東京喰種:re 皇と王   作:マチカネ

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 武臣と依子の結婚式。原作でも幸せになってほしいです。


第17章 赤、青、黄色の

 和修一族の抹殺に続き、ピエロ戦の最中、和修政特等が行方不明になり、和修の血族引く旧多二福は裏切り者として特別指名手配になった。

 こうしてCCGは局長不在の状態に。

 

 旧多の化けの皮を剥がしたところを、直接、見た捜査官の中にはライを次の局長にと推す声もあったが、本人が二等捜査官であることと、未成年であることを理由に遠慮。

 そのライの提案で新局長が決まるまで、特等全員が代行をするという案が採用された。

 言うならば旧多の育てた株を奪い取り、それをあっさりと特等たちに譲り渡した形。

 ただ特等たちの前で、ボソッと、

「名前に吉が付くのは嫌だ、吉ライやライ吉なんて……」

 と洩らす。

 

 

 政が消息不明なので、S2班は側近だったウリエが任されることになり、それに伴い階級も上等捜査官へ。

 

 本日の特等会議にはライが呼ばれた。ライの階級も一等捜査官に昇進した。

 まだ安浦清子は入院中、ジューゾーは私用で欠席。

 リンゴの赫子痕と和修家に残されていた赫子痕の1つが、完全に一致。このことから和修家襲撃の犯人の1人が旧多であることは確定したことになる。

 

「ライくん、君は旧多のことを気が付いていたのかな」

 黒磐に問われ、

「初めは何となくですけど、法寺特等に資料を見せられた時に確信しました」

 法寺はライに特等会議の内容を話したことと、旧多のまとめた資料を見せたことを、他の特等に話した。

 違法な行為でも、結果、旧多の正体を見破ったので不問になる。

 ピエロの集団の本局襲撃は旧多とのマッチポンプ。それなら旧多の予想が的中するのも当然。

 ここまで読んだライ。

 何故、その時に言わなかったとは追及しない。言ったところで、何の確証もないし、信じてもらえなかった可能性は高い。

 ライの話し方に感じるとこがあり、鈴屋班に参加させた法寺の判断が吉と出た。

「よく気が付きましたね」

 自虐的なニュアンスが宇井には含まれていた。宇井は資料を評価し、旧多を押してしまった。

「あんなタイプの奴を見たことがあるので」

 あんなタイプの奴は見たことがある。分家であるために、直系の血縁者に対する怨嗟、同時に自らの血に対する劣等感を併せ持つ。

 劣等感を持っているから、そこを突かれると切れる。

「何はともあれ、旧多の正体が見破られたことは良かったこと。あのままなら、奴にCCGは乗っ取られていたからな。グッジョブ、ライボーイ」

 怒ってはいないのに田村丸の鼻息は荒い。

「問題は、今後ですね」

 法寺の表情は良くない。

「あの旧多、このまま引き下がらないでしょう。同じ手で来てくれれば、手の打ちようがあるのですが……」

 特等の誰もが、それはないと解っている。あの狡猾な旧多、一度、しくじった手を再び使うことはしない。

「ならば、どんな手で来ても対処できるよう、気を引き締め、準備を怠らないでおくべきだな」

 最もな黒磐の意見。CCGは一丸となり、準備をしておくことになる。

 

 

 特等会議後、宇井は喫煙スペースで煙草を吹かしていた。

「横、いいか」

 隣に富良が座り、煙草を取り出し、吸い始める。

「正直、私はライくんのことが恐ろしいと思ってしまいました」

 自分には見抜けなかった旧多の本性を、あっさりと見抜いていた。

「お前は政への対抗心が目を曇らせただけだ。それにCCGで旧多を信頼していたのはお前だけでない、また怪しんでいたのはライだけじゃない」

 宇井以外にも信頼していた捜査官は結構いたし、政や側近のウリエなど、旧多を怪しいと思っていた捜査官は、それなりにいた。

「それでも、私に落ち度があったのは事実です」

 今のCCGにその責任を問うものはいない、宇井自身で責任を感じている。

「なぁ、煙草も酒も飲めねぇガキが、どこであんな能力を身に着けたんだろうな」

 フゥーと煙を天井に向かって吐く。

 ライと同じ年頃、富良は仲間とともに不良を気取り、好き勝手やっていた。

「順風満帆ではなかったでしょうね……」

 宇井は裕福な家で生まれ育った。ライの雰囲気からして、いい所の生まれの可能性は高いが、恵まれた家庭でないのは察しが付く。

 溜まった灰を宇井は灰皿に落とす。

 

