「あーあー、本当に更地にしちまいやがった」
丸手の見るモニターに映し出された19区。何もかも消え失せてクレーターになっている。
捜査官たちも喰種たちも、モニターを見つめる。特に19区を守っていた捜査官、なわばりにしていた喰種たちには辛い光景。
「これをどう説明すりゃいいんだ? 正直に核爆弾を落としましたって、言うわけにもいかねぇだろうし」
丸手だけでなく、CCG全捜査官の頭の痛い悩み。
「一層のこと、“竜”が自爆したってことにしてみたらどうッス」
馬淵の提案。それも悪くないアイデアかも。
不幸中の幸いなのは避難が早かったことで、『V』以外に犠牲者は出なかったこと、負傷者も無し。
「放射線量も自然放射線量しかありません」
貴未の報告。本当にF.L.E.I.J.A.は爆発、熱反応、放射能の出していなかった。
「19区に露出していた“竜”卵管も消滅、“当面”の間は毒を持つ“落とし児”は産み落とされることは無いでしょうが……」
「“当面”の間ね」
貴未の言葉のニュアンスに気が付く丸手。
「ええ、地下には本体が残っています。このまま放置していれば、いずれは地上に卵管が出てくるでしょう」
そうなれば、再び毒を持つ“落とし児”が生まれ落とされ続ける。
「どのみち、地下の大空洞に行かなくてはならないということか……」
行く気満々のカネキ、元々、そのつもり。
「でもF.L.E.I.J.A.で『V』は消えちゃったんだから、簡単にすむんじゃない」
楽天的なハイル。
「あれぐらいで旧多が死んだと思うのか? そんな程度の奴なら、ここまで苦労はしない」
おかんモードの宇井。相も変わらずのおかんモードと脳筋モードのベア。
「旧多も生きているし、『V』も全滅したわけじゃないだろうね」
ライも、そう分析。
「これで『V』がF.L.E.I.J.A.を恐れてくれればいいんですけど……」
ジューゾーの希望的観測、一罰百戒になってくれればいいのに。
「そんな程度の奴じゃないだろうな」
篠原がきっぱりと否定。
「次に旧多が何を考えるのがは察しが付く」
すでに旧多の行動が読めている様子のライ。
「何はともあれ、旧多たちの戦力が大きくダウンしたことは間違いない」
英良の言う通り、今敵の戦力は大きく落ちている。
「今が攻め時ってことだな」
丸手の決断は早かった。
19区に集まるCCGと【黒山羊】。
「生きていたんですか、しっこいですね」
やれやれと言った感じで話す、宇井の視線の先には『V』を率いる芥子。ただ『V』の数は少ない、代わりに“落とし児”で数を補っていた。
「良くもやってくれたな、おかげでこんな手段を取らざる得なくなってしまったではないか」
ニチャと咀嚼音を立て、手を上げ合図を出すと、わらわらとピエロマスクの集団が現れる。
捜査官たちに動揺が走る。果ってCCG本部が【ピエロ】に襲撃された際、人間の口を縫って喋らなくして数を水増ししていた。
あの時は、いち早くライが気が付いたおかげで難を逃れたが、今回、ライの姿は無い、何故か、この任務に不参加。
あの中にも人間が混じっているのかもしれない、そう思うと捜査官たちに狼狽えがでる。
ニチャっと芥子が微笑む。
「ノンノン、騙されてはダメですよ、あの中に人間はいない、喰種の臭いしかしません」
誰にでも聞こえるような大声で言う月山、隣で寄り添う松前。喰種の五感は人間よりも優れている。
「コーリさん、僕もそう思います、あの時とは動きが違います」
喰種の動きと、無理やり参加させられている人間との動きには差異がある。それが今回は無いとジューゾーが指摘。
月山、ジューゾーの指摘が正しいのは、悔しそうに歪んだ芥子の表情が証明していた。
「あの中に人間は混じっていない、気にすることなく殲滅しろ!」
