萌えっ娘もんすたぁ ~遙か高き頂きを目指す者~   作:阿佐木 れい

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双子島編、最終話です。結構引っ張っちゃう結果になっちゃいましたね。


【第三十話】ふたご島――溶け始めた心の中で

 たったひとり。

 どう見ても不利な状況にあるのにも関わらず、その男――サイガは圧倒的な存在感を持ってそこにいた。

 

 偶然にも気圧されなかったのは、戦いの場に身をおいていたからだろう。

 更に吹雪の舞う中で、カイリュウは顔色ひとつ変えず不敵な笑みを浮かべている。

 

「くっ、何を惚けているのです!」

 

 その中、いち早く自分を取り戻したポアロは、部下に発破をかけた。

 が、その頃には亨によって一部の手持ちは倒されている。

 

 しかし、それだけ。

 三十体以上いたとして――その中のニ体ほどを倒したところで、何の問題があろうか。

 劣勢を悟っていた亨は逃げるべくマサキに向かう。

 

「マサキ殿! 早くイシツブテを」

 

 その声でマサキは凍える手でボールへとイシツブテを戻す。

 

「助かります!」

 

「なあに、気にするな」

 

 重く。

 そう、重かった。

 サイガの一言が、場を支配するかの如く、告げられる。

 

「どうせこいつらを倒すつもりだった」

 

 その言葉に。

 僅かも油断はなかったが、果たしてロケット団員にとっては侮辱に等しかった。

 言外にサイガはこう言っていたのだ。

 

 ――まとめてかかってこい。

 

 と。

 その言葉を受け取った何人かがサイガ、そしてカイリュウへと手持ちをけしかける。

 ペルシアンにマタドガス、アーボック――油断していたけではないだろう。どれもが進化しており場慣れしている萌えもんたちだった。

 それを、

 

「なぎ払え、カイリュウ」

 

「承知」

 

 尻尾のたった一振りで、すべて静まらせたのは、出来の悪い冗談のようにすら見えた。

 従来のカイリュウよりも遙かに大柄な巨体が、にわかには信じられない素早さで動いたのだ。

 

 上体を沈め、尻尾によって数体の萌えもんをまとめて弾き飛ばし、被弾しなかった萌えもんを翼ではらいのけ、更にくぐり抜けてきたものは両腕を使ってたたき伏せる。

 そのどれもが一撃。尋常ならざる膂力だった。

 そしてその間、サイガは全く動かない。

 

 自分の萌えもんを信じているが故に。その強さは確信しいてるが故に。

 サイガは、動かずカイリュウに任せていた。

 

「おい、亨。ちょっと危ないぞ」

 

「は?」

 

 サイガの一言に、亨はどうするべきか迷う。

 だがこの男、それで止まるはずもない。

 その強さ故に、周囲を省みない。

 

 ――ついてこい、と。

 

 全てのトレーナーにそう告げるだけの強さが、サイガを立たせているからだ。

 

「破壊光線」

 

 サイガの指示でカイリュウが目映い光線を放つ。

 島全体が揺れるような振動が襲う。射線上で僅かにかすっただけなのに萌えもんたちが倒れていく。

 

 だが。

 逆に言えば好機ですらあった。

 破壊光線はその莫大な威力に引き替えて、発射後は萌えもんの動きが反動で止まってしまう。

 

 その一瞬こそが、好機である。つまり、自らの隙をさらす技でもあるのだ。

 この複数相手では悪手以外の何物でもない。

 ロケット団員、そしてポアロやアテナも同様に判断し、殺到させる。

 

 とにもかくにも、このカイリュウだけは倒す。

 都合にして十五体。それだけの萌えもんがたった一体に対して集中攻撃を放つ。

 

 ――が。

 

「カイリュウ、ねじ伏せろ」

 

「諒解」

 

 カイリュウは、動いた。

 破壊光線の反動などないと言わんばかりに、即座に対応したのだ。

 自らに向かい来る萌えもんを一撃で地に沈めていく。

 

