陰陽少年と少女たち   作:人型(改)

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第4話

「シュート!」

気合いの入ったなのはちゃんの声とともに、エネルギーの弾丸が飛んでくる。

「甘いよ」

僕はそれをジャンプして回避し、あるものを取り出して投げた。普通なら回避されるところだったが、攻撃したばかりの彼女の動きは鈍い。それは弧を描いてなのはちゃんへと飛んでいき、爆発した。

「ああっ!?」

なのはちゃんが声をあげる。よし、これで彼女のダメージは大きなものとなった。恐らくあと一撃で戦闘不能だろう。

「っまだまだ」

だが彼女はこれで諦める相手ではない。すぐさま十分に距離をとり、またエネルギー弾を撃ってくる。だが無意味だ。あと一歩、僕が前に出るだけで勝負は決まる。そして僕が一歩踏み出すと同時に彼女は一歩下がり、地面にはまった。

「そんな!?」

「落とし穴だ。少し前に仕掛けておいたよ。これで終わりだ」

卑怯であるかもしれないが、戦いとは常に非情なもの。落とし穴から抜けようと必死にもがくなのはちゃんを少しかわいそうに思いながら、僕は彼女に近づいていく。

そして僕は強力な一撃を放ち―――――

なのはちゃんが操るパワードスーツを着たバウンティハンターが、場外へ吹っ飛ばされて星になった。

「僕の勝ちだね」

「うぅ。まさかこの子で負けるなんて」

昼食を終えた僕は、なのはちゃんの希望によりゲーム対決をしていた。背後ではなぜか恭也さんが見守っている。ちなみに今していたのは大乱闘なゲームで、僕が操作していたのは猫目のエルフ耳な少年である。

なのはちゃんは高町家で最も機械に強く、ゲームでも強い。だが僕もゲームは得意だ。そう簡単には負けられない。

「なら、次はこれ!」

「ぷにょぷにょか……。名前は知ってるけど、初めてだ」

「なら私が教えてあげるね」

なのはちゃんにルールを教えてもらいながら、プレイしていく。なるほど、わりと単純だけど奥深い。コツもつかめてきたな。

「こんなかんじかな」

「ま、まさかもう五連鎖を!?ああー、おじゃまぷにょがたまってくよぉ」

そのまま順調に連鎖を重ねていき、やがてなのはちゃん側の画面でぷにょのタワーが天を衝いたことによって決着がついた。

「よし、勝った」

「も、もう一回。もう一回しよ!」

半ばムキになって再戦を挑む彼女が微笑ましい。

「いいよ。やろうか」

その後、ゲームの種類を変えながら10連戦を繰り広げ、8勝2敗で僕の勝利と言う結果となった。

「それにしても、晴希はゲームが得意だったんだな」

途中から若干うんざりしていた恭也さんが話しかけてくる。なのはちゃんはといえば、僕のとなりで真っ白になって燃え尽きている。

「ええ、まあ。ゲームは結構得意ですよ。ゲーマーってほどじゃないですけど」

「……そうか」

(なのはに勝っている時点でそこらのゲーマーより強いと思うんだが……)

なにか言いたいことを飲み込んだような表情の恭也さんに内心首をかしげながら、燃え尽きたまま動かないなのはちゃんをどうしようかと考える。

「なのはが再起動するまでしばらくかかりそうだし、縁側で少し休まないか?」

正直少し疲れたので願ってもないことだが……

「えーと、なのはちゃん、このままでいいんですか?」

微動だにせず静止し続けている辺り、どことなくハシビロコウを連想させる。

「ああ…。まあ、そのうち動き出すだろう」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 

 

 

恭也さんが用意したお茶と煎餅を手に、縁側に座ってぼーっと雲を眺める。隣には恭也さんと途中で会った美沙斗さんがいる。

 

「……お茶が、うまいな」

 

「そうですねぇ」

 

「……落ち着く、ね」

 

「まったくです」

 

二人の言葉に相づちをうちながら、煎餅を一口。バリバリと固い食感としっかりとつけられた醤油味を楽しみつつ、次はお茶を一口。少し濃いめに入れられたお茶の苦味がしたに残った醤油の味をさっぱりと洗い流してくれる。鮮やかな青空と白い雲、そして美味しいお茶と煎餅。うん、完璧だ。