宇井の号令、捜査官たちは躊躇を追い出し、戦闘に突入。
『V』は強い、喰種に死神と恐れられた有馬の部下で十分にサポートをこなしていた0番隊。その0番隊を成熟させたのが『V』、1人1人が一騎当千の猛者。
だがF.L.E.I.J.A.で大部分を失い、“落とし児”と【ピエロ】で補っている。
“落とし児”と【ピエロ】は数は多いが、『V』ほどの戦力は持ち合わせていない。
それに対して宇井、ハイル、クインクス、篠原、ジューゾー、鈴屋班、黒磐、法寺、田中丸、平子、伊東班、月山、ニシキ、万丈など戦力はばっちり。
恐ろしいのは『V』だけで、他は烏合の衆、戦力は捜査官側が勝っているかに思えた。
空から、巨大な何かが落ちてきた。
土煙を巻き上げ、飛来してきた相手を捜査官たちは戦慄を持って見つめる。
「フクロウ……か」
宇井の顔色が変わる。
CCG最恐の敵と言われていた【隻眼の梟】、『20区の梟討伐戦』で多くの殉職者を生み出し、数多くの捜査官のトラウマを与えた強敵。
“頭”の形こそ違うが、姿は【隻眼の梟】に酷似していた。
弾丸のごとく、フクロウ? から放たれる赫子。一撃目の攻撃で絶命、戦闘不能、負傷する捜査官、その数は少なくなし。
凄まじい攻撃力、【隻眼の梟】と相違なし。
「“黒帽子”はこちらが引き受ける、お前は“梟”をやれ」
『V』と交戦中ながらも、平子が叫ぶ。
「簡単に言ってくれるじゃないですか」
《タルヒ》を構える。
「怖がりなんですよ、私はッ!」
“怖がりなんですよ”と言いながら、
「体勢を立て直す、各員欠員時、マニュアルに従い5人編成を組め! 上位官は率先して誘導を頼む。急げ!」
正確な指示を回す。
「サポートしちゃいます」
《アウズ》を展開するハイル。
後方支援に回る田村丸。
「赫者なら変態前の本体がある、そこを狙うんだ!」
ウリエと、
「“首”です、佐々木捜査官の報告書で弱点は割れている」
六月たちクインクスもフクロウ戦に参戦。
《タルヒ》と《アウズ》の連携攻撃。ピッタリと息が合っているので、強烈な攻撃となる。
フクロウの動きが止まった。そこへジューゾーが《13’sジェイソン》を振り下ろし、首を切り落とす。
ゴトンと首が落ち、一瞬、決まったかに思えた。
しかしフクロウは倒れない、切り落とされた場所には、女性の上半身。頭のあるべき部分には大きな十字架が刺さっていた、これが本体。
攻撃態勢に入るフクロウ、その殺傷力は絶大。逃げる間などない、下位捜査官では防御しても防ぎきれない。
多くの捜査官が死ぬ。条件反射で目を閉じる下位捜査官たち、何回も肉を貫く音が響く。
痛くも苦しくもない、死んでいない、何ともない。恐る恐る目を開けた下位捜査官たちは見た、背中にいくつもの羽赫が刺さったフクロウの姿を。
「助かりましたリンタじゃなかった、リオ」
「ジューゾーさん、僕も一緒に戦います!」
建物の屋上から飛び降りてきたリオ。フクロウに馬乗りになり、今度は甲赫の刃で切り刻む。
【JAIL】と恐れられたSSSレートのリオの参戦、捜査官たちには複雑な思いを抱かせるが、強力な助っ人には違いない、結果的に士気を高めることなった。
「わしらも負けてはいられないな」
「ああ」
篠原と黒磐も《オニヤマダ》と《クロイワSpecial》を展開させ、梟に向かう。
「リオくん、どいてください!」
法寺に言われ、急いで飛びのく。
リオが飛びのくと同時に、《レーヴァテイン》が炎を噴き出す。
(ここは私たちが引き受けます、そっちは任せましたよ、ライくん)
「我は海の子白浪の さわぐいそべの松原に 煙たなびくとまやこそ 我がなつかしき住家なれ」
砂浜に座り、小狐丸を肩に立てかけたライが歌っていた。
