それに刺激的な体験は、いい歌を作る上でとっても大切だからね!」
屈託のない、輝くような笑顔だ。楽しんでくれたなら、いいんだけれど……でも、なんというか面と向かって言われるとどうにも調子が狂ってしまう。
「そこまで言われると、なんだか照れちゃうな」
「フフッ、それなら……成功ってコトかな?」
何か賭けでもしてたのだろうか?ミソラちゃんには珍しく、よくわからない言い回しをする。
「成功?成功ってなんのこt」
「ヒ・ミ・ツ!…………フフフッ!」
妙に色っぽい仕草だ。こういうのは大抵、ハープの差し金なんだよね。やれやれだぜ……
「そう……まぁ、別にいいんだけどね」
「むぅ……!……っと、しまった。気づいたらもうこんな時間……」
スターキャリアーに表示されているデジタル時計は丁度午後5時を示している。今が夏休みだからといって、あんまり悠長に遊んでいられる時間でもなさそうだ。あかねさんにも心配させたくはないしね。
「そろそろ帰らなくっちゃね。あーあ、もっと遊んでいたいのに……」
「そう、楽しい時間って、ホント直ぐ終わっちゃう……でも、今日はアリガト!」
あの、それは自分がバトルジャンキーだと言っているのと同義に感じるんですけど……その内ノイズも克服しそうで怖い。やっぱり一番恐ろしいのは人の執念だと思うね、ボクは。別にミソラちゃんとは何も関係ないのだけれど。多分。
「どういたしまして。ボクも楽しかったよ」
「ワタシも。……あ、そうそう!スバルくん、丁度最近スターキャリアーに機種変したばかりでしょ?ブラザーバンドがリセットされてるよね?」
ああ、そうだった。確かミソラちゃんと会った三日後位に丁度機種変したんだった。それから二週間近く会ってなかったから、仕方ないね。
「うん……そうだ。ここでブラザーバンドを結び直さない?」
「モチロン!でも、スバルくんから言い出すとは思ってなかったからチョット意外かな?」
「そりゃ酷いよ!」
こういうのは男子から言いなさいって、あかねさんも言ってたんだ。間違ってはいない、ハズ。
「フフッ、冗談だよ。さっ、結んじゃお。ワタシもスバルくんとのキズナリョク、気になってたし……」
「それじゃあ、ブラザーバンドを結ぶよ……」
情報を共有出来るシステムだからか、ブラザーバンドの設定って結構手間がかかってしまう。アレだ、倫理コード解除みたいな感じ。……自分で言っておいてなんだけど、ホント酷い例えだと思う。
「……よし、完了!」
「ええっと、キズナリョクは……300!凄い、300だよ!これはもう、スバルくんとワタシは一心同体と言っても過言じゃないね!」
ミソラちゃんの機嫌は最高潮に達している。余程嬉しかったんだろう。ガチのガッツポーズまでしている。そ、そんなに……?
「あ、委員長と同じ数値だ」
「」
ミソラちゃんが死んだ!この人でなし!
というか、どうして落ち込むんだろう。300って凄い数値なんじゃなかったの?
「オマエって時々、ヒデェことするよな……」
「ポロロン……これは擁護出来ないわね……」
何でそこで集中砲火なんだよ!
感想・評価が私の活力源です。
GET DATA……
『リカバリー50』、『バーストグローブ』
『ボルティックアイ1』、『オーパーツ』