東京喰種:re 皇と王   作:マチカネ

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 ライくんの初任務。
 誤字の指摘をしてくれた方、ありがとうございました。


第3章 初任務

「本日より、三等捜査官になりました桜間ライです。これから、よろしくお願いします」

 会議室で初任務を共にするクインクスに挨拶。

 アカデミーを卒業していないので、ライは三等捜査官になった。上司に任命されたのは、上等捜査官の真戸暁。

 暁はライの教育も兼ねる。

 ちなみにアカデミーを卒業したものは、普通は二等捜査官から始まる。

「噂以上の美形じゃ~」

 初顔合わせの米林才子。ハイセたちから、話は聞いてはいたが、話以上の美形、テンションが上がる。

 そんな才子を気にすることなく、ぺこりとお辞儀をし、クインクスの向かいの席に座る。

「今回のクインクスの任務、そしてライの初任務のターゲットはこいつだ」

 ホワイトボードにマグネットで止められた似顔絵を見た、クインクスの面々の目が点になる。

 普段、喰種は正体を隠すため、色々なマスクをして狩りを行う。

 似顔絵の被っていてるマスクはひょっとこ。あのユーモラスな顔のひょつとこ。

「アキラさん、冗談じゃないんですよね」

 恐る恐るハイセが聞く。

「冗談を言っているのではない、こいつは本当にひょっとこのマスクを被っている。通称もそのまま【ひょっとこ】だ」

 暁の顔は冗談を言っている顔てはない。ただ普段から、暁は真顔で冗談をいうが……。

「なんでひょっとこのお面なんか被ってんだ?」

 シラズの意見はもっともな疑問、人を喰う喰種にしては締まりのないマスク。

「そんなの大した問題じゃないだろ、要は喰種を倒せばいい」

 喰種がどんなマスクをしていようが関係ない、それぞれの好みや趣味でマスクを選ぶ。捜査官が気にする必要がないことと、ウリエは判断した。

 すっーとライは手を上げた。

「なんだ、ライ」

 暁から発言の許可を得る。

 露骨にウリエの目は、新人が余計なことを言うなと言っていた。

「もし、そのひょっとこのマスクに意味があるなら、用意した方がいいものがあります」

 

 

 

 

 既に【ひょっとこ】の隠れ家は突き止めている。ハイセを筆頭に、班長のシラズ、六月が慎重に隠れ家であるアパートに近づき、ドアを開けようとした時、よく刑事ドラマであるように、部屋の中で物音がして【ひょっとこ】が窓から飛び降りたのが解った。

 

 これは予想通りの行動、窓側を張っていたウリエ、才子。

 鉢合わせになるウリエ、才子と【ひょっとこ】と言っても、マスクは被っていない。素顔はひょっとこのようなユーモラスな顔でもなく、どこにでもいる普通の顔、ある意味期待外れ。

「《白鳩》め」

 右肩から赫子を出すと、その先からは火が噴き出す。

「スプラッシュ!」

 持っていた消火器から、才子は消火剤を噴出させた。

(ライの予想通りじゃないか)

 ウリエは会議室でのことを思い起こす。

 

 

 

 

 ホワイトボードの前に立ったライは、マジックを手に取ると、

「ひょっとこは火の男と書きます」

 火男と書く。

「法寺特等が中国で倒した赤舌連(チーシャリェン)の首領の焔(イェン)は炎を吹く赫子を持っていたと資料にありました。【ひょっとこ】がひょとこのお面を被っているのが、ただの思い付きやネタではなく、意味があるなら、似たような赫子を持っている可能性があるかもしれません」

(そんな赫子が、そうそうあるわけないだろう)

 この時、ウリエは内心、そう言っていた。

 まるでその心中を呼んでいるかのように、

「こんな稀有な赫子を持っている喰種は少ないでしょうが、かといって用心に越したことはありません」

 と言ったのだ。

「そうだな、対策はしないより、していた方がいい」

 上等捜査官の暁の容認もあり、消火器を持っていくことに。

 