 

そうしてまったりと過ごしていると恭也さんが話しかけてきた。

 

「晴希。独り暮らしをしているらしいな」

 

むせた。唐突すぎる。というよりなんで恭也さんが知っているんだろう。……ああ、そういえば。

 

「……士郎さん、ですか」

 

「ああ、父さんから聞いた」

 

やっぱりか。

 

「それで、その事で何か?」

 

「困っていたりはしていないか?」

 

心配してくれているらしい。この人らしいというかなんというか。やはり、お人好しだなと思う。

 

「大丈夫ですよ。ありがとうございます。心配してくれて。」

 

恭也さんはそうかとひとつ返事をしてお茶をあおる。すると今まで黙っていた美沙斗さんがついといった感じで口を開いた。

 

「寂しくは、ないのかい?」

 

そう聞いてくる美沙斗さんの表情は少し歪んでいて、その目からはこちらへの心配の他に何か別の感情が入っているような、僕に何かを見ているような気がした。

 

「もう、慣れちゃいました。独りなの」

 

「……っ。そう」

 

そのとき僕がどんな表情をしていたのかはわからなかったけれど、僕の表情を見た美沙斗さんがどこか衝撃を受けたようだったので、きっとろくな顔をしていなかったのだろう。抱き締められてしまった。どうやらもっと心配させてしまうことになってしまったらしい。

 

「……なのはも会いたがっているし、母さんなんてうちに住まわせようかと言っていたくらいだ。うちを第二の家のように思ってくれてもいいからな。」

 

「困ったことがあったら、頼ってくれていいからね」

 

「はい、そうさせてもらいます」

 

本当にここの人たちは暖かすぎる。だからこそ、守らなければ。物理的なものではなく霊的なものから、この家の優しい人たちを僕が守らなければならない。

 

「あー!ここにいた!!二人とも私を置いていくなんてひどいよ」

 

一人内心で決意を固めていると、なのはちゃんがやって来た。どうやら再起動に成功したらしい。とりあえず今は、彼女のご機嫌をとる方法を考えようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、さよならなのはちゃん」

 

「うん。また来てね、晴希くん」

 

夜になり、なのはちゃんに挨拶をして高町家を後にする晴希くんを見ながら今日のことを思い返す。

 

晴希くんのことは今朝にかいつまんで聞いていた。両親を失い、親戚の家をたらい回しにされ、とうとう独り暮らしを始めるようになってしまった少年。しかも独り暮らしは彼自身が望んだものだったと言う。

 

ふと思った。まだ親に甘えていてもおかしくない年齢の彼はどんな気持ちで独り暮らしを望んだのか。なぜ、それを望むまでに至ってしまったのか。士郎はまだ少し何かを隠しているようだったから、そうそう人に言えない事情を、晴希くんはまだ抱えているらしい。きっとその辺がこれらの疑問の答えなのだろう。

 

そうして出会った時の第一印象は妙に大人びたユーモアのある少年というものだった。美由希と私の関係についてとても愉快な推測をしていたのが大きな理由だ。ムードメーカーというほどではないが、それなりに明るく、礼儀がきちっとしているのに堅苦しすぎない、好感の持てる少年だった。

 

だが、縁側で恭也と彼の会話を聞いているとき、両親がいない状態で暮らしていても大丈夫だと言い切っていた彼に、つい寂しくないのかと聞いてしまったそのときに彼の印象は変わった。

 

思えば美由希のことを重ねていたのかもしれない。彼の境遇は美由希と似ている。親を失い、親戚に預けられる。もっとも、美由希が失ったのは父だけで一時は捨てていたといっても私は戻ってきたし、親戚をたらい回しにされることなく高町夫妻の愛情を受けて育っていたが。

 

だが、それゆえに聞いてしまった。もしも、あのとき静馬さんだけでなく私も死んでいたら。もしも美由希が預けられた先で愛されることなく育っていたら、その内面はどうなっていたのか。

 

そんなifを、彼を通して見ていた。

 

『もう、慣れちゃいました。独りなの』

 

