星河スバル(偽)の戦闘録   作:星屑

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 ーードンブラー湖の電波1ーー

 

「あ、ピラニア擬き」

 

 湖中を悠々と泳ぐように移動するのは、ピラニア型のウィルス『ピラニッシュ』だ。体色は赤と黄色で構成されており、どことなくコイの王様を思い浮かべてしまうカラーリングである。実際にはデフォルメされていても、ピラニアモチーフなんだけどね。というか歯がめっちゃ鋭い!噛まれたら絶対に痛いヤツだよ、アレ!

 

悪・即・弾(プラズマガン)!」

 

 バトルカードの使用により、近未来的な銃身が左腕に展開される。プラズマガンは弾速やマヒによる副次効果を重視した設計の為、威力は控えめとなっている。しかし、スターカードや属性相性の影響で、非常に効率的なウィルスバスティング(アンサツ=ジツ)が可能になったのはありがたい。

 

 水中ではまともな戦闘が出来ない(と思われる)ので、こうして見つかる前に遠距離射撃でデリートしている。

 ただ、このままずっと暗殺暗殺&暗殺戦法を採っていたんじゃ、いつか対処しきれなくなるような気もするんだよなぁ……

 

「……次は何処だっけ?」

 

 因みに、3体いるヌシの内、既に2体は掘り起こしているので、残りはあと1体だ。

 それにしても…………ミステリーウェーブが埋まってるとかいう場所の、酷いデマ情報を流してきたクソデンパめ、次にあったら許さんぞ!三度も騙されて、ウィルスを掘り起こしてしまったじゃないか!

 

「古文書には、『一人は今は亡き王の証の下に眠る……』って書いてあるぜ。王の証って言えば……そうだな、王冠とかか?」

 

 王冠、王冠ねぇ…………エリアの端に沈んでいた、古い沈没船から溢れた落とし物とか?そういうのって、持ち帰ってもいいんだっけ?幾つか拾っていけば、ドンブラー村の立て直しにかかるお金の足しになるかもしれないけど……

 

「まだ探索していないのは……向こうにある、洞窟エリアだね。行ってみようか」

 

「おう!」

 

 ーー数分後ーー

 

「おおぉ……!ざ、財宝だ!凄い、金貨に宝剣、装飾品までほとんど手付かずで残ってる……!」

 

 巨大な巻き貝が目印の洞窟エリアへとやってきたボク達は、船の荷物だったと思われる財宝が山程散らばっている場所を発見していた。こりゃあ、最低でも一財産は築けるレベルの価値があるぞ……!!

 

「こりゃあいいな!!ちょっと戴いていこうぜ!」

 

 ロック(悪魔)の誘いが、ボクの左(腕)から聞こえてくる。見た感じ、割と年代物にも見えるな。ただ、電波技術の発達で物質自体の耐久度も上がっているので、もっと昔……百年近く昔のモノかもしれない。

 

「……よく考えたら、今持ってても邪魔になるだけだよ。……金貨の鳴る音でウィルスを引き付けちゃったら、嫌じゃない?」

 

 別に、今直ぐに回収する必要はないんだ。ブラックボックスを回収しに来る時もあるし、それこそ機会は沢山ある。どうせ他人に持っていかれることも無いだろうし、ここは諦めておこう。

 

「……ケッ、しょうがねぇ。じゃあ目当ての王の証とやら…………王冠も見つかったことだし、さっさと掘り起こしちまおうぜ」

 

 そう、先程の山と積まれた財宝の中には、一際輝きを放つ王冠があった。デザインもあることながら、貴重な宝石の類いをふんだんに使った意匠は、見事と言う他ないだろう。被ってみたいけど、クラウン・サンダーみたいな電波体に取り憑かれていたら、嫌だなぁ……

 

「それじゃブクボン、よろしく頼むよ」

 

「お任せするブク!ここ掘れブクブク……………」

 

 相変わらず、酷い掛け声だ。どうにもマテリアルウェーブの決め台詞って締まらないものが多いような気がする。子供が使うことを考慮してのコミカル仕様だとか?