 

 

 

 【ひょっとこ】の赫子から噴き出した火は、資料にあった焔のような強力な炎ではなく、ガスバーナー程度の火。

 消火剤が尽きることには、【ひょっとこ】の火も止まり、赫子が引っ込む。

 顔色も良くない、どうやら【ひょっとこ】の火を噴く赫子は燃費が悪いようで、スタミナ切れを起こしたよう。

 そこへ玄関に回っていたハイセ、六月、シラズが駆けつけてきた。

 意識せずにウリエは舌打ち、これで手柄を独り占め出来ない。

 逃げ出す【ひょっとこ】、スタミナ切れとはいえ、走るぐらいの体力は残っている。

 

 

 

 

 ハイセ、シラズ、ウリエ、六月、才子が、逃げる【ひょっとこ】を追う。

 普段からのぐーたら生活がたたり、才子の息は荒い、横っ腹も痛くなる。それでもついて行っているところは、腐っても捜査官。

 追いつかれたら、始末されるか喰種収容所『コクリア』に送られるので、必死に【ひょっとこ】は逃げていた。

 道の先に銛型のクインケを持ったライが、待ち伏せていた。作戦通り、待ち伏せポイントに追い込むことに成功。

 赫子が使えなくても5人を相手にするより、1人を相手にする方がいい、そう判断した【ひょっとこ】はライに襲い掛かった。

 向かってきた【ひょっとこ】を銛型のクインケの柄で足払いを掛け、倒れかかったところで、襟を掴んで投げ飛ばす。

 

 投げ飛ばされた先はクインクスのど真ん中。

 響き渡る喰種の悲鳴。

 

 

 物陰から、ライの戦いを見ていた暁。

「戦いを見せてもらったが、合格点と言わざる得ないな」

 この初任務は、ライが暁の部下に相応しいかどうか見極めるためのテストでもあった。

 危険を考慮し、クインクスと組ませ、やばい状況になれば暁も飛び出すつもりだったが、その必要はなかった。

「こんなカッコいい美人さんに、認められるのは嬉しいですね」

 清子からライの天然ぶりを聞かされてはいた暁。

(なるほど、いろいろな意味で相当な逸材だな)

 

 

 

 

 初任務の翌日、家庭教師をするために、喫茶店『:re』に訪れたライ。

「新しいバイトをすることになってね。これからは家庭教師の仕事は減るかもしれない」

 授業中、その事を話す。

「どんな?」

 少しやきもち。

 今日もライの前にはモンブランとコーヒー、リオの前にはコーヒーが置かれていた。

 店長のトーカもヨモもいつも通り、平穏な日常。

「CCGの捜査官だよ、バイトの帰りに捜査官にスカウトされてね」

 と言った途端、授業を受けているリオのみならず、トーカ、ヨモの動きも、一瞬、止まる。

 しばしの沈黙の後、

「ライさんも喰種は敵だと思っているの?」

 不安を隠しつつ、聞いてみる。

「ピンキリだろ」

「ピンキリ?」

「悪い喰種もいれば良い喰種もいる。そんなものでしょ」

 それを聞いたリオは、ほんの少しだけ安心を得た。

 珍しい反応。一般市民は喰種は人を喰らう化け物と言うだけで、被害を受けない限り、無関心。そして捜査官は喰種は敵としか見ていない。

「じゃ、あんたが任務中に良い喰種に出会ったちら、どうする?」

 ライの隣に来たトーカは、明らかに敵意を持っていた。

「正直に言うと、解らない。その時にならないと、判断はできないよ。戦場は何が起こるか解らない場所だからね」

 喫茶店『:re』は喰種の経営する喫茶店。捜査官《白鳩》は喰種を狩る。

 最悪、ライと『:re』は敵対する危険性も……。

 それを抜きにしても【白鳩】が喫茶店『:re』に来ること自体やばい。

 もしかしたらトーカは、ライに対し、もう来るなと言うかも。

 同じ年だがリオはライを兄の様に思い、親近感を持っている。家庭教師に来なくなるのは寂しい。

「そう」

 そのまま、トーカはキッチンへ引っ込む。

 何も言わないライ。

 トーカがもう来るなと言わなかったことが、リオは嬉しかった。

 それに捜査官のハイセも、『:re』には来て、よくトーカとは会話をしている。

 

