星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーーその日の夜ーー

 

 自らの所属する組織のアジトへと帰還していたハイドは、一先ずオリヒメに今回の調査で得られた情報の報告を行っていた。

 

「……オリヒメ様」

 

 めぼしい情報を一通り報告した後、ハイドはオリヒメに、以前から気にかかっていたコトを質問しようとしていた。この組織はデータによるやり取りが少なく、重要案件は口頭で伝えられるコトが多いため、こうして一々謁見しなくてはならないのが面倒だ……とハイドは常々思っていた。

 

「どうした?ハイドよ」

 

「少し、気がかりなコトが……」

 

「オーパーツのコトか?それなら案ずるでないぞ。必ずや、ソロが奪取してくるであろうよ。ヤツのチカラは本物故、な」

 

 オリヒメの口調には淀みがない。ソロがオーパーツを入手してくることは、既に彼女の中では規定路線なのだろう。実際、この組織の中でもソロの実力は有数であるからだ。そもそも、数えられる程度の構成員しかいない、という問題は除くが。

 

「ソロのチカラなら、私も存じています。私が気になっているのは、それとは別のコトなのです。……ソロは我々の仲間になったワケではありません。その上、あれだけのチカラを所持しております。なぜ、オリヒメ様の指令を素直に聞き入れるのでしょう?」

 

「そうか、そなたはまだ知らぬのだったな。ソロの目的を……」

 

 この組織に構成員のプロフィールを記したデータは存在していない為、任務に関係のないコトは本人の口か、ボスのオリヒメから聞き出すしかそれらしい方法がないのである。

 

「目的?」

 

「偶然にも、妾とヤツは同一の目的を持っていたのだよ」

 

 ここまで話されては、流石のハイドと言えどもピンときてしまう。ハイドとて、自分の組織が遂行しようとする計画くらいは理解しているのだ。その計画の一つが目的で誘いに乗ったということもあるが。

 

「では、ヤツも例のモノを復活させようと……」

 

「ヤツは、どうしてもそれを叶えたいと願っておる。例のモノに対するヤツの執着は相当なものだ。そうでなければ、あれだけ人を寄せ付けようとしない男が誰かと手を組もうなどとは、到底考えられないであろうな」

 

 どうにも件のソロは、オリヒメの中で一定の信用があるらしく、裏切り等の心配は微塵も感じていないようだ。

 

「…………正直に申し上げまして、私はヤツをどうしても信用出来ませぬ」

 

「そう言うな。目的が叶うまでは、ヤツも大人しく妾の言うことを聞くであろうよ。……さぁ、ソロよ、早く妾の下にオーパーツを持ってくるがよいぞ……」

 

 オリヒメの発する、えも知れない上品さをも感じさせる不敵な笑い声が、アジトに響いていった……

 

 ーー翌日・星河家ーー

 

『今日のトップニュースです。青いヒーローが、又も人々を救いました。今度はコダマタウンのカードショップと、ロッポンドーヒルズの美術館です。救われた方による、インタビューが入っています』

 

 画面が切り替わり、南国さんの顔がアップで映る。どうやらBIGWAVEで収録したらしい。そういえば、収録機材ってマテリアルウェーブだったりするのだろうか。自動で調整してくれたりとか……結構便利そうだ。

 

『あの青いヒーローは最高にカッコいいねっ!』

 

「カッコいいだとよ」

 

「よせやい、照れるじゃないか」

 

「ククク……お前も段々、ヒーローが板に着いてきたじゃねぇか。オレは嬉しいぜ?」

 

「なんだよ、嬉しいって?」

 

「ヘヘッ、お前がもっとヒーロー然としてくれりゃあ、こっちとしても暴れやすいしな」

 

 ロックはボクの腕でバスター吐いてるだけじゃないか!いや、ロックオンのサポートもしてくれてるし、確かに助かってるけどさぁ……

 

「ハイハイ、これからもよろしくね」

 

「おう、任せな!……ところでよ、今日は約束があったハズだよな」

 

「うん……そうだね」

 

「なんだよ、元気ないじゃねぇか」

 

