転勤先は異世界でした ~社畜冒険者の異世界営業~   作:ぐうたら怪人Z

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 突然のことに、私はもんどりうって倒れてしまう。

 

「クロダさんっ!?」

 

 ローラさんの悲鳴。

 いきなり大の男が転がれば、それは驚くだろう。

 

「んー、大丈夫、クロダ君?」

 

 そしてもう一人。

 私をふっ飛ばした張本人(・・・)が、心配そうに顔を覗いてきた。

 

「へ、平気です。

 しかし、もう少しお手柔らかにお願いします――エレナさん」

 

 倒れたまま、私はその少女に返事した。

 

 彼女は、エレナ・グランディ。

 背丈が150㎝にギリギリ届くか届いていないかという、小柄な女の子だ。

 栗毛色の髪を、後ろで結わえてポニーテールに。

 小悪魔的というか、コケティッシュな魅力のある顔立ちをした、これまた美少女である。

 

 服装は、上がブラウス、下がフレアのミニスカート。

 そのミニスカートからは、黒いタイツに覆われた脚がスラッと伸びている。

 洋服の上からの推定出しかないが、胸も大きい。

 いや、単純なバストの大きさであれば、ローラさんよりも小さいのだが。

 しかし、彼女の背丈がここで効いてくる。

 いわば、トランジスタグラマー。

 小さな身体が、肉体的魅力を数値以上に引き立てているのだ。

 

 ――熱くなって説明してしまったが、どうか気持ち悪いなどと思わないで頂きたい。

 

「もー、クロダ君ってば、仕事が終わったんなら真っ先にボクのとこへ来てくんなきゃダメじゃない!

 ボク、キミの『パートナー』なんだよ?」

 

「すみません、今日はこれといって報告するようなことも無かったので」

 

 頭を下げる。

 倒れたままなので、床に頭をぶつける羽目になった。

 

「あの、エレナさん?

 いきなり人にぶつかってきて、謝罪の一言も無いんですか?」

 

 私の傍へ駆けてきてくれたローラさんが、エレナさんを睨みつけた。

 顔の造りが綺麗な方なので、そういう表情をされると結構怖い。

 

「んー?

 本当は抱き着きたかったんだけど、目測を誤っちゃったんだよねー。

 ごめんね、クロダ君。

 次は、ちゃーんと抱き着くから♪」

 

 てへ、という感じに舌を出して笑うエレナさん。

 とても可愛らしいのだが、謝っているように見えないのは私の心が汚れているからだろうか。

 どうもローラさんも同感だったようで、

 

「は、反省の色が見えません……!

 ――あと、『パートナー』とか紛らわしい単語を使わないで下さい。

 単に、クロダさんと迷宮探索のパーティーを組んでいるだけじゃないですか。

 貴女が迷宮に行くところを、見たことありませんけど」

 

「えー、でもパートナーなのは間違いないでしょ?

<次元迷宮>に探索行ってないのは、ボクが居ても足手まといになっちゃうからってだけだし」

 

 間違ってはいない。

 一人で探索した方が、効率は良い。

 ――私の探索の仕方が少々特殊だからだ。

 ただ、それでも私がエレナさんとパーティーを組んでいるのには、“理由”があるのだ。

 それをローラさんは知らない。

 知らせるわけにはいかなかった。

 

 だからか、ローラさんは不満そうな顔をする。

 同じ社員であるにも関わらず、片方だけ待遇が明らかに違うのだ。

 不公平感は、どうしたって否めないだろう。

 

「だったら、パーティーを組んでいる必要は無いのではないでしょうか?」

 

「んんー、でもボクだってちゃんと手伝ってるんだよ?」

 

「何をです?」

 

「ん、例えば――クロダ君を楽しませてあげたり(・・・・・・・・・)とか」

 

 そう言って、エレナさんはスカートの裾をチラッと捲った(・・・)

 うぉぉおおおっ、こ、これは――!?

 

「ね、その位置からなら、ボクの下着見えるでしょ?

 どう、似合ってるかな?」

 

「あ、いや、その――」

 

 もう、バッチリ見えていた!

 いや、床に寝た姿勢だったので、そうでなくともかなり際どいところまで見えちゃっていたのだが!

 今はもう、完璧に目に入った!

 黒タイツ越しの、エレナさんが履く青と白の縞パンを!