「バカな――動けないはず」

 

「馬鹿はてめぇだ」

 

 静かにサイガは言い放つ。

 

「お前は誰に向かって言ってんだ? この俺の――最強の男の相棒だぞ?」

 

 獣のような笑みを浮かべ、

 

「たかが破壊光線の反動なんぞ、ないに決まってんだろうが」

 

「……!」

 

 こと、ここに至ってポアロは悟った。

 目の前にいるサイガを完全に見誤っていたことに。

 

 尋常じゃない。

 萌えもんが自らの弱点を克服するのに、一体どれだけの訓練を積んだというのか。

 たった一体でこれだけの数を相手にして被弾もなく一歩的に蹂躙できる強さをどうやって身につけたのか。

 

 ――最強。

 

 まさしく。

 サイガという男は、最強だった。

 最強たる資格を持っていた。

 

 適わない、と。

 本能の部分で理解する。

 

 常に最強たろうとしている男に対して、最強を目指していない己に勝てる道理はないのだ、と。

 

「くっ、全員でかかれ!」

 

 こうなれば計画のひとつだけでも遂行せねば損害だけだ。

 フリーザーを捕獲する。

 伝説の萌えもんを手に入れれば、今回の計画は最低限クリアしたも同然だ。

 ファアルは死に、フリーザーも手に入れる。これでまだまだロケット団は保つ。

 

 逃げる場所は既にあった。

 先ほどファアルを落とした穴だ。

 部下を犠牲にして穴に向かって飛び込もうとするポアロに向かって、『下』から声がかかる。

 

「どこに逃げるってんだ?」

 

 氷の鱗粉をまとって現れたのは、荘厳で美しい探し求めている伝説の萌えもんだった。

 

 フリーザー。

 伝説を前にしてポアロは歓喜に震える。

 そして、震えるポアロに向かって、その背に乗った男――ファアルは言った。

 

「さっきの礼はまだしてねぇぜ?」

 

 

 

   □□□□

 

 

 

 俺を突き落とした張本人であるポアロはフリーザーを見て、一瞬ひるんだようだったが、すぐに気を取り戻したようだった。

 しかも、急いできたものの、ロケット団は全滅に近い状態だった。ほとんどが倒れ伏し、無事な者はキョウとマサキ、そして――

 

「親父……」

 

 最強のチャンピオンであり最強のトレーナーでもある親父だけだった。

 王者であることはどこに行っても揺るがない。

 そう示すかのようにカイリュウと共に戦場に佇んでいる親父は、数年ぶりに再会したというのに全く変わっておらず、あの日俺が目指した姿そのままだった。

 

「よう」

 

「おう」

 

 挨拶はたった一言。

 倒すべき敵はまだ目の前にいる。フリーザーと共にいる以上、油断はできない。

 油断なくフリーザーに隠れる形でボールに手を伸ばす。

 と、

 

「ファアルさん、ストライクには出会えましたか?」

 

 ポアロは落ち着いた様子で言った。

 それがやけに余裕に満ちあふれていて面食らうも、表に出さずに踏みとどまる。

 

「お前に関係あるのかよ?」

 

 答える義理も義務もなかった。

 突き放し、

 

「ありますよ。旧知の仲ですからね」

 

「……何だと?」

 

 その発言に、一瞬でも動きを止めてしまう。

 致命的な隙。

 しかし亨たちには関係がない。彼らが動き出そうとした瞬間、

 

「大爆発!」

 

「っ、!?」

 

 フリーザーの足下が爆発を起こす。

 崩壊にすら近い形で地面が割れ、破片と雪が飛び散り、さながら竜巻の中に飛び込んだかのような衝撃が至近距離でが襲いかかってくる。

 

「ぐっ」

 

 フリーザーが身をよじってかばってくれたものの、怪我をしていた箇所に響く。

 苦痛で視界がぶれる。

 

「ファアル!」

 

