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ーーその日の夜ーー
「ロックマンめ……あのような醜態がオリヒメ様に知れ渡ってしまったら、私の株が下がってしまうのは避けられまい……!何としても、手柄を立てなくては……何としても……!」
オリヒメ至上主義のエンプティーが、これ程の重要案件の報告を怠るとも思えない。
人知れず、ハイドによる名誉挽回作戦が決行されようとしていた……!
ーー翌日ーー
幸いにも飛行機は夜間フライトだったので、空港へ向かう委員長とはコダマタウンで分かれている。そして『今日は疲れも溜まっちまってるだろうからな……ゆっくり休んで、明日行こうぜ!』と言うロックの言葉に従い、ぐっすりと休息をとることにした。
「昨日は大変だったね……」
「あのオンナはもう、飛行機とやらでアメロッパに向かっているんだろ?オレ達も急ごうぜ」
そういえば、ロックって飛行機に乗ったことがないんだっけ。まぁ、自前で飛べるから必要ないんだろうけど……
「ああ、そうだった。それじゃ、ボク達も出発しよっか!ええっと確か、パラボラアンテナ……だったよね?」
「おう、あのオンナが住んでいるマンションの屋上に取り付けられていた、ドデカイアンテナだな。先ずはウェーブインして、件のパラボラアンテナを調べてみようぜ」
「了解!」
ロックと話していると、方針がサクサク決まってやり易い。気が合うってのはいいことだ。毎日一緒に過ごしていても、飽きがこないからね。
ーー二十分後・コダマタウンの電波ーー
簡易的な荷造りも完了し、予定通り電波変換した状態でウェーブロードを伝い、高級マンションの屋上までたどり着いていた。
屋上までの道のりで、オーパーツの声を聞いたらしいロックがダブルトライブとトリプルトライブに関する説明をしてくれるが、ぶっちゃけ無駄じゃないかと思うんだよなぁ……
オーパーツなんてヤバいモノが発見されていたら、それだけでネットに情報くらいは出回りそうだ。まぁ、発掘者が情報を秘匿している可能性がなきにしもあらず……と言ったところだけどね。
「さて、早速調べてみようぜ。このパラボラアンテナと繋がっている電波とやらを、な」
思いの外ノリノリに見えるんだけど、実は結構楽しみにしていたり?まぁ、ダイゴさん達を世話してた頃にいくらか聞いていそうだけどね。
何せ、最低でもスティーブという名前の外人が乗っていたことがわかっているのだから。
「海外から届く電波かぁ……乗り心地とか、どうなんだろうね」
「一先ずこれだけは言えるぜ。……そんなことを気にしてんのは、オマエくらいのモンだとな」
「そういうものかなぁ……?移動用のウェーブロードなんだからさ、使い心地って結構大事じゃない?」
デンパ達に与えられる、労働環境の改善を求む!とかは聞いたことないけどね。ただ、アビリティを装備させるってことはつまり、デンパくんたちを戦闘の危険に晒す機会が増えますよ~ってことだと思うんだけど、そこのところどうなんだろう。
こ、こんなデンパにいられるか!ワタシはカエらせてもらう!とか、一度見てみたいよね。
「さぁな……」
「さいですか……ま、初めて使うんだから、なるべく慎重に行こう。道を間違えて南極あたりに出ちゃったなんて、考えたくもないからね……」
「あんまビビっててもしょうがねぇって。迷ったらその辺のデンパでも取っ捕まえて、
なんという世紀末電波世界だろう。ヒャッハー!
「そんなんだから、暴蒼なんて呼ばれるんだって!」
「ケッ、あんなのは腰抜け共が勝手に付けた、タダの通り名じゃねぇか。ほら、とっとと行くぜ!あんまり遅くなっちまったら、ご機嫌だったあのオンナもどうなるかわからねぇからな」
帰宅途中にスターキャリアーを確認したところ、委員長とのキズナリョクが高まっていたんだ。それを見た委員長は狂喜乱舞し、繋がらないとわかっているはずのミソラちゃんへと煽りメールを入れていた。返信は無かったけれど、オリヒメ陣営の人間は暫くハープ・ノートに近づかない方が賢明なんじゃないかなぁ……
マジギレした女の子こそが最怖だってことを、ボクはよく知っている。
「…………だね。よし!行くぞ、スカイウェーブ!」
「電波転送!スカイウェーブ!オン・エア!」
まだ見ぬウィルス達が、ボクらを待っている!
