東京喰種:re 皇と王   作:マチカネ

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 ピエロ戦になります。前回で語っていた通り、ライくんは鈴屋班とともに本局警護。


第16章 リンゴはいかが?

 両親のお墓に訪れた暁。

「そうか、君と初めて出会ったのは、ここへ来る途中だったな」

 そこにはリオが立っていた。

 お墓に備える花を買う店を探していた彼女に、ちょうどいい店を教えた。それがリオと暁の初めての出会い。

「暁さん、来てもらいたいところがあります、一緒に来てくれませんか」

「花を供えた後でなら、付き合おう」

 暁はリオが喰種であることに気が付いているだろう。父親譲りの勘のいい彼女なら、リオが【JAIL】であることも気が付いているのかもしれない。

 お墓に花を供え終え、

「さて、リオくん、私をどこへ連れて行ってくれるのかな?」

 捜査官にとって、喰種は敵。しかしリオからは殺意も敵対心も感じられず。

「着いてからのお楽しみです」

「君も言うようになったな」

 

 

 電車に乗り、あとは徒歩で山中にある貸し別荘にリオは暁を案内した。季節によるものなのか、他の別荘には借り手はついていない。

 だからこそ、この別荘地を選んだ。

 

 振り下ろされる斧、小気味いい音を鳴らして割れる薪。

「……久しぶりだな」

 ピタッ斧を振り下ろす手を亜門は止め、暁の顔を見る。

「ああ、久しぶりだな」

 本当に久しぶりに、再会した者同士のような挨拶。

 亜門は暁の後ろにいたリオの方を見る。怒っているのか、怒っていないのかは解らない。

「私が連れてくるように頼みました。いつまでも隠しておいて良いことではありません」

 別荘から緑色の髪に白装束の男が出てきた。背格好が報告と一致するので、金色マスクに違いないだろう。今日はマスクは付けてはいないが。

「私の名前はジェレミア・ゴットバルト。あなたのことは亜門殿とリオ殿から伺っております」

 丁寧なお辞儀、まるで中世時代の様。と言ってもわざとらしそやキザたらしさは感じられない。

「ここではなんだ、中で話そう」

 亜門に促され、みんな別荘へ。

 

 

 別荘の一室。リオとジェレミアは気を利かせ、亜門と暁を2人きりにした。

「暁、まずはお前に何も告げずに、いたことを詫びさせてくれ」

 2人はテーブルに向かい合って座っていた。

「私は……君が死んだものとして、この数年生きてきた。いろいろな感情を白紙に、職務に邁進してきた。今更、何を話せばいい、詫びなどいらんよ、今は“喜ばしいも”“腹立たしい”もない。だたただ困惑している」

 流れる沈黙、少しの時間黙ったままだった亜門は立ち上がり、

「俺はしばらく、ここに身を寄せている。何かあったら頼ってくれ」

 部屋から出ていく、寸前、

「待っている」

 と一言残す。

 

 庭に出るとリオがいた。

「暁を連れてきてくれてありがとう」

 亜門はお礼。

「僕はジェレミアさんに頼まれただけで……」

 果って戦ったことのある相手にお礼を言われると、むずこそばしくなってしまうもの。

「それでも言わせてくれ、それに今日のことだけじゃない、ル島の時も文句を言わずに来てくれた」

 『ル島上陸作戦』の前、自らの力不足を実感していた亜門はリオに助っ人を頼んだ。

「僕は僕のできることをやりたかっただけなんです」

 自分の【JAIL】の力はそのために使いたい。リオは、そのために【JAIL】の力を持っていると信じたい。

 

 

「嘘はついていない、ついていないが」

 テーブルに顔を埋め、

「本当のことは何も言えてない感じだ」

 泣き出す。

「今更、どんな顔をすればいい?」

 

