「少し昔の話をしようか」
これは、もう2、3年も前の話である。
とある鎮守府に一人の艦娘がいた。
名前は言えないが、剣術を父親から教わって
いて、その腕前はかなりのもの。
鎮守府の駆逐艦達からも「お姉さん」と
慕われる程の評価を得ていた。
彼女は、とある鎮守府の提督とその頃
親密な関係だった。
他の艦娘からは、「ケッコン(ガチ)するのでは」と
囁かれていた程である。
そんなある日の夜の事だった。
彼女は、何かの音で目を覚ました。
その音はいつも提督がいる部屋から
聞こえてきた。
しかしそれは隣の部屋で
眠っていた彼女にしか聞こえなかった。
彼女は着の身着のままで艤装の刀を持って
部屋から飛び出した。
その音は、書類が机から落ちる様な音でも、
椅子が軋む様な音でも、ましてや
ペンで紙に何かを書く様な音でもなかった。
形容するならば、「切れ味の良いナイフで
何か柔らかいものをブツッと裂いた様な音」。
普通、そんな音が書類仕事を主としていた部屋で
起こるだろうか。
嫌な予感が背中を走った彼女は
ドアノブが壊れるのではないかというぐらいに、
強くドアを開け放った。
そこには。
開けられている窓から風が書類を持っていく。
月は蒼く照明の切れた部屋を照らして、
一つの影を映し出していた。
その背丈は2m近くありながら、
まるで骸骨の如く異様な体型をしており、
頭から落武者のように髪を垂らしている。
さしずめ「亡霊」という言葉がそれを
形容するのにぴったりであった。
その姿に戦慄した彼女の足下に亡霊は何かを
投げ捨てた。
ゴロリと転がったスイカ大の物体。
それを見た刹那、彼女の鼻腔に錆びた鉄の
匂い……否、血の匂いが充満した。
彼女は叫んだ。それは激昂でもあり怨嗟。
そして、悲しみの叫びでもあった。
亡霊の体の後ろには
立ったまま、軍刀を構えたまま
その身体を赤い液体で濡らしていた。
亡霊は、左手に持っていた刀を振り血を
ある程度落としていた。
感情に突き動かされるままに、彼女は刀を
亡霊に向かって振るった。
裂帛の勢いで襲いかかる剣撃。
常人ならば目視すら難しいそれを亡霊は
刀の横に右手の甲を当て、軽くいなした。
そのまま、彼女に突進して左手に持った刀で。
彼女の片目にその切っ先を差し込み。
そのまま眼窩から眼球を視神経が
繋がったまま抉り出し。
彼女がその事を認識する前にブツリと視神経を
片手で引き抜いた。
無理矢理引き抜かれた眼窩に血が溜まり、
流れ出す。
その余りの激痛に彼女は刀を取り落とし、
眼球を失った片目を手で覆って叫びながら
蹲った。
叫び声は鎮守府全体に響き、
その叫び声を聞きつけて他の艦娘が来た時、
既に亡霊の姿はなく、眼窩から血を流して
倒れた少女と、頭のない提督の死体のみが
残されていた。
────これが俺の兄貴から聞いた話だよ。
……もちろん実話だぜ?え、なんで
その片目失った艦娘が見た事まで知ってるんだ、
だって?そりゃ簡単な話さ、兄貴が実際に事件の
参考人としてその片目を抉り出された
艦娘から聞いたんだよ。
兄貴は最初、その艦娘が提督を殺してから
自殺しようとしたんじゃないか、って
思ったらしいけど、その時、艦娘の刀には
血の一滴すら付いていなかったとか、
なんで自殺するのに目を抉り出す必要が
あるんだ、とか色々分からない所があって
結局事件は迷宮いりしたんだとさ。
その艦娘はどうなったかって?さあ?
どうなったんだろうな。兄貴からは
その後の事は聞いてないしなぁ。
……あ、でも兄貴が最後に彼女から
聞いた事が忘れられないっつったなー。
確か〜……えーと、なんだっけな……。
あ、そうだ思い出した思い出した。
……“亡霊”は実際に存在している。いつ、
どこから来るのか、それとも潜んでいるのか。
一切、何も分からない。だけど、これだけは
断言出来る。
“もし今度会ったならば、俺は間違いなく死ぬ”
……って言ってたらしいよ。
世の中、不思議な事のあるもんだねぇ。
……え、お前が美人と付き合ってんのも
不思議な事だって?うるせーな。
横須賀の鎮守府。
「ッ……‼︎クッ……ハッ‼︎」
天龍はガバリと布団から起き上がった。
その身体は冷や汗でびっしょりと
濡れている。
「ッ……ハッ……ハッ……」
荒い呼吸を整えながら、天龍は失った片目に
手をやった。
「クソッ……またか……」
その隣では、レンゲがすう、と小さい寝息を
立てて眠っている。
天龍はレンゲを起こさないように、
ゆっくりとベッドから立ち上がった。
どうせまた眠ってもあの悪夢を見るだろう、と
天龍は外の空気を吸う為に部屋から
出て行く。
レンゲはそれに気付く事もなく、深い眠りに
ついていたのだった。
新しい艦娘誰が出るんでしょうね。