 咄嗟に飛び出したリゥが雪の中に潜んでいたコンパンを打ち倒すが、

 

「……、このっ」

 

 まき散らされた毒の粉を浴び、体の動きが弱くなる。

 まずい……。

 

「哀れな萌えもんですよ、彼女は!」

 

 同時、ポアロは手持ちを展開。

 ウインディが猛り、フリーザーへと向かってくる。

 おそらく、対フリーザーを考えての萌えもんだ。炎タイプで押し切り、捕まえるつもりのはず。

 

「シェル!」

 

 何とかボールを展開させる。

 

「噛みつくのです!」

 

 ポアロの判断は早かった。

 シェルに噛みつくと、

 

「火炎放射!」

 

 ゼロ距離で火炎放射を放つ。

 

「あ、づいぃぃぃぃい……!」

 

 氷タイプを持っているシェルはまともに食らってしまう。

 

「けほっ……でもまだまだ!」

 

 しかしまだ戦える。

 

「強さでいえば貴方の父親の手持ちと同じくらいの強さを持っているのに――戦え

ない!」

 

 ポアロが続ける。

 その間に、ウインディはシェルを踏みつけ、更にフリーザーへと肉薄する。

 

「コン!」

 

 ならばとコンを展開。

 

「ゴルダック!」

 

 ニ体目を展開。

 サイコキネシス。

 コンの動きを止める。

 正確な技と意志疎通。

 ロケット団ではあるが、間違いなくトレーナーとしても一級だった。

 

「実戦が怖い。恐ろしい――なのに、言葉だけは一丁前に正義を振りかざす。ああ、そうですとも!」

 

 ハイドロポンプ。

 コンが倒れる。

 

「サンダース!」

 

 放たれるのはハイドロポンプ。サンダースは回避。が、後ろにいたのはフリーザーだ。何とか回避するも、動揺したサンダースにウインディが襲いかかる。

 

 神速。

 サンダースをはね飛ばし、加速する。

 

「あれの主と同じですよ。我々に賛同していればいいものの、つまらない矜持や情など抱くから死ぬことになるのです。所詮は個人。組織に勝てるはずがないのです。何しろここはアニメでもゲームでも小説でもない、現実なのですから!」

 

「カラ!」

 

 最後の砦であるカラを放つ。

 が、ゴルダックがいる時点でこちらの敗北は濃厚だった。

 

「ファアルさん。貴方もいい加減に学びなさい。貴方の強さはルールあってのもの。ルールを守る人間が、我々に勝てるわけがないでしょう!」

 

 カラも倒れる。

 残るはフリーザーと俺だけ。

 

「フリーザー、逃げろ!」

 

「お断りします」

 

 断固として拒否される。

 が、迫る敵からどうやって防ぐ?

 俺がもう一度落ちれば――いや、そうなれば俺の命はない。

 

 逡巡する。

 実際に何かを救うために命を投げ出すなんてのは、即座に判断できるものじゃない。仲間たちがいる。その仲間たちを放っておいて先に逝くなどできるはずがない。

 

「この場所で――我々が彼女を使ってあげますよ! 主の死んだこの場所だからこそ、相応しいでしょう!」

 

 ポアロが懐からボールを取り出した。

 紫色の見たこともないボールだ。

 試作品だろうか?

 ロケット団が独自に作成したか、シルフカンパニー襲撃の際に盗み出したか。

 どちらにせよ、この場面で使用するということは絶対の自信があるに違いない。

 

「くっ、フリーザー、悪い!」

 

「何を……!」

 

 背中から蹴り飛ばす。

 運が良ければかわせるはずだ。

 それから先は――親父たちと信じるとしよう。

 

「我々の勝ちです!」

 

 その言葉と同時、放たれたボールが破壊された。

 それは――

 

「貴様等が……!」

 

 憎悪に顔を歪めたストライクによってだった。

 飛翔しながら展開されるより速くボールを両断したストライクは、更に迫っていたウインディに対して鎌を振るう。

 

