星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーードンブラー村・展望台ーー

 

 ウキウキの委員長を伴って橋を渡り、ボク達は漸く、展望台に足を踏み入れることが出来た。浮遊している展望台へは、専用に建造された浮遊型のエレベーターを使って入場する。

 入場と言っても、特に入場料等を取られるという事もなく、備え付けの双眼鏡すら無料で利用出来るという親切仕様だ。ドッシーの写真なり、ハントなりで一攫千金を狙う連中にとっては、費用がかからなくて助かっているのだろうね。結果として現れるブラキオ・ウェーブをドッシーとするかどうかは、人それぞれなのだろうけど。

 

 ……兎に角、ボク達は聞き込みを続けることにした。どうにもロックは既に飽き始めているようで、先程から溜め息や欠伸等が頻繁に聞こえてくる。なんだかボクまで眠くなってくるようだ。

 

 

 

『ヘーイ!……メガネのボーイ?ドッシーを見つけた子だね、こっちには来てないよ。それにしてもサイキンは、ドッシーのおかげでカンコウキャクが増えたよネー』

 

 

『メガネの子供?……うーむ、知らないな……そんなコトより、ココからのケシキはマキシマムさ!ドッシーも、ココからだったら見つかるカモしれないヨ!』

 

 

『おう!観光かい?この村の名物は、マテリアルウェーブで浮き上がったこの展望台だね!大昔、この辺りにあった村が地震と津波で沈んじゃってね。で、こうなったら全部浮かせちゃえってコトになったのさ!』

 

 

『このドンブラー村は、村も家もぜーんぶマテリアルウェーブで浮き上がってるのヨ!お陰で地震も津波も回避出来るってわけ!まったく、マテリアルウェーブは本当に素晴らしいワ!』

 

 

『……うぇ?メガネの子?ああ……ドッシーを見つけた子かい。見かけとらんなぁ……。つい数ヶ月前はこの村も、過疎化が進んでデンジャーだったのじゃがのぅ。最近はえらいたくさんの人が増えたのでサプライズじゃ!』

 

 

 ーー数分後ーー

 

 やはり展望台にキザマロは来ていないらしく、有力な情報を得ることは出来なかった。この辺りになると、訪れているのはドッシー目当ての観光客ばかりなので、中央のような賑わいは薄れている。割と真剣に探しているように見受けられる人も多く、あまり居座り過ぎると迷惑になりそうだ。

 

「話を聞く限りでは、ここにもいない……みたいだね」

 

「…………一度、村の方に戻りましょう」

 

 有力な情報を得られなかったからか、先程までの威勢はすっかりと鳴りを潜めている。黙っていれば、割と文句のつけようがない淑女に見えるのは、気のせいや錯覚の類いだと思いたい。

 

 

 ーードンブラー村ーー

 

 …………なんだろう。イヤに賑わっているな。ここから見えるのは……機材、ってことは撮影中かな?

 一体『ミステリーワールド』って、一週間に何度放送しているのだろうか。それとも収録だけしておいて、放送は後日……というタイプかもしれない。いや、捜索中の編集を考えると、やはり生放送ではないんだろうな。マグロ釣りの一攫千金モノだと考えれば、納得がいく。

 

 

 

『……前回に引き続き、神秘の舞台はここ「ドンブラー湖」!遂に!伝説の古代竜「ドッシー」が、我々の前に姿を現す!…………かもしれない!』

 

 

 

「テレビ番組の撮影中みたいね……あのディレクターがいるわ」

 

 あ、デマキューの姿を視認して、微妙に委員長の怒りが再燃している。

 ……ちょっと根に持ちすぎじゃない?

