落第騎士の英雄譚~銀翼は舞い降りた~(現在凍結中) 作:C03-HELIOS
戦闘描写は書くの楽しいけれど疲れます……
第1話 修羅、そして銀翼
結局、ステラさんと一輝は正々堂々と勝負する事になった。
目の前の闘技場では、二人が真っ向から切り合っている。
それ自体は普通だ。
だが、それがこの二人であれば話は別だ。
黒鉄一輝。一般的な伐刀者の十分の一以下の魔力量しか持たず、攻撃力も防御力も学校内最低クラスの落第騎士
ステラ・ヴァーミリオン。一般的な伐刀者の数十倍という膨大な魔力を持ちながら、それにあぐらをかく事なく研鑽を積んだ、攻防ともハイレベルなAランク伐刀者。
普通なら一太刀すら受けきれずに一輝が負けてもおかしくないほどの差が二人にはあるんだ。
だけど、二人は『互角』の戦いを繰り広げている。ハッキリ言っておかしい。
「姉さんが攻めきれないなんて……おかしいですね?」
それに薄々気付き始めたのか、横に居るアルクスさんがポツリと呟いた。
「十文字、どっちが勝つと思う?」
学園長がなんか人の悪そうな笑みを浮かべて聞いてくる。
「素のままなら魔力の絶対量でステラさんですが、切り札を使えば一輝のぶっちぎりですね」
アイツ、普通は穏やかな癖にこういう勝負事になるとストイック馬鹿と化すからなあ……絶対に切り札使うだろな。
「学園長? 星瑠さん? どうして姉さんが負けると言うんですか?」
アルクスさんが不思議そうに聞いてくる。まあ、普通だったらそうだよね。
「まあ、見ていれば分かるかな? そろそろ一輝も見盗った頃だろうし」
目の前で続いている戦いはほぼ互角のまま激しさを増していた。
だが、鋭い観察眼を持っている者なら気づくことがある。ルナさんも気付けるはずだ。
「……姉さんが押されている?」
さっきから少しずつではあるが、互角の状態から徐々にステラの方が押されてきているんだ。
その原因は一輝の振るう剣を見たら分かる。寧ろアルクスさんだからこそより分かるだろう。
「まさか……皇室剣技を!?」
そう、一輝の奴はステラさんが使っていた剣術――ヴァーミリオン皇家に伝わるとされる皇室剣技だったっけな?――を振るっているんだ。
「そんな! あれは我が国の皇族にしか伝わっていない物です! どうしてこの国の人がそれを振るっているんですか!?」
「だから言っただろ? 『見盗った』って」
アイツの観察眼はもはや化け物の域だからな。数分戦うだけで全部の技を見切るどころか、その技の『上位互換』を作って使えるとか、他人の事は言えないが人間辞めているとしか思えん。おかげでアイツとの勝負は負け越しだ!
……まあ、それだけで勝てるほどFランクとAランクの差は小さくないんだが。
戦況はと言うと完全に一輝が押していた。その余りの凄まじさに観客席にいる観客だけではなく、アルクスさんまで完全に呆けていた。
そして遂に一輝の剣がステラさんを完全に捉えた。
人間の急所の一つである首。そこに閃光の如き斬撃が叩き込まれ……
ガンッ!