 ウインディ、回避。

 が、それも予想していたのか、空中で反転し蹴り落とす。

 穴に向かって落下していくウインディ。苦し紛れに上方へと炎を放つも、それを身を捩って回避した後、更にポアロに向かう。

 

「ゴルダック!」

 

 ポアロの判断は早かった。

 ゴルダックのサイコキネシスで自分を止まらせるかのように硬直させると、

 

「残念です……今回はここまでのようですね」

 

 崩落が始まった。

 大爆発によってゆがんでいた地盤が限界だったのだろう。

 敗北を悟っていたのはいつからだったのか。

 ポアロは愛しい女性を見るかのような視線をフリーザーに向け、

 

「ではまた、再会できる日を楽しみにしております」

 

「私は嫌です」

 

「はは、それこそ一興」

 

「させん……!」

 

 亨が迫る。

 が、ゴルダックのサイコキネシスが唐突に切れたかと思うと、崩落のただ中でポアロの姿は遙か下へと消えていった。

 

「むぅ……鮮やかな」

 

 亨が唸る。

 追いかけたいが、親父以外ほとんど全員が満身創痍だ。現状では無理だろう。

 しかし――

 

「あいつ……!」

 

 ストライクだけは違っていた。

 反転し、追いかけようとするストライクの前に飛び出る。何とかフリーザーによって助けられた俺は、

 

「危険だ。今から行ってどうする」

 

「しかし奴が……!」

 

「ストライク」

 

 真っ直ぐに見据え、

 

「行って止めをさすのか? そうやって、自分の刃をまた見えなくするのか?」

「止めないでください。あちしは――」

 

 こちらが譲るつもりがないのを見て取るや、ストライクは、

 

「邪魔をするのなら……!」

 

 鎌を振り上げ、俺に向かって振り下ろした。

 が、

 

「……それでいいと思うぞ、お前は」

 

 俺に触れる寸前で止まっていた。

 斬れない。

 ポアロの言った通りだ。

 ストライクは、肝心な場所で振り下ろせない。

 

「……ファアル殿。あちしは、また」

 

 鎌に、触れる。

 震えていた。

 誰かを傷つける恐怖と、己の矜持を破る痛みに、震えていた。

 

「それでいいんだ。お前の主を裏切っちゃ駄目だ」

 

 ポアロの言葉が本当なのだとすれば、きっとストライクの主は守ろうとしたに違いなかった。

 その結果命を落としたとしても、絶対に守りたかったに違いない。

 

 剣士として力があっても、優しさで震えない臆病な自分の相棒のことを。

 だから、その死んだ主のためにもここでストライクを行かせるわけにはいかなかった。

 

「……はい。あちしはまだまだ未熟なようです」

 

 ストライクの体から力が抜けていく。

 安堵し、

 

「悪いな、フリーザー。助かったよ」

 

「いえ。流石に二度目は死んでいたでしょうから」

 

 淡泊に答えた後、俺を降ろしてくれた。

 

「私は行きます。騒がしくなりましたし、またどこかで暮らしましょう」

 

 それと、と続け、

 

「ありがとう。助けようとしてくれたこと、忘れませんよ」

 

 無表情な顔が僅かに綻んだように見えた。

 

「あ、あの!」

 

 そこに突撃してきたのはマサキ。

 興奮気味にフリーザーに詰め寄り、

 

「わい、マサキって言います! 貴方の全身ありとあらゆるところを研究させてく

ださぶるちょば!」

 

 変態が吹っ飛ばされていた。

 そりゃまあ、あんなこと言えばなぁ。

 自業自得である。

 

「では」

 

 何事もなかったようにしてフリーザーは去っていく。これで双子島も静かになるだろうか。

 

「何か、嵐みたいな萌えもんだったな……」

 

「あれが伝説だ。だからこそってのもあるかもしれないがな」

 

 呟きに親父が繋げた。

 

「かもな」

 

