星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーー映画館の電波ーー

 

 現在、オヒュカス・クイーンと戦っている洋館の屋上は50メートル×100メートル程の長方形になっており、更に客席から見て奥側の中心に5メートル×5メートル×5メートル程度の立方体型の小部屋がある。

 

 見たところこの洋館は映画で使用されるセットのため、部屋として使うことは出来ない造りになっているようだ。その立方体型の上にファントム・ブラックが位置取りをしている。

 

「セアァッ!」

 

 左腕にソードを展開し、ウォーロックアタックを敢行し、すれ違い様に委員長……もといオヒュカス・クイーンの右腕を斬り裂いていく。あの長い尻尾に捕まってしまったら最後、ウェーブアウト以外に自力で脱出する術はない。慎重に立ち回らないと……

 

「…………!」

 

「チッ、面倒な……スバル!」

 

「わかってる!…………乱れ射つよッ!うおぉぉッ!」

 

 オヒュカス・クイーンが腕を振るうと、その周りの足場から大量のヘビが湧き出してくる。これは確か『スネークレギオン』だ。このヘビ達が毒持ちの個体でないことは知っているけれど、人海戦術をとられると厄介なのでロックバスターを乱射してデリートしていく。

 

「……………………!!」

 

 無限ヘビ湧きは囮だったらしく、本命と思われる『クイックサーペント』という突進技を繰り出してくる。どうにもスピードに補正がかかるようで、その動きはヘビとは思えない程素早い。

 

「……うわぁっ!っと、危ない……」

 

 進行ルートから飛び退くことで、オヒュカス・クイーンの『クイックサーペント』を避けることに成功する。残留電波ならヒートアッパーで返り討ちなのだけど、委員長の顔に炎拳を叩き込むわけにもいかないだろう。

 

「………………!!!」

 

 予め読んでいたのか、なんとか回避したボクに向かって最大威力・射程の『ゴルゴンアイ』をぶっ放してくる。なんとかシールドで防ぐことに成功したものの、首を振って範囲を広げようとした『ゴルゴンアイ』が洋館の足場や立方体型の部屋を焼き切ってしまう。

 

「ムッ……これは崩れるな。早く隣の洋館に退避しなくては……!」

 

 高見の見物を決め込んでいたファントム・ブラックも、これには若干の焦りを滲ませながら揺らめくように瞬間移動し、隣の洋館へと移る。使用したのは、例のフワッとした瞬間移動だ。

 

「うわ……うわぁぁぁぁッ!?」

 

「……………………ッ!!??」

 

 マテリアルウェーブで構築されていた洋館は思いの外脆く、全体の構造を管理するプログラムが殺られたようで、一気に崩壊していく。当然、その屋上で戦闘していたボクとオヒュカス・クイーンも落下へと巻き込まれていく……

 

 

 

「こ、これはヤバい…………」

 

 この洋館は客席から屋上が見物出来るように造られているために、実際の地上は客席よりもずっと下になっている。いくら電波人間とは言え不死身じゃない。素のロックマンでは洋館屋上からの落下死も現実的にあり得る。

 つまり……もう委員長との絆を強くする云々を言っている場合じゃない!

 

「うおぉぉぉっ!!ベルセ……ルゥゥゥク!!」

 

『……ベルセ・ルーク……デハナイ……!ワレワレハ……ワレワレハ……………アクノ・キーシダッ!!』

 

 ……って、ええェェェェッ!?アンタ、それって展示されてたヤツじゃないか!我々って言ってるから、集団の中の代表がそのアクノ・キーシってヤツなんだろうけど…………

 

「……いや、知らないよ!?」

 

 しかも、普通に悪役って感じの名前なんですけど!?悪魔と相乗りなんて、絶対に御免被るからね!?

 

『ニドトマチガエルナ…………クソガ』

 

 これもうわけわかんねぇな!