……ようとして止まった。止まってしまった
それがFランクとAランクのどうしても埋めようの無い差だ。
伐刀者にとって魔力を放出することは息と同じくらい当たり前の生理活動。
特にステラさんは魔力量だけなら世界でもトップクラス。
それだけの魔力ならただ垂れ流すだけでも下手な攻撃を弾く障壁となってしまう。
――一輝の持つ雀の涙ほどの魔力では傷一つ付けることもままならないのだ。
それがFランクとAランクのどうしても埋めようの無い差。
どれだけ技量で勝ろうとも、どれだけ動きを見切ろうとも、どれだけ隙を突こうとも、その攻撃が全く通らないのならば勝てるわけが無い。
『……認めてあげる。アンタに私は才能で勝ったんだって。だから、私は敬意を持ってアンタを負かしてあげる!』
ステラさんの叫びに呼応するように、まるで爆発でもしたかのように六本の炎の柱が吹き上がる。
それはやがて大剣へと集まると、火炎から出来た一本の巨剣を象った。
『だったら……僕の最弱を持って君の最強を打ち破る!』
一輝の叫びに呼応して、アイツの身体を青白い魔力の輝きが覆う。
……ああ、一輝。決める気だな。
確かにFランクの攻撃でAランクの防御は破れない。
だけど、一輝はそれを成し遂げたんだ。常人なら思いつかないような方法で。
『蒼天を穿て煉獄の焔。―《
天空まで伸びると思わせる焔の巨剣が容赦なく振り下ろされる。
だが、その剣が振り下ろされた場所に一輝はいない。
『っ!?』
ステラさんがそれに気づいて反応しようとした時。
――彼女の首を一輝の剣が刎ねた。魔力の障壁を紙のように切り裂いて。
幻想形態ゆえに死ぬことは無いだろう。
だが、首を刎ねられたダメージが精神ダメージへと変換された場合、それは気絶させるのに十分な物となる。
ステラさんはまるで糸が切れた人形のように崩れ落ちるが、地面に倒れる前にその身体を一輝が支える。
それだけで勝敗は明らかだった。
「え……姉さんが負けるなんて……」
「やっぱりな」
俺がそう呟いた時、決闘終了を告げるアナウンスが鳴る。
もちろん勝者は――《落第騎士》黒鉄一輝だった。
――10分後。闘技場通路――
「ヴァーミリオン妹」
「なんでしょうか、学園長」
「さっきの試合を見てどう思った」
「……正直言って信じられません。」
「だろうな。アイツは制限有りだったとはいえ、この私にも勝った男だ」
「っ! そんな人がどうしてEランクで留年なんか……」
「詳しいことは後でな。それよりも、お前と戦う十文字について言っておくことがある」
「なんでしょうか?」
「奴はEランク伐刀者だが――黒鉄に勝てる可能性がこの学園で最も高い男だ。油断していると簡単に足を掬われるぞ?」
――30分後。闘技場――
俺とアルクスさんが闘技場の中に立っていた。
「……学園長から少しお聞きしました」
開口一番、アルクスさんはそう告げてきた。
「十文字星瑠さん、貴方が黒鉄一輝さんに勝てる可能性が最も高い人物であると」
あー……学園長、そのこと話したのかー……
「私は別に黒鉄一輝さんに恨みはありません。寧ろ、より高みを目指すために留学してきた私たちにとって、強敵の存在は望むところです」
ですが、とアルクスさんは続ける。
「それで姉さんが負けたことを水に流せるほど私は大人じゃないんです」
「……つまり、ステラさんの敵討ち?」
「ありていに言えばそうです。八つ当たりかも知れませんが、貴方を倒させてもらいます」
次の瞬間、アルクスさんから凄まじい気迫と同時に魔力が放たれる。
さすが世界トップクラスの魔力量、ここからでもこれだけのプレッシャーを感じるか……だけど、本物の【龍】に比べれば全然マシだ。
「こっちとしてもタダで倒されるつもりは無いな」
そして、俺たちは同時に固有霊装を呼び出す。
「跪きなさい、《
「凶兆を為せ、《銀翼》」
アルクスさんが呼び出した固有霊装は、彼女の身の丈ほどの星月夜のような漆黒と白銀の光を放つスピアだ。
俺が呼び出した固有霊装は、翼の意匠が刻まれた青銀と漆黒の狩猟用ナイフだった。
『決闘、開始!』
合図とともに俺は飛び出す。ナイフだから接近しないと話にならないからな。
「《
アルクスさんが振るった槍から雷光の刃が無数に放たれる。
走る速度を一切緩めないまま、雨のように迫る雷光の刃をナイフで払う。
「やりますね、《
ルナさんの槍の雷光の刃が纏わりつき、穂先を巨大化させるのが見えた。
そして、閃光のような速さで刺突を繰り出してくる。
凄まじいほどの勢いと速度に、その速度とは思えないほど範囲の大きな刺突攻撃。普通の伐刀者ならこれで終わるな。
「甘い」
俺はその一撃を右手のナイフで受け止める。それだけでは槍の勢いを殺し切れないから、左手のナイフで力を受け流すように受け止め、穂先をあらぬ方向へと向けさせる。
だが、外れたはずの一撃は瞬時に刺突から打撃へと変化し、俺に向けて柄が振るわれた。
俺は左手のナイフから手を放し、迫ってくる槍の柄を掴み取る。
バシュン!
