ーー夜・星河家ーー
痛む体を引き摺るようにして帰宅したボクは、心配するあかねさんを余所に、さっさとシャワーを浴びて就寝していた。今はゆっくり体を休めて、委員長オヒュカスに備えないと。幸いにして、オーパーツは静観を決め込んでくれているようなので、これ幸いと熟睡させてもらうことにする。
因みに委員長は、白金家まで送り届けた後に目が覚めたらしく、明日委員長の家で対策会議をやるから絶対に来なさい!とのことだった。一応体を気遣ってくれたのか、メール送信で済ませてくれている。
『……ヤハリ……ワレワレノミコンダトオリダ……!コノカラダ……イヤ、コノニンゲンコソガ……ワレラガフッコウノ……アシガカリニフサワシイ……!』
わかったから、わかったからもう今日は眠らせてくれよ……っ!リカバリーで出来る限り治療したけれど、それでも体中が痛むんだ。死人の相手なんて、一々していられないよ……
ーー翌日ーー
「ううう……早く、何とかしないと……!」
「オイ……大丈夫か?」
誰かにゆさゆさと体を揺らされている……ああ、ロックか。どうにも魘されていたらしい。夢だったので記憶はないけれど、ロックが思わず起こしにかかる程だ。相当に酷い魘され方だったことは予想が着く。
「……うん、大丈夫。ボクは大丈夫だから」
「…………」
どうにも調子が悪い。昨日の好調っぷりが嘘のようだ。全身に脱力感を感じるし、思考も上手く纏まらない。こんなんじゃ、エランド相手にも苦戦しそうだ。
「取り敢えず、着替えないと……」
「(結構堪えてるみたいだな。ま、無理もねぇか……何だかんだ言っても、コイツはまだガキなんだ。ダイゴみたいなポジティブさを期待する方が間違ってるし、何より中身がちげぇからな。今のコイツは、どうにも不安定で危なっかしいぜ……)」
ノロノロと着替えを終わらせ、ラジオ体操を真似た柔軟運動をする。兎に角、体を解しておくぐらいはしておかないといけない。
「……なぁスバル」
「どうしたの?」
「これから、どうするんだ?」
ああ、なんだそのことか。……決まってる。まずはキザマロからだ。確か海外放送のチャンネルに、キザマロが出演するんだっけか。それでドンブラー村?に向かうことになったハズ。先ずは海外放送を受信している、委員長の家に行くべきか。
「うん、取り敢えずは……」
ーープルルルル!
「あ、電話だ。委員長からみたいだね。……ブラウズ」
ーーブゥーン
相変わらず、ハエのような音を(以下略)なエア・ディスプレイには、憤怒の表情を浮かべた委員長が映っていた。今のボクには怒り狂った委員長でさえ、心のオアシスになり得るかもしれない。ロックを除けば……だけど。
『遅~~~い!!何してるの!いつになったらウチに来るのよ!!』
「あ、うん。今行こうと思ってた」
『そう……?まぁいいわ!兎に角、早くウチに来なさいよね!わかった!?』
「わかったよ」
どうにも声に覇気が宿らないな。これが喪失感なのかもしれない。ただ、やるべきコトがわかっているだけましなのだろうけど。
『ちょっとアナタ、しっかりしなさいよ!皆がいなくなったわ……つまりこれは緊急事態ってコトなの!私達がなんとかしなきゃいけないのよ!何度も言うけど、先ずはウチに来なさい……いいわね!』
ーーブツッ!
通信が切れてしまった。そうだ、塞ぎ混んでいる暇なんてない。誰が何処に飛ばされたかはわかっているんだ。本当にどうにかなってしまうワケじゃない。
「スゥ……ハァ……!」
大きく深呼吸をする。先ずは切り替えだ。ボクの調子如何によっては、委員長まで失ってしまうかもしれない。それは絶対に避けないといけないんだ。絶対に。
「……スバル?」
「……うん、もう大丈夫。ボクはやる。……やってみせる!」
「なんだよ急に……?」
「ううん、気にしないで。ただの自己暗示みたいなものだから。さ、委員長の家に行こう?」
「まぁ、スバルがそう言うなら……」
さぁて、今日は大忙しってヤツだ。暴れまくってやるぞ……!
「母さん、行ってきます!」
「いってらっしゃい、スバル」
よし、特に悟られてはいないようだ。あかねさんって凄く鋭いから、あんまり長く話していると見透かされてしまいそうだ。
ーーガチャッ!