 

「ねぇ、委員長。この番組ってさ、ひょっとして……」

 

『ミステリーワールド』の番組タイトルであることは確認していないけど、デマキューに例のカメラマン……もしかしなくても、『ミステリーワールド』の収録だということは容易に想像が着く。多分、委員長も何の収録かは理解しているのではないだろうか。

 

 

 

『前回はカメラの故障というアクシデントに見舞われ、惜しくも「ドッシー」をこのカメラに納めることが出来ませんでした……しかし、我々スタッフは決して諦めません!世界中にいらっしゃる「ミステリーワールド」ファンの皆様の為に、今日も神秘の世界へと果敢に挑みます!』

 

 

 

 ……自分で果敢とか言っちゃいます?まぁ、重箱の隅を突ついても仕方がない。デマキューの言い種だと、世界中にファンがいるみたいだし、番組を盛り上げるための演出だと割り切りべきだ。どう見ても合成映像だとわかるUMA特集でも、騙される子供は一定数いるわけだし。

 アレって、ゲストもコメントを一々考えるのが大変そうに見えるのは、ボクだけなのだろうか。

 

「やっぱり、『ミステリーワールド』だ。……キザマロが出ていた番組だよ!」

 

 ……と言うか、ここでキザマロが登場するのか。ゲームじゃ飛ばしていたような気もするし、微妙に前後関係が理解出来ていないような気がする……

 

「そうよね。ってコトは…………!!」

 

 

 

『では、今回もこの人にお話を伺いましょう!「ドッシー」の第一発見者……「ドッシーを見た少年」!!どうぞ、こちらへ!』

 

 司会兼ディレクターのデマキューの手招きに従って、屋台エリアの向こうからキザマロが近づいてくる。遠目なのでよく見えないが、その顔はまるでロトシックスで3億2000万当てた男ように、鼻息荒く興奮している。

 

 

「キ、キザマロ……なによ……こんなところで何やってるのよ……ワタシ達の気も知らないで…………グスッ」

 

 ああ、委員長が泣きそうになってる。キザマロめ、可愛い女の子を泣かすなんて、最低の所業なんだぞ!?

 …………酷いブーメランだけど。

 

「委員長……」

 

 

 

『……………………オッケェェェェ~~イ!!いいね、いいねぇ!!今回も視聴者はテレビに釘付けだっつーの!』

 

 なんて考えている内に、撮影が終わってしまった。それにしても…………こんな姿を衆目に晒していたら、アンチスレの一つや二つ、立ちそうなものだけど……ネットで十年近く、殺人事件の犯人扱いされた芸能人の例を知らないのか?あれは酷かった……

 

 

「撮影が終わったみたいだ。委員長、キザマロのところへ急ごう……!」

 

「ええ……そうね」

 

 

 

 

 収録が終わり、野次馬達が残らずその場を去っても、キザマロは収録場所に居続けている。どうやら深呼吸しているようで、意識の切り替えでもしているのだろうか?

 兎に角、今がキザマロに話しかけるチャンスであることに変わりはないので、ボク達は急いでキザマロの元に駆け寄った。

 

「キザマロ!」

 

 此方に背を向け、精神統一でもしていると思わしきキザマロへと呼び掛ける。勿論、周囲の人に迷惑をかけない程度の声量だ。

 

「……スバルくん!?それに、委員長!?ど、どうしてここに……!?」

 

 ボクの声に肩をビクつかせて反応し、振り向いたキザマロは目を見開いて驚愕の声をあげた。まぁ、普通は海外で友人に会えるとは思わないわな……キザマロも密入国者なんですが、それは。

 

「それはこっちのセリフでしょう!?アンタこそ、こんな所で何やってるの!?無事なら無事だって、連絡くらい寄越しなさいよ……!!ど、どれだけ心配したと思ってるの……?ワタシ達が、どれだけ……!」

 

「い、委員長……」

 

 委員長の、取り繕うこともしない純粋な言葉に、キザマロも罪悪感を覚えているようだ。普段あれだけ好き勝手に振る舞っている委員長が、泣きそうな顔で叱責しているんだ。これで何も感じないワケはない。