やっぱり穂先だけじゃなく、柄の方にも電気が走っていたか。高圧電流のせいで微妙に痛いが、俺を止めるのには足りない!
左腕で槍をがっちり掴んでアルクスさんの動きを制限、そして槍を振るうために伸びきったままの左腕、その手首に向けて右手のナイフを振り下ろす。
「はっ!」
アルクスさんの反応は素早く、俺がナイフを振り切る前に槍を大きく動かして俺の左腕を振り払うと、その勢いのまま石突で地面を突き、その反動で大きく距離を取った。
さすがはAランク伐刀者、反応が早いね。俺は左手用のナイフを拾い上げながらも、アルクスさんへと駆け出す。
「あの電撃を受けてなんとも無いんですか!?」
「残念だが、痛いだけなんだなコレが」
その間にもアルクスさんは大量の雷光の刃を撃ち放ってくる。
「そっちが札を見せてくれたんだ。こっちも札を見せないと不平等だな」
俺は二本のナイフを目の前で重ね合わせる。
「彗星は駆ける――《銀翼の大剣》」
次の瞬間、ナイフの形が崩れた。
それはあっという間に俺の身長を遥かに超える、飛行機の翼をそのまま持ってきたかのような青銀色の大剣へと姿を変えた。
「固有霊装が変形した!?」
これが俺の伐刀絶技――ではなく、銀翼の能力である変形機能だ。
俺の意思に合わせて16種類の武器へと変形することが可能で、同時に固有機能を発動させることも可能となる。
俺は大剣の切っ先が右足元の近くに来るように構える。
「じゃあ、行くぜ」
キュイイイイイン! というジェットエンジンの駆動音と彷彿とさせる甲高い音が響く。
そして銀翼の大剣の峰に設けられたブースターノズルのような部分から、赤黒い何かが炎のように噴き出す。さながらアフターバーナーのように。
――これが銀翼の持つ一つ目の固有機能。
――赤黒い特殊な粒子《
――その出力は最新鋭戦闘機のジェットエンジンにも匹敵する!
俺はカタパルトから発進する戦闘機のように発射された。
迫ってきた雷光の刃を文字通り蹴散らしながら、凄まじい速度のままアルクスさんへと迫る。
「速い!?」
そう言いながらもアルクスさんは俺の突撃を回避するように横へと跳ぶ。
甘い! 俺は推進力を生み出している大剣を僅かにずらし、ルナさんが避けた方に向けて軌道修正する。
「嘘でしょう!?」
ルナさんが叫んだ時にはもう、俺とアルクスさんの距離は3mも無かった。
間合いに入った瞬間、腕に力を込めて大剣を右下から左上へと一気に振り切る。
大剣の重さ、ブースターの推力、突撃の勢い、俺の膂力を全部乗せた一撃だ。防ぎきれると思うな!
アルクスさんも防いだら不味いと理解したのか避けようとするが遅い。
振るわれた大剣の切っ先が槍の石突へと触れた。それだけでルナさんは吹き飛ばされる。
「きゃああああっ!?」
しかも、力を受け流せていないため、槍を持つ手を中心としてグルグルと回転しながら、というオマケつきで。
その隙を逃がすほど俺は甘くない。再度、大剣のブースターを点火させると、さっきと同じように突撃する。
――確実に仕留めるために横薙ぎに振るうか。
真横に大剣を構えながらそう考えていると、アルクスさんが回転から体勢を立て直しているのが見えた。
槍がさっきよりも強い電撃を帯びているのを見ると、強力な電磁場を発生させることで周辺の金属との間に磁界を形成、それを利用して体勢を立て直したのか? ってことは……
「《
やっぱり、電磁気力を利用した高速移動も可能か!
俺と遜色ない速度で突進してきたアルクスさんに対応するため、ブースターを停止、そして大剣の腹を盾に見立てて前に突き出す。
――もちろん、これで防げるとは思ってない。ルナさんほどの実力者なら回り込むのくらい楽にやってのけるはず……来た! 左側からか!
俺は頭の中だけで言葉を紡いだ。
(恒星にして新星――《銀翼の速剣》)
大剣はその形を崩し、瞬時に青銀の盾と漆黒の剣へと変形した。
そのまま盾を右手に、剣を左手に装備する。
迫って来ていた槍の穂先を左手の剣で逸らし、ルナさんの横に回り込むように移動しながら右手の盾で殴りつける。
大型武器から小型武器に一瞬で変わったんだ、一輝でも無い限り初見で対応できるもんか!