 わかってても……見ず知らずの土地に放り出されるのをスルーするのは、良心が痛む。

 ただ、今回のコトはキザマロにとっては成長の糧となるハズだし、ミソラちゃんにはどうしてもオリヒメ達をバミューダラビリンスの最奥まで案内してもらわないといけない。

 ムー大陸を復活させないまま、中途半端にオリヒメ陣営だけを片付けた結果、『ディーラー』に目をつけられた挙げ句にメテオG掌握と同時展開でもされたら完全に詰んでしまう。『ディーラー』はムーの技術も取り入れていたハズだから、万が一を考えられずにはいられない。どちらにしても……はぁ。

 

「……ううん、ちょっと昨日の疲れが残ってるだけ。公園に集合する手筈になっているから、気の早い委員長辺りは、既に来ているかもしれないね」

 

「なら急ごうぜ。あのツインドリルの怒髪天は、オレとしても見たくないからよ」

 

 クククッ……っとロックは悪戯小僧のような笑みを浮かべている。……暫くは、委員長の顔しか見られなくなることを思うと、何だか複雑な気分だ。ただ、自然的にバミューダラビリンスまで行く方便があるわけでもないので、やはりスルーするしかないんだよな。

 あくまで向こうに、こちらを正面から倒せる相手だと思ってもらわないとどんな手に出られるかわからないのも悩みドコロだ。手加減してなんとか出来る相手ばかりとも思えないのだけど……

 

「違いないね」

 

「ヘヘッ、それじゃあ行こうぜ」

 

「……うん!」

 

 ロックには、いつも助けられてばかりな気がする。常に明るい相棒がいるってのは、思いの外頼もしいものだ。

 

 ーーガチャッ!

 

 

 ーーコダマタウン・公園ーー

 

 天気にも恵まれ、頭上でサンサンと自己主張する太陽がとても眩しい。マテリアルウェーブで気候管理されているワケではないので、ここも時期に蒸し暑くなってくるのだろうけれど、今はまだ、朝らしい若干の涼しさを残している。

 

 それにしても、ロックによって取り込まれたオーパーツは、昨日から全くの無反応を決め込んでいる。以前のように傲岸不遜というか、偉そうな態度で乗っ取ってくるかと思っていたので拍子抜けしてしまった。逆に不安でもあるのだけどね。

 

「……まだ、誰も来ていないみたいだね」

 

「(よかったじゃねぇか)」

 

「うん。ヤエバリゾートの悪夢を繰り返すワケにはいかないからね……」

 

 あのときの委員長はかなりヤバかった。ブルブル……

 

『そんなの知らないよ!』

 

 ……来たか。これは南国さんの声……BIGWAVEは公園に隣接しているので、ここからでも一部始終を確認することは出来る。

 

『ニュースで言っていたな?青い男に助けられた、と……ヤツは一体何者だ?』

 

 BIGWAVEの前で南国さんに詰め寄っているのは白髪の少年……つまりソロだ。これって客観的に見ると、かなり痛い行為なんだよな。……もしかしたら、ストーカー気質でもあるのかもしれない。気をつけないと。

 

『だからわからないよ、ボクにはさ』

 

 南国さんも戸惑っているようだ。まぁ当たり前なんだけれども。普通なら正体不明のヒーローを、助けられただけの被害者に聞いたりはしないような気がする。顔を見た可能性を考慮したとか?それでも、専門家辺りに映像でも見せた方が確実なんじゃないだろうか。

 

『……教えろ。どうやったら、ヤツに会える?』

 

『そんなコト言われても……彼は困っている時に現れるヒーローなんだ。ボクにどうこうは出来ないよ』

 

『……フン、そうか。誰かが困れば、ヤツは現れるんだな?』

 

 そう言い残し、ソロは去っていってしまった。多分、カミカクシを取りにいったのだと思うけど……

 

「(……オイ、アイツ、ロックマンのファンか何かなんじゃねぇか?まさか、こんな近くにそのロックマンがいるとは思ってねぇだろうがな。クククッ!)」

 

「いや、あの白髪……間違いない。ヤエバリゾートで会った人だよ。ホテルのフロントでつっかかってきた、やけに睨んでくる人だったからよく覚えてる」

 

「(そういえば、確かにそうだな。じゃあ、なんでアイツがロックマンを探してやがるんだ?)」

 

「さぁ……電波体だってコトに気づかれたとか?」

 

「(ありそうだな……一応、警戒はしておくか。ま、そんなに神経質にならなきゃいけねぇ相手でもなさそうだがな!ガハハハ!)」

 

 ちょっと調子に乗りすぎなんじゃない?