ーーコダマタウンーー
先ずは委員長の家に向かわないとね。っと、その前に確か、困ってるエンジニアさんを助けなきゃいけないんだっけ?いくぞデンパくん。Dエネルギーの貯蔵は十分だ!……何か違う気がする。
『むむむ……』
やっぱりいた。あれは……確かゴン太ん家の犬小屋型防犯装置。それの調子が悪いから困ってる……って具合だったはずだ。
「(オイ、あそこで誰か困ってるみたいだぜ?)」
「(そうだね……)ええっと、どうしたんですか?」
「むむむ……ん?いや、ちょっとね……この犬小屋を修理してるんだけどさ、これ、タダの犬小屋じゃないんだ。犬小屋型の防犯装置なんだ。不審者が家に近づいたら警報がなるようになっているんだよ。『ワンワンワン!!』って」
「(防犯装置か……フン、よく考えたもんだぜ)」
ロックも結構犬っぽい顔してるから、親近感でも抱いたのだろうか。大音量でワンワンワン!!されるより、青い宇宙人に脅かされたほうが効きそうだけどね。
「修理してくれって頼まれたんだけど、原因がわからなくってね。このままじゃ仕事がいつまでたっても終わらない……今日は早めに仕事を切り上げるつもりだったのに!」
プロ的にどうなんですかね……?という疑問は置いておいて、どうにも事情があるようだ。流石に細かい事情までは網羅していないので、ここは静かに聞いておくべきだろう。
「……実はさ、今日ボク……結婚記念日なんだ!早く帰るって嫁さんと約束したんだ。……どうしよう!あ……そ、そうだ。あの人を呼ぼう」
「あの人?」
ああ、ここでロックマン助けてーの展開なのか。ま、大した手間でもないし、引き受けることに躊躇いはない。ただ、結局ダメなんじゃなかったっけ?
「そう!青いヒーローロックマン!ロックマンを呼ぼう!」
「ど、どうやって……?」
「さぁ……って、そもそもこの程度のことじゃ来てくれないよね。はぁ……どうしよう、折角の記念日なのに」
「(お呼びのようだな。全く、ヒーローは辛いぜ……)」
ビジライザーをかけていないからロックを見ることは出来ないけれど、やれやれだぜ……とかぶりをふっている姿を鮮明にイメージすることが出来る。今は
「(だね。取り敢えず、犬小屋にウェーブインして調べてみよう」
「(おう!)」
ええっと、ウェーブホールは……無いな。一旦家に戻って、庭先で電波変換しないと……
『ホウ……ヨメ……カ……』
ーー犬小屋の電波ーー
ゴン太の家からボクの家までの往復運動を済ませ、犬小屋の電波へとウェーブインを完了する。今日も綺麗な空だ……おっと、少しセンチメンタル気味になっていたかな?
「ええっと、犬小屋を管理しているデンパくんは……あ、いた。ねぇ、キミ」
どうにも草臥れたような印象を受けるデンパくんへと話しかけるも、あんまり反応が芳しくない。オーパーツぶっ込んでやれば一発に見えるけど、破裂しそうなので却下だ。
「……はぁ」
「大丈夫?」
「……ん?おやおや……!ア、アナタはもしや、ロックマンさん!?」
遂にさん付けで呼ばれるようになっちゃったよ。つい数週間前までは、「暴蒼のバトルが始まるぞッ!該当するウェーブロードを直ちに封鎖しろーッ!」なんて違法ライディングデュエルみたいな扱いだったのにね。情報の更新とは、かくも恐ろしやってことだろうか。
「ワタシシってますよ!こ、こんなトコロでヒーローにデアえるなんて!!カンゲキです~!」
「あはは……ありがとう。ところで、犬小屋が故障しているみたいなんだけど、思い当たることはあるかな?」
「あ……すいません。タ、タブンワタシのせいです。サイキンカラダのチョウシがワルくって……ゲンキがでないんです」
「体の調子、かぁ……」
体の調子ってより、通信能力に異常をきたしているのかもしれないな。
「あの~……おネガいなのですが……『Dエネルギー』をサガしてきてイタダけませんか?もしかしたら、それでナオるかも……」
「うん、いいよ。……はい、Dエネルギー」
一応保険として、常に幾つか携帯している。ただ、リカバリーで事足りることの方が多いので、役にたったことはないけれど。それに、ボクってRPGなんかだと最後まで使いきりのアイテムを残しちゃうタイプだから、どうにも使い時がわからないんだよね……
「ホ、ホントですか!!ありがとうございます!まさかあのウワサのヒーローからDエネルギーをモラえるなんて!」
「大袈裟だよ……」
「イヤイヤ!ミンナにジマンがデキますよ!サッソクツカってみます!」
そう言って、犬小屋のデンパくんはカードタイプのDエネルギーを体内に差し込むように使用する。Dエネルギーを使用したコトで、デンパくんの足元から頭の天辺までを覆うように一瞬だけリングのようなモノが通っていった。体を再構成するエフェクトということなのかもしれない。中々カッコいいな。今度ボクも使ってみよっと。
「……………………ア、アレ?アレレ?ナニもカわりませんね……」
「まだまだ