 

「キザマロ。ボク達……本当に心配したんだ。偶々、『ミステリーワールド』の公式サイトでキザマロらしき情報を見つけて……それで、迎えに来たんだよ……!」

 

「ボクを……迎えに?」

 

 信じられない……とでも言いそうな顔で、鸚鵡返しに口で反復するキザマロ。つい、口に出てしまったような呟きだけど、ボクと委員長の耳には確かに聞こえていた。

 

「……そうよ!アンタが帰ってこないから、ワタシ達の方から迎えに来てやったのよ!さぁ、ニホンへ帰るわよ!」

 

「ちょ……ちょっと待ってください!ボクはまだ、帰りませんよ!」

 

 泣き笑いの表情で委員長が差し出した手から目を逸らし、キザマロは確かな決意を滲ませながら、絞り出すような声で自らの方針を明らかにした。

 

「は……?な、なんですって!?」

 

「いえ……帰れないんです!何故なら!ボクには重大な使命があるからです!」

 

「……重大な、使命?」

 

 ボクにも重大な使命があります。それは最低でもあと二回は世界を救わなければいけないことです。運が悪ければ、クロックマンの件も合わせてあと三回……

 正直イヤになりそうだ。ただ、ダイゴさん救出はどうしても成し遂げたいことだ。ボクという存在がこの世界にあることで、星河スバルの周囲に不幸をもたらしてはならない。これは絶対だ。

 ……おっと、少し考え過ぎたみたいだ。

 

「『ドッシー』ですよ!」

 

「ハァ?」

 

 アンタ馬鹿ァ?とでも続きそうなトーンだ。ツインテール以外共通点無いけど。

 

「忘れもしません……コダマタウンであの妙な空間に飲み込まれた後……気づくと空から落っこちていました。その落っこちた場所がドンブラー湖だったんです」

 

 それって、普通に殺されかけたってことなのでは? 尋常な人間は、高所から落とされただけで転落死確定だ。湖に落ちたと言っても、その衝撃は凄まじかったハズ。高さによっては、アスファルトに叩きつけられるのと同じレベルの衝撃が体を襲う……とも聞いたことがある。流石はコダマ人……なのだろうか。

 

「一瞬で外国まで……?」

 

「そうです。ボクも何がなんだか……見知らぬ土地に迷い混んで、困り果てていて……スターキャリアーで助けを呼ぼうとした、その時です!」

 

 先程の『ミステリーワールド』を撮影していた時のような、興奮した語り口でキザマロは当時の状況を話し出す。恐らく何度も話した内容なのだろう、実に語り慣れているように見受けられる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「ボクの目の前に、現れたんですよ!あのドッシーが!!……ドッシーは直ぐにその姿を消しましたが、ボクは足の震えが止まりませんでした。でも、それは恐怖じゃない。ボクは、今までにない興奮を感じたのです!そうです!あれは確かに本物でした!ボクはこの興奮を、誰かに伝えようとしました。それが偶々、側にいたテレビ局の人達だったんです」

 

 真実が、いつだって人を幸せにするものとは限らないけれど……それにしたって、残酷過ぎやしないだろうか。

 

「それって……ディレクターとカメラマン(さっきの人達)?」

 

「そうです!彼らはボクの話を、興味深そうに聞いてくれました!そして……取材を受けている内に、ボクは感じるようになったんです。これは何かの運命だって……!」

 

 熱に魘されたような上気した顔で、キザマロは語り続ける。それにしても……運命、か。ボクの運命とは一体……

 

「ボクは『ドッシー』の第一発見者として、『ドッシー』が本当にいるというコトを証明しようって!そう思ったんです!」

 

 語り終えたキザマロは、興奮の余韻なのかとても満足げな表情だ。最後に話しかけたのがボクなので、ボクの方を向いているから気づいていないと思われるが、隣の委員長が震えだしている。当然恐怖の類いではない。激おこスティックプンプンドリームの方だ。怖い。

