転勤先は異世界でした ~社畜冒険者の異世界営業~   作:ぐうたら怪人Z

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第二話 冒険者ギルド


 

 

「失礼します」

 

「うむ、よくきたのぅ、クロダ」

 

 受付で案内されたギルド長の執務室へ入ると、中では白髪の老人――ギルド長本人が既に待ち構えていた。

 皺の多い顔には、おそらくはビジネス的な意味合いでの笑顔が浮かべられている。

 彼は年齢を感じさせない、しっかりとした口調で話しかけてきた。

 

「こんな朝早くからご苦労じゃったの。

 ま、座ってくれ」

 

「――では、失礼しまして」

 

 勧められるまま、部屋の客用のソファーに座る。

 ギルド長もまた、私と机を挟んで反対側にあるソファーへ腰を下ろした。

 

「さて、何の用件だったかな?」

 

「<訪問者>の出現を冒険者ギルドが隠蔽した件について、です」

 

 単刀直入に話を切り出す。

 

「昨日の夕刻、ウィンガストに<訪問者>が現れたことはこちらも掴んでいます。

 そして、冒険者ギルドがその<訪問者>と接触したにも関わらず、こちらに一切連絡が無かったことも確認済みです」

 

「しっかりしとるの。

 ギルド(うち)が<訪問者>と会ったのはもう夜遅くでな。

 ちょうど動いておる事務担当がおらず、手続きに時間がかかってしまった――というのはどうじゃろ?」

 

「……そのような方向性でお話をしたいというのであれば、お付き合いいたします」

 

「ほっほっほ、なんじゃ、付き合ってくれるのか!

 お主とは一度じっくり話をしてみたいと思っとったからな。

 今日をその機会に使ってもいい――が」

 

 ニヤリ、と老人は嗤った。

 

「時間の有り余っとる暇な老人はともかく、勤勉な若者の時間を無駄に浪費させるのは流石に忍びない。

 ああ、認めるよ。

 儂が<訪問者>の出現を隠すよう指示を出した」

 

 何も悪びれることなく、ギルド長は言い切る。

 

「規約の違反を認めるのですね」

 

「……規約か」

 

 彼は私の方へと身を乗り出してきた。

 

「そもそも、じゃ。

 “<訪問者>は商会預かりとする”という規約――少々商会に有利すぎる内容だとは思わんか?」

 

「そうでしょうか?

 この世界において右も左も分からぬ<訪問者>に対し、私達は事態の説明や衣食住の確保、今後の相談から当面資金の融通まで行っています。

 それらにかかる費用は全て商会が受け持っており、冒険者ギルドの負担はありません。

 有利不利でいえば、冒険者ギルド側に有利な規約かと存じますが」

 

そこだけ(・・・・)を切り取れば、な。

 大事な要素が抜けておるぞ。

 <訪問者>の、人材として希少性が」

 

 ギルド長はコツコツと机を指で叩きだす。

 

「<訪問者>――地球の住人(・・・・・)は、ほぼ例外なく極めて優秀な“冒険者適性”を持っておる。

 <訪問者>の身柄を預かるということは、つまり有能な人材を抱き込むのと同義じゃろう?

 実際、商会に属する冒険者の実績は大したもんじゃ。

 ……なぁ、クロダよ。

 そろそろ、儂らにもその“甘い蜜”を分けて欲しいもんじゃがのぅ?」

 

「……ウィンガストは、他の街と比較して<訪問者>が暮らしやすい環境が整えられています。

 しかし、それでも彼らの保護は、同じ<訪問者>である商会のスタッフが行うのが適切かと。

 こちらに来たばかりでは、言葉も通じませんし(・・・・・・・・・)

 

『日本語なら、儂も使えるよ?』

 

 ――っ!?

 ショックで鼓動が跳ね上がった。

 ギルド長が“日本語”を話し始めたからだ。

 

『今までは、コミュニケーションが難しいためにギルドも<訪問者>の保護を商会に譲っとった。

 冒険者登録が完了する(・・・・・・・・・・)まで、彼らは“大陸共通語”を喋れんからの。

 ……だが、儂らだって勉強をする。

 儂以外にも、幾人かの構成員は日本語を使えるようになった。

 これなら、<訪問者>とも円滑に話し合えるんじゃないかのぅ?』

 

「設備や、資金の問題は如何するつもりですか?