どうせ使わないだろうし、ここで一斉に放出しちゃっても構わない。戦闘中には使えないしね。
「い、いえ!ダイジョウブです!それにしても……う~ん、なんででしょう?」
「さぁ……ボクは医療用の電波体じゃないから、そこまで詳しいことは何とも……」
「キ、キにしないでクダさい!いくらヒーローだって、こういうコトもありますよ!」
「……そうなの?」
「ホントおきになさらずに、アトはジブンでナンとかしますので……わざわざありがとうございました」
まぁ、デンパくんもそう言っているし、後はボク達が干渉することでもないだろう。あのエンジニアさんにはちょっと悪いけどね。
ーーコダマタウンーー
「はぁ、ロックマン来ないかなぁ……」
「まぁ、ロックマンにも出来ないことはありますって……」
「そうかなぁ……まぁ、ロックマンにしか出来ないコトでもないし、仕方ない……のかもね」
「ええ、きっと彼も万能じゃないんです。都合のいいヒーローなんて、ファンタジーやメルヘンにしかいませんよ。誰だって、現実に生きているんですから……」
「……そうか。よぉし!なら頑張ってさっさと終わらせてしまうぞ!嫁さんだって、きっと分かってくれるハズだ!」
おおう、ポジティブシンキング。中々出来ることじゃないね。ボクも見習いたいくらいだ。
「(オシ、あのオンナのとこに行こうぜ。随分と待たせちまったしな)」
「そうだね。まぁ、委員長も事情を話せば鎮まってくれるでしょ……多分」
「(そこで絶対と言い切れない辺りが、あのオンナらしいよな)」
「違いない」
さて、委員長が待ってるマンションは……っと。そう言えばゴン太の家の近所なんだった。直ぐそこじゃないか。……やっぱり疲れているのかな?
「さて、委員長がマジギレしていないといいんだけどねぇ……」
「(神のみぞ知るってワケだな)」
……それ、委員長も神になってない?
『な、直ったぞーッ!!』
良かったね。嫁さんも喜ぶんじゃない?
ーーピンポーン!
もしかして、何気にインターフォン鳴らすの初めてじゃない?……なんだか微妙に緊張してきたな。
『…………』
アレ?留守のハズはないんだけど……まさか呼ぶだけ呼んで、自分は外出なんて鬼畜行為はとらないだろうし……
ーーガチャッ
「……入りなさい」
「え、あ……はい」
やっぱり激おこぷんぷん丸だった件。ただ、マンションの廊下でぶちギレる程非常識でもないようで、一応は家に入れてくれるようだ。でも凄く怖いです……
「……こっちよ」
「…………」
怒りを必死に抑えたような表情の委員長に連れられ、取り敢えずは委員長の部屋に向かうことになる。………………先に部屋へと入っていた委員長は、大きく深呼吸をしている。落ち着け……落ち着くんだ!
「…………遅い。遅い!遅い!遅い!遅いッ!!」
「ヒエッ!?す、すいませんでした!」
「こんな時だっていうのに、なにのんびりしてたのよ!?」
「(やっぱりな……)」
ロックの、委員長に対する信頼が(悪い意味で)厚いような気がする……いや、なんとなくわかってたけども。
「別に、のんびりしてたワケじゃないんだけど……」
「いい、よく聞きなさい!さっきスターキャリアーのブラザー画面を確認したんだけど、まだ皆とのブラザーバンドは切れていないのよ!」
スターキャリアーにGPS機能があれば直ぐなんだけどなぁ……まぁ、ロックマンの位置を確認される可能性もあったから、一長一短だとも思う。
「つまり……これは皆がまだ無事だっていう証拠なの!でも、帰ってこないってコトはケガしたり、交通機関の通ってない場所にいるのかもしれない……だから、ワタシ達が探し出して助けに行かなきゃいけないのよ!」
「わかってる。……だから先ずは情報を集めようよ。委員長、心当たりとかあったりするかな?」
やるべきことはわかっているけど、一人よりも二人で取り組んだ方が、とても心強い。
「……ええっと、そうね…………って、そんなのワタシが知ってるわけないでしょ!?だからアナタのチカラが必要なのよ!」
「ボク、そんなに力自慢じゃないよ?」
「アナタねぇ……そっちじゃないわよ!ナヨっちいスバルくんじゃなくて、ロックマン様の方!ロックマン様のチカラがあれば、きっとなんとかなるわ!」
ヒデェ言い様だ。
「(ヒデェ言い様だ……)」
珍しくもなく意見があったね、ロック。割とトレーニングを積んでいるから、実はそんなにナヨっちくもないんだけど。
「ああ、委員長がボクをどう思ってるのか、今のでハッキリとわかってしまったよ……」
いくら華奢に見えるとはいえ、日夜ウィルスバスティングに勤しんでいるボクが、そんな貧弱な体してるワケはないだろうに。
「え?そ、それはその……べ、別にワタシは……」
なんだ?いきなり上気し始めたのだけど、何かマズイことでも言ったっけ?頬も赤いし……もしかして照れている?まぁ、どうでもいいや。
「
「フンッ!」
渾身の右ストレート!痛い!ブライのストレート並に痛いよ!