 泣き終えたのを見計らったように、ドアがノックされた。

 慌てて袖で涙を拭き、平静を装い、どうぞと招き入れる。

「失礼します」

 お盆を持ったジェレミアが部屋に入ってきた。

「紅茶をお持ちいたしました」

 暁に紅茶を淹れ、差し出す。

「すまない」

 気分を落ち着かせるため、一口。

「私は騎士の家に生まれ、私自身も騎士を目指しておりました」

 暁が紅茶を飲んでいると、姿勢を正したまま、話を始める。

「初任務の日、テロにより、守るべき主を失ってしまいました。その後、そのご子息まで失ったとの知らせを受け、騎士としての矜持を失い、私は自暴自棄になりました」

 口を挟む空気じゃないので、黙って話を聞く。

「ですが7年後、私はご子息との再会を果たしました。生きておられたのです! 本当に生きておられた。私は一度失った仕えるべき主を取り戻し、騎士としての道を取り戻すことが出来たのです」

 言葉に力がこもる。ジェレミアとは赤の他人のはずの暁にも、その気持ちが伝わってくるほど。

「貴殿は本物の騎士なんだな」

 暁はジェレミアが立ち聞きしていたとは思わない。死んだと思っていた大事な相手と思わぬ再会を果たした者同士、感じるところがあったのだろう。

「ありがとう、いい話を聞かせてもらった」

 飲み終えたティーカップをソーサーの上に置いた。

「そうだな、私も私のなすべきことをしよう」

 

 

 

 

 町がバレンタインの準備に入っている中、2区、9区、18区、ほぼ同時にピエロたちの襲撃が始まった、女子供容赦なく。

 

 一報とともに、伊東班、黒磐、田中丸班、クインクスたちは各区に出動、暴れ回るピエロたちと交戦を開始。

 

 

 次々と他の区にもピエロの襲撃が起こり、まさしく無差別テロ。

 

 

 1区の本局では対処に追われる。

「おやおや、ずいぶんな状況じゃないか、責任を取ると言ったな、宇井特等……いや、次に会うときは準特等か?」

 政は隣に立つ宇井に嫌味。

 旧多の立てた作戦を実行することに政は不快感を示し、宇井が自分が責任を取ることを条件に実行させた。

 普段から宇井と政は犬猿の仲。

 立ち去る宇井、嫌味に付き合う義理もない。

(どのみち降格は免れないさ……)

 旧多を支持したことではない、平子たちのことも隠している。ハイルがハイセ、カネキ側に着いた。なら上司として、責任を取らざる得ない。

 そんな中でも、宇井には旧多が正しいとの確信があった。

「鈴屋くん、本局を頼みます」

「いってらっしゃいです」

 ジューゾーにここを任せ、宇井は出撃する。

 

 

「あるかも解らん本局の襲撃を待つ……間に、支部が潰されるぞ、ここは俺に任せるといい」

 そう政に言われたジューゾーは無視。

 ムカッと来たところ、本局にピエロが攻め込んで来たとの知らせが入る。

 旧多の予想が当たっていたことに政の行動が遅れる。

「区内の捜査官は、第一種戦闘配置」

 そんな政に代わり、旧多は指示を出す。

 戸惑いを見せる捜査官たちに、

「急げ!」

 との恫喝、その声の響きは政に父親の声を思い起こさせた。

「鈴屋特等、S3班は正面防衛をお願いします」

 S3班とは有馬が率いていた部隊、それをジューゾー任せると。

「戦闘準備」

 ジューゾーの後ろに集まる鈴屋班。

「いきましょう、ライ」

 こんな混乱の中、落ち着いて本を読んでいたライ、

「はいよ」

 動揺も焦りもなし、しおりを挟んで本を閉じる。

 

 取り残された感の政は旧多に言われ、S2班を率い、背面の防衛へ。

 旧多に指図され、いい気分ではない。だからと言って今はそんなことを拘っている場合ではない。

「背面を防衛する!」

 S2班とともに政は出撃。

 

「ここからだ、CCGは僕が守る(笑)」

 旧多はほくそ笑む。

 

 