 

「………………すっぽし!!」

 

 なんて考えていたら、どうやら当たりだったようでヌシを発掘出来た。もうちょっとヌシとしての威厳をだね……って、基本部外者のボクが言ってもしょうがないか。そもそもヌシと言っても、水門セキュリティを司っているということを除けば、見た目はただのデンパくんに過ぎないのだから。

 

「……ウォッホン。ワタシをメザめさせたのはオマエか。ブクブク……スベてのヌシをホりオこしたトキ、ミチはヒラかれる……ブクブク」

 

「よし、コイツで終わりだ!」

 

「中々骨が折れる作業だったね……」

 

「何言ってんだ?古文書は8枚もあるんだぜ?このエリアはまだ序の口だと思うが……」

 

「」

 

「スバル?スバァァァル!!!」

 

 聞いてねーよ!もうちょっと単純なセキュリティにしろや!ブラキオ・ウェーブ1体も防ぎきれないってのに……!どう考えても、敵に利用される為に作られたセキュリティにしか見えないんですけど!?

 クソっ、diving critical strike(潜水マシーンキック)でリプログラミングでもしてやろうか……!?……なんだかもっとヤバいものを生み出しそうなので、流石に自重するけど。

 レベル99は勘弁してください死んでしまいます。

 

 

 

 何て考えている内に、ドンブラー湖の電波1の奥にあるスイモンセキュリティの側へと、発掘されたヌシ達が一同に会していた。どうやら意識を同期する必要があるらしく、奇妙なダンスを踊っている。ダンスは苦手だな……

 

「……ブクブク。いくぞ!………………ッ!…………ッ!…………………………ブゥーーーーーック!!」

 

 ヌシ達の息を合わせた(電波体に呼吸は不必要なのだけど)雄叫びによって、漸くスイモンセキュリティが解除される。なるほど……今気づいたけれど、要となるセキュリティを中心として、薄ピンクの防壁がエリアの境目に広がっている。どうやら、これで電波体の侵入を阻んでいるらしい。スイモンセキュリティが解除された後も、薄ピンクの防壁は残ったままだ。

 

 

「……よし、セキュリティが解除されたぜ!」

 

「先を急ごう!」

 

 

 ーードンブラー湖の電波2ーー

 

 スイモンセキュリティが解放されたことによって入れるようになったドンブラー湖の電波2には、より一層幻想的な光景が広がっていた。巨大な珊瑚やウニ、そしてタコまで存在している。ドンブラー湖の生態系は一体、どうなっているのだろうか……

 

「…………って、ロック!あれ見てよ!」

 

「何だよ、藪から棒に……」

 

 湖底を見渡してみると、明らかにヤバいモノを発見した。おかしい、あれは実在しないはず。漁師がマナティか何かを見間違えたのだと、以前特集番組でやっていたぞ!?

 

「に、人魚……」

 

 岩場の間に佇んでいるのは、紛れもない……人魚だ。下半身が魚類の尾になっており、上半身は貝殻でコーディネートされている。

 

「ああ?……よく見ろよ。コレ、人魚じゃなくて人形だぜ」

 

「え?………………あ、ホントだ。でも凄い作り込みだよね。あんまりよく出来ているから、遠目じゃ本物にしか見えなかったよ」

 

 何でこんなものがドンブラー湖の底にあるのだろう……

 隣のエリアにあった財宝や沈没船なんかを見るに、何か作為的なモノを感じるな。

 

「別にどうでもいいが……あんまり周囲の警戒は怠るなよ?オレは古文書を読むのに、だいぶ神経使っちまってるからな」

 

「わかってるってば。こっちは任せてよ。……あ、サワニガー。……タァッ!」

 

 湖底を単独で横歩きしているサワニガーにカーソルを飛ばし、『ボルティックアイ1』で放電する。このバトルカードは、自動でロックオンカーソルを飛ばし、任意で操作することで高速で電流を浴びせかける、という仕様らしい。ドンブラー湖は水属性のウィルスが多いので、数少ない雷属性として役立ってくれている。

 

 

 ーー十分後ーー

 

 

「……ヌシですよっ!!」

 

 なんというか……引き抜かれる時に何か叫ばなくてはならないルールでもあるのだろうか。正直、近くのウィルスを呼びかねないので、出来るだけ控えて欲しい。

 

「……ウォッホン。ワタシをメザめさせたのはオマエか。ブクブク……スベてのヌシをホりオこしたトキ、ミチはヒラかれる……ブクブク」

 

「……よし、これで終わりか。……後はあの、首長竜擬きだけだ!……いや、その前に人助けだったな」

 

「……うん、でもなるべく慎重にいこう。向こうにとってはホームグラウンドだけど、ボク達にとってはアウェーもいいところだからね」

 

「まぁ……なんとかなるだろ!」

 

「楽観的だなぁ……いや、いつも通り?」

 