 

「黒磐くん、何、その写真」

 武臣に六月は声を掛けた。

「依子の友達を探していてな、20区の梟戦で行方不明になったらしい。写真が嫌いで、残っているのがこれだけなんだ」

 写真を覗くと、依子と1人の少女が写っていた。

「もうすぐ式を挙げる。もし彼女を見つけることが出来れば、依子のために呼んであげたい」

 真面目でまっすぐな武臣、その思いもまっすぐ。

「写真、借りてもいい?」

 六月の思いは違う。

 

 

 

 

 特等会議を休んだジューゾーが、訪れたのは上野動物園。『20区の梟討伐戦』の前にも、ここへ来た、とても大切な思い出の場所。

「篠原さん、退院したんですか」

 キリンの檻の前にいる大柄な男に声を掛けた。

「迷惑かけたな」

 篠原幸紀は、あの時と変わらない顔でジューゾーを見た。偽物とは比べ物にならない温かな優しさ。

「退院というよりかは、脱走だがな」

 ジューゾーの頭を撫ぜる。

 嬉しそうなジューゾー。

 

「病院から脱走して、今まで何していたんです」

「ちょっと、改造手術を受けていた」

 2人はキリンの檻の前で腰を下ろす。

「すごいです、仮面ライダーさんになったのですか」

「はは、どちらかといえばサイボーグだな」

 他者が聞けば中二病炸裂の会話でも、ジューゾーはホラ話だとは思ってはいない。

「この体は、私自身が望んでなったものなんだ。あのまま、病院のベットの上で寝ていれば、旧多がお前を傀儡にするために、利用してたからな。それを防ぐ手立ては2つしかなかった。安らかな眠りか、この体になって、再び立ち上がるか。私は迷うことなく、こちらを選択してたよ」

 篠原が人質に取られたらジューゾーは何でもやった、どんなこともやる。そして鈴屋班もそれに従うだろう。

「やっぱり、篠原さんはかっこいいヒーローさんです」

 

 

 

 

「あっ」

 このところ臨時休業の続いていた喫茶店『:re』、今日は空いているかなと、ライが来てみたら、破壊されていた。

 壊れた入り口を通って店内へ、あっちこっちめちゃくちゃになっている。

「戦闘の跡……」

 一目で戦闘があったことが解る、それも赫子を使った。赫子痕の1つには見覚えがある。

(この跡は……)

 「お姉さん、そんなところで何をしているの?」

 いきなり外から、声を掛けられた。

「僕は男だよ」

 喫茶店『:re』の外へ出る。

「男の人なんだ、あんまりに奇麗なので、女の人かとかと思ったよ」

 そこに居たのは自転車に乗った、黒いニット帽の少年。

「この喫茶店の常連でね、とにかく美味しんだよ、ここのコーヒー。いつもモンブランと一緒に楽しんでた」

 自転車から降り、黒いニット帽の少年はライに顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐ。

「わぁ~、いい匂い」

 ゆっくり顔を離す。

「これは失礼。どうやら喰種じゃ無かったみたいだ」

 ニッと整えられた歯で笑顔を見せて、自転車に跨る。

「そこの喫茶店、喰種の隠れ家だったんだよ。喰われなくて、ほんと、運が良かった、お姉―じゃなかった、お兄さん」

 ペダルを漕いで去って行く。

「喰種の店……ね」

 

 

 

 

 武臣と依子の結婚式。

 赤、青、黄色の紙吹雪の舞う中、ライたちCCGの捜査官は、正装姿で祝福。

 ウリエ、六月、才子、シャオ、髯丸は来ているのに、晋三平の姿は見えない。

 ボーイミーツガールと大声を出している田中丸、ワインを飲む美郷、暁にアルコール類を飲まさないように注意している法寺。

 だらしなく正装を着崩しているジューゾーは、パーティー料理を楽しむ。

 父親の黒磐巌と母親は感極まって泣く。

 幸福の真っただ中にいる武臣と依子。

 後ろを向いた依子はブーケを投げた。

 空を舞うブーケ。これを取った者は、次に花嫁になれると言われている。

 パシッ、ブーケを取ったのは……、なんと、ライ。

「「「「「「「何で、お前が取るんだ!!」」」」」」」

 一斉に入る捜査官たちの突っ込み。

「ライなら、いいお嫁さんになれます」

 囃し立てるジューゾー、天然なのかからかっているのかは不明。

「ごめん、つい」

 慌てて、ライはブーケを投げた。

 今度、受け取ったのは暁。

 少々、ぎこちないが一同は、暁に拍手を送る。

 暁自身も複雑な顔。

 