「とても厄介です」

 法寺は《赤舌》を振るい戦闘中。ピエロが強いから厄介なのではない、町で暴れ回っているピエロ集団はル島戦に比べれば大した相手ではない。

 数もさることながら、白昼堂々、襲撃を仕掛けてきたので、戦闘と一般市民の避難を同時に行わなくてはならない。

 決して市民に犠牲者を出してはダメだ。

「ライがいないのは辛いな……」

 今回も法寺の部隊副隊長として参加した暁は《フエグチ》で戦う。法寺の頼みでライは鈴屋班ともに本局の守り着いている。居ない人を頼っても仕方がないこと。

 背後からこっそりと、暁を攻撃しようとしたピエロが切り捨てられた。

「縁あって助太刀しよう」

 金色マスクを被ったジェレミアが参戦。

 マスク=喰種、そんな印象のある捜査官たち。それにしては赫子を使ってはおらず。

 次に不思議に思ったのはクインケでもないのに、手にしたサーベルで喰種を切っていること。

 これはジェレミアと面識のある暁も疑問に感じた。

 ジェレミアの剣はただの剣ではない、刀身に超高周波振動を起こす剣。これなら特殊装甲も切り裂く、喰種の固い皮膚もものではない。

 マスクを被っていても喰種でもない、敵ではないことは法寺たちも解った。

 今は手練れの助太刀は1人でもありがたい。

「今のうちに市民の避難を」

 一般市民の避難を法寺は急がせる。

 

 

「早く来てくれ、援護ッ」

 支局長は、必死に祈る。22区ではピエロの襲撃に手が回らず、このままではここは潰される。

 支部の窓から下を見ていると、やってくる白スーツの一団が見えた。マスクを被っている、援護に来たのは捜査官では無かった。

「終わっただ」

 もう22区支部は落ちたと、支局長が諦めかけたとき、白スーツの一団がピエロを攻撃をし始めたではないか、それも赫子を使って。

 白スーツの一団の行動に、戸惑いを見せていた捜査官に襲い掛かるピエロを、颯爽と現れた平子が切る。

 続いて裏切り者のはずの0番隊が参戦、ピエロを駆逐していく。

「死にゃせ」

 猫のマスクを被った女性は、クインケを使い、どんどんとピエロをぶった切り。

 彼女の着ている服装は0番隊と同じ。

 普段使っていたクインケを使っていないのも猫マスクを着けているのも素性がバレ、元上司に迷惑をかけないため。

 一団の中にはアヤト、ナキと部下の承正(しょうせい)、ホオグロたち、ミザ、月山、ニシキ、ブラックドーベルもいる。

 現れたのは集団は【黒山羊】と名乗る。

 

 眼帯のマスクのカネキ、複雑でいて正確高速な赫子でピエロを駆逐していく。

 それを見た捜査官たちに【隻眼の王】の存在と力を見せ付けた。

 

 

 【隻眼の王】ハイセと0番隊出現の報告は本局にも届く。

「やはり“喰種”は彼が率いたんですね」

 旧多にとって都合のいい展開。

「それが……」

 直接報告を受けた捜査官が戸惑いながら、

「現場のピエロと同士討ちを始めたと」

 と報告。

 考える旧多。ピエロの襲撃を合わせ、CCGを援護して、ピエロとは違うグループであることをアピールする計画。

(解りやすっ)

 【隻眼の王】が現れたのが22区と解っている以上、確実に『V』は向かう。

 攻撃されたなら、反撃せざる得ない。『V』には『本局特別捜査官』という表向きの看板あるのだから、『本局特別捜査官』を攻撃したなら、CCGの敵、ピエロの仲間と認識させるのは旧多には簡単なこと。

(精々、僕のために踊ってくださいね、ふふふふふ)

 

 

 各区の撃破状況、鎮圧の終わった班は別の区への援護に向かい、宇井特等たちも他区の応援に向かっていた。

 

 

 恐ろしいほどの数のピエロマスクの集団が、本局に通じる橋を渡って押し寄せてくる。

 道化師のマスクが悪魔の軍勢にも見えてしまう。

 その数に圧倒され、捜査官は怯え、神に祈るものまで。

 22区は『V』に任せることにした旧多。

「鈴屋特等! 橋を突破されたら、本局まで潜入されます。橋は必ず、死守して下さい」

 リーダーっぽく指示を出す。

(そうそう、全員、殺して下ちゃい)

 事は旧多の思惑通りに進んでいた。

 

 