 

「兎に角、頼むよホント!…………真・血族内包(トライブオン)……ベルセルクッ!!」

 

 落下中のボクの体を、凄まじい雷のオーラが包み込む。やはり圧倒的なチカラだ。これは先人達が溺れるのも無理はない。

 

 ……っと、その前に姿勢を整えないと。このままじゃ頭から地面に正面衝突だ。電波体でも痛いものは痛い。

 空中でなんとか姿勢制御に成功し、両足でなるべく同時に着地する。

 

「動ける……!」

 

 オヒュカス・クイーンと戦っていた洋館は割と縦長の構造をしていたために、着地の衝撃もかなりのものが想像されたけど、ベルセルクの強化体にとっては屁でもないようだ。全く行動に支障が出ない。

 

「……見つけた!」

 

 辺りは砕け散った洋館の瓦礫が散乱し、元々壊れることが想定されていたのか埃まで立ち込めている。……が、その立ち込めた埃の向こう……50メートル程奥にオヒュカス・クイーンの姿を確認した。

 

 向こうもボクとほぼ同時にこちらの位置を把握したらしく、既に遠距離攻撃……『ゴルゴンアイ』を放とうとしている。目が煌めいているのがその証拠だ。

 

「って、マズイ!……うおぉぉぉっ!!」

 

「…………ッ!!」

 

 デス、ソードォッ!(投剣)

 黒いオーラを纏った超次元的なシュートというワケでもないただの投剣は、オヒュカス・クイーンの放ったゴルゴンアイを斬り裂きながら一直線に進んでいく。

 

「…………アアアアッ!?」

 

 ドスッ!……という音でも聞こえてきそうな威力で、オヒュカス・クイーンの顔に投げつけた剣は吸い込まれていった。うわぁぁぁ……ど、どうしよう。ついやってしまった。これで顔に傷でも残ってしまったら……!?

 

「い、いや。今は兎に角、この戦いにケリを着けなくちゃいけない!」

 

 強化されたベルセルクの脚力でもって、顔面に大剣が突き刺さったままのオヒュカス・クイーンに接近する。ベルセルクブレードが突き刺さったショックで悶えたまま、オヒュカスは抵抗するそぶりを見せていない。ちょっと気が引けるけど、ここは一気に止めを刺すべきだ!

 

「委員長、ごめん。……やらかしちゃったら、絶対責任取るから。…………セアァァァァァッ!!」

 

 顔面に刺さって固定されている大剣を両手で掴み、そのまま両断するように斬り裂いていく……だ、大丈夫だよね?

 

「………………ッ!!!」

 

 流石に体を二つに引き裂かれるショックには耐えきれなかったらしく、委員長とオヒュカスの電波変換が解けていく。どうか無事であってくださいお願いします……育田先生にも同じようなやり方をしたけど、特にマズイことにはならなかったので、大丈夫だと思いたい。いや、信じたい。

 

 

「…………う……ロ……ロックマン……さま?」

 

 ショックで電波変換の解除とともに気絶したのだと思っていたけれど、数秒で再び目が覚めたので多分大丈夫だったのだろう。

 

「無事で良かった……」

 

 さて、いくらか消耗したとはいえ、オーパーツからのエネルギー供給にはまだまだ余裕がある。やはりここは……大剣の一撃を叩き込んだ方がいいんじゃないだろうか。今ならまだ、大量の瓦礫によって発生した土煙が晴れていない。隣の洋館屋上から様子を窺っているファントム・ブラックに、こちらの状況が筒抜けってことはないだろう。恐らく、この姿もまだ視認してはいないハズだ。

 

「ロ、ロックマン様?その姿は一体……?」

 

 ああ、そういえば委員長にはサンダーベルセルクの姿を見せたことはないんだっけか。以前委員長入りオヒュカスとやり合った時はアイスペガサスで対応したから仕方がないと言えば仕方がないのだけど。

 

「ええっと……委員長(との絆)のおかげ、かな?」

 

 多分、オーパーツに宿るベルセルク達の意識も、ボクの高いキズナリョクによって発生した強固な精神防壁によって満足に支配することが出来なかったんだろう。まぁ、事前に面通ししていたってのもあると思うけど。

 

「……え?そ、そんな……ワタシのおかげだなんて……!ス、スバルくんったら、しょうがないわね……!」

 