 

「バッ……バカじゃないの!?それがワタシ達より大事なコトだって言うの!?そんなの絶対認められないわ!こっちへ来なさい、キザマロ!アンタはワタシ達と一緒に、ニホンへ帰るのよ!!いい!?これは命令よ!!」

 

「い、委員長の命令でも……おおお、お断りします!デマキューさんが言ってくれたんです!ボクなら『ドッシー』を見つけられるって……キミなら歴史に名を刻めるって……!」

 

 委員長の罵詈雑言と怒声の嵐を正面から受け、足の震えを自覚しながら目を見開いて反抗するキザマロ。

 まぁ……事情もわかっているし、ボクとしては無理に止めない方がいいと思っている。誰にだって、心の支えは大切だからだ。ボクなら、あかねさんやロック、ブラザーの皆、みたいにね。

 

「デマキューって……『ミステリーワールド』でディレクターをやってる人のコト……だよね?」

 

 ボクの確認に、キザマロは恐る恐る首肯する。やはり委員長に罵られた恐怖が、まだいくらか残っているらしい。その膝は震えている。

 

「キ、キ、キ、キザマロ~~ッ!!」

 

 委員長も既に怒髪天レベルで怒り狂っている。このままスーパーコダマ人に覚醒しそうな勢いだ。いや、オヒュカスが再び出てくる可能性もあるな……

 

「とと、兎に角、絶対に帰りません!ボ、ボクのコトは……放っておいてくださ~いッ!!」

 

 泣きそうな顔でそう言ったキザマロは、怒り狂う委員長から体ごと顔を逸らし、橋を渡って向こうへと走り去ってしまった。あの方向にあるのは確か……ドッシーの入江か。

 

「あっ、ちょっとキザマロ!?委員長、キザマロが……」

 

「……放っておけばいいわ!!もうアイツとは友達でも何でもない……絶交よ!!」

 

 キザマロの強硬な姿勢に、興奮した委員長は絶交宣言までしてしまった。幸いなことに、キザマロには聞こえていないはずなので、関係修復には問題ないだろう。

 

「(この迫力……生半可な胆力じゃ近づくことも出来ないよ……!)」

 

「(今、このオンナに近づいたらヤバいんじゃねぇか?とばっちりを食うぞ)」

 

「(そういうわけにも行かないよ……キザマロにも、譲れない部分があるみたいだしね)」

 

「(フン……まぁいいんじゃねぇか?向こうはまだ行ってねぇし、オレも多少は興味があるぜ)」

 

 ロックも多少は乗り気のようだし、早速向かわなくては。その前に、まずは委員長に行き先を告げておかないと。……委員長、一人で放置されると直ぐに泣いちゃうし。

 

「ねぇ、委員長」

 

「…………」

 

 委員長は、先程の絶交宣言からこちらに背を向けているのでその表情を見ることは叶わないが、内心では荒れに荒れていることが簡単に理解出来る。

 ただ、無反応は止めてくれませんかね……

 

「さっきのキザマロの態度……きっと何か理由があるんじゃないかと思うんだ。ボクが少し話してくるから、委員長は、ちょっとこの辺りで待っててくれないかな?」

 

「…………」

 

 やはり反応はない。一応聞いてくれてはいるようなので、制止が無い以上は勝手にさせてもらうべきだろう。

 

「じゃ、行ってくるね……」

 

「…………」

 

 うーん、無反応。ビジライザーはかけていないけれど、ロックが肩を叩いて励ましてくれているらしい。凄くジンジンする。

 ……何?気にすんな?余計なお世話だっつーの!

 




いつも御愛読いただき、ありがとうございます!
前話から聞き込みの表現描写を変えてみたんですけど、これでちゃんと伝わっているでしょうか?
相手側の反応だけを『』で囲っている部分です。

GET DATA……無し

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