「19区を吹っ飛ばすなんて、とんでもないことをやってくれましたね。どれだけの犠牲が出たことでしょう、罪悪感が沸き上がってきませんか」
長巻きを片手に旧多がやってくる。
「犠牲になったのはあんたたちの仲間だけだよ。あいつは敵以外が避難する時間を計算して、F.L.E.I.J.A.を炸裂させたんだ」
一度、自分の戦略で無関係者を巻き込むという失敗をやらかし、大事な人の家族を奪ってしまった経験から、そのことには抜かりはない。
「そうですか、アレはF.L.E.I.J.A.というんですね」
ニマ~と笑う。
「やはり、あの兵器に一番近かったのはあなたでしたか。あれは“外”から持ち込んだ物なんでしょう?」
旧多はライが“外”から来たことは、薄々感づいていた、ライも感づかれていることは承知、だから、この砂浜で出迎える。
「欲しいの?」
「欲しいですね」
F.L.E.I.J.A.に魅せられた。F.L.E.I.J.A.の破壊力、もたらされる恐怖、畏怖。喉から手が出るほど欲しい、地下より、こちらへ来るほどに。
「気違いに刃物って言葉を知っているかい」
小狐丸片手に立ち上がるライ、砂を片手で払う。
「そうですか、それなら――仕方ありませんね!」
鞘を投げ捨て、いきなり斬りかかってくる。
切ったと思った刹那、ライの姿が消えた。
「えっ?」
目前に現れたライが放った掌打が顔面にヒット。
「ゲボッ」
鼻血を撒き散らして倒れた旧多、足を振って反動で立ち上がる。
「あなたは“外”ではかなりの地位にあるんでしょう。ならばあなたを人質にしたら、どうなるかな?」
見る見る間に鼻は治る。長巻で斬りかかる旧多、ひょいと躱すライ。
「牙突なんちゃって」
片手一本突きを出す。
向かってくる平刺突の刃を小狐丸の石突で弾き、片手で襟を掴み、投げ飛ばす。
砂浜に叩きつけられる旧多。
「よくもやってくれましたね、こうなったら奥の手を使ちゃいますから、覚悟してください。究極絶大超旧多スペシャル奥義~」
パッと起き上がり、
「三十六計逃げるに如かず」
と逃げ出す。
砂浜に座ったライ、ポケットからブラックサンダーを取り出して食べる。
「いで大船に乗出して 我は拾わん海の富 いで軍艦に乗組みて 我は護らん海の国」
のんびりと浜辺で歌っていると、
「なんで追いかけいてこないんですか!」
走って旧多が戻ってきた。
「だって罠でしょう」
立ち上がり、腰のベルトに小狐丸を差す。
「そうやって人の心の内を読み取ってしまう、いとも簡単に!」
今までへらへらしていた旧多の表情が歪み、腰から伸びる百足のような形の赫子がライを襲う。
だが当たらない、外された赫子が砂を巻き上げる。
飛び散る砂の中から、斬りかかってきた長巻の刃を指先で掴んで止め、捻ってバランスを崩させ、投げ飛ばす。
今度は砂浜に叩きつけられることなく、体勢を立て直し着地。
「中々、強いですね!」
赫子攻撃、容易く躱すが、いきなり向きを変え背後から攻撃。
しかし、この攻撃も読んでた。
「言っておきますが、僕も意外と強いんですよ」
死角からの一撃、長巻がライの首を狙う。
まるで最初から全ての攻撃が見えているのかと、疑いたくなるように身を屈めて攻撃を躱し、そのまま旧多の懐に飛び込む。
胸に両手で掌打を打ち込む、正し同時に打ち込むのではなく、少し時間差を付けて打ち込む。
「がはっ」
その場に崩れ落ちる旧多。
爆崩、ただの掌打ではなく、衝撃を透過させて体内に叩きこみ、内部から痛めつける。この時、時間差を付けて打ち込むことにより、体内において衝撃を衝突させ、体内全体にダメージを拡散させる技。
追撃せず、旧多から離れるライ。
「あなたの能力の秘密、解ちゃいました」
倒れたまま、旧多は笑う。
「爆崩の直撃を食らって、平気だなんて。普通なら絶命してもおかしくないのにね」
