萌えっ娘もんすたぁ ~遙か高き頂きを目指す者~   作:阿佐木 れい

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ゆったりと。エリカさんの名前はちょっと考えた結果、こういうパターンに。普段見かけない漢字で、とかなるとどうしてもこういう形になっちゃうのが何とも。でも今だと珍しくない文字のような気もしますね。



【第十五話】タマムシ――見えてこない強さ

「はい。お久しぶりです――榊さん」

 

 数年ぶりに会ったその人は、まるで歳を取るのをどこかに忘れてきたかのような出で立ちで、子供の頃の記憶と変わらないように見えた。

 黒いスーツを着こみながらも汗ひとつかかず、良く見ると僅かに湛えた皺が唯一年齢を感じさせてくれるが、それも親父と同い年だと考えれば納得出来る。

 榊さんは黒いシルクハットを取り、柔和に微笑みを浮かべると、

 

「君も元気そうで何よりだよ」

 

 小さな笑い声と共に、僅かに両肩を揺らした。

 と、袖を引かれたので視線を向けてみれば、怪訝そうな瞳でリゥが俺を見上げていた。

 

「知り合い?」

 

「ああ、榊さんだ。俺の親父の親友、かな?」

 

 ちらりと視線を向けると、榊さんは苦笑を浮かべた。

 

「ふむ……私としてはそう思っているのだが」

 

「だ、そうだ」

 

 リゥはしばらく俺と榊さんへ視線を行ったり来たりさせ、やがて小さく「そう」とだけ呟いた。

 ただ、小さく引っ張った俺の袖は掴んだままだった。

 

 ――まぁ、いいか。

 

 俺は気が付かないフリをして話を続ける。

 

「榊さんは旅行ですか?」

 

「……そうだね、似たようなものかな。気軽な身だからね」

 

 昔聞いた話だと、確かどこかの会社の社長だったと思う。

 まだ子供の頃だったから記憶も定かではないが、こうして昼間から優雅に過ごしている姿は記憶に焼き付いている。

 

「ファアル君こそどうしたんだい? 見るとその娘は――」

 

 と、榊さんは目を細めてリゥを見止め、

 

「――っ!?」

 

 何故か身を竦ませたリゥに向かって榊さんは安心させるように微笑みかける。

 

「ミニリュウだね。珍しい萌えもんだが……今もタマムシで暮らしているのかい?」

 

「いえ……その、一度家に帰ったんですけど、今は旅をしてます。今更ですけど、夢を追

ってみようかなって」

 

「……そうか。でも、あいつには簡単に追いつけはしないぞ? 

 っと、失礼。ここ最近はこの街も少し騒がしいようだ。君も気をつけるといい」

 

「はい。榊さんも」

 

 言って、榊さんは街へと消えて行く。

 が、途中でこちらへと振り返り

 

「また会おう」

 

 とだけ言い残し、雑踏へと消えて行った。

 俺はその背中を見送った後、

 

「待たせたな。行こうぜ」

 

 リゥを伴って歩き出した。さっきまで引っ張られていた袖が宙ぶらりんになって少し寂しく感じてしまうが、頭を振って打ち消した。

 榊さんを見送ったリゥの瞳に怯えがまだ混じっていたのにも気付かずに。

 

 

 

    ◆◆

 

 

 去っていく背中を見送る姿を見ていて、ふと自分が何を握っているのか気付いて慌てて指を離した。

 幸い、私の方を見ていなかったようでほっと胸をなで下ろす。

 同時に少しだけの虚しさもあって、相変わらずぐちゃぐちゃしたままだった。

 

「待たせたな。行こうぜ」

 

 行って、私に背を向けて歩き出す。

 そこには絶対の自信があった。

 私がついて来る。一緒に歩くっていう自信が。

 

 でも、私には一歩が踏み出せなかった。

 遠ざかっていく背中に向かって歩くための一歩がどうしても重かった。

 

 それが何なのか私にはわからない。掴みそうになるけど、まるで水のように、形になる前に溢れて消えていってしまう。

 