 

「ま、程々にね……」

 

 一応、フォルダの整理でもしておくか。近距離中心で組んでおかないと、ブライには対応出来なさそうだ。多分、典型的な撃ってから回避余裕でしたタイプだろうし。ああいうのが、一番やっかいなんだけどな……

 

 

 ーー数分後ーー

 

 無事に委員長、ゴン太、キザマロ、ミソラちゃんが公園へと集合し、それぞれが再会を喜び合っていた。いささかゴン太とキザマロの反応がオーバー過ぎるようなきらいもあるのだけれど。

 

「久しぶりだね~!」

 

 ミソラちゃんって、ホント何時でも笑顔だよね。何やら不思議な方法でエネルギーをチャージしているようだし、後で秘訣でも聞いてみようかな?

 

「ミソラちゃーん!会いたかったぜー!歌手を引退してた間も、キミを忘れたコトは一度もないぜ!」

 

「ゴン太くん、キミにはアイちゃんがいるでしょう?ミソラちゃんの一番のファンはボクです。歌手活動に復帰してくれて、どれだけ嬉しかったことか!思わず、目頭が熱くなりましたよ……!」

 

「そんな、大袈裟だよ……」

 

 どうにも若干引いているようにも見える。二人とも、がっつき過ぎってコトなんじゃない?

 

「大袈裟じゃありませんよ」

 

「オレたち、ずっとファンだぜ!」

 

 ブレないなぁ……そこが二人の良いところでもあると思うけどね。ただ、ボクもファンだという点では同感だ。

 

「なんか照れちゃうなぁ……ありがと!」

 

 ま、眩しい……!これがアイドルオーラというヤツか!?……一般人には刺激が強すぎないだろうか。

 

「……へへ!ミソラちゃんはやっぱりサイコーだぜ!」

 

 ゴン太ェ……ま、あんまり頻繁にアイちゃんと連絡を取れないとはいえ、あんまり浮気はよろしくないんじゃないかと思う。ただ、何となく件のアイちゃんとは気が合いそうな気もするので、一度じっくり話し合ってみたいものだ。なんというか……他人とは思えないんだよね。精神や体とかじゃなくて、なんというか……在り方?

 

「…………」

 

「(なんでしょう……?背中に殺気を感じます)」

 

 キザマロの予感は間違っていないと思う。だって委員長、さっきからあんまり機嫌良さそうじゃないもの。恐らく、自分をほったらかしてミソラちゃんと会話を弾ませている二人に嫉妬しているのではないだろうか。なにせ、二人はブラザーだったからね。

 

「ところでアナタ……最近あまり顔を見せなかったけど、やっぱり歌手活動が忙しいからってコトなの?」

 

「うん……ゴメンね、ルナちゃん」

 

 言い咎められたと感じたのか、若干俯き気味にミソラちゃんは肯定する。委員長の罪悪感が凄そう。

 

「うっ……い、いえ、別に気にしているワケではないのよ。ただ、その……ブラザーだし」

 

 ミソラちゃんの態度に焦ったのか、委員長は途切れ途切れに本音を語る。どうにも女子同士の繋がりは、ボクが思っていた以上に強固だったようだ。絵的にもベリーグッドである。

 

「エヘヘ……ワタシもルナちゃんのコト、大好きだよ!」

 

 実に自然な流れで委員長へと抱き付いたミソラちゃん。

 ま、まさか……これが狙いだったとか?ミソラちゃん、恐るべしだ。やはり本当に怖いのは行動力のある女子だ。はっきりわかったよ。

 

「え!?あ、いや……ワ、ワタシも……」

 

 それにしても……なんだこの百合空間は。甘い、空気がとんでもなく甘い!まさか突如として百合の花が咲き乱れるとは、このボクの慧眼をもってしても読みきれなかった……!