と口では言いながら、少しも驚いてはおらず、最初から予想済みな感じ。
「瞬間状況判断能力」
旧多は立ち上がる。
瞬間状況判断能力、一目見ただけで、空間の状況、情報を認識、最も的確な行動を導き出す。
「これに加えて、読心術に先読み、正しく化け物です!」
挑発。
「だから?」
挑発には乗らない。
「【ピエロ】による本部襲撃といい、CCG乗っ取り計画といい、19区といい、あなたは僕の計画を、ことごとく粉砕にしました!」
連続で斬りつける、的確に急所を狙った斬撃、一回でもヒットすれば致命傷。
全ての攻撃を見切ってヒットさせない。
「ライ、あなたは鳥籠の中の異物だ! イレギュラーだ!」
複数の目玉文様のある赫子で攻撃を食らわせようとする。
ふわりと風に舞う羽毛の様に宙を舞い、赫子の上に飛び乗ってやり過ごす。
その仕草、どことなく優雅。
「あなたから漂う優雅さ、気品、風格、正しく“皇”。どんなに僕が望んでも欲しても手に入らなかったのを、あなたは生まれながらに持っている!」
赫子を変形させ、ライの顔面を狙うが、それよりも早く跳躍、旧多の眼前に着地。
ズムッ、ライの拳が丹田の中心を打つ。
ふらりふらりと、よろけて後方へ下がる。
「透かし……か、これじゃ、固い皮膚も意味をなさないじゃないですか、喰種じゃなかったら、何度も死んでいますよ。本当にやっててよかった嘉納式」
ペッと血を吐き捨てて、口元を拭う。
冷たい目で見つめているライ。
「僕が劣勢だと思っているんですかァ、マジウケルコウテイカッカ」
ひゃははははははと声を立てて笑う。
「お前の持っているモノを、全部全部全部全部全部全部全部全部全部ぜんぶ~、僕にィィィィ寄越せええええ!」
人外の姿、赫者化する旧多。
腰に差した小狐丸をライは抜き放つ。
絶え間なく赫子が襲い掛かってくる。避けれるものは避けるが、避けれない赫子は小狐丸を使う。
大きさと衝撃、普通の人間には受け止めきれるものではないので、支点を逸らさせることにより、軌道を変える。
上空から貫き押しつぶそうと、放たれた巨大な赫子。
でかい分、躱しやすい。ところが躱したライを目玉模様の赫子が包み込み、磨り潰そうとする。
斬! 目玉模様の赫子を切り刻み脱出。
そこを旧多が狙って突撃をかます。
ライは真っすぐ小狐丸を構える、切っ先を旧多に向けて。
「げえっ」
旧多自ら、小狐丸に飛び込む形となる。
このままでは串刺しになる。咄嗟に赫子で砂を掬って目潰し。
身を翻して砂を防ぐ、その間に旧多は体勢の立て直し。
小狐丸を鞘に納め、体に付いた砂を掃う。
明らかに誘いではあったが、舐め切った態度にカチンときて、
「もらいましたぁッ!」
誘いに乗る、そこには自身の有馬も認めた実力と強化された身体の自信がが内包されていた。
赫子の槍がライを貫いたかに見えた。
勝ったと、思わず旧多は微笑む。
槍は貫いてなどいなかった、すり抜けただけ。
「!」
最速かつ最小の動きで攻撃を躱すことにより、攻撃が体をすり抜けたかのような錯覚を起こさせ、相手によっては亡霊のように見えてしまう。
間合いに飛び込み、ライは居合を放つ。一回ではない、抜刀と納刀を繰り返すことで連続の居合を放つ。六連抜刀術、六文閃。
小狐丸を鞘に納め、爆崩を胸に続き、頚窩と腹に打ち込む、爆崩四門、ダメージは爆崩の二倍になる。
これまでに蓄積されたダメージ、六文閃と爆崩四門のコンボ、限界を超えた。
倒れる旧多。垣間見えのは、自分の子供を抱いているリゼとともに暮らしている平和な日常。
「かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ 出・や・る」
仰向けに倒れ、旧多は歌を口ずさむ。