「きゃあっ!」
盾の一撃は、刺突を繰り出し切ったアルクスさんの左手首に直撃していた。普通なら手首が粉砕されてもおかしくないが、幻想形態だから精神ダメージしかない。何より今の俺じゃルナさんの防御フィールドを抜けるだけだから、そのダメージも小さいだろう。
それでも衝撃で動きを止めるくらいは出来た。
そしてルナさんが体勢を整える前に、再び盾を構えて突進する!
ルナさんもそれに気づいて迎撃の刺突を繰り出すが、まだ左手のダメージが残っているのか動きが少しだけ遅い。その隙、貰うぞ!
速度が乗り切る前の槍の穂先に盾をぶち当てる。
バチバチ! という音と共に盾に電撃が走る。だけど、それは俺には全く届かない
――銀翼の持つ二つ目の固有機能
――龍気による魔力耐性の付与。
――牽制や小技程度の魔力攻撃は俺に効かない!
そのまま全体重を込めて槍を上へと吹き飛ばし、がら空きになった懐――腹を殴りつけるように盾をねじ込む。
「がっ!?」
無防備な腹に攻撃を受けた衝撃でアルクスさんの動きが止まった。
「行くぞ……竜頭砕く我が拳」
その場でしゃがみこむようにして力を溜める。同時に経絡エネルギーの流れを活発化させて身体能力をブースト。
そして、溜めた力とブーストした身体能力を融合させるように開放し、地面を蹴ることと盾に更なる力を加えることに注ぎ込む!
「――《昇竜撃》ッ!」
渾身の一撃を喰らったアルクスさんは――巨人のアッパーを受けたかのように打ち上げられた。
しかし、アルクスさんを打ち上げてもまだ俺の跳躍の勢いは止まらず、途中で失速し始めたアルクスさんを追い抜くように俺の身体は更に上へ飛ぶ。
「竜鱗破る隕星」
空中で体を捻り、盾を下――落下中のルナさんへと向ける。
左手の剣は逆に天を突くように構え、二股に分かれた切っ先の間から龍気を噴射させる。
「――《降星撃》ッ!」
次の瞬間、俺は龍気噴射によって加速しながら落下する。そして構えた盾をアルクスさんの頭へと叩き付け――。
「させません!」
ッ! 槍の柄で頭に受けるのを防いだか! それにこのチリチリとした感じはさっきの電磁気推進!
アルクスさんの背中から紫電が走ると同時に落下速度がガクンと落ちる。
「一輝さんに勝てるかもしれないという話、本当だったようですね!」
「戦績では負け越しているがな!」
埒が明かないつばぜり合いを切り上げるため、わざと盾に強く力を込めて自分の身体を跳ね上げる。
宙返りして体勢を立て直しながら言霊を呟く。
「群星は降り注ぐ――《銀翼の連弩》」
剣と盾の姿が崩れ、瞬時に戦闘機をデフォルメしたような流線形のライフルへと変わる。
小手調べに通常弾を3連射。
アルクスさんはそれを電磁気推進のスピードであっさりと避けて見せる。それどころか雷光の刃をお返しとばかりに放ってきた。
ライフル下部の露出したフレームを掴むと、ライフル上部とサイドにあるノズルから龍気を噴射して加速。雷光の刃の間を縫うように地面へと向かう。
着地すると同時にライフルを持ち直す。
アルクスさんは雷電を迸らせた槍を高速で回転させながらこちらに迫って来ていた。
軽く狙いをつけて通常弾を6連射。
ルナさんは回転させた槍を盾のようにしてその弾を弾く。カキィン! カキィン! という甲高い音が響く。
「はあっ!」
その回転の勢いのまま雷光で巨大になった穂先が突き出される。
咄嗟にライフル前部を覆っている鋭利なパーツを銃剣代わりとして槍の穂先と打ち合わせた。
パワー負けして後ろへと仰け反ってしまったが、その仰け反った勢いのまま後ろに転ぶようにして距離を取る。
追撃しようとしていたアルクスさんに向けて新しく装填した散弾を3連射。
さすがに散弾を全て撃ち落とすというのは厳しいらしく、ルナさんは高速移動しながら直角に連続して曲がるという動きで回避していた。
「速いな」
ステラさんが極めて高い攻撃力と防御力を両立した戦車だとしたら、アルクスさんは機動力と浸透性に優れた戦闘機だ。
しかも、ステラさんほどでは無いけど防御も分厚いし攻撃力も高い。むしろ高速なぶんステラさんよりも厄介かもしれない。
「せいやあっ!!!」
電磁推進によって超高速になったアルクスさんが槍を振るう。