そうさ、ボク達は漸く進み始めたばかりなんだ。この果てしなく遠い、ドンブラー湖への道をよ……!
ーースカイウェーブーー
「おおぉ…………!!!ここは………高い!広い!それに見晴らしもいい!ボクもう、ここに住むよ!」
電波体だから呼吸も要らないし、ずっと居続けることになんの障害もない。スカイウェーブ、快適過ぎるって!
「オマエな……!目的を忘れんなよ?電波は世界中を移動しているんだ、時には空を渡り、遥か遠方へと赴くコトもある。ここは恐らく……そういった長距離を移動する電波の為にある通り道なんだろうな」
「へぇ……っと、凄いな。宇宙が近い……」
この先に……コスモウェーブがあるのか……
「オイ、あんまりボーッとしてんなよ?ウィルス共に不意討ちでも食らって、地上へ真っ逆さまなんてコトになっちまったら笑えねぇ」
「あはは……ごめん。よし、先ずは『ドンブラー湖』に通じているかどうか、デンパくんたちに聞き込みをしよう!……流石に、ワールドカップと同じようには出来ていないだろうからね」
「おう!……
「違うって!普通に聞くだけだから!」
ロックはなんでこう、物騒な方向に持っていくんだろうか。まぁ、ノリノリで付き合ったボクも悪いんだけどさ。
「……こんにちは!」
取り敢えず近場にいたデンパくんに話しかける。スカイウェーブバージョンなのか、天使のような造形の羽が生えている。デンパくんですら飛べるというのに、ボクは……!ころしてでも うばいとる!してやろうか!
「どうも~!」
……なんて冗談はさておき、割と親切そうなデンパくんだ。この分なら、問題なく質問に答えてくれるのだろう。因みに体色はほぼ真っ白で、ところどころ黄色いカラーリングに、天使の輪が頭の上に浮かんでいるといった容姿だ。神々しい。
「ええっとね、ちょっと聞きたいんだけど……『ドンブラー湖』ってどう行けばいいのかな?」
「あーレイのドッシーソウドウの?ドンブラーコでしたら、このままミチなりにイったサキの『ドンブラー村』にありますネー。サビれたナもなきムラだったのが、ドッシーのおかげでカンコウキャクだらけですネー」
「へぇ~…………あ、教えてくれてありがとう!」
成る程、道なりか……スカイウェーブ扱いのウェーブロード自体がこの広さだから、イマイチ道なりってわからないのだけど、まぁなんとかなるでしょう。きっと。多分。
「……おし!行こうぜ!」
さて……ノーコンテニューで、踏破してやるぜ!
ーー20分後ーー
「……ええ!このサキが、ドンブラーコ上空のスカイウェーブへとツナがるワープポイントですよ!」
「ありがとう!……さて、と……ここからドンブラー湖……つまりはアメロッパまで飛べるらしいよ。何だか、とても信じられないよ」
現在、ボク達の眼前には巨大なワープポイントが存在している。ドッシー騒動は伊達では無かったようで、先程から忙しなくデンパくん達が出入りしているのが見てとれる。
「ほら、飛び込むぞ!快適な空の旅へ、ご案内ってヤツだ!」
「ちょっ、ちょっと……わかった、わかったから!」
唾を飲み込み、柔軟体操を始める。いや、ほら……アレだよ。着地の衝撃で足を痛めるかもしれないし?ウィルスがいきなり襲いかかってくるかもしれないじゃないか。別に緊張してソワソワしてるってワケじゃない。……ホントだよ?って、誰に言い訳してるんだか。
「……よし、行こう!…………ハアァッ!」
勢いよく ワープポイントへと飛び込んでいく。ワープポイントというか、射出装置だったらしく、一定の方向へ電波体を超加速させて飛ばすシロモノようだ。
「アッ!あんまりイキオいよくトびコむと、アブないですよ!って、キいてないか……」
遥か後方で、デンパくんが何か言ったような気がするけど、既に離れ過ぎて聞き取るのは不可能だ。どうやら、射出中の電波体の思考速度を加速させる機能もあったらしく、超高速移動中でも考えことをする余裕がある。
恐らく、到着した先で事故るのを防ぐための措置なのだろう。
ーードンブラー湖のスカイウェーブーー
「……おっとっと!」
ワープポイントに飛び込んだ時の勢いが保存されていたようで、飛び込んだ勢いそのまま飛び出てしまった。