 冒険者ギルドには、<訪問者>を宿泊させるに適した施設も、彼らの生活費を工面する予算も無いはずです」

 

『おいおい、クロダよ。

 せっかく儂が日本語を使っとるんじゃから、お主も日本語で話さんかい』

 

「…………」

 

 思考を“大陸共通語”から“日本語”へと切り替える。

 

『……これでよろしいでしょうか?』

 

『おお、初めて聞いたの、お主の日本語は。

 流石に様になっとるじゃないか』

 

『それで、先程の質問に対する答えは?』

 

 ギルド長は少し間を取ってから口を開く。

 

『ま、正直に言ってしまえば、金策は厳しいのぅ。

 どこぞの商会が、冒険者の産み出す利益をごっそり持ってっとるから』

 

 意味ありげな視線を送ってくるが、私は努めて反応しない。

 

『では、その準備が整いますまで、変わらず商会預かりという形でよろしいでしょうか』

 

『平然と皮肉を無視かい!

 もちっと譲歩する姿勢を見せても罰は当たらんじゃろ!?』

 

『そうは申されましても。

 契約で決まったことですし』

 

 社会において、契約の効力とは絶対である。

 個人の意見でアレコレ動かせるものでは無いのだ。

 しかし、老人は納得いかないようで、

 

『こっちだって、かなり目溢ししてやっとるじゃないか。

 “誰かさん”の冒険者ランクを、Eのままにしてやってる、とか』

 

『……Dに昇格する条件は、満たしていないはずですが』

 

『んなもん、最終的には儂の胸先三寸に決まっとるじゃろ!?』

 

『堂々と権力濫用を宣言されても困ります』

 

 今の言葉を記録して然るべきところへ提出すれば、この人を解任させられるんじゃなかろうか。

 

『はっきり言って、お主程の冒険者が未だにEランクというのは困るんじゃよなぁ。

 ランクの判断基準がおかしいのではないかと、槍玉に上げられることがしばしばあるし。

 低ランクでも冒険者暮らしはできるとか考えて、敢えてランクを上げない冒険者も出てきておる有様じゃ』

 

『高ランクになると、ギルドから貰える恩恵が大きくなる代わりに、ギルドへの義務も大きくなりますからね』

 

『ギルドへ納める“冒険者継続料”も高くなるし、ギルドから仕事を強制されることも増えるからの。

 ……どうじゃ、明日からAランク冒険者になってみるか?』

 

 からかうような口調で、ギルド長。

 ただし、目は微妙に笑っていない。

 

 ……仕方があるまい。

 

『はぁ――それで、ギルド長としましてはどこまでの譲歩が欲しいのでしょうか?』

 

『うむうむ、色よい返事がもらえて嬉しいぞ。

 で、条件じゃが――件の<訪問者>に対する“保護”と“教育”に、ギルドの人員も一名同行させて貰いたい』

 

『……なるほど』

 

 <訪問者>の取り扱い方を学びたい、ということか。

 まあ、妥当なところではある。

 実際問題、いつまでも商会だけで<訪問者>を預かるのは、無理があるだろうと思っていたところだ。

 

『分かりました、その条件を飲みましょう。

 しかし、そちらも関わる以上、費用は折半でお願いします』

 

『ちゃっかりしとるのぅ。

 まあ、ええよ。

 それ位の金なら有る』

 

 向こうの了承も得られた。

 これで、この打合せは終了だ。

 スムーズに話が進んだことにほっとする。

 もっとも、この老人が基本的に“話の分かる人”であることは把握しているので、然程緊張もしていなかったのだが。

 

『では、早速<訪問者>のところへ案内を――』

 

「ああ、ちょっと待ってくれるか?」

 

 ギルド長は急に大陸共通語へ戻った。

 ややこしいことをしないで欲しい。

 

「実はな、儂の話とは別に、若干の問題があるんじゃよ。

 その<訪問者>を受け渡すことに、ちょっと納得いっていない奴がおってのぅ」

 

「――は?」

 

 

 

 

 

 ギルド長に連れられてやってきたのは、模擬戦場。

 その名の通り、冒険者同士が訓練、或いは力試しのために模擬戦を行うために作られた広場だ。

 周辺に“飛び火”しないよう、周囲は高い壁で取り囲まれている。

 