 もう、二人でゴールインしたらいいんじゃないかな。

 

 なんてことを考えている間に、二人は既に抱擁を解き、ブラザーバンドの結び直しまで行っていた。はえーよ。

 

「……よし、と。それでね、こうやって誰かとお喋りしたり、何処かへ遊びに行ったりするのも大事だと思ってるんだ!外の空気を吸った方が、いいフレーズを浮かべられるコトもあるし……昨日なんかはロッポンドーヒルズに行ったんだよ」

 

 あ、これマズイ流れだ。

 

「へ~、ロッポンドーヒルズかぁ。誰と行ったの?一人?」

 

 時既に遅し、ゴン太が的確な質問をミソラちゃんへと投げ掛けてしまっていた。クソッ、イケツラさんの件で懲りていたハズなのに……!

 

「え、えっと……スバルくんと、ふたりきりだけど……」

 

 何故か、最後の方を強調して話すミソラちゃん。少し胸を張ってるような?いや、薄すぎてわからn

 

「(イテッ!)」

 

 ミソラちゃんのスターキャリアーから衝撃波が飛んできたんですけど!?これ、多分ハープだよね?やべーよ、ハープさんホントマジやべーよ……

 

「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、二人きりですって!ホ、ホントなの!?スバルくん!」

 

 こ、ここは……なんでもないことのように流すしかない、と思う。大丈夫、大丈夫だ星河スバル。絶対に乗りきれる。そうだ、最大のピンチにこそ、最大のチャンスは訪れる!……ハズだ!

 

「ま、まぁ……でも、そんなに気にすることじゃないよ。タダの気分転換なんだってさ」

 

「きたねぇぞ!オレたちも誘えよ!」

 

「まぁ、スバルくんですし……」

 

 何故か一定の理解があるキザマロはいいとして、ゴン太には悪いことをしてしまった。何せ、以前から食べたいと言っていたパフェを先に食べてしまったからね。

 

「…………(ま、まだよ!この程度、ワタシだって何度かスバルくんと……!)」

 

 委員長がとても難しそうな顔をしている。何か思うことでもあったのだろうか。まぁ、イケツラさんの件よりはキレてないみたいだし、ここはなんとかなりそうだ。

 

 

 ーーヴィィィーン

 

「え、なに?」

 

 この音は……カミカクシだ。遂に来てしまったか。

 

 

『うわぁぁぁ!!』

 

『きゃぁぁ!!』

 

『す、吸い込まれる!!』

 

 公園内に出現した黒い穴に、散歩中と思われる人達が捕まってしまっている。多分、この人達を完全に吸い込んでしまうわけではないのだろうけど……

 

「あれは……もしかして!」

 

 

『ひぃぃぃ!!お助けーー!!』

 

 

 向こうではお婆さんが!腰、大丈夫かな?

 

「……美術館を襲った黒い穴だ!どうしてコダマタウンに!?」

 

「な、なんなのよ……アレ!」

 

「あんな現象、『マロ辞典』にも載ってません!まさかまた、UMA騒動ですか!?」

 

「ここにいたら、オレたちも危ないんじゃないか!?」

 

 いち早く危険を察知する辺り、結構皆成長しているような気がする。そりゃあ、踏んできた場数が違うか。

 

「大丈夫!ワタシ達には、強い味方がいるわ!」

 

「お、そうだった!オレ達にはロックマンがいた!」

 

「そうです!ロックマンならきっと、解決できますよ!」

 

 信頼が、とても厚いな。これは確かに、中々クるモノがある。ただ、悪い気はしない。

 

「……うん、わかってる」

 

「フフッ、それでこそワタシ達のヒーローだよ!」

 

 ミソラちゃん(ブラザー)の為なら火の中水の中だ!これは誰でも変わらないけどね。ただ、男子って結構単純だから、可愛い女の子の為なら百人力ってヤツかもしれない。

 

「(ヘッ、ヒーローは辛いな。さ、早いとこあの気味ワリィ目玉をやっちまおうぜ!アイツ単体に戦闘力は無いからな、近づいて破壊するぞ!)」

 

「あ、スバルくん、ワタシは……」

 

 正直、カミカクシ相手に電波人間二人は過剰戦力だ。取り敢えず、今出てるカミカクシを倒し終わるまで皆の安全を確保してもらう方が先決か。

 

「ミソラちゃんはここにいてほしいんだ。あの黒い穴が出てきたら、皆をお願い!」

 

「……うん、わかった!気を付けてね、スバルくん」

 

「モチロン!それじゃ、行ってくる!」

 

 先ずは電波変換しなくちゃな。ウェーブホールは……家の庭近くの芝生上だ。急がないと!




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