 ただ、全身を突き動かす程の衝動だけが私の背中を押してくる。そうして踏み出した一歩は大きいけど――その背中はどこまでも遠ざかっていくのだ。

 

 私の夢を叶えるのにはどうしたらいいのだろう。

 

 望みを遂げるためにはどうすればいいのだろう。

 

 ふと、頭に浮かぶ。

 それは――認めちゃいけないのだけれど。

 あの吸い込まれそうな程暗い瞳が思い出され、そうとは気付かずに私の中で大きく膨らんでいくのだった。

 

 

 

    ◆◆

 

 

 

 タマムシシティジムは街の南側――高層ビルが立ち並ぶ街中から少し外れた静かな場所に立地している。

 街の持つ都会的なイメージから離れた憩いの空間とも言える大きな公園があり、そこに――

 

「……何、あれ」

 

「言ってやるな」

 

 窓へまるで光に誘われる羽虫のように男どもが群がっていた。

 リゥがドン引きしているのも正直わかるんだが、同じ男としてその心理、わからなくはないから困ったものだ。

 

 今日挑むつもりのタマムシシティジムは別名『女の園』とも呼ばれ、ジムにいるトレーナーは全て若い女性で構成されている。

 

 ジムリーダーの愛梨花(えりか)も生花が趣味の清楚な乙女という事もあり、彼女に憧れる女性達が後を立たないのだそうだ。昔、誰が言っていたか《女子高にいるお姉さまみたいなもの》だそうな。さっぱりわからん。

 俺には少し抜けてる奴にしか見えなかったんだが。

 

「ぐへへ、今日もみんな可愛いなぁ」

 

 やおらジムに近付いてみると、そんな危険極まりない言葉を窓にへばりついている奴が言っていた。ヤモリかお前。

 

 しかし女性というのは一部の男を壊しやすいものである。街中で勤勉に勤しんでいる真面目な男性諸君はともかく、今俺の目の前で窓に張り付いて堂々と覗いているエロジジイや同年代の男共を見ていると虚しくなってくる。同じ男としては尊敬する部分も一部だけあるっちゃあるのだが。

 

「今日もハリのあるお尻じゃのう…」

 

 今にも成仏しそうなジジイまで釘付けである。

 女の園に加えて覗きとなれば男にとっちゃ張り切らずにはいられないってわけなのだろう。

 だが、このジムは確か――

 

「っ、しまった!」

 

 だらしなく鼻の下を伸ばしていた男のひとりがさながら肉食動物を察知した草食動物かのように敏感に反応する。

 

 と同時、警報が鳴り響いた。

 それはサイレンのようにけたたましい音を立て、あれよあれよと言う前にジジイ含めた男たちは四方に散っていった。

 

「何、今の?」

 

 訝しげな視線のリゥに答える。

 

「警報だよ。そこのジム、女しかいないから物騒らしいわ」

 

「ふうん。私も持とうかな」

 

「うん、その先は聞いちゃいけないんだろうな」

 

「わかってるじゃない」

 

 などと言っていたら、ジムのドアが開き、遠目でもわかるほど怒りのオーラを出した女達が周囲に視線を彷徨わせた挙句、俺へと焦点を合わせてきた。その視線、さながら修羅の如く。

 

 ……嫌な予感しかしない。

 

 と言っても何かやましい事をしたわけでもない。

 覗いてもいないし、更に言えばジムの挑戦者でもある。そんな無罪放免、清廉潔白な身にいきなり災難なんて――

 

「死ねぇえええええええっ!!」

 

 ふりかかってきた!