 滅茶苦茶嬉しそうに両手を頬にあててイヤンイヤンしているけれど、ちょっとオーバー過ぎない?そりゃまぁ、委員長のことは凄く大切に思っているけどさ……

 ファントム・ブラック(あのロリコン)がまだこの場にいること、忘れてない?不意討ちとかされたら結構怖いんだけどなぁ……

 

「ほら委員長、しっかりしてよ……」

 

「エヘヘ……ワタシのおかげだって…………エヘヘ……!」

 

「コイツ、話も聞いちゃいねぇぜ?暫くそっとしておいた方がいい。こうなったら何をしても無駄だろうさ」

 

 確かに…………ダメだこりゃ。既に委員長は夢の国(ユートピア)へと旅立ってしまったらしい。さっきから目を閉じてイヤンイヤンしているから、こっちの言葉が聞こえていない可能性すらあるな。

 

『なっ!?こ、こんなコト…………私の脚本には……』

 

 どうやら漸く土煙が晴れてファントム・ブラックの目にこの姿が入ったらしく、驚愕の声が離れているこちらにまで、ハッキリと響いてくる。

 

 恐らくオリヒメに聞かされていたのだろう、チカラの無き者がオーパーツを使うと身を滅ぼす…………という話から、ボクにオーパーツを使いこなすチカラがないと高を括っていたのだろうな。

 

「バ、バカな……その姿は……ベ……ベルセルク……!!な、なんなんだこれは……」

 

「これが、本物のオーパーツのチカラ……それに、オレにもハッキリと聞こえる……オーパーツどもの声が!」

 

 どうやらロックにも聞こえるようになったらしい。元々取り込んでいたのはロックだから、聞こえない方がおかしいんだよね。もしかしたら、ボクにだけ聞こえていたことを気にしていたのかもしれない。……相棒なんだから、そういうのってなんだか水くさいよね。

 

「い、出よエランドよ!!そいつを……早くそいつを始末しろォォッーー!!」

 

 まるで三流の小悪党が、本当に焦った時に発するような声色で叫ぶ。同時に、客席方向の壁を背にしているボクの周囲に、エランドが群れを為して出現する。

 今のボクなら、大した脅威じゃない。

 久しぶりに、全力で暴れてやれる!

 

「父さんの言っていたことは本当だったんだ。勇気を示して、誰かと繋がったことで出来た絆……そこから生まれるチカラは……何よりも強い!!」

 

 委員長を後ろに庇い、背中に背負った大剣を引き抜く。この程度の物量、庇いながら戦うなんて造作もない!

 

「スバル……新しいチカラの御披露目だ!下手こくんじゃねぇぞ!!」

 

 多分、以前の分体ベルセルクとは分けて考えろってことなんだろう。確かに、それだけ出力に差がある。もはや同じチカラを発現しているといっても、完全に別物と言っていい。

 

「わかってる!!……絆舐めんな!ファンタジー!」

 

 両手を使って大剣を保持し、サンライズ立ちを決める。……やっぱり新戦力の御披露目は、ド派手にいかなきゃいけないよ!!

 

「おうよ!いくぜスバル!」

 

「ああ!ウェーブバトル・ライドオン!」

 

 開幕ぶっぱの恐ろしさを教えてやろうか!ええ!?古代の兵士さんよォッ!

 

「うおぉぉっ!……ッ!らぁっ!」

 

 斬りかかってきたエランドの斬撃を大剣で防ぎ、一瞬のつばぜり合いを交わした後に、右足で蹴り飛ばす。やはり通常時とは比べ物にならないほど強化されているらしく、面白いように吹き飛んでいく。

 

「次ィッ!」

 

 ロックバスターで遠距離攻撃をかましてきそうなエランドに牽制をかけていく。どうやらエランドは胸の中央にあるパネルに強い振動が加わると、少しの間動きを止める性質をもっているようだ。

 さっきまではそんなのまったく気にしないで殴り飛ばしていたから、全然気がつかなかった。

 

「セアァッ!!」

 

 再び斬り込んできたエランドの剣を、剣の出力を上げることで今度はつばぜり合いを起こさずに、エランドの剣ごとその体を二つに切り裂いていく。切り裂かれたエランドは微動だにせず、その体を虚空へと散らしていった。

 …………そろそろいいだろう。

 

