萌えっ娘もんすたぁ ~遙か高き頂きを目指す者~   作:阿佐木 れい

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ちょっと早めに書けたんで投稿しちゃいます。



【第二十九話】ふたご島――凍える洞窟の中で

 最悪と言って間違いないだろう――マサキは胸中で状況を分析し、呟いた。

 戦闘に長けているのはジムリーダーである亨たったひとり。自分は戦力になるようなものではあるまい。反対に、ロケット団は二十人は軽くいるだろう。

 

 それぞれが防寒着を着込み、いつもの黒から白に変わっているのは――これまでのロケット団とは違う薄気味悪さをも感じさせてくれた。

 

 ――ファアル。

 

 胸中で呟き、ファアルとリゥが落ちていった穴に視線を一瞬だけ向けた。

 

 ――あそこには確かに穴があった。近づきすぎたわいの不注意や。せやけど、

 

 目の前で薄い笑みを浮かべているパオロ。

 研究者と言われても違和感のない立ち居振る舞いだが――、

 

「さて、始めましょうか」

 

 その態度は、研究者からは遠いもののように感じられた。

 

「あんたは……」

 

 マサキは唯一持ってきていたボールを握りしめ、言った。

 

「魂を売ったんか?」

 

 その問いに、パオロは僅かに時間を要した。

 時間にすれば短いものであっただろう。

 ふむ、と小さく呟き、

 

「魂――などという観念的なものが実在するかどうかはさておき、マサキさん。貴方はおかしなことを言うのですね」

 

 心底不思議だとでも言うように、さも当たり前の口調で、

 

「我々は〝研究者〟なのでしょう?」

 

「………………そうかい」

 

 決定的だった。

 この男は――大切に持っておかなければならないものまで売っている。

 

 敵だ。

 研究者などと名乗られるのも――なおかつパオロと自分が同じ土俵で萌えもんを研究しているというのが我慢ならなかった。

 

「私としては、貴方の知識をこのまま亡くすのは惜しい。どうです? ご一緒され

ますか?」

 

「はっ」

 

 心底呆れたら笑いがこみ上げるらしい。

 マサキは吐き捨てるように、言った。

 

「死んでもお断りや」

 

「結構」

 

 予想していたのだろう。パオロは間髪入れず言い、

 

「やれ」

 

 部下に号令を飛ばした。

 無言で即座に展開されるボール――現われる萌えもんたち。

 

 ドガース、アーボ、ニャース、ベトベトン、ペルシアン、ガーディ、アーボック、マタドガス――ルールなどありはしない。全ての手持ちを展開すれば、人の数よりも多いのは至極単純な帰結だ。単純計算で10体1よりなお酷い物量差だった。

 

 勝機など考えるよりもまずは逃げるべきだ。

 同時に、ファアルが気がかりだった。

 

 ――あいつを見捨てるわけにはいかん。

 

 果たして。

 迷いは時間を奪う。

 この瞬間、マサキの見せた隙は僅かではあったが決定的なものでもあった。

 応戦する亨だが、流石に手持ちすべてに気を配りマサキにまで注意を向けるには、あまりにも乱戦に過ぎた。

 

「くっ……イシツブテ!」

 

 慌ててマサキは、たった一体、持ってきていたボールから萌えもん――イシツブテを出す。

 邪魔な岩を砕いたりするために連れてきてた探索のお供だった。

 

 が、当然ながら戦闘には慣れていない。かつ、育ててもいない。いつもなら手持ちにもう少し加えているが、今回は亨やファアルがいたことに安心し油断していた。

 

 戦闘用に育てていないイシツブテは当然のように、ロケット団の萌えもん――アーボックによって雪上に抑えつけられる。

 

 一瞬だった。

 

 展開して僅か数秒。外に出る瞬間を狙っての行動だった。

 

「卑怯、とは言いませんよね?」

 

「…………」

 

 ルールも何もない戦闘で、相手の出鼻を挫くのは当然の行為だ。

 そこに規則はないし、反則にもならない。

 例えば――、そう例えばだが、今の亨のようにトレーナー本体を狙う戦法も合法なのだ。

 