「こんな事なら、予定通りに地下へ行っとけばよかった。“皇”がこんなに強いなんて、予定外。どうしてそこまで強くなれたんです?」
もう指一本、動かす力も残ってはいない。
「皇族に生まれるということがどういうことか解るかい? 兄弟親類が、みんながライバルだということ、命を狙い合う」
『どんなに僕が望んでも欲しても手に入らなかったのを、あなたは生まれながらに持っている』自分自身の言ったセリフを思い起こす旧多。
「飯を食う時も注意をしなくちゃならない、周囲のものも誰が敵で味方か見極めなくてはならない。そうしなければ生き残れなかった」
ライの驚異的な読心術。身に着けようとして付いたのではなく、生き残るために自然に身に付いた能力。
「僕の母親は日本でも長い歴史のある由緒正しい家出身。父は成り上がりの軍事国家の二代目、それ故に劣等感の塊。だからこそ、母親を側室として迎え入れた、歴史と由緒が欲しくてね。母親の家の方も、当時、権力の座から追われ、日陰もの。だからこそ、軍事国家の後ろ盾が欲しかった」
つまるところ政略結婚、母親の意思などは無視。
「短期間で軍事国家として成り上がれた理由は民族主義を敷いたからさ。我が国の民はエリート中のエリート、世界を統べるべき選ばれた民だと。こうやって国民の意思を一つにまとめあげた。そんな国に由緒正しい家とはいえ、異国のものが嫁いだらどんな扱いを受けるか解るかい?」
解る、十分すぎるほど、旧多も分家の家に生まれた。旧多だけではない、分家に生まれたものが和修家でどんな目で見られ、どんな扱いを受けてきたことか。
「僕自身のことならばいくらでも我慢が出来た。でも母さんと妹か泣くのだけは我慢が出来なかった。だから僕は強くなった、ありとあらゆる強さを身に着け、“魔王”とさえ契約を結んだ」
ただ単に力を身に着けただけではない、古今東西の歴史戦記軍略戦略、ありとあらゆる知識も身に着けた。
「次期時期皇位継承権を巡り争わせて2人の兄を共倒れにし、13歳で初めてこの手で、直接、人を殺した、相手は父。いかにこの手が血で穢されようと、玉座さえ手に入れれば母さんも妹も泣かなくて済むようになる、そう思っていた……」
「でも、そうならなかった……。周辺諸国が攻めてきたんですね」
その通り。軍事国家として成り上がった国、脅威とともに周辺諸国の関係は良くない。
そんな国の皇位に13歳の子供が着いたのだ。これはチャンスと周辺諸国が攻め込んで来た。
「僕は戦った、常に前戦で戦って戦って、全ての敵を殲滅したとき、みんな死んでいた、敵も味方も、最も守りたかった母さんも妹も。僕だけが生き残った、自ら命を絶つこと考えたが、“魔王”との契約で死ぬことさえも許されない」
生きることを許されなかった旧多、死ぬことを許されないライ。どちらが過酷か。
「アハッハハハハッ、僕が勝てないわけだ、ハッハハハハハハハハハハハハ」
旧多は笑い出す。
「どん底でのた打ち回り、他人をどん底を引きずり込んでいた僕と、どん底から這い上がったあなたではレベルが違うんですね」
ライを見れば解る、どん底から這い上がってきたことぐらい。
絶望を乗り越えただけあり、なるほど強いわけである。
「僕一人の力では這い上がったわけじゃない。多くの仲間、“友”がいたから、僕は這い上がれたんだ。旧多、君にもそんな人はいなかったのかい?」
旧多の脳裏に1人の女性の顔が思い浮かぶ。
「僕は普通に生きたかった。ライ、あなたはどうなんですか、あなたも普通に生きたかったのでしょうか、母親と妹と一緒に」
ライの口が動き、旧多の“最後”の質問に答える。
旧多はカネキではなく、ライと戦わせました。
ブラックサンダー、あれ好きなんです。でも、どうしてブラックサンダーって名前なんだろう?