「“死守”?」

 《13’sジェイソン》を手に取り、全員殺しに向かおうとしたジューゾーをライは、

「鈴屋特等、ちょっと、待って」

 《夜桜》で制す。

「どうしたんですか? ライ」

 早くピエロを制圧しなければ、こちらが制圧されるというのに。

 じぃーとピエロの集団を見ていたライ。途端、アスファルトを蹴り上げ、一気にピエロの集団に向かう。

「えっ、何、一番槍を取りたかったの?」

 それでジューゾーを制したかと、ミズローは思った。

「ライさんに限って、そんなことは」

 ライと面識のある阿原が否定。

 と話しているうちに、投げ飛ばされたピエロがジューゾーたちの前に降ってきた。

 有無を言わせず、《13’sジェイソン》で首を跳ねていく。

 ジューゾーに続き、阿原たち鈴屋班も、降ってきたピエロの駆逐を始める。

 ふと、ジューゾーがライを見ると、投げ飛ばすピエロとマスクを割るだけのピエロに別れている。

 マスクを割られたピエロの素顔は口を縫われ、涙を流しているではないか。

 ジューゾーも気が付く。

 

 

(あらら、思ったより早く感づいちゃったみたいですね、聡明だとは聞いていましたが……)

 モニターで旧多は状況を見ている。

(僕の邪魔のリストにライも入れちゃいましょう、メモメモ)

 こっそりと邪魔者リストにライの名前をメモる。

 遅かれ早かれ、邪魔者は始末するつもり。

 

 

「人ですか……、ライ、よく気が付きましたね」

「他のピエロと動きが、若干違ったからね」

 ジューゾーとライは戦いながらも会話。

 喰種を阿原たちの方へ投げ飛ばし、人間のマスクを割る。

 ジューゾーもナイフ形のクインケ、《サソリ1/56》で人間のマスクを割った。

「恩に切ります、僕にも何となく、解るようになりました」

 双方は離れて、戦闘を続行。

 

 

 そんな中、六月はピエロの顔を切り裂き、赫子を飛ばして、ピエロの眉間に突き立てる。

 喰種を叩き切る晋三平、力任せに戦っているので息は洗い。

「安浦くん」

 名前を呼ぶ。

「もっと、斬り込んで、良い感じだよ」

「はいっ……」

 六月に褒められ、嬉しそう。

 

 

「半井」

 鈴屋班の女性メンバーの(なからい けいじん)を呼ぶ。

「ピエロの中に人が混ざっています、このことを皆に伝えてください」

 辺りにはライとジューゾーにマスクを割られた、口を縫われた人たちがいる。

「解りました」

 走り出そうとした半井に向かってきた赫子を《13’sジェイソン》で弾く。

「やぁ、オークションぶり、糸の切れた人形くん」

 上から声がする。

「遊ぼうよ」

 街灯の上にノーフェイスが立っていた。

「あいつのことは任せてください、半井は早く」

 後ろ髪を弾かれる思いを振りほどく、早くしないと仲間がどんどん人を殺してしまう。

 ここは班長のジューゾーを信じる。

「たっぷり遊んであげますよ、そのお顔を描いて差し上げましょう」

 《13’sジェイソン》を構えるジューゾー。

 

 

「ピエロの中に人が混じっている。戦闘意思のないピエロに対しては攻撃は加えるな!」

 半井は大声で叫ぶ。

 人に何らかの方法で脅迫し、戦闘に参加させて兵士の水増しをした上、手にかけた相手に強烈な罪の意識を与える。

「コレ考えた奴、最低じゃねぇか」

 つい半井は吐き捨ててしまう。

 

 

