和修一族の抹殺に続き、ピエロ戦の最中、和修政特等が行方不明になり、和修の血族引く旧多二福は裏切り者として特別指名手配になった。
こうしてCCGは局長不在の状態に。
旧多の化けの皮を剥がしたところを、直接、見た捜査官の中にはライを次の局長にと推す声もあったが、本人が二等捜査官であることと、未成年であることを理由に遠慮。
そのライの提案で新局長が決まるまで、特等全員が代行をするという案が採用された。
言うならば旧多の育てた株を奪い取り、それをあっさりと特等たちに譲り渡した形。
ただ特等たちの前で、ボソッと、
「名前に吉が付くのは嫌だ、吉ライやライ吉なんて……」
と洩らす。
政が消息不明なので、S2班は側近だったウリエが任されることになり、それに伴い階級も上等捜査官へ。
本日の特等会議にはライが呼ばれた。ライの階級も一等捜査官に昇進した。
まだ安浦清子は入院中、ジューゾーは私用で欠席。
リンゴの赫子痕と和修家に残されていた赫子痕の1つが、完全に一致。このことから和修家襲撃の犯人の1人が旧多であることは確定したことになる。
「ライくん、君は旧多のことを気が付いていたのかな」
黒磐に問われ、
「初めは何となくですけど、法寺特等に資料を見せられた時に確信しました」
法寺はライに特等会議の内容を話したことと、旧多のまとめた資料を見せたことを、他の特等に話した。
違法な行為でも、結果、旧多の正体を見破ったので不問になる。
ピエロの集団の本局襲撃は旧多とのマッチポンプ。それなら旧多の予想が的中するのも当然。
ここまで読んだライ。
何故、その時に言わなかったとは追及しない。言ったところで、何の確証もないし、信じてもらえなかった可能性は高い。
ライの話し方に感じるとこがあり、鈴屋班に参加させた法寺の判断が吉と出た。
「よく気が付きましたね」
自虐的なニュアンスが宇井には含まれていた。宇井は資料を評価し、旧多を押してしまった。
「あんなタイプの奴を見たことがあるので」
あんなタイプの奴は見たことがある。分家であるために、直系の血縁者に対する怨嗟、同時に自らの血に対する劣等感を併せ持つ。
劣等感を持っているから、そこを突かれると切れる。
「何はともあれ、旧多の正体が見破られたことは良かったこと。あのままなら、奴にCCGは乗っ取られていたからな。グッジョブ、ライボーイ」
怒ってはいないのに田村丸の鼻息は荒い。
「問題は、今後ですね」
法寺の表情は良くない。
「あの旧多、このまま引き下がらないでしょう。同じ手で来てくれれば、手の打ちようがあるのですが……」
特等の誰もが、それはないと解っている。あの狡猾な旧多、一度、しくじった手を再び使うことはしない。
「ならば、どんな手で来ても対処できるよう、気を引き締め、準備を怠らないでおくべきだな」
最もな黒磐の意見。CCGは一丸となり、準備をしておくことになる。
特等会議後、宇井は喫煙スペースで煙草を吹かしていた。
「横、いいか」
隣に富良が座り、煙草を取り出し、吸い始める。
「正直、私はライくんのことが恐ろしいと思ってしまいました」
自分には見抜けなかった旧多の本性を、あっさりと見抜いていた。
「お前は政への対抗心が目を曇らせただけだ。それにCCGで旧多を信頼していたのはお前だけでない、また怪しんでいたのはライだけじゃない」
宇井以外にも信頼していた捜査官は結構いたし、政や側近のウリエなど、旧多を怪しいと思っていた捜査官は、それなりにいた。
「それでも、私に落ち度があったのは事実です」
今のCCGにその責任を問うものはいない、宇井自身で責任を感じている。
「なぁ、煙草も酒も飲めねぇガキが、どこであんな能力を身に着けたんだろうな」
フゥーと煙を天井に向かって吐く。
ライと同じ年頃、富良は仲間とともに不良を気取り、好き勝手やっていた。
「順風満帆ではなかったでしょうね……」
宇井は裕福な家で生まれ育った。ライの雰囲気からして、いい所の生まれの可能性は高いが、恵まれた家庭でないのは察しが付く。
溜まった灰を宇井は灰皿に落とす。