 頷き、俺はリゥたちの治療にかかった。

 

 

 

 

 

 ファアルから視線を外し、サイガはふと洞窟の奥へと視線を向け、呟いた。

 

「結局、出張ってきたのかよ、お前も」

 

 呟きに答える声はなく、その言葉は消えていった。 

 

 

   □□□□

 

 

 

 洞窟から出た俺たちは、船へと戻っていた。幸い、船は無事なようで、マサキと亨はセキチクシティに戻ると話していた。

 

「ほんまにいいんですか?」

 

 マサキが確認したのは親父にだ。

 親父は頷き、

 

「ああ。息子のことだ。俺が引き受ける。君こそ悪いな、付き合わせて。これに懲りず、これからも息子と友達でいてやってくれ」

 

「もちろんです」

 

 照れも混じった様子でマサキは答えていた。

 俺も正直、恥ずかしい。

 いくつになっても親は親。お袋も言っていたが、何歳になっても子供を心配してしまうそうだ。

 

「亨、悪いが調査は任せたぞ」

 

「承知。既にこちらに来るよう手配している」

 

 そう行って誇らしげに亨はさっきから上げている狼煙に視線を向けた。今までで一番忍者っぽかった。

 

「マサキ、亨、今回はあんまり力になれなくて悪かった」

 

「気にするな。そちらにも理由があったとはいえ、誘った我々にも非がある」

 

「せやせや。気にすんなって。ファアルこそ、さっさと病院行けや」

 

「ああ、そうする」

 

 ふたりは何一つ気にする様子もなく、微笑んだ。

 

「ファアル殿」

 

「お前はどうするんだ?」

 

 ストライクは少し躊躇った後、

 

「セキチクという場所に戻ります。少し、ひとりになりたいので……」

 

 そして、

 

「すみませんでした」

 

 頭を下げた。

 

「そしてリゥ殿。貴方に弟子入りしたいと思ったのも本心からです。貴方の強さは――あちしにはないものでした。今でも心から、尊敬しております」

 

「そんな……私も大したことしなかったし」

 

 気まずさから、リゥは視線を泳がせている。

 

「ま、旅が終わったらまた会いに行くよ」

 

「ええ。楽しみにしています。それまでにあちしも、もう少し沸騰しないように努力してみます」

 

 まだ何もかもが片づいたわけじゃないけど、ストライクは笑った。

 空元気でも、笑えるだけいい。

 きっとこれから必要なのは、ストライクが自分の心を向き合って整理できるだけの時間だろうから。

 何も片付いたわけではないけど、それでも少しくらいは片付く手助けになったと思うから。

 

「よし、そろそろ行くぞ、怪我人」

 

 親父の言葉でカイリュウが翼をはためかせた。

 

「ああ」

 

 頷き、ふたりでカイリュウに捕まる。

 

「じゃあな」

 

「ああ」

 

「ほなな」

 

「……また」

 

 三人に別れを告げ、カイリュウは力強く羽ばたいていく。

 

「グレン島で看てもらえ」

 

「ん、そうする」

 

 打ち身だったらいいけど、と内心で呟く。

 島があっという間に小さくなっていく。

 相変わらず、速い。

 

 十数年ぶりに乗ったカイリュウの背中は、あの頃と少しも変わっていなかった。

 大きいと、素直に感じる。

 目の前にいる親父の背中もまた同様に。

 

「久しぶりだ、ぼん。楽しみにしていたぞ」

 

「そう呼ぶのはもう止めてくれ……」

 

「ははは」

 

 カイリュウは笑う。

 ぼん、と親父になついていた俺をカイリュウは良く呼んでいた。

 懐かしい――懐かしい思い出だ。

 

 そんな俺が、今は親父とカイリュウを倒すために旅をしている。

 

「お前も――――――リゥも、久しぶりだな。元気だったか?」

 

「ん」

 

 姉妹の間に会話はほとんどなかった。

 カイリュウもそれ以上何も喋らない。俺が踏み込むのは――野暮にも感じられて、それ以上口を挟むのは躊躇われる。

 