 街灯から飛び降りてきたノーフェイスは、ゆっくり近づいて来る。

 手を突き出したところへ、《サソリ1/56》で喉を突き刺す。

 情け無用《13’sジェイソン》で全身の至る所を切り裂く。

「抵抗は無しですか」

 全く抵抗する素振りを見せないノーフェイスは、血を滴らせながらよろける。

「なんで、こんなことを……」

 顔を上げる。

「什造」

 ぴたりとジューゾーの動きが止まる。

「篠原……さん」

 顔を上げたノーフェイスの顔は篠原特等の顔。

 父親の様に思い、慕っていた篠原特等の顔が迫ってくる。病院から姿を消してから、まだ見つかってはいない。

 《13’sジェイソン》を持つ手から力が抜ける。

「おいおい」

 頬に手を触れ、

「あんまり無茶をするな」

 耳元で囁く。

「篠原さん」

 その胸に顔を埋めた。篠原の顔をしたノーフェイスの背中からは何本もの赫子が迫り出し、ジューゾーを狙う。

「伏せろ、什造」

 背後から聞こえてきた、懐かしい声に自然と体が動く。

 ジューゾーが伏せると同時に、ノーフェイスの体を赤い光線が貫く。

 いつの間にかキリンのマスクを被った大柄な人物が手に《大砲》のような武器を持って立っていた。

 クインクスの報告にあったキリンマスクの出現。

 有馬特等の《ナルカミ》や田中丸特等のハイアーマインド(高次精神次元)もしくは天使の羽ばたき(エンジェルビート)に似た攻撃だが、明らかにクインケとは異なる武器。

 《大砲》は小型のハドロン砲。ハドロン(陽子や中性子などの複合粒子の総称、百種類以上ある)を加速させて放つ、強力な熱量攻撃。

 起き上がったノーフェイスは後ろへ飛んで距離を取った。マスクが変わっている。

「什造、行くぞ」

「はい」

 《13’sジェイソン》で切りかかる。今度は当たらない、さっきはわざと攻撃に当たっていたのだろう。

 隙をついてキリンマスクが《大砲》で殴りつけた。それを避ければジューゾーが切りかかる。

 反撃してきた赫子を《大砲》で防御、無防備になったところを狙い《サソリ1/56》を突き立てる。それを腕で受け止めると《大砲》で殴る。

 完璧なほどに息の合ったコンビネーション。

 そこへ阿原、半井、ミズローの鈴屋班と六月と晋三平が駆けつけてきた。

 一同の顔ぶれを見たノーフェイスは橋を飛び降り逃亡、その後を追う六月も橋を飛び降りる。

「深追いは禁物ですよ」

 ジューゾーは注意する。

 注意されても六月を心配した晋三平も続く。

 突然現れたキリンマスク、何者かと半井は事情聴取しようとしたら、六月たちは反対側に飛び降りた。

 慌てて追跡しようとした半井に、

「キリンさんは追わなくてもいいですよ、あの人は喰種でも敵でもありません、とっても大きなヒーローです」

 そう言ったジューゾーはいつになく、嬉しそう。

 クインクスの報告書にも、金色マスクとキリンマスクは喰種の可能性は低いと書いてあった。

 ふと、阿原が辺りを見回す。

「あら、ライさんの姿が見えませんね」

 言われてみれば、いつの間にかライの姿は消えていた。ライのこと、逃げたとは思えないが?

 

 

 

 背面の防衛に回っていた政率いるS2班は、ニコ率いるピエロと遭遇し、交戦。

 

「えっ」

 背後から振り下ろされた刀が政の頭を切る。

 普通、死んでもおかしくないのに、刃を掴んで相手を投げ飛ばし、奪い取った刀で相手の顔を断つ。

 周囲を見渡せば、いるのはCCGと『V』とピエロ。

「そういうことか」

 すぐに状況を把握。

「―Scheisse」

 CCGと『V』とピエロを容赦なく、切り捨て回る。

 恋は盲目、恋した男は強い。その相手がウリエ(おとこ)でも。

 戦っているうち、何故か服が破れてゆく。

 ザッザッ、近づいて来る足音。

「来たか」

 振り向く。

「旧多の差し金だな、芥子」

 『V』を指揮している芥子がいる。

 本来、『V』は和修家のために活動しているはず。

「和修の血が邪魔でな」

 ニチャ、咀嚼音が鳴る。

「死ね、政」

 和修家に従っていたはずの『V』が政に牙を剥く。

「ナメるな」

 ついにズボンも弾け飛び、全裸に!