 

「依子ちゃん、綺麗だったね」

「うん」

 結婚式場を一望できる高台の上に、カネキとトーカは並んで立っていた。

「ありがとう、連れてきてくれて」

 本心を言えば親友、依子の結婚式には参加して、祝福をしたかった。でも、それは悲しいけど、叶わない望み。

「局員の式場の定番、何か所に絞れるから、元捜査官で良かった」

 トーカが喜べはカネキも嬉しい、2人はそんな関係。

「カネキ」

 トーカは指輪の付いたネックレスを渡す。

 指輪にはアラタ、ヒカリと彫り込まれている。

「父さんと母さんの、これを握っていると2人のことを思い出せ目から、いつも力を貰っていた」

 つまりは形見の品。

「宝物だから、あなたにあげる」

「えっ、いいの」

 首に付けてみる。

「じゃ僕は、これを見て、トーカちゃんのことを思い出すね」

 

 

 

 

「来てくけたのね、ライくん」

 結婚式の翌日、清子の病室にライは訪れた。

「結婚式の動画を見たいかなと思って」

 武臣と依子の結婚式を録画したスマホを渡す。

「ありがとう」

 本当に見たかったので早速、再生。

「あらあら、武臣くん、幸せそう。この子が依子さんね、きっといいお嫁さんになる、私が保証する。まぁ、黒磐くんも泣いちゃって……」

 我が事のように喜ぶ。

「歩ければ私も行きたかったんだけどね」

 カネキとの戦いで、清子は両足を失ってしまった。

「あれでいて、佐々木准特等は優しいから」

 晋三平が聞いたら、ブチ切れしそうな台詞を、おくびもなく言う。

「解るのね、ライくんには」

 『コクリア』での戦いの時、殺そうと思えば十分に殺せた。清子、田中丸双方とも。なのに殺さなかった。

「三ちゃんも、そのことが解ってくれたらね」

 晋三平は結婚式には行かず、ここへ来ていた。今の彼に祝うことなど考えられない。

「憎しみに囚われていちゃ、碌なことにならないのに……」

 憎しみで人を殺めても、憎しみしか残らない。連鎖はいつまでも続く。

『これまでCCGは偽りを述べ、民衆を騙していた!』

 付けっぱなしにしていたテレビから、聞き覚えのある声が響く。

 ライ、清子が見た画面には、行方不明になっていた旧多が映っていた。

 

 

『何故、これまでCCGが喰種を全滅させず、野放しにしていたのか、多くの犠牲者が出ているにもかかわらず。それはCCGと喰種とグルだったからだ! それを告発しようとした僕はCCGに消されかけ、命からがら逃げ出して来たのです』

 マイク片手にパフォーマンス。

 本来なら荒唐無稽な話だが、『王のビレイク』のヒットが後押し。

『喰種に人が喰われようとCCGは黙認し、稀に羽目を外した喰種だけを狩る』

 今度は大きく、手を広げて演説。オーバーリアクションすることで、民衆の関心をひかせる。

『僕は喰種を野放しにしない! 全ての喰種を根絶やしにし、“間違いなき世界”を目指します』

 旧多が拳を振り上げると、それを合図に黒い服を着た少年たちが喰種の首を持って現れた。

『ごらんあれ! 彼らの名は《オッガイ》、CCGに代わる新しい対喰種組織、皆さんに平和を約束する組織です』

 いいぞ旧多! CCGを許すな! もっと喰種を殺してなど集まった群衆から声が上がると、それに釣られるように、どんどんと声が上がっり、周囲を包む。

 

 

「やられたわね、まさか、こんな手で来るなんてね」

 リモコンで清子はテレビを消す。

「サクラを使って民衆を扇動する、独裁者の常套手段だな」

 ライの分析。群衆にサクラを紛れ込ませ扇動、民衆を思い通りの思想へと誘導する。独裁者の他にもカルト教団も使う。

 さらにテレビというメディアを使うことにより、たちまち日本全国へと広がらせる。

「ライくん、これから、どうするつもり?」

「売られた喧嘩、CCG買わないの?」

「勿論、買うでしょうね」

 不敵に微笑む清子。

「こうなったら、私も早く地行博士に鉄の足を付けてもらわなくちゃ」

 

 

 




 原作ではブーケを受け取ったのは美郷さんでしたが、ライくんが受け取るシーンが浮かび上がったので。

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