 

 問答無用で襲いかかってきた女たちはどれもが鬼の形相である。子供が見たら間違いなくトラウマになるレベルなのだが、おそらくあの覗きどもはとんでもないもんを見ていたんだろう。俺も見れば良かった。

 

 とまぁここまでが走馬灯なわけだ。

 つまるところ、俺は集団で襲いかかってきた女たちから逃げる隙もなくボコボコにされて意識を失ったわけだ。

 

 

 

    ◆◆

 

 

 

 いつだったのかはもう思い出せない。

 ただ、思い返す記憶の中のどれもが家を出てからなのは間違いない。

 博士に告げられた言葉にショックを受け、ひねくれていった俺は単身家を飛び出してタマムシシティに向かった。

 

 初めて見た都会は輝いていて、ひとり冒険しようなんて思う無鉄砲で捻くれていたガキだ。鬱憤を晴らすかのように暴れまわった。何をしていいのかわからず、かといって自分の中にある認めたくない現実ってやつに挟まれて動けなくなって――周囲に当たり散らす事でしか自分を満足させられなかった。

 

 ――いや、満足させている気分になっていた。

 

 

 お前には無理だ。

 

 

 その言葉を打ち消すために自分が強いのだと思い込ませ、その度に虚しくなっていった。

 

 仲間は出来た。友達もいた。俺みたいな奴ばっかりだったけど、それでもみんな真剣に悩んで楽しんで生きていた。

 良く言えば、青春ってやつなんだろう。今にして思えば苦々しく恥ずかしい思い出として語る事が出来る一ページだ。

 

 だけど周囲から見た俺たちは悪ガキで、熊澤警部は俺たちみたいなのを知っているから、ある程度のお目こぼしを貰っていたわけで、住人から不満が出るのは当たり前だった。

 

 そして、そうした厄介事を片付けるのはいつだって警察かジムに所属しているトレーナーか、もしくはジムリーダーなのだ。

 

 ――そう、あの日も。

 全身を包み込んでくれるような温かい日差しの中、意識を取り戻した俺は、柔らかい枕を背に目を開けて――

 

 

 

    ◆◆

 

 

 

「……あれっ?」

 

 目に写った光景は、いつか見たのと同じだった。

 木漏れ日を背に、柔和な笑みを浮かべている長い髪の――

 

「……何だ、髪、切ったのか?」

 

 記憶と違う部分を見止め、現実に意識が引き戻される。

 おおよそ一年ぶりになるか。

 故郷に戻って再び無気力になりかけていた俺が過ごした年月だ。

 その間に、記憶の中の少女は髪の毛を肩まで切っていたようだ。

 

「うん、ばっさり。似合うかな?」

 

 くすくすと口に手を当てて笑っている姿は上機嫌だ。

 タマムシシティジムリーダー、愛梨花(えりか)。和服の似合う穏やかな少女だ。

 俺は後ろ髪を引かれる思いで身を起こす。

 後頭部に柔らかい余韻が残ったけど、何とか振り切って頭を一回叩くと意識がクリアになった気がした。

 

「懐かしいな、ここも」

 

 屋内に作られた庭園。同時に温室でもあり、都会的な空気から癒しを求めてやってくる人は多いという。

 

 タマムシシティジムは珍しく開放的なジムであり、一部を一般開放して心穏やかに過ご

せるようになっている。

 もっとも、開放していない場所にまで覗きに来る奴らが多いのだから、如何に『覗き』という行為が男心をそそるのかが窺い知れる。

 

「一年ぶりだものね」

 

「ああ、そうだな」

 

 リゥの姿は――ない。

 俺が視線を彷徨わせているのに気がついたのだろう。

 

「小さい彼女なら座敷に。ファアルが起きるまでトレーナーの皆さんと一緒にお茶してる」

 

 悪いな、と小さく返して立ち上がる。

 ボコボコにされた記憶は多少あるが、どうやら大事無いみたいだ。さすがに骨とか折れてたら洒落にならんしな。

 

 もしかしたら鍛えられているのかもしれない、と考えた辺りでリゥにぶっ飛ばされてる記憶しか思い出せない自分に気が付き、無当たり前かと納得してしまった。

 

「お礼ならあの娘に言ってあげて。ちゃんと庇ってくれたんだから」

 

「そっか」

 

 あのリゥが、な。

 嬉しさで心臓が跳ねるのがわかり、隠すようにして咳払いをする。

 

「ああ、そうだ」

 

 そして自分の目的を思い出す。

 何も昔を振り返りたくて来たわけじゃない。

 いや、それもいいんだが、今はもっと大事な事がある。

 

「どうしたの?」

 

「あー、こほん」

 