周りのデンパくん達には、一見さんを見るような目をされたけれど、実際ドンブラー湖のスカイウェーブに関して言えば一見さんなので問題ない。次から気を付ければいい話だ。
「ウェルカーーム!!ここはアメロッパにあるドンブラーコのマウエにウかぶスカイウェーブでーす!!」
ちゃんとドンブラー湖のスカイウェーブにたどり着けていたようでよかった。そういえば、電波変換を解いた途端にボクって一応密入国扱いになるんだけど、小学生にさせる行為としてはどうなんだろうか。
「こんにちは!……ところで、ドンブラー湖周辺に降りたいんだけど、なんとかならないかな?」
「そうですネー……このアタりはキホンテキにイッポンミチですので、トクにマヨうようなことはナいとオモいますケドー……」
また道なりか。いや、電波の通り道ってことだから、あんまり入り組んでいると利便性の問題があるんだろうな。その辺りを考えると、スカイウェーブって実は結構よく出来てると思うのは気のせいではないはずだ。
「そっか……ありがとう。助かったよ」
「イエイエー!トウチャクしたデンパのアンナイも、シゴトのウチですので!」
へぇ……デンパ専用の案内役にプログラムされた電波もあるのか。さしずめ、ウェーブナビゲーターと言ったところかな?ふふん、我ながら中々のネーミングセンスだと思う。少なくとも委員長よりはね。
委員長って、猫に『いぬまる』とか名付けるのがデフォルトだからなぁ……本人は真剣なだけに悲しい。
ーー数十分後ーー
やけに飛行しているウィルスが多いと思いながら、広大なスカイウェーブを進むこと数十分、漸くドンブラー湖周辺へと降りられるポイントを発見した。途中で幾つかのデンパくんをウィルスから守護したので、お礼にアビリティを貰っている。ぶっちゃけコスパ悪いけど、特殊強化系は戦術の幅が広がるのでありがたい。
「それじゃ、アンダーシャツとリフレクトを装備して……っと、こんな感じかな?」
「オイ、アビリティの整理はその辺にして……そろそろ行かねぇか?」
「こういうのって結構楽しくない?限られた範囲の中で、何とかやりくりする……みたいな」
「……別に限られてねーじゃん。寧ろ、装備許容量は余裕だろ?つーかオマエ、手に入れたアビリティを片っ端から装備してるだけじゃねぇか」
人はそれを、
……だって、
しかし、反論出来ないのも事実ではある。
「……………………さ、さぁロック。そろそろ行こうか」
「露骨に誤魔化し始めたな……」
うっせぇやい!
「ま、まぁ別にいいじゃないか。……えっと、キミ!このワープポイントって、ドンブラー湖周辺に通じているので合ってる……かな?」
丁度案内役っぽいスカイウェーブ版デンパくんを見かけたので、これ幸いと話題を逸らす。左腕のロックが、なんとも言えない表情になっていることを、はっきり自覚出来るのがもの悲しい……
「エエ!そこのワープホールにハイれば、ドンブラーコにウかぶムラにオりるコトがデキますよ!」
あ、ドンブラー村って浮いてたのか。ロッポンドーヒルズしかり、ドンブラー村しかり、最近の建築業者って妙に建造物を浮かせたがるんだよね。
「へぇ……あ、村ってさっきのデンパくんに聞いた、ドンブラー村のことだよね?」
「ああ、だろうな。まぁ、気にしたってしょうがねぇよ。兎に角、そのワープホールからドンブラー村に降りてみようぜ。後のことは、あのオンナと合流してから決めりゃあいい」
そういえばワープポイントだと思っていたけれど、正式にはワープホールと呼んでいるらしい。今まで案内役の電波なんて会ったこともなかったから、全く知らなかったよ。
「……確かに。よし、それじゃあ行くよ……って、勢い余って地面に激突とか……」
別にビビっているワケではない。ただ……そう、ただ単純に気になっただけなのである。本当に。
「ねぇよ!とっとと落ちろ!」
左腕だけウォーロックアタックという、何気に高度な技術をかましてくるロック。これは……落ちるって!!
「ちょっと……!って、うわぁぁぁぁぁっ!!!」
ワープホールの射出機構によって加速された体が、真下に位置しているドンブラー村へと真っ逆さまに落下していく……
ヒモ無しバンジーより余裕で怖いんですけど!?
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