「さて、ゴーリキー」

 

 パオロの指示に従って現われたのは、ゴーリキーだった。ショートカットの勝ち気な表情は、今は嗜虐的な笑みによって醜く歪んでいる。

 

「何を」

 

 マサキの声を受け、パオロが笑みを濃くした。

 アーボックを払いのけ、ゴーリキーがイシツブテの頭を片手で掴み上げた。

 進化していないとはいえ、岩タイプの萌えもんを軽く持ち上げる腕力もそうだが、

 

「……あ、く……ぁ……」

 

 みしみし、と。

 本来軋むような音が鳴ってはいけない場所が、悲鳴を上げ始めた。

 

「お、おいお前何しとんねん!」

 

 声を荒げたマサキをアーボックが雪上に叩き伏せる。

 

「や、あぁ……!」

 

 痛みが涙がこみ上げる。

 きっとパオロを睨み付けながら、必死にもがくがビクともしなかった。

 

「何、ですか」

 

 そんなマサキの問いにパオロは答える。

 

「実験をしようかと」

 

「実験、やとぉ……?」

 

「えぇ」

 

 パオロは頷く。

 

「ゴーリキーの握力は数字としては知っていますが、その実、どこまでの力を持っているのか試したことがないのです。ありふれた素材では誰もが試したでしょう。それでは何も変わりません。研究とは、新しく試しながら前に向かって歩むことなのですから」

 

「わいの質問に――」

 

「ええ。ですので、そろそろ生きた素材を使ってみようかと思いまして」

 

「――――――――――――――は?」

 

 絶句したマサキに、ですから……とパオロは続け、

 

「イシツブテとはまたちょうどいい。実験を始めるにはまずまずの堅さです。ゴーリキーの力が萌えもんに対してどこまで及ぶのか――具体的には死を与えられる限界値はどこにあるのか。ええ、実に楽しみだ」

 

「お前ぇ!」

 

 激高する。

 おかしい。

 この男は――完璧におかしい。

 頭がイカれている。

 

「やめんかクソッタレ!」

 

「お断りします」

 

 常人ならば誰もが考えもしないであろう蛮行を、さも当然のように実行する。

 嗜虐的とさえ見える笑みを貼り付けながら。

 

「想像してみてください。子供の頃、分別がつかない頃に誰もが生命を道具のように扱い、残虐な手法で弄び、殺すでしょう? あれと同じことです。ただ、違うのは我々はしっかりとした意思と目的を持ち、研究しているのです。未来のために。人類のために」

 

「ほざけ、同じなわけあるか! いいからイシツブテを放さんかい!」

 

「……ご、ごしゅじ」

 

 ミシ、と音が鳴り、イシツブテの頭が割れ始める。ゴーリキーは満足げな表情を浮かべている。

 

 外道が……!

 

 声を張り上げることしか出来ない己の無力さに感情が渦を巻く。

 

「イシツブテ!」

 

 それでも。

 自分を懇願してくれているイシツブテを見捨てることなどできない。

 抗うために四肢に力を入れる。

 が、それも雪の中に沈んでいくだけだった。

 

「ふむ……やはりイシツブテでは大した結果は求められませんね」

 

 淡々と告げるパオロが憎かった。

 

「おどれぇ……!」

 

 マサキの声など気にせず、パオロは言った。

 

「では、ゴーリキー。潰せ」

 

 

 ――その時だった。

 双子島の天井が、崩れたのは。

 

 島全体を揺るがすほどの揺れが島を揺らす。

 天井からの粉塵があっという間に戦場を支配する。瓦礫から逃げ惑うロケット団とその萌えもんたち。

 その隙をついて亨がアーボックをはね飛ばし、マサキを救う。

 

「イシツブテを!」

 

 亨の言葉に頷いたマサキ。

 が、その前にふたつの影が降り立った。

 

「はっ、随分とつまんねぇ見世物だなぁ」

 

「うむ」

 

 ゴーリキーがイシツブテと同じように持ち上げられ、

 

「雑魚が」

 

 その巨体が、一撃で沈んだ。

 何が起こったのか。

 全員が唖然とする中、意識を失っているイシツブテを抱え上げた男は言った。

 