 

「な・に・し・て・る・ん・で・す・かっ!!?」

 

「んわっ!?

 急に怒鳴らないでよー」

 

 ローラさんの一喝で、エレナさんはスカートを元に戻した。

 無念である。

 

「それで、エレナさんは何の用で販売部に来たんですか。

 もうすぐクロダさんは、私と一緒に(・・・・・)帰る予定なんですけれど」

 

「あ、そうだったの?

 それじゃ、ちょうどいいタイミングだったねー。

 クロダ君、アンナさんが呼んでたよ」

 

「アンナさんが、ですか?」

 

「うん、これから会議をしたいんだって」

 

「そうでしたか」

 

 アンナさんはこの商会の代表で、会社で言えば支社長に相当する。

 本名はアンナ・セレンソン。

 セレンソン商会とは、彼女の名前から付けられているのである。

 

「すいません、ローラさん。

 せっかくのお誘いだったのですが――」

 

「分かっています。

 大丈夫ですよ、クロダさん。

 お食事はまたの機会に――絶対、して下さいよ?

 約束ですからね?」

 

「はい、それは勿論。

 申し訳ありません」

 

 好意を無下にしてしまったのだ。

 私は深々とお辞儀する。

 

「じゃ、行こっか」

 

 エレナさんが私の手を取って先導する。

 そこへ、

 

「……エレナさんも一緒なんですか?」

 

「うん。

 だってボク、『パートナー』だから」

 

「――そうですね。

 “パーティーを組んでいる”んですものね。

 仕方――ありませんね」

 

「うんうん、仕方ない仕方ない!」

 

「――――」

 

 っ!?

 なんだろう、今、背中に悪寒が走ったような。

 き、気のせいだろう、きっと。

 

 

 

 

 

 

 それから、私達はアンナさんが待っている会議室へ移動する。

 中に入ってみたものの、代表の姿はどこにもない。

 ――そうか、今日はアンナさん、同席しないのか。

 

「さて、会議を始めるか」

 

 部屋に、そんな冷たい声が響いた。

 ここには今、私とエレナさんしかいない。

 私が発言していない以上、それはエレナさんによるものであり――

 

「――どうした?

 固まっているようだが」

 

「い、いえ。

 やはり、“エレナさんの姿”でお話をされると、違和感を感じてしまいまして」

 

「いい加減慣れろ、馬鹿者」

 

「申し訳ございません、社長(・・)

 

 エレナさん――いや、“社長”に向かって頭を下げた。

 先程まで見せていた彼女の親し気な笑顔は消え、表情が引き締まり、目つきは鋭くなっている。

 今、彼女は我が社の社長なのだ。

 

 ――これは別に、実はエレナさんの正体が社長だとか、そういうわけでは無い。

 やや長くなってしまうが、説明させて頂きたい。

 

 セレンソン商会は我が社の支社である。

 となれば、当然相互連絡は不可欠だ。

 だが、異世界の転移には莫大なコストがかかる。

 定期連絡の度に人を移動させていたのでは、会社が大きな負債を抱えてしまうのだ。

 

 故に開発されたのが、<思考転送(テレパシー)>というスキルを応用した異世界間連絡手法である。

 <思考転送>とは、自分の思考を他の人物へと飛ばすスキルだが、これを地球と六龍界の間でも(・・・・・・・・・・)行えるようにしたのだ。

 とはいえ、異世界へ<思考転送>を送れる程の熟練者(・・・)は我が社で社長しかおらず、その社長をして波長の合う人間にしか思考は送れない。

 そして、社長と波長が合う人物というのが、このエレナ・グランディという少女だったのだ。

 

 これが、エレナさんと私がパーティーを組んでいる理由。

 彼女が『仕入部』所属にも関わらず探索(仕事)をしないで済む理由だ。

 何せ、エレナさんが居ないと本社との連絡もままならない。

 完全にVIP待遇で商会に抱えられている形だ。

 

 なお、エレナさんを介する会話では細かいニュアンスが伝わらないということで、社長は彼女の身体を操る形で<思考転送>を行っている。

 思考を送っているというより、エレナさんに憑依していると言った方が正確な位だ。

 本来、このスキルにそんな使い方は無いはずなのだが――社長は色々と規格外(・・・)な方なので、疑問に思うだけ時間の無駄だろう。

 