「黒磐くん、何、その写真」
武臣に六月は声を掛けた。
「依子の友達を探していてな、20区の梟戦で行方不明になったらしい。写真が嫌いで、残っているのがこれだけなんだ」
写真を覗くと、依子と1人の少女が写っていた。
「もうすぐ式を挙げる。もし彼女を見つけることが出来れば、依子のために呼んであげたい」
真面目でまっすぐな武臣、その思いもまっすぐ。
「写真、借りてもいい?」
六月の思いは違う。
特等会議を休んだジューゾーが、訪れたのは上野動物園。『20区の梟討伐戦』の前にも、ここへ来た、とても大切な思い出の場所。
「篠原さん、退院したんですか」
キリンの檻の前にいる大柄な男に声を掛けた。
「迷惑かけたな」
篠原幸紀は、あの時と変わらない顔でジューゾーを見た。偽物とは比べ物にならない温かな優しさ。
「退院というよりかは、脱走だがな」
ジューゾーの頭を撫ぜる。
嬉しそうなジューゾー。
「病院から脱走して、今まで何していたんです」
「ちょっと、改造手術を受けていた」
2人はキリンの檻の前で腰を下ろす。
「すごいです、仮面ライダーさんになったのですか」
「はは、どちらかといえばサイボーグだな」
他者が聞けば中二病炸裂の会話でも、ジューゾーはホラ話だとは思ってはいない。
「この体は、私自身が望んでなったものなんだ。あのまま、病院のベットの上で寝ていれば、旧多がお前を傀儡にするために、利用してたからな。それを防ぐ手立ては2つしかなかった。安らかな眠りか、この体になって、再び立ち上がるか。私は迷うことなく、こちらを選択してたよ」
篠原が人質に取られたらジューゾーは何でもやった、どんなこともやる。そして鈴屋班もそれに従うだろう。
「やっぱり、篠原さんはかっこいいヒーローさんです」
「あっ」
このところ臨時休業の続いていた喫茶店『:re』、今日は空いているかなと、ライが来てみたら、破壊されていた。
壊れた入り口を通って店内へ、あっちこっちめちゃくちゃになっている。
「戦闘の跡……」
一目で戦闘があったことが解る、それも赫子を使った。赫子痕の1つには見覚えがある。
(この跡は……)
「お姉さん、そんなところで何をしているの?」
いきなり外から、声を掛けられた。
「僕は男だよ」
喫茶店『:re』の外へ出る。
「男の人なんだ、あんまりに奇麗なので、女の人かとかと思ったよ」
そこに居たのは自転車に乗った、黒いニット帽の少年。
「この喫茶店の常連でね、とにかく美味しんだよ、ここのコーヒー。いつもモンブランと一緒に楽しんでた」
自転車から降り、黒いニット帽の少年はライに顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぐ。
「わぁ~、いい匂い」
ゆっくり顔を離す。
「これは失礼。どうやら喰種じゃ無かったみたいだ」
ニッと整えられた歯で笑顔を見せて、自転車に跨る。
「そこの喫茶店、喰種の隠れ家だったんだよ。喰われなくて、ほんと、運が良かった、お姉―じゃなかった、お兄さん」
ペダルを漕いで去って行く。
「喰種の店……ね」
武臣と依子の結婚式。
赤、青、黄色の紙吹雪の舞う中、ライたちCCGの捜査官は、正装姿で祝福。
ウリエ、六月、才子、シャオ、髯丸は来ているのに、晋三平の姿は見えない。
ボーイミーツガールと大声を出している田中丸、ワインを飲む美郷、暁にアルコール類を飲まさないように注意している法寺。
だらしなく正装を着崩しているジューゾーは、パーティー料理を楽しむ。
父親の黒磐巌と母親は感極まって泣く。
幸福の真っただ中にいる武臣と依子。
後ろを向いた依子はブーケを投げた。
空を舞うブーケ。これを取った者は、次に花嫁になれると言われている。
パシッ、ブーケを取ったのは……、なんと、ライ。
「「「「「「「何で、お前が取るんだ!!」」」」」」」
一斉に入る捜査官たちの突っ込み。
「ライなら、いいお嫁さんになれます」
囃し立てるジューゾー、天然なのかからかっているのかは不明。
「ごめん、つい」
慌てて、ライはブーケを投げた。