本人は苦笑したつもりだったのか、笑いきれずに歪んだ表情。何も写していないがらんどうの瞳。

 

見ていられなかった。こんな子供にこんな顔をさせていいのか、と胸が締め付けられる思いだった。私達もどこかで一歩踏み外していたら、美由希にこんな顔をさせていたのかもしれない。寂しくないはずがないのだ。彼は寂しさに慣れてしまっただけで、温もりを欲していない訳じゃない。体が半ば勝手に動いて、彼を抱き締めた。彼の体が少し震えて固くなる。どこか他人を拒絶しているのかもしれない。

 

「困ったことがあったら、頼ってくれていいからね」

 

こんなことしか言えない自分が不甲斐ない。彼ははいと言ったが恐らく頼られることなど無いだろう。だからこれからはこの子が困っていないか、少し気にかけるようにしようと思った。

 

一通り思い返すとなのはちゃんが戻ってきた……が、その表情は少し暗い。

 

「…どうしたの?なのはちゃん……」

 

「美沙斗さん」

 

「晴希くんが帰っちゃって、寂しい?」

 

少しからかうように言うと、彼女の頬に朱が差す。

 

「そ、それもありますけど、またダメだったから……」

 

「ダメだった……?」

 

「晴希くん、笑ってても、悲しそうな目をしてるままだったんです」

 

「そう……」

 

「私、何とかしてあげたくて。でもどうしていいかよくわからなくて。やっぱり私には無理、なのかな」

 

「……無理じゃ、ないよ。なのはちゃんなら出来る」

 

この子は思った以上に彼をよく見ていたらしい。正直、私は気づかなかった。縁側での彼の表情を見ていなければ、なのはちゃんの言葉を気にも止めなかっただろう。つまりはそれほど彼の作り笑いは年期のはいったものであるということで。それを見抜いたなのはちゃんならきっと出来ると、彼の寂しさを埋めてあげられるのではないかと思った。

 

「そう、かな」

 

「うん」

 

「だったら、頑張ってみます。美沙斗さん、ありがとうございました。」

 

なのはちゃんとともに家の中にもどる。さて、今日の晩ごはんはなんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰った僕は晩ごはんを食べ終え、星を見ていた。海鳴は結構空気がきれいだから星がよく見える。

 

『日月星辰の運行・位置を考え、相生相克の理による吉凶禍福を判じて未来を占い、人事百般の指針を得る』

 

星や月、太陽などの巡りを見て未来を占う。昔から陰陽師達がやって来たことであり、基礎とも言えることだ。

 

「妙だね。吉兆と凶兆のどちらもある。占いといっても何が起こるかなんて未来予知レベルの力はないけれど、僕の占いはわりと当たる。今回も読み間違えてるなんてことはなさそうだし……」

 

間違いなく、わりとすぐに何かが起きる。明日か、早ければ今夜に。

 

「少し警戒しておいた方がいいな……」

 

最近はほとんど使わなくなったけれど、霊符の用意もしておこう。備えあれば憂いなし、今回はちょっと手がかかりそうな予感もするし。そう思いながら部屋に戻ろうとしたそのとき、白虎から連絡が来た。

 

(主様。変な石、落ちてきた。霊力じゃない、妙な力、感じる。絶対よくないもの)

 

(分かった。そっちに行く。何が起きるかわからないから絶対さわらないこと)

 

(うん)

 

もう来たか。僕は急いで支度をする。結界用と、封印用の霊符、そして対魔刀。とりあえずはこんなところでいいだろう。石と言っていたし、たぶん封印になりそうだ。あまり時間をかけていられない。彼を呼ぼう。

 

「我を守りしものよ、我がもとへ。こい、青龍」

 

カッと光が弾けると、そこに立っていたのは青髪の整った顔立ちの青年。

 

「呼んだか、晴希」

 

「うん。ちょっとよくないものが落ちてきたらしくてね。急いでるんだ。乗せてほしい」

 

「いいだろう」

 

その言葉とともに青龍は巨大な東洋龍へと姿を変え、僕は彼の首にのった。

 

「場所は?」

 

今回の場所、白虎が守っている僕の後輩がいる家はこの海鳴に古くから続く名家。

 

「……月村邸だ」

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