突き、薙ぎ、払い、振り下ろし、振り上げ、袈裟、逆袈裟。
全ての技が閃光のような速度で繰り出され、穂先には雷電を纏っている。
龍気による魔力耐性があっても結構キツい。鋭利なパーツを使ってなんとか凌いでいるが、何度も何度も雷電の刃が身体を掠っていく。
だけどいくら伐刀者が人間離れした身体能力を持っているとはいえ、人間であることからは離れられない。強烈な暴風雨にも似た猛攻を無限に続けられはしない。
俺が狙っているのはその隙。猛攻で蓄積された疲労と消耗した酸素を回復させるための大きな隙、ゲームで例えるなら技後の硬直――。
猛攻が止みアルクスさんが少しだけ大きく息を吸うような素振りを見せた。
(今だ!)
弾種変更――
龍気を物質寸前にまで圧縮した半エネルギー半質量の弾丸。
ジェット噴射に使えるほどのエネルギーを持った龍気を物質寸前にまで圧縮して弾頭に使っているため威力は絶大。しかも、物質寸前まで圧縮しているため龍気の魔力耐性が極まりすぎて相手の魔力系防御を無効化してしまうという特性すら持っている。
もちろん、こんな弾に何の代償も無いわけが無い。必要な龍気量の問題で1回の戦闘で3発しか撃てないし、伐刀者なら見て回避が出来るほど弾速が遅いという欠点がある。
それゆえにこの弾は確実に当たるチャンスで確実に撃たなければいけない一つの切り札と言っていい。そして今、そのチャンスが来た。
引き金を引く。
銃口から放たれるのは赤黒い電撃を帯びた弾丸。
バレルから放たれる寸前に龍気を活性化させたおかげで3発に分離したそれは、息継ぎ中で動けないアルクスさんに目がけて飛んでいく。
普通なら回避できるそれも技後の硬直中ならかわせない。
アルクスさんは槍を使って逸らそうとするが、弾丸に触れた瞬間、槍の方が弾かれてしまう。
「っ!?」
当然だ。この滅龍弾に込められたエネルギー量は下手な伐刀絶技をも上回る。大技ならともかく只の攻撃で逸らせる物じゃない。
最後の守りであった魔力放出による障壁を紙のように貫き、赤黒い弾丸がルナさんの身体へと突き刺さり、内包していた膨大なエネルギーを放出する。
「あああああああっ!?」
最初の1発は外れてしまったが、2発目は左肩を、3発目は左肘に命中している。
本当は頭、胸、腹に1発ずつ撃ち込むはずだったけどさすがはAランク伐刀者。当たる寸前で身体をずらして急所に当たるのを避けたようだ。
「くうっ……」
だけど、効果はあった。アルクスさんは右腕一本だけで槍を持つとそのまま素早くその場から離脱していく。
その左腕はというとまるで力を込められないかのようにダラリとぶら下がっていた。
今のアルクスさんは例えるなら左腕全体に肉が焼き爛れるほどの超高圧電流を流されたような状態だ。いくらダメージが精神ダメージに変換されると言っても、それだけのダメージを受けたまま左腕を動かすのはかなりキツいはずだ。
「まだです!」
アルクスさんはまだ使える右手で槍を振るうと、さっきよりも大量の雷光の刃を飛ばしてくる。
それを避けつつ、マガジンに残っていた滅龍弾を全て発射する。
6発の赤黒い電撃を帯びた弾丸が飛んでいく。
ルナさんはその弾丸を見ると周囲に大ぶりな雷光の刃を6つ形成し、滅龍弾を迎撃するかのように射出した。
わざと強度を低くして撃ち出していた滅龍弾は雷光の刃に命中した直後、赤黒い爆発を引き起こした。
俺とアルクスさんの中間地点で爆発したため、被害は両方ともゼロに近い。しかし……
(成功だな)
爆発の向こうに見えるルナさんの身体が赤黒い電撃を帯び始めたのを見て俺は勝利を確信した。
――アルクス視点――
目の前の赤黒い爆発を睨みながら私は思います。
この人は……強い。
姉さんとイッキさんの試合を見ていなかったら、そして学園長からあの言葉を聞いていなかったら、あの盾による猛烈なアッパーで試合は終わっていたでしょう。それほどの威力でした。
私の魔力量は姉さんとほとんど変わらないので素の防御力もほとんど同じです。
……それを破れるということは、あのアッパーは最低でもBランク伐刀者の伐刀絶技を超えていることは間違いありません。どう考えても彼はEランク伐刀者にカテゴリーしていい人ではありません。
ズクッ
っ……!