「ゴフッ!」
「下らないことやってないで、なんとか打開出来る方法でも考えなさいよ……」
ちょっと茶化し過ぎてしまったか。いや、だってさぁ……って、そうだ。打開策か。ううむ……例の番組はまだ放送していないだろうし……
「……あ、パソコン」
「パソコン?」
「もしかしたら何か、情報サイトに載っているかもしれないよ」
可能性は薄そうだけど、最もありそうではある。既に一日経過しているから、誰かが情報をアップしていても不思議じゃない。何せ空から人が降ってきたりするんだ。上手くいけば、ナンスカの情報も手に入るかもしれない。自然に現地まで向かう口実さえあれば、こっちのものだ。ただ、ムー大陸を最大効率で攻略するためにも、ブラキオ・ウェーブやコンドル・ジオグラフとは戦っておきたい。
「そうね。それじゃあ少し、調べてみましょうか」
そう言って委員長は、部屋に設置されている最新型のパソコンを起動させる。流石に最新型、立ち上がるのが早い。ゼニー余ってるし、パソコンを新調することも考えてみようかな……?
「先ずはキザマロからね。検索ワードは、そうね……小学生、小さい、緑、メガネ、辞典……っと、これくらいでいいかしら?」
分かりやすい特徴ではあるけれど、キザマロがこんな検索ワードで見つかったと知ったら、本人が泣きそうだと思うのはボクだけなのだろうか。
「…………『ドッシー』?」
どうやらヒットしたらしい。ホントにヒットするとは思わなかったよ。
「どれどれ……お、確かにこれはキザマロっぽい感じがするね。これは海外放送している番組のホームページか。ええっと、放送時間は……」
キザマロっぽい特徴の少年が、証言をするらしい旨が書かれている。やっぱり放送日は明日だ。プロデューサーの名前もキュー出間崎と、間違いはないだろう。
「ちょ、ちょっとスバルくん……?ち、近くないかしら?」
「あ……ゴメン。ちょっと寄りかかっちゃったね」
つい、身を乗り出して操作してしまった。確かに、後ろから見たらボクが委員長に覆い被さっているように見えていたかもしれない。申し訳ないことをしてしまった。
「べ、別に大丈夫だから!それより……いえ、とにかくこの番組を見てみないことには始まらないわね。放送日は明日らしいし、後はゴン太についての情報収集をするわよ!」
幸先よくキザマロと思わしき(本人なんだけど)子供の情報を手に入れ、ご満悦の委員長。とはいえ、場所が場所だけに慎重に行動したいらしい。何せ海外だもんね。ちゃんと確証を持ってからいきたいに決まってる。
「うん!」
ーー数時間後ーー
しかしその後、ゴン太の情報に関しては得ることは出来なかった。やはりナンスカにいると、情報の発信が遅くなりがちなのかもしれないな。
「今日は、このくらいにしましょうか。あんまり根を詰めすぎてもいけないし、ワタシ達が体を壊したら、本末転倒だわ」
「……わかったよ。それじゃあ、一度ボクは帰るね」
「ええ。明日は例の番組を視聴するから、ちゃんとウチに来なさいよ!わかったわね!?」
「わかってるよ……また明日ね」
知っていても動けないってのは、やっぱり辛いよ……別に動いてもいいんだけど、あらゆる局面でそれをやったら多分、周りの人にとってボクは人じゃなくなっちゃうんだよな。
どうしてそれを知ってるの?……ってね。だからこそ大筋の流れの中で、ボクはボクが対面した事象にしか対応したくない。これは甘えなのかもしれないけれどね。
感想・評価が私のエネルギーです。
GET DATA……無し