「オーパーツ……コイツはとんでもねぇ兵器だ。戦闘のし甲斐がある……!オイ、そろそろ決めるぜ!スバル!!」

 

「ああ、わかってる!……いくぞ!……サンダァッボルトォッブレイドォッ!!」

 

 大剣に走るエネルギーを、二振りの間だけ最大威力・射程まで強化してから凪ぎ払う。このチカラ……『サンダーボルト・ブレイド』は幾度も使用したけれど、流石に本家はモノが違う。わざわざ二度振った後に巨大な雷撃を落とさなくとも、エランド達をチリにするには十分な威力を見せてくれた。

 

「ぐぐ…………」

 

 ファントム・ブラックの歯噛みする音が聞こえてくる。相当な距離があるはずなのに、問題なく聞きとれるのは、オーパーツの聴覚拡張によるものなのだろう。

 

「し、信じられん、その姿……そのチカラ!本当にベルセルクだと言うのか……!?私の脚本にはまったく無いぞ!」

 

 ベルセルクって言うかアクノ・キーシらしいけどね。ま、どうでもいいか。真偽なんて、どうせわからないのだろうしね。

 

『‥ここは、ヒけ』

 

 音もなくファントム・ブラックの側に現れたのは、古代の神官を彷彿とさせる、全身フード&マスクの魔術師然とした男だった。というかエンプティーだ。マジックの方にはお世話になりました……っと、そんなことはどうでもいい。マズイな、アイツがいたんじゃファントム・ブラックに手出しが出来ないぞ……!

 

「誰だ……!?」

 

「エ、エンプティー!?き、貴様見ていたのか……!?このような醜態を目撃されるとは……なんたる不覚だ!!」

 

 元々醜態しか晒してなくない?というツッコミは控えておこう。事態をややこしくするだけだろうし。

 

「ここはヒけ。……そのオトコはキョウイだ」

 

 ふぅん、随分冷静なコトで。普通、敵が強化形態を手に入れたら、慣れないウチにハメ殺すのが定石だと思うのだけど……少なくともボクはそうする。

 

「……!!ど、どういうコトだ!?まさか、本当にヤツがベルセルクとでも……!?」

 

「……かつて、ベルセルクたちは、ミズカらがウみダした『オーパーツ』というチカラによって、ホロびキえさった。……カレらは、そのチカラをツカいこなせずジメツしたのだ」

 

「…………」

 

 やはりエンプティーの組織内での地位は高いらしく、あのファントム・ブラックが大人しく話を聞いている。というか、エンプティーって結構カタコトな感じなんだね。知らなかった。

 

「だが、そのオトコはチガう。ベルセルクたちをホロぼしたキョウダイなチカラを、おのれのチカラとしてミにつけている。ナカマのチカラによって、セイギョしているようにもミえるな」

 

「……仲間のチカラ!?ヤツが言っていた『絆』か!」

 

「ここはヒくのだ。イマはまだ、そのオトコとタタカうべきトキではない」

 

 言うだけ言って、エンプティーはまた音もなく姿を消してしまった。●RECられてたってことはないよね……?

 

「オリヒメ様になんと言い訳すれば……!クッ!!」

 

 大の大人が言い訳とか……ダサくない?なんて思っているうちに、ファントム・ブラックは揺らめくようにその姿を消してしまった。ああ、一撃入れ損ねた……

 

「消えちゃった……」

 

『ここは一度退かせてもらう……だが、この屈辱……!いつの日か、必ず晴らしてくれる……!覚えておけ……』

 

 だからセリフが一々三下なんだって。実際組織内でも三下扱いだけど。可哀想に。子供にしか威張れない大人程、惨めなものはないよ……

 

「……逃げられたか」

 

 気配も完全に消えたので、まず間違いなくこの場から去ったのだろう。はぁ……疲れたぁ……

 

「委員長、終わったよ。取り敢えず、一度コダマタウンに帰ろっか……」

 

「エヘヘ…………もう、ホントにダメなんだから……!」

 

 まだ戻ってきていなかった模様。委員長も大概、めんどくさいよね。……言ったらもがれそうだけど。




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GET DATA……
『オヒュカス・クイーン』

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