「さて……俺の息子はどこだ?」

 

 身の丈二メートルはある偉丈夫を前に、パオロは驚きに目を見開いて、言葉を漏らした。

 

「――チャンピオン」

 

 最強の男(サイガ)はカイリュウを従え、悠然と戦場に立った。

 

 

     ◆◆◆◆

 

 

「っ、つぅ……」

 

 痛みに引っ張り上げられるように意識を取り戻す。

 何かがこぼれ落ちていくような感覚は無いものの、その代わりに全身が鉛のように重くなっていた。

 ぼんやりとしている視界の中には、

 

「……みんな」

 

 仲間達が不安そうに覗き込んでいた。

 かすれるような声しか出なかったが、それでも俺がちゃんと自分達を認識しているのがわかったのだろう。リゥが言葉を発することもできずに抱きついてきた。

 それを合図にして、シェルやコンまで抱きついてきて、サンダースやカラは一歩引いて安堵しているようだった。

 

「いてぇ」

 

「わ、ごめん!」

「はわわ、マスター平気?」

「も、申し訳ありません……」

 

 実感したら、急に痛みまで酷くなった。

 慌てて離れた三人に苦笑を返しながら、無事をアピールする。

 痛みはまるで――かさぶたになりかけた傷口を無理矢理はがそうとしたかのような、引きつったような痛みだった。

 

「俺は、いったい」

 

 落下していく中、氷柱が見えて咄嗟にリゥを突き飛ばしたのまでは覚えている。その際、身体を捻って、それから――、

 

「どうやら無事なようですね」

 

 思考に割り込んできた主は、そう言った。

 

「……フリーザー?」

 

 伝説の萌えもん――フリーサーは頷くこともなく、淡々と事実だけを告げる。

 

「応急措置は彼女達が。幸い、怪我はそれほど深くないようです」

 

 右の脇腹が熱い――包帯が巻かれており、その包帯も血でにじんでいた。

 

「咄嗟に氷柱を破壊したのが幸いでした。もし気がつくのが遅れていれば――といっても、即死を免れた程度ですが」

 

 死んでいた、か。

 この寒さだ。深手を負えばいくらリゥ達が手を尽くしてくれたところで、死は免れなかっただろう。

 

「ありがとう。助かったよ」

 

 礼の言葉に、フリーザーは首を横に振った。

 そして表情を変えずに、言った。

 

「礼ならば貴方の仲間たちに」

 

 どこか暖かみのある言葉に、気が緩む。

 

「……そうだな。みんな、ありがとな」

 

 見渡して言うと、

 

「ん」

「あたりきしゃりき」

「はい」

「ま、当然だね」

「早く飯くれ」

 

 各々、返してくれた。

 

「そこの川に魚でも泳いでるんじゃないか?」

 

「マジで!? ひゃっほー!」

 

「待て待て。ちゃんと準備してからだっつーの。死ぬぞ」

 

「む、むぅ……?」

 

「ははっ」

 

 少し、気も紛れた気がする。

 ゆっくりとサンダースの頭を二度、ぽんぽんと叩き、

 

「これが終わったら病院に行くのは確実として」

 

 仲間達を見渡す。

 

「リゥ、見たか?」

 

「うん。

 ――ロケット団、よね」

 

「ああ」

 

 頷く。

 落ちながら聞こえた僅かな喧騒で何となく予想はついていた。

 

 だとすれば、マサキと亨が危険だ。

 あのふたりだけなら問題ないだろうが、隠れる場所が多すぎる。雪によって隠れていた穴に俺を突き落とした男だ。視界も決して良い状態じゃない。伏兵を仕込んでおくくらい、訳もなくやってのけるだろう。

 

「お待ちください」

 

 そこに声をかけてきたのはストライクだった。

 

「……あ、あの、ロケット団というのは?」

 

「ああ……、仲間が襲われててな。俺は見事に分断――つーか、殺されそうになっ

たところだ」

 

 ほれ、と上を指さす。落ちてきた穴が小さく見える。一体どれだけの距離を落ちてきたのやら。

 と、タイミングを見計らったかのように大きな衝撃に襲われる。

 