「なぁ、ファアル」

 

「あん?」

 

「俺は強いぞ? 何ていっても最強だからな」

 

「ああ、知ってる」

 

「頂点で待っている。追いついてこい」

 

「……ああ、約束だからな」

 

「がはは、それでいい!」

 

 まるで小さな子供にそうするように、親父は豪快に笑ってその大きな手のひらで俺の頭をわしわしと撫でた。

 昔に戻ったようで懐かしく、そしてこれがいつか越えるべき男の姿なのだと改めて思い知る。

 

 大きい。

 親父はどこまでも大きくて――俺に憧れへと挑む強さをくれた。

 萌えもんリーグまでそれほどありはしない。

 

 勝てるだろうか?

 

 愚問だ。

 勝つために旅をしてきたのだから。

 親父の背中を見て、俺は改めて決意を固めた。

 

 ――親父に勝つ。

 

 その重みを。

 

 

 

    □□□□

 

 

 

 全身に披露を感じながら、セキチクシティへと戻ってきたマサキたちは、海岸で奇妙な人だかりを発見した。

 封鎖しているのは警察だった。

 

 ロケット団が暗躍していたのもあり、マサキと亨は人だかりへと向かう。どちらにせよ警察には今回の事件を報告する必要もあった。

 

「何かあったのか?」

 

「あ、亨さん」

 

 道を開けてもらい、警察に話を伺う。

 

「ええ、どうやら土左衛門が流れ着いたようで。損傷も激しく誰か判別もできないのですが」

 

 見ない方がいい、と言っていた。

 海岸ということもあって、海難事故も頻繁にではないが起こっている。遭難し、遺体で発見されるという事件も珍しいとはいえ、無いことはない。

 

「事件ですか?」

 

 ストライクも気になったらしい。

 空から降り立った。

 

「水難事故だ。悲しいが、そういうことも起こる。遺族に連絡をせねばな」

 

 その時、何かの悪戯か風が吹いた。

 同時、りん、と鈴の音が響く。

 

「今の音は……?」

 

「ああ」

 

 と警察のひとりは答える。

 

「鈴を握りしめていたんです。死んでも放そうとしなかったみたいです。よっぽど大切だったんでしょうね」

 

 もう一度、りん、と鳴る。

 

「――まさか」

 

 ストライクは、隠されている仏に振り向いた。

 一歩、近づく。

 

「ちょっと、これ以上近付かないで」

 

 制止の声。

 止められたストライク。

 

「いえ、あの」

 

 その声に答えるかのように、ちらりとストライクの視界に仏が入った。

 ぼろぼろの衣服。

 水で膨らみ、判別さえ難しくなった遺体。

 

 そして――錆びていて鳴るはずのない鈴。

 それがもう一度、鳴った。

 りん、と。

 

「あ、ああ……」

 

 膝から崩れ落ちる。

 がらがらと何かが崩れ落ちていく。

 それでも、口に出さずにはいれなかった。

 

「主様……!」

 

 予想もしていなかった物言わぬ再会は、ストライクの両目から、涙が流れ落とすには充分だった。

 

 

 

 

                                 <続く>




ってわけで未消化のまま双子島編は終了となります。別にハリウッド的な終わりにしたかったわけではなく、後は金銀へと続くって感じです。彼らが本当に絡んでくるのはこの後ですので。

ああ、金銀まで書かないのであしからず。


今回は初期の頃のように私にしてはハイペース(1週間)で投稿となりましたが、次は11月頃になると思います。少し専念したいことがあるのに加え、リアルですり減った心身を少し休めたいのでお時間を頂戴します。今の年齢で不眠症は洒落にならないです……。歳を取ったと感じさせてくれますね。

ただ、今年で出来ればジムを全て終わらせようとも考えているので、11月以降はペースを上げる予定です。
ではでは、また次回お会いできれば幸いです。

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