今度、受け取ったのは暁。
少々、ぎこちないが一同は、暁に拍手を送る。
暁自身も複雑な顔。
「依子ちゃん、綺麗だったね」
「うん」
結婚式場を一望できる高台の上に、カネキとトーカは並んで立っていた。
「ありがとう、連れてきてくれて」
本心を言えば親友、依子の結婚式には参加して、祝福をしたかった。でも、それは悲しいけど、叶わない望み。
「局員の式場の定番、何か所に絞れるから、元捜査官で良かった」
トーカが喜べはカネキも嬉しい、2人はそんな関係。
「カネキ」
トーカは指輪の付いたネックレスを渡す。
指輪にはアラタ、ヒカリと彫り込まれている。
「父さんと母さんの、これを握っていると2人のことを思い出せ目から、いつも力を貰っていた」
つまりは形見の品。
「宝物だから、あなたにあげる」
「えっ、いいの」
首に付けてみる。
「じゃ僕は、これを見て、トーカちゃんのことを思い出すね」
「来てくけたのね、ライくん」
結婚式の翌日、清子の病室にライは訪れた。
「結婚式の動画を見たいかなと思って」
武臣と依子の結婚式を録画したスマホを渡す。
「ありがとう」
本当に見たかったので早速、再生。
「あらあら、武臣くん、幸せそう。この子が依子さんね、きっといいお嫁さんになる、私が保証する。まぁ、黒磐くんも泣いちゃって……」
我が事のように喜ぶ。
「歩ければ私も行きたかったんだけどね」
カネキとの戦いで、清子は両足を失ってしまった。
「あれでいて、佐々木准特等は優しいから」
晋三平が聞いたら、ブチ切れしそうな台詞を、おくびもなく言う。
「解るのね、ライくんには」
『コクリア』での戦いの時、殺そうと思えば十分に殺せた。清子、田中丸双方とも。なのに殺さなかった。
「三ちゃんも、そのことが解ってくれたらね」
晋三平は結婚式には行かず、ここへ来ていた。今の彼に祝うことなど考えられない。
「憎しみに囚われていちゃ、碌なことにならないのに……」
憎しみで人を殺めても、憎しみしか残らない。連鎖はいつまでも続く。
『これまでCCGは偽りを述べ、民衆を騙していた!』
付けっぱなしにしていたテレビから、聞き覚えのある声が響く。
ライ、清子が見た画面には、行方不明になっていた旧多が映っていた。
『何故、これまでCCGが喰種を全滅させず、野放しにしていたのか、多くの犠牲者が出ているにもかかわらず。それはCCGと喰種とグルだったからだ! それを告発しようとした僕はCCGに消されかけ、命からがら逃げ出して来たのです』
マイク片手にパフォーマンス。
本来なら荒唐無稽な話だが、『王のビレイク』のヒットが後押し。
『喰種に人が喰われようとCCGは黙認し、稀に羽目を外した喰種だけを狩る』
今度は大きく、手を広げて演説。オーバーリアクションすることで、民衆の関心をひかせる。
『僕は喰種を野放しにしない! 全ての喰種を根絶やしにし、“間違いなき世界”を目指します』
旧多が拳を振り上げると、それを合図に黒い服を着た少年たちが喰種の首を持って現れた。
『ごらんあれ! 彼らの名は《オッガイ》、CCGに代わる新しい対喰種組織、皆さんに平和を約束する組織です』
いいぞ旧多! CCGを許すな! もっと喰種を殺してなど集まった群衆から声が上がると、それに釣られるように、どんどんと声が上がっり、周囲を包む。
「やられたわね、まさか、こんな手で来るなんてね」
リモコンで清子はテレビを消す。
「サクラを使って民衆を扇動する、独裁者の常套手段だな」
ライの分析。群衆にサクラを紛れ込ませ扇動、民衆を思い通りの思想へと誘導する。独裁者の他にもカルト教団も使う。
さらにテレビというメディアを使うことにより、たちまち日本全国へと広がらせる。
「ライくん、これから、どうするつもり?」
「売られた喧嘩、CCG買わないの?」
「勿論、買うでしょうね」
不敵に微笑む清子。
「こうなったら、私も早く地行博士に鉄の足を付けてもらわなくちゃ」
原作ではブーケを受け取ったのは美郷さんでしたが、ライくんが受け取るシーンが浮かび上がったので。