 なんて下らない話をしている内に、潜水艦が沈められていると思わしき最深部へ続く道を塞ぐスイモンセキュリティの下へと、ヌシのデンパくん達が集結していた。意外と泳ぐスピードが速いのは、水中デンパの仕様ということなのかもしれない。

 

 

「ブクブク……いくぞ!……っ!…………っ!……っ!…………………………ブゥーーーーーック!!」

 

 ゴゴゴゴゴ……という重苦しい音が、倒れた玉座の側にいるボク達のところまで聞こえてくる。恐らく、上のブラキオ・ウェーブにも聞こえているハズだ。

 

 

 

 ーードンブラー湖の電波2・最深部ーー

 

 スイモンセキュリティによって、一部分だけ封鎖された最深部には、キザマロを乗せたと思わしき潜水艦のマテリアルウェーブが沈んでいた。そういえば、マテリアルウェーブには意思がある……とのことだったけど、悪事に加担するマテリアルウェーブってどんな気持ちなのだろうか。NDK?

 

「キザマロ、大丈夫かい!?」

 

 あなたは、そこにいますか?

 

『そ、その声は……スバルくん!!』

 

 潜水艦の中から、くぐもったような声が聞こえてくる。大きさからして、あまり快適とは言えない造りのようだ。人が乗ることを前提としているのに、小学生一人で一杯一杯とか……それ、欠陥品じゃない?

 

『助けに来てくれたんですね!?ぶ、無事です!!ボクはここです!!』

 

「……戻ったら、委員長に思いっきり罵倒されることを覚悟した方がいいよ。委員長、半泣きだったからね……」

 

『そ、それは……』

 

「あはは……冗談だって。……今助けるからね!」

 

『冗談キツいですよ……』

 

 割と冗談では無いのだけど……まぁ、一息入れることも必要だろう。焦りすぎて過呼吸でも起こされたら困っちゃうからね。

 

「……待て!!何か近づいてくるぜ!!」

 

 ここでブラキオ・ウェーブのお出ましか!やはり、ボク達が来るタイミングを伺っていたに違いない。相変わらず、嫌味なコトをする……!

 

 

『シッシッシ~~~!!!』

 

 まるで商人が、顧客のいない所でほくそ笑むような声が湖上の方から聞こえてくる。端的に言うと、悪どい笑いかただ。

 

「いいねぇ、いいねぇ~~!!ホントに来やがった!!噂の『青いヒーロー』が!!……スゲェ、あの男の脚本通りだっつーの!」

 

「『脚本』……またハイドか!?」

 

「そうよ、そのまさかよ!!全て新しいスポンサー……ハイド様のおかげよ!」

 

 なんだか、国ごとやけ野原にしてしまいそうなテンションだな……電波変換による興奮作用とか?

 

「ハイド様がこのブラキオ・ウェーブのチカラを与えてくれたおかげで、オレの番組は視聴率大幅アップ間違いなしだっつーの!!連続ヒット番組製作記録更新!これで昇進確定だっつーの!!」

 

 番組ディレクター227。彼はもう終わりですね……

 

「番組……それにその声……!アンタ、デマキューだな!?」

 

『え……ディ、ディレクターさん?そこにいるんですか、ディレクターさん!?どうして……どうしてボクをこんな所に閉じ込めたりしたんですか!?あ、あんなに親切にしてくれたのに……ひ、酷いです!』

 

 潜水艦の内部からは外の景色が見えないようで、ボクのデマキューという言葉に反応したキザマロが、自身の心を傷つけたデマキューへと、非難の言葉を浴びせる。

 

「………あ~ん?あら、まだいたの?『ドッシーを見た少年』!いや、『ドッシーの偽物を見た少年』か!?オマエはもう、用無しだ!」

 

 高らかに笑いながら、無慈悲なまでにキザマロの価値を斬って捨てるデマキュー…………いや、ブラキオ・ウェーブ。その顔には一切の罪悪感もない。

 絶対許さねぇ!ブラキオ・ウェーブ!

 

「子供を使えば数字が取れると踏んだから、色々メンドー見てやってただけだっつーの!大体騙される方が悪いんだっつーの!!シ~シッシッシ!!」

 

『そ、そんな……うう……』

 

 強く信頼していたデマキューに裏切られたショックからか、キザマロは堪えきれなくなってしまったらしい。潜水艦の中から、啜り泣く声が聞こえる……

 

「酷い……」

 

「お、やるってのか!?いいね、いいねぇ!そうこなくっちゃ!!ここでオマエを倒さないと、このチカラも取り上げられちまう!そういう契約なんでな!」

 

 なるほど……そんな裏取引が。いかにもハイドがやりそうな手口だ。これならデマキューも必死にならざるを得ないだろう。

 

「このチカラはサイコーだっつーの!失うワケにはいかねぇ!オレがバラ色の未来を送る為に!」

 

「それが大人のやることかッ!……人に夢を見せるなら、最後まで責任くらい取ってみせろ!!」

 

 視聴者に娯楽をもたらしているだけなら、別に問題は無いんだ。ダメならダメで、見つかりませんでした……とでも流しておけばいい。だけど……わざわざ絶望を与えてやる必要はないハズだ。しかも、年端もいかない子供を食い物にするなんて!