「修羅場なら、斬り抜けるまでだ」

 

 

「おぞましいもん、見ちまったな」

 ル島で殉死したはずの丸手は双眼鏡を下げる。

「……にしても、こんな事なら、アイツが跡を継いだ方が、まだマシだったのかもな……」

 

 

 各区を襲撃していたピエロの鎮圧には成功した。ただ一般市民にも多大な犠牲者を出し、あまつさえピエロに紛れ込んでいた人間の犠牲。

 今のところ、隠蔽をしているが、いつまでも隠し通せることてはない。

 いつかは知れ渡る、そうなれば捜査官たちの士気にも関わり、今後、喰種と戦いにくくなってしまうだろう。

 このままではCCGは潰されるかもしれない。

 

 

 また突如現れ、ピエロと一戦を交えた【黒山羊】を名乗る喰種たちは、一部の捜査官の脳裏に刻み込まれた。

 一人歩きをしていた【隻眼の王】の姿が、朧げに輪郭を表す。

 

 

「――襲撃されていた全区域において、ピエロの集団が鎮圧されたのを確認しました」

 戦いは終わった。

「旧多一等」

 捜査官たちは、今まで指揮を執っていた旧多を見る。

「皆さんのおかげです、ありがとう……ございました」

 手すりに凭れて伏せる、ガタガタ、旧多は震えていた。見たものに彼も怖かったのだ、それを押して、しっかりと指揮を取ってくれていたと思わせる姿。

 そんな姿を見た捜査官たちは一斉に拍手を送る。よくやったぞ、旧多! との声も上がる。

 捜査官たちに、大いなる支持を得た旧多一等。

 “整っていた、旧多二福が望むものが手にする、準備が整っていた”。

 伏せていた旧多の顔は、満面の笑みに歪む。

 

 

 人間には条件反射、自己防衛本能がある。

 唐突に背後から、強力な殺意が襲い掛かってきた。

 これに旧多の自己防衛本能と条件反射が働き、襲い掛かってきた相手を赫子で切り捨てた。

 拍手と絶賛の声が止まり、代わりに困惑が広がっていく。

「旧多が赫子を使った」

「まさか、旧多一等は……」

 称賛の声が動揺に変わる。

 床に転がる、赫子で真っ二つにされた赤いリンゴ、ごく普通のどこでも売っているリンゴ。

 引き攣った笑顔のまま、旧多はリンゴが飛んで来た方向を睨んた、その右目は赫眼。

「喰種だったですか、旧多一等」

 そこに立っていたのはライ。リンゴを投げたのは彼、強力な殺意を込めて。

「喰種なのに、よく和修の血を名乗れたね、偽物? それとも和修の姓も名乗れない、父親も父親と呼ばせてもらえない、和修の家の出来損ないかな?」

 笑顔で挑発。

 地雷を踏まれた、ブチッ、旧多は切れる。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 赫子を唸らせ、ライに突撃をかます。

 ポイと、ライの投げ付けた筒からRc細胞抑制ガスが噴き出す。

「!」

 ガスを吸った旧多は蹲って嘔吐。

 つい先ほどまで信頼の頂点に立っていた旧多は、赫子を使い、喰種に効果のあるRc細胞抑制ガスが効いた。

 状況に付いていけない捜査官たちに、

「喰種が潜入している、早く警報を!」

 ライの一喝で我に返った捜査官の1人が警報を鳴らす。

 本局全土に鳴り響いた警報、内にも外にも。

 起き上がるなり、旧多はライを赫子攻撃。もとからRc細胞抑制ガスでふらついているので当たらない。

 ここに捜査官が集まってくるのは時間の問題、

「覚えていろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 二撃目を出す余裕はない、全力疾走で逃げ出す。

 抜け目のない旧多、いざというときの逃走ルートは把握していた。

 

 

 誰も旧多を追わない、まだ完全に困惑から抜け切れていないし、ライを除けば、ここにいる捜査官たちは戦闘向きではない。また旧多の赫子は、見るからに強力、1人で追うのは危険すぎる。

 ライは落ちていたリンゴを拾うと、

「これを鑑識へ、和修家襲撃の赫子痕と一致すれば、犯人はあいつだ」

 捜査官の1人に渡す。

 ここに至って、捜査官たちは旧多に騙されていたことに気が付いた。そして、旧多の嘘を見破ったライ。

 見た目の美しさも伴い、捜査官たちは尊敬の眼差しで見ていた。

 

 

 




 ハイルに猫のマスクを被せたのは、これが一番似合うとおもったから。
 原作ではカネキくんが怪獣になってしまいました……。
 【竜】の正体が何だろうと、いろいろ考えていたのですが、こう来るとは。

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