「おおおおお……」

 

 力むと怪我をした箇所が痛んだが、生きている証と思えば我慢はできる。

 

「っ、殺され――!? 何故、そのような」

 

「……そんなの、俺が訊きたいくらいだ」

 

「……」

 

 黙したストライクから視線を外す。

 今しなければいけないのは、どうやって戻るかだ。

 万全とは言えない状態で歩いて、など自殺行為に等しい上に間に合うかも難しい。

 ようやく戻ったと思ったら、みんな死んでいた――なんてご免だ。

 

「――ここに」

 

「ん?」

 

 そう考えていると、ストライクがぽつりぽつりと話し始めた。

 

「この島に来る途中――襲われている萌えもんを何度も見かけ、助けようと思い、交戦しました」

 

 ストライクの鎌には血のような後がついている。

 彼女が戦ったというのは――間違いないのだろう。

 

「彼ら――いえ、奴らは喜悦に浸りながら、通りすがりのトレーナーやその相棒、そして野生の萌えもんを……」

 

 ぎり、とストライクの歯ぎしりが聞こえたような気がした。

 

「あまつさえ……自ら襲い、死にそうなほどに弱った萌えもんを捕まえ、喜んでいました。何と、醜悪なことか。あんな状態になっては抵抗どころか……!」

 

 萌えもんを捕まえていた……?

 しかし、センターに運んできていたのは全てトレーナーたちに抱えられた萌えもんたちだ。

 

 

 ――ロケット団はどこにでもいる。

 

 

 まさか。

 

「まさかあいつら……演技してやがったのか?」

 

 萌えもんセンターに泣きながら飛び込んできたトレーナーが何人もいた。

 セキチクシティは元々観光客が多い。そうして全国各地から訪れたトレーナーの中にロケット団がいたところで不思議はない。

 

 例えば、何人ものロケット団がいて、彼らが一斉に同じ演技をすれば、それは架空の犯人を生み出す事件に発展し得るのではいか?

 

 ロケット団を現す印は、「R」の文字しかない。逆に言えば、明確な証拠さえ出てこなければ誰一人としてロケット団員を捕らえられない。

 

 萌えもんを襲い、瀕死にさせた状態で捕まえ、あたかも何かに襲われたように見せかけ、手に入れる。捕らえられた萌えもんには恐怖心が生まれ、主の命令に背けばどうなるか――そうやって行動を縛り、人形のようにしていく。

 

 だが、何故だ? 傀儡のような萌えもんを手に入れたいというのなら、今ので理屈はわかる。しかし根本的な部分がわからない。

 ジムリーダーのいるセキチクシティでそんな計画的な行動を起こした理由は? リスクが大きすぎる。あるとすれば――リスクを払ってでも手に入れるべき何かが?

 

「――だから、フリーザーか」

 

 亨が言っていたではないか。

 シルフカンパニーは蜥蜴の尻尾切りではないかと。

 ならば、人員を使い捨てるくらい平然とやってのける組織ではないか?

 

 多大な犠牲を払ってでも手に入れたいもの――即ち、島全体をたった一体で凍り漬けしてしまうほどの力を持った伝説の萌えもんとか。

 

「私が何か絡んでいるようですね」

 

「いや、別にあんたのせいじゃないさ」

 

 嘆息する。

 俺たちはまんまとその作戦に乗せられたわけだ。

 

「今も上で誰かが戦っているのですか?」

 

 ストライクの言葉に頷く。

 

「――あちしは、貴方を殺そうとしました」

 

「ああ」

 

「ですが――止められました」

 

 その声は、どこかほっとするようで。

 

「あの時、確かに思ったのです。助かった、と。許せないはずの貴方を傷つけなくて良かった――と」

 

 ストライクは視線を仲間たちに注ぎ、やがて俺にもう一度戻した。

 

「止められなかったら、きっと――あちしは自分と同じ思いをする人を生み出していたんだ、と気がつきました。そして、そんな自分を知り、ひとりになって改めて、激情に身を任せて刃を振う――己の未熟さを痛感しました。したのです」

 

 ですが、と。

 

