東京喰種:re 皇と王   作:マチカネ

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 ライくんと清子のプチなデート? それを見てしまう晋三平。


第2章 テスト

「すいませんでした」

 清子は頭を下げた。

「レディ清子の責任だけではない、パートナーである私にも責任がある」

 田中丸も頭を下げる。

 椅子に腰を下ろし、机の向こうから、清子と田中丸を見ている男、和修吉時(わしゅう よしとき)、CCG本局局長。

 一般市民にクインケを渡し、喰種と戦わせた。これはCCGの喰種対策法に違反する行為で、下手をすれば捜査官の職を失う可能性も。

「その少年は、即戦力になるのか?」

 怒るでもなく、まず吉時はその事を聞いてきた。

「はい」

 自信をもって清子は即答。あの運動能力、何より、特等捜査官の“勘”がそれを告げていた。

「ライボーイのオーラは、常人の物ではない」

 田中丸はお寺の生まれで、霊感が高い。

「……そうか」

 ライの調書を手に取る。

 桜間ライ、バイトで生計を立てている、1人暮らし。高校2年生の17歳の少年。日本とアメリカのハーフで国籍は日本。

「未成年を捜査官に入れるのは心苦しいが、喰種が増えてきている、昨今、即戦力が欲しいのも本音だ。安浦くん、彼のことは君に任せよう」

 と結論を出す。

 前例が無いわけではない、CCG最強の捜査官、有馬も高校生のときから、現役で活躍していた。

「はい、解りました」

 再び清子は頭を下げる。

「後、喰種対策法に違反の件は、3ヶ月の減俸とする」

 ちゃんと処分を下す。

 

 

 個室でライは待たされていた。一応、いくつかの尋問もあったが、問題なくこなす。

 出されていたお茶とお茶菓子をいただく、遠慮はしない。

 ドアが開き、

「ごめん、待たせたわね」

 清子が入ってきた。

「いえ、CCGからの尋問なんて、滅多にない経験が出来ましたから」

 にっこりと微笑む。その笑顔の破壊力、歴戦の特等捜査官、清子もドキッとしてしまうほどの威力。

 少し頭を振って、清子は気を取り直した。

 この個室に入るためには、Rc検査ゲートを通過しなくては入れない。

 喰種は高いRc因子を持っている。普通の人間のRc因子数値は200から500、これが喰種になると1000から8000となる。

 Rc検査ゲートは高いRc因子に反応するように出来ているため、喰種なら、一発でバレる。

 Rc検査ゲートを通り抜けたということは、ライが喰種でないという証。

 また喰種は人肉とコーヒー以外は口にはできない。無理に口にすると、とても不味く感じ、体調を崩してしまう。

 お茶とお茶菓子を食べていることからも、クリアしていると言える。

「迷惑かけたわね。お詫びと言ったら何だけど、今日の夕食は、私が驕るわ」

 もうすぐ夕食の時間、お茶菓子だけでは空腹は満たされず。

「それはありがとうございます」

 また破壊力満点の笑顔を放つ。

 

 

 

 

 入ったレストランは高級な方。

 ライも清子も、店に合わせて正装してきている。

 ライの正装は、貸衣装屋で借りて来てたもので、とても似合っている。まるでどこかの皇子様と言っても通じるなと清子は思った。

 

 軽く5桁の値段のする料理の数々。普通の学生では、到底立ち寄れない場所。

「食べながらでいいから、聞いてちょうだい」

 店の雰囲気に慌てるわけでもなく、何故か、この手のお店のマナーをライは心得ていた。

「本題から入るわ、CCGはあなたをスカウトをしたいと考えているの。でも私たち捜査官の仕事は、とても危険な物よ、命の保証は出来ない。だから、よく考えて返事をしてちょうだいね」

 個室でライは大まかな話は聞かされている。喰種と戦う危険な仕事、優秀な捜査官は多ければ多いほどいい。

「直接、清子さんみたいな人から頼まれたら、NOと言いづらくなってしまいますね。それでも、少し考えさせてください」

 この時、ライは天然だと、清子は気が付く。

(あの顔で、無自覚と言うのが凶悪だわ)

 

 

 ライと清子が店を出た時間は、そこそこ遅い時間。

「あら、ライくん、あなた、ネクタイ曲がっているわよ」

 何の気はなしに、ネクタイを直してあげる。

 偶然の大悪戯、このタイミングで上背のある青年が、ひょこりと通りかかる。

 傍から見れば、そんなシチュエーションに見えてしまう、ライと清子の姿。

 カッと上背のある青年の頭に血が上る。

「おばさんに何をしている!」

 問答無用、ライに殴りかかる。

 叩き付けられた拳を片手で払う。それだけで上背のある青年の体は宙を舞い、アスファルトの上に叩き付けられた。

「三ちゃん!」

 慌てて清子は駆け寄った。

 ライに投げ飛ばされたのは安浦清子の甥の安浦晋三平(あうら しんさんぺい)。

 

 

「ごめん」

 清子から事情を聞かされた晋三平は、ぺこりと頭を下げた。前髪で目が隠れているので、表情は良く見えないが、申し訳なさそうにしているのは解る。

「気にしないでください、僕の方もぶん投げてしまったから」

 ここでライが謝れば、さらに晋三平に悪い思いを重ねさせるので、頭は下げない。

 一方、清子は感心していた。CCGの捜査官になるべく晋三平は、養成所の一つ、アカデミージュニアで特訓を受けている。

 その晋三平をいとも簡単に投げ飛ばした。

 間違いなく、ライは即戦力になる実力がある。ただ、まだ高校生の少年が、それだけの実力をどこで身に付けたのか?