「さて、もう定時は過ぎている。

 手早く済ませよう」

 

「承知しました。

 すぐに今週の業績を――」

 

「――いや、それについては既にアンナから報告を受けた。

 この会議で話す議題は一つだけだ」

 

「と、申しますと?」

 

 私の質問に社長は鷹揚に頷いてから、続ける。

 ……外見は美少女エレナさんなので、なんともチグハグな印象を受けてしまう。

 

「アンナの調べで、由々しき事態が判明した。

 冒険者ギルドが、我が社との契約違反を犯したそうだ」

 

「えっ!?」

 

 セレンソン商会は、冒険者相手の商売を多数行っている。

 業務を滞りなく進めるため、冒険者を管轄する『冒険者ギルド』とは様々な契約を取り交わしているのだ。

 それが破られたとなると、一大事である。

 

「本日付で、<訪問者>がウィンガストに現れたが、冒険者ギルドはそれを我々に報告しなかった。

 東京からの<訪問者>は、セレンソン商会の預かりになるという規約があるにも関わらず、だ」

 

「――それはまた。

 分かりやすい、契約違反ですね」

 

「全くだ。

 バレないとでも思っていたのか」

 

 ため息を吐く社長。

 

 <訪問者>とは、地球からこの六龍界へ“偶発的に”来てしまった人物のことを指す。

 セレンソン商会には私をはじめとして東京出身のスタッフが幾人かいる。

 そのため、<訪問者>の応対は商会が行う決まりになっているのだ――が。

 

「――ギルド長を問い質さなければなりませんか」

 

「その通りだ。

 <訪問者>の隠蔽工作は、一般のギルド構成員には不可能だ。

 必ず、上層部の人間がかかわっている」

 

「はい」

 

「明日、朝一でギルド長に掛け合って来い。

 相手の真意を確認し、<訪問者>をこちらへ連れてくるんだ。

 できるな?」

 

「承知しました」

 

 首肯する。

 一介の冒険者がギルド長と交渉するなど、そう容易いことではない。

 しかし、これは社長直々の社命である

 社命であるならば、達成せねばならない。

 

「社長。

 こちらが入手している情報の子細を確認したいのですが」

 

「ああ、これから説明する。

 まずアンナからの報告については資料がある。

 それを読んでくれ」

 

 会議室にある机の一角に、紙の束が置かれている。

 それが報告書なのだろう。

 

「それに加え、別途、本社の方で調べた<訪問者>の情報がある。

 まず、名前だが――」

 

 

 

 それから小一時間ほど社長との話は続いた。

 大まかな段取りの打ち合わせも終えたところで、

 

「では、これで連絡会議を終了とする。

 他に情報が必要であれば、アンナに直接聞け」

 

「はい」

 

 会議が終了する。

 それと同時に、

 

「――ん?

 もう、お話は終わったのー?」

 

 エレナさんの言動が元に戻る。

 社長が<思考転送>を止めたのだ。

 

「ええ、会議は滞りなく進めることができました。

 エレナさんのおかげです」

 

「んふふふふ、良かったねー。

 じゃあさ、ご褒美に撫でて撫でて?」

 

「ええ、いいですよ」

 

 頭を撫でてあげると、エレナさんは嬉しそうに目を細めた。

 こういう仕草を見ると、年相応の――いや、実際よりも幼い印象さえする少女だ。

 

「――頭じゃなくて別のところ(・・・・・)を撫でて欲しかったんだけどねー」

 

「え? 何か?」

 

「ううん、こっちの話だよー。

 ――今はまだ」

 

 今、エレナさん獲物を見るような(・・・・・・・・)眼になったような?

 気のせい、だろう。

 うん、気のせい気のせい。

 

「それで、クロダ君はこれでお仕事終わり?

 だったら、一緒にごはん食べてこーよ!」

 

「いえ、まだ確認が終わっていない資料もありますので、もう少し会社に残ります。

 エレナさんは、先にお帰りになって下さい」

 

「……そっかー。

 うん、分かったー」

 

 残念そうにしながらも、エレナさんは頷いた。

 残業する私を慮ってくれているのだろう。

 なんだかんだ言って、いい子である。

 

 彼女の退社を見送ってから、私は残った仕事に取り掛かった。

 

 

 

 

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