 

 

 

 夏を乗り切れず潰れてしまったラーメン屋。町の外れにある立地条件も災いした。

 町の外れという立地条件は人間にとっては悪条件だが、喰種にしてみれば好条件となる。

 

 

 地下にある金属製の扉、元々は食材を保管していた倉庫。そこには頑丈な錠前が掛けられていた。

 そこへ殺人鬼の魂を宿した人形、それも縫い目のあるバージョンのマスクを被った男が降りて来る。ここを根城にしている喰種。

 マスクを外し、部屋の隅に積み上げた木箱の上に置く。素顔は細い釣り目が特徴。

 ポケットから鍵を取り出すと、ガチャと錠前を外して金属の扉を開ける。

 倉庫の中には5人の子供が閉じ込められていた。力の弱い子供ばかりを狙い、被っているマスでCCGからは【子供遊び】と呼ばれていた。

「ヒョヒョ、今日はどの子を喰おうだな」

 と舌なめずり、一般市民では大の大人も喰種には手も足も出ない。子供ならなおさらで、倉庫の隅で震え、泣くことしか出来ず。

 ふと、背後から足音が聞こえてきた。

「誰だな!」

 《白鳩》かと思い、振り向くと、そこにいたのは黒いヘルメット型のマスクに黒マントを羽織った相手。

「ヒョヒョ喰種(おなかま)か、食事の邪魔をするだな」

 マスクを被っているので、喰種と思い。追い出そう、しっしっと手を振った。

 黒マントは倉庫の子供たちを黙って見つめていて、出て行こうとはしない。

「さっさと、出て行け、さもないとお前も喰―」

 【子供遊び】が強引に追い出そうとした時、マスクの左目の部分が開く。

「貴様は2度と動くな!」

 左目が輝くが、赫眼ではない。

「――」

 何か得体の知れないものが炸裂。【子供遊び】は指一本どころか、声さえ出せなくなってしまう。

 黒マントは倉庫の中の子供たちに近づく。まだ怯えて、震えている。 無理もない、この子たちがここで見たことは子供には耐えがたいもの。

 それに子供たちにしてみれば、黒マントも怪しすぎる存在。

 再びマスクの左目の部分が開き、

「お前たちはここでのことを忘れ、家に帰れ」

 左目が光る。

 今まで怯えていたことが嘘のようになり、子供たちはフラフラとラーメン屋から出て行く。

 

 子供たちを見送った後、

「ジェレミア」

 名前を呼ばれ、地下に入ってくるジェレミア。

「こいつをバトレーのところへ運ぶぞ」

 黒マントでは体力がなさ過ぎて、運べない。

「畏まりました」

 一礼してから、動けなくなった【子供遊び】を担ぎ上げる。

 部屋の隅を見る。そこには助けられなかった子供たちの形跡が残されていた……。

「こいつなら、あまり心も痛まない……な」

 ライから持ち掛けられたある計画。

 人を喰らう喰種など、にわかには信じられなかったが、こんな嘘をライが吐かないのは熟知している黒マント。

 計画にはサンプルとなる喰種が必要。

 そこでどうせサンプルにするなら、外道な奴がいいと、調べ、見つけたのが【子供遊び】である。

「“帰るぞ”、誰かに見られたら、いろいろと厄介だ」

 【子供遊び】を担いだジェレミアと共に去って行く。

 

 

 

 




 ライくんの上司は暁さんか清子さんで迷いましたが、清子さんは田中丸とコンビを組んでいたので、暁さんにしました。
 ラストには『ゼロ』とジェレミアが登場。
 次はオークション戦の予定です

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