左腕からの激痛に思わず槍を手放しそうになります。
あの赤黒い弾丸のせいです……! 単純な痛みだけなら姉さんの《姫竜の咢》を虚像形態で受けた時より酷いです。
あの時、とっさに横に動いていなかったら、一瞬で終わっていました。少なくともこの痛みを頭、胸、腹に受けて意識を保てる自信は私にありません。
赤黒い爆発はすぐに収まり、辺りがクリアに見えるようになりました。
妙な事にジュウモンジさんはさっき撃った場所から全く動いていません。
まるで……これで勝負が決まったとでも感じているかのように
「っ!?」
嫌な予感がしました。すぐに動かないと負ける。そんな強い予感が――。
もう、一瞬たりとも待っていられませんでした。
私は即座に自分が使える最強の伐刀術技《
姉さんの《
地上と空中に超広範囲の電磁フィールドを形成、その両方の電磁フィールドから一発一発が伐刀絶技に匹敵する雷撃を絶え間なく発射することで、フィールドに挟まれた敵を問答無用で焼き尽くす伐刀絶技。
単純な火力で言えば姉さんに劣りますが、最大半径3kmの攻撃範囲、地上と空中から絶え間なく発射されるという回避の困難さ、そして発動中でも私が自由に動けるという点では勝っています。
「大地を揺らせ天界の霆――《
闘技場全体を覆うように電磁フィールドを展開、そのまま雷撃を――
「っ!?」
発射できない!? どういうこと!? まだ魔力は7割以上も残っていますよ!?
「やっと効いてきたな」
ジュウモンジさんが平然とした表情のまま言います。それは私に起こっていることに自分が関わっていると言っているようなものでした。
「何をやったのですか!?」
「手品の種を教えるマジシャンはいないぞ?」
余裕綽々な感じにジュウモンジさんは笑います。それは自分が有利だと確信していて――全く油断していない者にしか出せない笑いでした。
……まだです。まだ負けたわけではありません。《
「また!?」
発動できない!? 本当にどうなっているんですか!?
嫌な予感のまま、何度も伐刀絶技を発動させようと試みましたが、それらは全く発動することはありませんでした。まるで魔力が無くなったかのように――。
……いえ、違います。魔力があるのに全く動かせないような、この不快感も混ざった圧迫感は――。
「魔力が堰き止められている?」
そうです。まるで私の身体から魔力が放出されないように蓋をされているようでした。
感覚を研ぎ澄ませてみると、私の身体から一切の魔力が放出されていないことがわかりました。
それはハッキリ言っておかしいです。
魔力の放出は伐刀者にとって息をすることと同じくらい自然な生理現象の一つで、私や姉さんクラスの魔力量ともなると常時放出される魔力だけでも障壁にもなります。それが全く無いなんてどうなって……
「戦っている最中に考え事か?」
「っ!?」
声と嫌な寒気がした方向に向けて槍を動かします。
次の瞬間、私の身体は交通事故にでもあったかのように跳ね飛ばされました。
「がはっ!」
受け身をとれなかったせいで激痛が身体に走ります。でも、これで動きを止めてはいけません。体勢が崩れた敵なんて攻撃してくれと言っているようなもの――。
「とどめだ」
頭に走る強い衝撃に私の意識は黒く染まりました。
星瑠の戦闘シーンはいかがだったでしょうか?
次回投稿は未定ですが、おそらく一週間はかかると思います。
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2017年6月20日 改訂
ルナ・ヴァーミリオン→アルクス・ヴァーミリオン