 

 

 

 

 古びたマンションに帰ってきたライ。正装は返却、今、着ているのは、元々着ていた私服。部屋の鍵を開けようとしたら、出かけに掛けたはずの鍵が開いている。そこで何があったのか理解したライ。

 部屋に入ってみると、案の定いた。

「ライ、遅かったな」

 冷凍ピザをチンして、食べながらTVを見ているC.C.(シーツー)が。

 見た目はC.C.は少女、実年齢は不明。

「何か用かな?」

「用が無ければ来たら、ダメなのか」

 悪びれる様子すらなし。

「お前も私が来ることを見通して、冷凍ピザを用意していたんだろ」

 その通り、C.C.は来る時には来る、宅配を頼まれるよりはまし。鍵を掛けていても、自分たちには鍵は大した意味はない。

「また戦うつもりか?」

 ピザを食べながらも、急に心配そうに聞いてくる。

「今度の相手は人喰いだそうだ。“それだけ”じゃないけどね」

 ちゃぶ台の横に座る。

 どこへ行っても戦場が、ライを招く。

「“あいつ”も心配していたぞ、必要なら“あいつ”も使え」

 “あいつ”をまるで自らの所有物のような言い方。

 C.C.に言われなくても、戦友である“あいつ”は協力してくれる。

「私は、お前以外と“長い”付き合いをするつもりはないからな、無茶だけはするな」

「解っているよ、C.C.」

 

 

 

 

 本来、CCGの捜査官は養成所のアカデミーで特訓を、約2年間受けてからなる。アカデミーの生徒は喰種の犠牲になった遺族の子供が多い。

 『CCGの死神』有馬貴将はアカデミーに入ることなく、捜査官になっている。

 

 特等捜査官の清子と田中丸の推薦。和修吉時本局局長の許可もあり、ライは捜査官になることとなった。

 前例があるとはいえ、アカデミーを経ずに捜査官、それも未成年がなることを疑問を感じるものも少なくない。

 そこで、テストとしてライは、現役の捜査官1人と摸擬戦をするこことなり、相手に選ばれたのはウリエ。

 

 

(特等2人に選ばれたからなんだ、本物の捜査官の実力を教えてやる)

 トレーニングルームで構えを取ったウリエは、ぶつぶつ呟いている。

 それに対して構えも取らず、一見、ライは隙だらけ。

 周りにはハイセを始めとするクインクスのメンバーが集まっいる。今日はぽっちゃりとした女の子、米林才子も来ていて、少し眠そう。

 他にも、何人もの捜査官が来て、ライのテストを見分。その中にハイセの指導者(メンター)を受けていたクール系の美女、真戸暁(まど あきら)の姿もあり。

 

 隙だらけのライにウリエが仕掛けた。腰の入った右の正拳突き。

(入ったか)

 ウリエのみならず、これで試合終了だと誰もが思った。ハイセと暁以外は。

 刹那、ウリエの体は回転して、床に倒され、右腕の関節を決められてしまう。

 外そうともがけばもがくほど、関節ごとに激痛が走る。クインクスの力が強い分、痛みも激しい。

「くそっ」

 右肩から、鎌のような形状の赫子を出す。

 喰種でもない、まだ正式な捜査官でもない相手に対し、切り札を使う。

 この行為には、仲間のクインクスも驚く。

 ただし、ハイセは前もって、赫子の使用を容認していた。CCGの捜査官が戦う相手は、当たり前に赫子を使うのだから。

 もっともウリエは赫子を使うまでもないと、豪語していたが。

 

 まるで赫子の攻撃を読んでいたかのごとく、その攻撃も躱し、瞬時に関節技を変化させ、さらに右腕を捩じりあげた。あと、少し力を加えれば折れてしまうだろう。

 流石にウリエも思わず声を上げる。

「そこまで」

 ハイセが摸擬戦終了を告げた。

 テストの結果は誰の目にも明らか。最近、失態続きとはいえ、ウリエは現役の二等捜査官、それもクインクス施術を受けた、常人よりも運動能力の高いクインクスなのだ。

 右腕を抑え、悔しそうにライを見ているウリエ。だが実力は認めざるえない。

 

 テスト結果に、誰もが唖然としている中、ライに近づくものがいた。これにはハイセも驚いてしまう。

「有馬さん!」

 いつの間にか、有馬貴将が来ていたのだ。

「有馬だ」

「特等が、何故、ここに?」

 捜査官たちは、口々に驚きの言葉を漏らす。

 そう言えば有馬が、ライに一度、会ってみたいと言っていたのをハイセは思い出す。

(有馬さん、本当に会いに来たんだ……)

 

 有馬はライの前に来ると、表情一つ変えず、無言で見つめる。

 ライも見つめ返す。こちらは優しく微笑みを浮かべながら。

 誰も声を出せなくなる。ライと有馬の見つめ合い、睨み合いを見ていた。時間が長いのか短いのか解らなくなるほどの雰囲気に周囲は包まれていく。

 ウリエの腕の痛みも才子の眠気も吹っ飛ぶ。

「なるほど、面白い」

 ボソッと呟く。

「こんにちは、僕は桜間ライです」

「俺は有馬貴将」

 笑顔のまま、ライは挨拶。無表情で有馬も挨拶。

 一気に場の空気が抜け、へたれ込むものも。

 一礼して、有馬の横を通り抜けていくとき、

「あなたの望みを叶えるのは僕の役目ではありません」

 ライは彼にだけ、聞こえるように囁く。

 有馬もライにだけ聞こえるように、返答。

「そうだな」

 

 

 

 




 なんかウリエが噛ませ犬みたいになってしまいました。
 次回はライくんの初任務の予定です。

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