船渠。
そこには傷ついた艦娘達が入浴……否、
入渠していた。
「あ〜……身体が癒えていく〜……」
「傷がまだ痛え……まだ入渠しとかねぇとな」
船渠の浴場には修復材が大量に含まれており、
艦娘達の疲労や傷はもちろん、時間が経ちすぎると
不可能になってしまうが欠損した身体の一部まで
修復出来る。
「レンゲ、船渠から出たら……って、何
顔手で覆ってんだ?芝浦司令官までよお」
「いや……なんでもないです天龍さん」
「天龍……あのな、俺はつい先日まで
男だったんだぞ……そんなすぐに女性の
裸を見る事が出来ると思っているのか……⁉︎」
二人とも、まだ入渠してから数分と経たないのに、
顔をゆでダコのように真っ赤にして、
手で覆っていた。
(言えねぇ……実は元男でしたなんて
今更過ぎて言えねぇよ……‼︎)
(身体にタオルを巻いてくれてるならまだ
いいが……駆逐艦娘達。タオル位
巻いてくれよ……目のやり場がない……)
「ひゃっはー‼︎酒だ酒だー‼︎」
そう叫びながら、隼鷹が日本酒が乗った盆を
持って天龍達の浴場に入ってきた。
「お、いいな。俺にもくれよ」
天龍が隼鷹に向かって盆のお猪口を取りながら
頼む。
「おう、いいぜいいぜまだあっちにあるからさ。
飲めや飲めや」
隼鷹はすでに酔っているのか、ケラケラ笑いながら
天龍のお猪口に日本酒を注いだ。
天龍はそれをぐいっと飲むと、
「かーッ!うめー‼︎やっぱ任務の後の酒は
いいぜ‼︎」と叫んだ。
「だよなッ‼︎ほら、司令官も飲め飲め‼︎」
「え?いや、まだ俺は未成……」
「うるへーそんな事知るか‼︎」
隼鷹は別のお猪口を取り、そこに日本酒を
注いで芝浦の口に叩き込むように呑ませた。
「ん〜〜ッ⁉︎」
芝浦は酒の味に顔をしかめていたが、
やがて表情がぽけーっ、としたものになり、
そしてへにゃ、と力の抜けたような笑みを
浮かべた。
「はにゃあ〜……」
「あの……芝浦さん?大丈夫ですか……⁉︎」
「らいじょぶらいじょぶ〜。
隼鷹ぉ〜もっとお酒ちょうらい〜」
「間違いなく酔っていやがる……‼︎」
こいつは酒臭え‼︎アルコールの匂いが
ぷんぷんするぜーッ‼︎と言いたくなる位に
芝浦は酔っ払っていた。
というか、お猪口一杯分の酒で酔う程に
芝浦は酒に弱かった様だ。
天龍は全く酔っていないが、隼鷹と芝浦は
そこらの呑んだくれた親父のようになっていた。
「ひっく……実は私ぃ……ういっく……
翔鶴しゃんの事が好きなの……♪」
もはや覚束ない口調で誰にも話そうと
しなかった秘密をあっさり暴露する
芝浦。
「そうかそうか‼︎じゃあ丁度いいからよ、
翔鶴呼ぶから告白すりゃいいじゃん‼︎」
隼鷹はそういいながら翔鶴を呼びに浴場から
上がった。
「レンゲは酒飲まねーの?」
「絶対嫌です」
酔っ払って自分の秘密を暴露したりしたら
目も当てられない。レンゲは速攻で
拒否した。
「そうか。まぁ、あんなんなられても
困るしな……」
そう言いながら天龍が指差した方向には、
隼鷹が長門の頭を鷲掴みにして
「ほら来いよ〜翔鶴〜」と言っており、
「隼鷹、それ翔鶴やない、長門や」と
他の艦娘達に止められていた。
「……確かにあんなのにはなりたくないです」
「酒入んなきゃ淑女なんだけどなぁ……」
レンゲの横では酔っ払った芝浦が猫か何かの
如くにゃんにゃん言っていたので、多摩が
反応して掴みかかっていた。
「にゃ⁉︎提督!多摩からアイデンティティを
奪う気かにゃ⁉︎」
「そんな事ないにゃ〜」
「提督……恐ろしい子‼︎」
恐れ慄く多摩を尻目に、レンゲと天龍は揃って
ため息を吐くのだった。
ちなみにその後、隼鷹はちゃんと翔鶴を
連れてきた、が、その頃には芝浦は
酔い潰れて寝ていたという。
丑三つ刻。
「あぁ、疲れた……おい、そっち持て」
サンズは、海中から何かを引っ張りだした。
大きな赤いコンテナだ。
海中ではフジツボ達がコンテナを持ち上げている。
「よっこら……せッ、と。これで終わり‼︎
はい、撤収‼︎」
フジツボ達はサンズの号令で解散した。
「お疲れ様。これで燃料はしばらくの間
調達しないで済むね」
「全く、燃料をコンテナに満載する
なんてさァ……運ぶ側の気持ちにもなれよ」
肩凝っちまった、とサンズがグリグリと
腕を回す。
「ま、いいけど。そう言えば、連絡来たらしいな。
どこから来た?」
「南と……北かな。大体の位置で言ったら
南は沖縄かリンガ。北は北海道か青森」
「アバウトだなぁおい」
「どっちも君の事を警戒していたが……
まだ出す気は無いのかい?」
サンズは首を曲げ、ベキベキと鳴らすと、
「返事もそうだし、本気も出さない。
楽しめそうな方に行くよ。
結果なんて知るか。……ところでこんな言葉が
あるのを知っているか?ケ・セラ・セラって奴」
「なるようになるさ……か」
サンズはヘラヘラと笑うと、腰をトントンと
叩きながら洞窟の闇に消えて行った。
「司令官。今日救出した島民についてなのですが」
内房鎮守府の会議室。
神崎は愛宕からとある書類を受け取っていた。
「一人の少女に身体検査をした結果……
艦娘の適性があることが分かりました」
「何の艦種適性ですか?」
「まだはっきりとは分かりませんが、恐らくは
駆逐艦娘かと」
神崎は書類に目を通し、はあ……と息を吐いた。
「また一人、戦場に身を投じる者が……」
書類には、鈴と花の髪留めで髪型を
サイドテールにしている勝気そうな顔の少女の
顔写真が貼られていた。
「駆逐艦娘は特にその命を落とす者が多い。
早く……この闘いに終止符を打たなくては」
この5年の間に何十、何百もの艦娘が
命を落とし、退役をせざるを得ない状態に
なった。
提督となった者は、いつ死ぬか分からない
彼女達を死地に追いやらねばならない。
その圧力に耐えきれず、提督を辞めた者や
自殺をした者も数多くいる。
だが、神崎は提督を辞めたり自殺する気は
ない。
艦娘が死んだ時、彼女の人となりを家族に
伝えるのは、提督しかいないのだから。
艦娘をこれ以上犠牲にさせる訳にはいかない。
神崎の心は、固い揺らぎなき決意に満ちていた。
次回で最終回(1章が)