 コイツからは、ミソラちゃんの元マネージャーと同じ匂いがする。つまり……万死に値するってことだ!

 

「向こうもやる気だ!とっととやっちまおうぜ!」

 

「ああ、わかってる!!ウェーブバトル・ライドオn……」

 

「………………カーーーーーットッ!!!!」

 

 突然、その巨大な口を開いて大音量のカット宣言をするブラキオ・ウェーブ。考え事をしているようにも見えるけど……

 

「………………カット?」

 

「……………………オッケェェェェ~~~~イ!!いいね、いいねぇ!!いいアイデアが浮かんだぞ!やっぱオレは天才だ!!」

 

「あ、待て!」

 

 そのいいアイデアとやらの為に、ブラキオ・ウェーブは湖面へと急浮上していく。やはりここで戦う気は無いらしい。逆に、こちらとしても助かるからね。

 

「シッシッシ!ついてこい、青いヒーロー!!さもないと……津波をもう一発ぶちかますっつーの!!今度は展望台も沈んじまうぞ~!?シ~シッシッシッシ!!」

 

 

 

「……やっぱり津波はヤツの仕業だったか!……あの野郎、何か企んでやがんのか?」

 

「だとしても、行くしかないよ!……キザマロ!もう少しだけ、そこで我慢してて!」

 

『は、はいです……』

 

「アイツを倒したら、直ぐに戻ってくるから!……行くよロック!!」

 

 潜水マシーンを浮上モードにして、ボクも湖面へと急浮上していく。水圧その他は、電波体にとって関係はないらしい。

 

『し、信じてますよスバルくん……!』

 

 

 ーードンブラー湖面の電波ーー

 

『あっ!!また現れたぞ!!「ドッシー」だ!!』

 

 先に浮上していたブラキオ・ウェーブは、未だにビジブルゾーンと化している展望台の野次馬達に見えるよう、派手な水飛沫を上げて登場する。

 

 

「シッシッシ!!見てやがる、見てやがる!!皆して目ん玉丸くしてやがる!!なんて愉快なんだっつーの!!」

 

「何が愉快だっつーの、だ!アンタが起こした津波で、多くの人が困っているっていうのに!!」

 

 

『お、おい!誰かいるぞ!?』

 

『本当だ!何故あんな所に!?』

 

『……少年だ!青い、変な服を来ているぜ!』

 

『テレビで見たぞ……あれはニホンで噂の青いヒーローじゃないか!?』

 

 

 ……野次馬がどうにも騒がしい。ボクは静かな場所で戦いたいってのに。雑音が多すぎるんだよ!

 

「わかっちゃねぇ!わかっちゃねぇよ!演出だよ、演出!!派手じゃなきゃ、数字なんざロクに取れやしねぇっつーの!!これも見事な演出だと思わねぇか!?」

 

 ただでさえ高い首を、さらに反らしてこちらの反応を伺ってくる。何も言い返さないことを確認すると、フンッ、とばかりに息(のようなもの)を吐き、続きを語り出す。

 

「『伝説のドッシー』対『噂の青いヒーロー』!!こんなの思い付くのはオレくらいだっつーの!この位置なら、カメラにもバッチリ映る。ミステリーワールドの視聴率は鰻登り!オレ様の未来はバラ色だっつーの!!シ~シッシッシ!!」

 

「こういうヤツだったら、なんの躊躇もなくブッ飛ばせるな!!よし、手加減なんてすんじゃねぇぞ!」

 

 ロックも流石に頭がプッツンきたらしい。獰猛な笑みを浮かべているのが、見ていなくてもわかる。

 

「わかってる!……ボクがヒーローではなく、アンタにとっての死神だということを教えてやるッ!いくぞ!ウェーブバトル・ライドオン!!」

 




やはり感想・評価は励みになりますね……いつもありがとうございます。

GET DATA……
『ピラニアキッス1』『エレキスラッシュ』
『プラズマガン2』『古文書』

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