 大事な用事だ。

 咳払いの元、意識を切り替え、

 

「タマムシシティジムリーダー、愛梨花。お前に萌えもんバトルを申し込む!」

 

 振り返り指を突き付け挑戦を申し込む。

 すると愛梨花はいつものように優しげに笑みを浮かべ、

 

「ごめん、無理」

 

 朗らかに言ったのだった。

 

 

 

    ◆◆

 

 

 

 愛梨花に連れられてジム内にある喫茶店に行くとリゥがトレーナー達に取り囲まれていた。

 といっても転校生よろしくきゃいきゃいされてるわけではなく、上品なお茶会の中、ひとりぽつんと緑茶を口にしているような感じだったが。

 

「――あっ」

 

 俺に気がついたリゥは困った顔を一瞬だけ向けた後、華やいたかと思ったら誤魔化すように顔を戻した。

 そして緑茶をすすっている。

 喜んだり困ったりと器用な奴だな。

 俺は苦笑を浮かべ、愛梨花に肩を竦めてみせる。

 

「ええ。事情はわたくしから。責任ですもの」

 

 ああ、と頷きを返してから、

 

「リゥ。その……ジム戦なんだが」

 

「いつやるの?」

 

「……あー」

 

 強くなりたいと願っていたリゥ。

 自分の能力が試されるジム戦に挑戦出来ないと知ったらどうなるだろうか。

 もう少しでも食い下がるべきだったろうか。

 悩んでいる間に愛梨花がリゥの前に出て告げた。

 

「改めてはじめまして。わたくし、愛梨花と申します」

 

 聞く者を安心させる声音でゆっくりと話し出す。

 

「ファアルからわたくしに挑戦する、という話は伺いました。

 ――ですが、今は出来ません」

 

 何か言葉を紡ごうとしたのか愛梨花は少し詰まった後、俺の時よりも強く否定して見せた。

 

「どういう事?」

 

 リゥの視線は俺へと向いている。

 本当だろうな? という確認だろう。

 俺は頷きを返し、愛梨花の後に続けた。

 

「ロケット団の関係でな。しばらくジムは閉鎖してるらしいんだ」

 

「……?」

 

「そういう規則なのです。わたくし達は挑戦者がいればもちろん受けて立ちますし、それが勤めでもあると思っています。ですが、例外もあります」

 

 ジムリーダーは何もトレーナーからの挑戦を受け付けて戦う事だけをしているわけではない。

 彼らには他にも地域に何かが起こった際には率先して力を貸すよう義務付けられている。それぞれが主要な都市や町にジムを構えているのにもちゃんと理由があるのだ。

 

 特に今回は――

 

「ロケット団のアジトがここタマムシシティにあるとも言われています。ヤマブキシティでの件もあり、わたくしも瞬時に行動出来るようにしておかねばならないのです。

 申し訳ありませんが――今は非常事態ですので」

 

 その言葉に込められた頑固な意志を感じ取ったのか、リゥは呆然とし、やがて力なく頭を垂れた。

 

「……そっか」

 

 リゥの様子を見て、愛梨花が心配そうな顔で俺へと振り返る。

 俺は小さく頷きを返すとリゥの傍に腰を下ろした。

 

「非常時だ、仕方ないさ。それにジムはここだけじゃないだろ?」

 

 そう。タマムシシティを除いても、まだジムはある。ヤマブキシティジムは現状無理だとしても、セキチクシティジムとグレンジム、そしてトキワジムだ。少し遠回りになるが、セキチクシティならそれほど距離があるわけでもない。

 そんな風に考えていた俺へ向けられたリゥの視線は沈んだままだった。

 

「――うん」

 

 やがてゆっくりと視線を元に戻し、小さく頷いた。

 傍目から見ても落ち込んでいるのがわかる。

 言いようのない空気に包まれるジムの中、リゥの姿が昔の俺に重なって見えた。

 

「ファアル、わたくしは」

 

「気にすんなって。お前はお前の役目を果たせよ。ジムリーダーなんだろ?」

 