 今、この場に居るのは私とギルド長、そして――

 

「あんたが、クロダ・セイイチ?」

 

 私を睨んでくる、一人の女冒険者だ。

 

 肩に触れる程度まで伸ばされた――セミショート、という髪型でいいのだろうか――赤い髪は、女性特有のきめ細かさを持っている。

 顔も可愛らしく整っており、美少女と呼ぶに申し分ない。

 残念ながら、今は表情を険しくしており、可愛さからは少しかけ離れていたが。

 

 Tシャツとスパッツというアンダーの上に、皮鎧を纏っている。

 背丈はおよそ155程くらいだろうか。

 冒険者としてはかなり軽装な部類で――こう言うと私が下品な男に思われるかもしれないが――肢体の“形”が浮き彫りになっていた。

 そこから分かる彼女の胸は豊満と形容するにはやや足りないものの、綺麗なお椀型の形をしたいわゆる美乳である。

 スラリと伸びた健康的な脚は、程よく細く、張りがあり、それでいて女性の柔らかさを十分に感じさせる肉付きをした、魅惑的な脚。

 スパッツ越しに見える形の良い曲線で表された2つの双丘も、男の視線を捕らえてやまない色気を放っていた。

 

 ――頼みがある。

 皆さん、私のことを嫌いにならないで欲しい。

 

「はい、私が黒田です――――と、どうしました?」

 

 少女は、最初に居たところから数m程後ろに下がって何やら身構えていた。

 どうしたというのか。

 

「い、今あんた、あたしのこと凄いいやらしい目で見なかった?」

 

「何を言っているんですか。

 初対面の女性にそんな失礼な真似しませんよ」

 

「そ、そう?」

 

「ええ。

 その程度の礼儀は弁えているつもりです」

 

 ――可能な限り気配は殺していたはずだが。

 この少女、かなりの勘が鋭いようだ。

 気を付けなければ。

 

「そ、そう、それならいいわ……

 えーと、それであんたがあたしの拾った<訪問者>を引き取りに来たってことね!?」

 

「その通りです。

 ギルド長とは既に話が付きました。

 リア・ヴィーナさん、貴女がそれに不服を申し立てていることも聞き及んでおります」

 

「いちいちフルネームで呼ばなくてもいいわよ」

 

「では、リアさん、と。

 リアさん、貴女が反対している理由を教えて貰えないでしょうか?」

 

「ギルド長から聞いてないの?」

 

「一通りは聞きましたが、こういうことはご本人からも伺いたいので」

 

「あ、そう」

 

 ふんっと女冒険者――リアさんは鼻息を鳴らすと、

 

「要するにね、あいつはあたしが育てたいってことよ。

 唾つけたの、あたしが先なんだから。

 <訪問者>って、鍛えれば凄い冒険者になるんでしょ?

 ちょうど、一人(ソロ)じゃ辛くなってきたところなのよね。

 いいパートナーが欲しいわけ」

 

「リアさんのお眼鏡にかなうかどうかは分かりませんよ?

 何せ貴女は、期待の新星ですからね」

 

 このリア・ヴィーナという女冒険者、伊達に年上に対して生意気な口をきいているわけでは無い。

 ギルド長に伺ったところ、冒険者に登録したのはつい1か月前。

 そこからあれよあれよという間に昇格し、今ではBランク冒険者にまでなったという。

 しかも誰ともパーティーを組まず、単独で<次元迷宮>を探索しているとか。

 いわゆる、天才というヤツだ。

 その上、見た目は見目麗しい美少女なものだから、今ギルド内ではアイドル的な人気があるそうな。

 

「強い相棒が必要ということでしたら、それこそ商会にお任せ頂けませんでしょうか。

 その<訪問者>を、貴女に相応しい強さの冒険者にまで育てて御覧に入れます」

 

「そうかしら?

 あんたみたいに、むさいおっさんが教育しても大して強くなれないんじゃないの?」

 

「む、むむむ、むさいおっさんっ!?」

 

 その言葉は傷つくぞ!

 本当に傷つくぞ!

 

「た、確かにリアさんよりは年上かもしれませんが、私はまだ26で――」

 

「26って十分おっさんじゃない」

 

 そうかっ!!

 26はおっさんかっ!!

 十代の若者から見れば!!

 そうかもしれませんねっ!!?

 

 

 

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