「誰も、助けられなかった。目の前で傷ついていく者たちをただ一歩も二歩も届かない場所で戦っている己の無力さが――悔しい」

 

「……ストライク」

 

「我が主は――言っていました。刃に映る自分を見ろ、と」

 

 捨てられたと言っていたストライクから、その主の話を聞いたのは初めてだった。

 血がこびり付いた鎌に自身の顔を映し、言う。

 

「何も――何も見えません。あちしの顔は、何も……何も、映らないのです」

 

 かける言葉が、見つからなかった。

 主に捨てられたと言っていたストライク。彼女は――本当に主が好きで、尊敬していたのだろう。その言葉を胸に抱き、辛い時の支えにするほどに。

 

 しかし、彼女が頼るべき主には捨てられ、その言葉もストライクに何も教えてはくれなかった。

 ストライクは、自分の立つ場所も向かう方向もわからないまま、同じ場所に立ち途方に暮れている。

 

 母親から手を放された幼子のように。捨てられた場所で、ずっと。

 

 しかし、彼女は自分の持つ強さ故に泣かない。涙を流さない。

 だから、立ち止まる。

 何が正しいのかもわからないから、足踏みすることすら出来ない。

 

 確固たる自分を持っているから、自分を見失えもしない。

 本当の本当に――心の奥底にある自分を識っているから、俯くしかない。

 だって――その中で感じられるのは、自分だけだから。

 

 正しいと。

 そう、認められる自分だけしか信じられないのだから。

 もしストライクに届けられる言葉があるのだとすれば。

 届けられる存在がいるのだとすれば――。

 それは、ストライクを捨てた主だけだ。

 

「ストライク」

 

「……」

 

「ごめんな。結局、俺はお前に答えを見せてられなかった」

 

 それは、いつかした約束。

 しかし決して叶わない約束だったのだ。

 

「俺には、今のお前にかけてやれる言葉なんてない。そんないい加減な真似は、できない」

 

「……ファアル殿」

 

「生きるってのは難しいしな」

 

 苦笑し、

 

「だけど、信じるだけなら難しくない。俺さ、良かったと思ったよ。お前を信じて」

 

「……えっ?」

 

「連続通り魔事件の犯人。やっぱりストライクじゃなかった」

 

「……?」

 

 ストライクにはきっと、意味がわからなかったに違いない。

 小首を傾げていたが、構わず続けた。

 

「そんなことするやつじゃない――ジム戦で失望されたり怒ってきたお前を見て、俺はそう信じた」

 

 そして、ストライクの鎌に触れる。

 

「血くらいは取れよ? 余計に見えなくなるぜ?」

 

 そうして笑い、一歩離れた。

 

「フリーザー、悪いんだけど」

 

「いいでしょう」

 

「早いな!? いいのかよ、あんたも危険だぜ?」

 

「力を持った者には、それ相応の責任があります。それに」

 

 と一度言葉を切って、

 

「貴方が守ってくれれば済む話でしょう?」

 

 氷のような無表情が僅かに溶けたような気がした。

 もっとも、それも気のせいであったのだろうけど。

 

「――おーけー。全力で守らせてもらうよ。じゃあ、頼む」

 

「背中に。おかしな場所に触れないように。氷漬けにして落下して壊します」

 

「大丈夫。そんなことしたら私が先に摂関するから」

 

「では、その後にでも」

 

「追い打ちですよね!?」

 

 シェルたちをボールに戻す。この先は決戦だ。気は抜けない。

 

「行きます」

 

 飛び立つフリーザー。猛烈な風が身体を襲う。めちゃくちゃ寒い。鼻水が凍りそうだ。

 少し前に落下してきた道のりを今度は飛んでいくっていうのも不思議な気分だ。

 

「……」

 

 眼下を見る。そこには、こちらを見上げるストライクが、ただひとり佇んでいる。

 やがて、

 

「着きます。準備を」

 

 フリーザーの言葉が目の前の現実を突きつける。

 轟く戦闘の音。

 意識を切り替えるように、俺は腰のボールに手をやった。

 

 

 

                                                                                                       <続く>

 




双子島は3話にしようと思っていたら4話になりました。あら不思議。


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