 沈黙に耐えかねた愛梨花の言葉を遮る形で言葉を重ね、無理矢理にでも納得させる。そうでもしないとこの優しく自分に厳しいジムリーダーは誰かを傷つけてしまった自分を責め続けるだろうから。

 

「……ええ」

 

 愛梨花が頷いたのを見てから再びリゥに視線を戻す。

 

「行こう、リゥ。道はまだある」

 

 ただがむしゃらに直進するだけでなく――目的へと向かって進む道ならば、沢山ある。ただ、俺たちが気付くか気付かないかだ。だがひとつ言える事は、ひとりで悩むと袋小路になるという事だけ。

 

 かつての俺がそうだったように。

 

 いつか誰かがやってくれたように。

 

 俺はリゥへと手を差し伸ばした。

 

「強くなるんだろ? なら方法はひとつじゃない。行こうぜ」

 

 リゥは差し出した手をしばらく眺めた後、

 

「ふんっ」

 

 払いのけた。

 そしてひとりでジムの出口へと向かって歩いて行く。

 

「……やれやれだ」

 

 払いのけられた手をぷらぷらさせていると、愛梨花が口を挟んでくる。

 

「リゥさん、悩んでるのね」

 

「ああ」

 

 愛梨花の目にももしかしたらダブって見えているのかもしれない。

 リゥがこの街にいた頃の俺に似ているのが。

 迷い、悩み――自分の思い通りにならないもどかしさと悔しさが。

 

「んじゃ、行くわ」

 

 俺は一呼吸置いてリゥの後を追うべく歩き出す。

 と、

 

「気をつけてね、ファアル」

 

「あん?」

 

 肩越しに振り返ると、愛梨花は厳しい目で俺を見ていた。

 

「リゥさんは珍しい萌えもんだから。リーグ四天王のひとり、ワタルさんやチャンピオンである貴方のお父様のように――龍タイプを扱うトレーナーは強者の証でもあるし、強さだって並大抵のものじゃない。ロケット団に狙われやすいのは……」

 

「わかってる」

 

「いいえ、わかってない。じゃあどうしてリゥさんをボールから出したままにしている

の? 狙ってくれって言ってるようなものじゃない」

 

「それは……」

 

 リゥがボールに入りたがらないから。

 ではどうして俺はリゥをボールに入れないのだろうか。

 今の危機巻が高まっている状態でなお、出している理由は何なのだろうか。

 

「ファアル、貴方はまだ――」

 

 ――"自分が強いと思っている"の?

 

 冷水を浴びせられたかのようだった。

 

「……んな事ねぇよ。大体、そんなの1年前にこっぴどく言ってくれた本人が今更疑うのかよ」

 

「そうね――ううん、少し気になったものだから」

 

 大丈夫だ。

 そう言ってリゥの後を追う。

 なるべくひとりにしたくなかったからだ。

 

「悪い、少し時間食った」

 

「ん」

 

 ジムの出口付近で待っていてくれたリゥに声をかけると、僅かに頷きを返してリゥはさっさと出て行ってしまう。

 その姿を見ながら思う。

 こうして待っていてくれたって事は、まだ信じてくれているんだな、と。

 

 ――いや、根本的な部分での問題ではないのかもしれない。

 

 リゥの抱えるジレンマ。それは俺にも――きっと誰にでもあるものだと思うから。

 簡単に折り合いなんてつけられるもんじゃない。

 だから、そうした現実を見据えて折り合いに成功した人間は大人となるんだろう。

 

 そう思うと俺は成人してまでガキの頃の夢を追って、リゥもまた自分の目的のためにがむしゃらに進もうとしている――どうしようもない子供なのだ。

 

「リゥ」

 

「何?」

 

 だが子供って奴は、時に大人じゃ考えつかないような思考をし、諦めるような行動に平気で移る。

 

「さっき言った選択肢だがな、実はもうひとつだけある」

 

 それは時として大きな間違いを生み、失敗となるのだが――

 

「他に方法があるのなら教えて。私は立ち止まってなんかいられないから」

 

 この時の俺達は知る由も無かった。

 

 

「――潰すのさ。タマムシシティにあるロケット団のアジトをな」

 

 

                             <続く>

 


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